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Re:ゼロから始まる異世界生活

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二日目 繰り返される四日間

 
前書き
書く気は無かったけど書いてしまったので投稿します...(lll-ω-)チーン
読んでくれると嬉しいですん。 

 
朝はやってくる。
望まなくても望んでも朝はやってくる。
 そして俺の望んだ朝はやってきた。
 
 「うん、今日もいい天気だ」
 
 客人を持て成すには絶好の日和だぜ!
 持て成す側の人間 ナツキ スバルはベットから躊躇なく降り、着替えを始めた。
 最近、着なれ始めた執事服『燕尾服』
 最初はちょっと恥しくて抵抗あったけど慣れちまうもんだな。
 着替えを終え、俺は自室を出た。
 多分そろそろレムとラムも起きる頃だろうな。
 レムは昨日の仕込みで疲れてるだろうから今日は俺が朝飯を作ってやんねぇと。
 ラムも……まぁ、ラムなりに頑張ったし。今日はレムとラムの好きなホットケーキを振舞ってやるぜ!
 この世界で俺が初めて作った料理。
 それはホットケーキだ。
 ……その……俺、ナツキ スバルはお料理が余り得意ではないのでして。
 いや、普通の一般的な人間よりは出来ると思うよ。(元居た世界基準)
 この世界の人間で俺くらいに年頃の人間になると料理スキルは結構持ってるからな……。
 それで大した事のない俺の料理スキルで作って唯一褒められたのがホットケーキだ。
 この世界ではホットケーキは存在しないらしく。俺の作ったホットケーキは最初、奇妙な異物と言われていた。
 
 「これは奇妙な食べ物ね、レム」
 
 「でも……とても美味しそうです、お姉様」
 
 なんて怪しがられたけど今では俺の作ったホットケーキは絶賛好調で当初はベタ褒めされた。
 そう、当初は。
 今ではその調理法はラムもレムも知っており、俺より遥かに美味しいホットケーキを作っている……なんか悲しい。
 
 「さて、材料はっと」
 
 確か、この辺にラムのお気に入りの茶葉も隠してあったけ。少し拝借っと。
 それと卵……あれ?
 何時もならあるはずの卵が見当たらない。
 レムの奴、置く場所変えたのかな?
 それとも昨日の仕込みで全部使った……?
 卵が無ければ話にならない。
 ────うーん、困った困りましたよ。
 せっかく普段より早く起きたのだ。
 ここで諦めたら早起きの意味が無くなってしまう。
 考えろ……考えろ。
 そして名案を思い付いた。
 
 「今から全速力で村まで走って……それから卵を貰えば万事解決するじゃん♪」
 
 とても名案とは言い難い。
 だが、これならなんとかなる。
 ────一旦、着替えて……いや、その時間が勿体ない。このまま行くか!
 そしてナツキ スバルは走り出す。
 二日目の朝を堪能し、これから起こる悲劇を振り払う様に……。
 
 
 「お姉様、おはようございます」
 
 「おはよう、レム。
 今日もいい朝ね」
 
 「いい朝ですね。
 お姉様」
 
 二人の美少女。
 双子の美少女は同じ時間に眠りに付き、同じ時間に起床した。
 身支度を整え、部屋を出る時間も同時刻。正に双子の中の双子とも呼べる双子の美少女は互に朝の挨拶を交わし現在に至っている。
 対象的な二人の美少女は屋敷の廊下を一定のリズムで渡り、厨房に向かった。
 基本的には双子の妹 レムが朝 昼 夜の食事の料理を担当し。
 双子の姉 ラムは食器の用意や味見を担当する。
 調理場『厨房』の扉を開け、朝ごはんの準備を────?
 
 「これは……?」
 
 レムのするはずだった朝食の支度は既にされていた。
 いや、殆ど終わっていた。
 テーブルの上にはサラダの盛り合わせとスープ。
 それに……小麦粉と蜂蜜?
 
 「あら、レム。もう、朝食の準備をし終えてたの?」
 
 「いえ、私は先程起きたばかりで……」
 
 そうなると必然的に朝食の準備をした犯人は出てくる。
 ────スバル君……これは私の仕事なのに。
 笑顔を浮かべレムはテーブルに置いてあった置き手紙を読み始める。
 
 ────ちょっくら卵を取りに村まで行ってくるぜ!
 
 「あらあら私達より早く起きるなんてバルスしては珍しいわね」
 
 レムの読んでいた置き手紙を隣で読みながらラムは呟いた。
 
 「用意されている材料から推測するにバルスはパンケーキを作ろう試みたけど卵が見当たらず、村まで卵を取りに行った……馬鹿ねバルス。
 卵ならここにあるのに」
 
 パカッと小さな小ドアを開け、レムは卵を取り出す。
 数は5個……朝食分はなんとかなるだろう。
 
 「どうしましょうお姉様……。
 スバル君の帰りを待ちますか?」
 
 「そうね……昨日、ロズワール様は今朝の朝食は要らないと言ってたし」
 
 お姉様 ラムは数秒悩み。
 
 「仕方ない、バルスを待ちましょう」
 
 そう言うとレムは喜び。
 「解りました!」と言って調理場を出た。バルスと一緒に朝ごはんを食べたかったのだろう。
 そしてバルスの帰りを迎える様に玄関まで小走りし、バルスの帰りをレムは一人待っている。
 ラムは嬉しそうな……でも、少し悲しそうな表情を浮かべレムの成長を痛感した。
 これは嬉しい事だ。
 そう、これはラムにとって喜ばしい事なのだ。
 ────なのに、何故だろう。
 この寂しさは。
 この胸の痛みは……。
 
 「いけない、こんな事を考えては」
 
 ラムは雑念を払うように調理場の扉を開け、バルスの帰りを待っているレムの所までゆっくりと歩き始める。
 この感情をラムは知らない。
 このモヤモヤする心のざわめきの正体をラムは知らない。
 いや、昔は知っていたのかも知れない。
 だが、今のラムには解らない感情だった……。
 
 
 
 
 「やべっ。結構時間食っちまった」
 
 一直線の道を俺は走り抜ける。
 取り敢えず、朝食分の卵だけ貰おうと村まで走ってたのに俺の手元には野菜やら薬草、肉類、その他もろもろの詰まった袋で一杯だった。
 なんでも、ついでだから持っていってくれって事らしい。
 いやー。普段なら超ありがたいけどこの状況だと卵だけ貰って断っとけばよかったかな。
 余計な事を考えながら走ると余計に疲れる……。
 今は走る事だけに専念しないと。
 そしてスバルは走る。
 
 「やっと……屋敷が……見えてきた」
 
 普段なら朝食を済ませてる時間だ。
 置き手紙を見てくれたなら待ってくれてるとは思うけど……。
 それはそれで迷惑を掛けちまってるしな。
 あんな置き手紙するんじゃなかったっと今更ながら後悔する。
 ────走る。
 ──────走る。
 ───走る。
 玄関付近に到着!
 庭も元通りになってるし、今日のミッションは難なくクリアー出来そうだ。
 そして玄関の扉を開けると────。
 
 「お帰りなさいスバル君」
 
 満面の笑顔のレムが出迎えてくれていた。
 
 「おぉ、ただいま!
 朝飯はもう食べた?」
 
 「いえ、まだです。
 スバル君の帰りを待ってましたから」
 
 ズキっと心を抉る言葉。
 やっぱり置き手紙なんてするんじゃなかった。
 
 「マジでごめん!
 今から俺が作るからそれで勘弁!」 
 「いいですよ、そんなに謝らないで下さい」
 
 そう言いながらレムは俺の持っていた荷物を半分持ち。
 
 「いいよ、これのくらいの荷物。
 男の子一人で十分だぜ?」
 
 「そんな息切れしながら言われても説得力は皆無です。それに服もそんなに汚れて」
 
 汚れて……俺は自分の来ている服を確認すると。
 結構な有様だった。
 泥やら蜘蛛の巣やら何やらで執事服『燕尾服』はボロボロな状態だった。
 
 「あちゃぁ……近道なんてするんじゃなかった」
 
 「荷物は私が運んで置きますのでスバル君はお風呂に入って来て下さい」
 
 そしてもう片方の荷物もやすやすと持ち。レムは歩いていった。
 ────俺って役立たずだな……。
 改めて実感させられたぜ。
 役に立とうと思ってこれだもんな……また迷惑掛けちまって。
 重たい溜息を付きながら俺は大浴場を目指し歩き始めた。
 
 その頃、レムは笑顔で朝食の準備をしていた。
 準備と言っても殆どスバル君がやってくれていたので後はパンケーキだけですけど。
 爽やかな手付きで楽しそうに。
 レムは生き生きしていた。
 そんな姿を見て姉のラムは。
 
 「ご機嫌ね、レム」
 
 「普段通りですよ、お姉様♪」
 
 鼻歌混じり……これは浮かれている。
 ラムはそう判断し、妹の後ろ姿を眺めていた。
 見慣れている妹 レムの後ろ姿。
 けど……今日の後ろ姿は普段のレムとは違った。
 ────楽しそう。
 これもバルスもお陰なのだろう。
 こんな楽しそうな……愉しそうなレムを見るのは何年ぶりだろう……。
 
 「おっすラム」
 
 そしてレムの笑顔を取り戻してくれた少年は現れた。
 
 「おはよう、お寝坊さん」
 
 「べ、別に寝坊した訳じゃ……」
 
 「知ってるわよ、卵が見当たらなかったから村まで取りに行っていたのは……でも、残念ながら卵はここにあったのよね」
 
 「嘘!?
 そんな所に!?」
 
 「甘かったわねバルス、今度から念入りに探すことね」
 
 「うぉ……。なんかそう言われると言い返せねぇー」
 
 「お姉様、スバル君を余りイジメないで下さい」
 
 「そうだ~そうだ」
 
 「レム、これは教育よ。
 駄目なバルスの教育なのよ」
 
 そして普段通りの日常が始まる。
 さて、この日常は一体何回目の日常なのか……。
 
 
 
 
 ────頼むぜ、次の俺……。
 
 ────今回も駄目だった。
 
 ────でも、次は。
 
 ────なんで……なんでなんだ。
 
 ────今回こそ……必ず。
 
 ────諦めるかよ……俺は。
 
 ────守るって約束したんだ。
 
 ────また、かよ……。
 
 ────今度は絶対、助けるから……例え、君を失っても。
 その輪廻の輪から解き放たれるなら…………。
 
 「────ホント滑稽だね」
 
 色彩の魔女 ラードンは哀れな憐れな少年のRe:スタートを鑑賞し。
 
 「一体、君は何度諦めれば絶望するんだい?」
 
 彼は何度、絶望し。
 何度諦めても立ち直り、少年は歩み続ける。
 その姿は誇らしい。
 だが、愚かしい。
 
 「あと何度ここを訪れれば君は私を……僕を記憶するんだい?」
 
 悲しげな笑顔。
 ────年相応の笑顔で少女は見届ける。
 哀れで憐れな少年を。
 泣きそうで立ち尽くしそうな少年を。
 
 「また、彼を見てるんだね。
 ────姉さん」
 
 新たな来訪者。
 ……そろそろ来ると思ってたけどわざわざ君からやって来るなんてね。
 
 「やぁ、エキドナ」
 
 ラードンと瓜二つ……白髪の少女『エキドナ』の登場。
 それは予言されていた事だ。
 愛しの妹────。
 ────愛している────殺したい程。
 
 「何の用かな?」
 
 「意地悪な質問だね、姉さんなら知ってるだろ?」
 
 「いや、把握しているだけさ」
 
 エキドナは微笑し。
 
 「やっぱり姉さんは意地悪だね」
 
 「それは褒め言葉として受け取ろう」
 
 「……はぁ。やっぱり姉さんは意地悪だよ」
 
 半ばか呆れ気味のエキドナは姉のそういう所を嫌っていた。
 苦手……毛嫌い。
 これは姉妹だから感じる感情なのだろう。
 話すのも出来れば────まず、関わりたくない……いや、関われない人だ。
 
 「スバル君は私の……僕の興味を擽るね、見てて飽きないよ」
 
 「それは同意見だね。
 僕も彼を見て飽きた事はないよ」
 
 「────あぁー。でも、最初は彼に興味すら無かったけど」
 
 「へぇー。それは意外だ」
 
 「なんで?」
 
 「だって姉さん。スバルを見て『笑ってる』じゃん」
 
 するとラードンは。
 「僕の笑顔ってそんなに珍しいかね?」なんて呟きながらクッキーを取り出し。
 
 「クッキー、新作なんだけど食べる?」
 
 「一枚、貰うよ」
 
 見えざる手はクッキーを一枚掴み、ラードンに差し出した。
 
 「今回のクッキーは地味だね……」
 
 「そうかな?」
 
 「以前、僕の食べたクッキーはもっと色鮮やかだったよ。
 色彩の魔女らしい。色彩感溢れるクッキーだった」
 
 「見た目より味さ。
 まぁ、一口食べてから感想を述べてくれ」
 
 「感想……ね」
 
 エキドナはパクッとクッキーを噛じった。
 そして────。
 
 「成程……これは色彩のクッキーだ」
 
 「ふふ、なかなか美味だろ?」
 
 ────流石、姉さん。
 見事なまでの味音痴だ……。
 魔女のお茶会でこれを出されたら皆仰天しそうだ。
 この味はどうやって出したのだろう。
 疑問が尽きない。
 見た目は普通のクッキーと大差ないのに味は色彩と言わんばかりのインパクトだ。
 一言で言うなれば不味い。
 二言で言うなら汚物……。
 エキドナはなんとか表情を崩さぬ様に笑顔を作り……。
 
 「もう一個いる?」
 
 「いや、今回は遠慮するよオエ」
 
 「?」
 
 「いや、ホントなんでもないよ?」
 
 一瞬、吐きかけた……。
 これは飲み込んで食すダイエット食品だね。
 このクッキーを数日食べ続けるだけでダイエットは成功するだろう。
 そう感心し、クッキーの一部をポケットに詰め込みエキドナは本題に入った。
 
 「そろそろ本題に入るよ姉さん」
 
 「長話は疲れるから短調にね」
 
 「努力するよ……」
 
 さて、まずは何から話そう。
 エキドナは頭の中を整理し。
 
 「まず、この繰り返されてる四日間の事だけど……」
 
 「早速、本題中の本題だね。
 まぁ、それは私も片付けようとしてた事だから構わないけどさ」
 
 「姉さんは何度も見てるから気付いているでしょ。
 ナツキ スバルの繰り返される四日間に」
 
 「気付いているも何も。
 スバルが死ぬ度に私は会ってるよ」
 
 ────え?
 
 エキドナの表情は固まった。
 当然だろう。その異変にエキドナが気付けたのは前回の四日間からなのだから。
 
 「それって……姉さんは何時から?」
 
 「その質問の回答は難しいね。
 それはスバルが繰り返される四日間が始まった頃からかな?
 それともスバルの四日間に異変が起き始めた頃からかな?」
 
 「────」
 
 エキドナの知らない事を姉 ラードンは知っている。
 ────これはあってはならない事だ。
 いや、あってはなりえない事だ。
 
 「姉さん……貴女は」
 
 「さて、知りたい事は単調に説明してよ。
 私は疲れる事が嫌いって事は知ってるだろ?」
 
 ────姉さんは僕の知らない知られざる四日間を既に知っていた。
 そこは。その点にていては問題ない。
 だが、エキドナの知らない四日間の詳細を知っているのは予想外だった。
 知識面に関してエキドナに勝る魔女は居ない。
 現在の知識には疎いエキドナだが。
 過去の失われた記録なら誰よりも秀でている。
 そしてこの事の事態は過去の出来事が絡んでいる。
 
 「姉さんは……繰り返される四日間を何時から知ってるの?」
 
 「知ってるも何も僕は最初から彼を見届けている。
 そういう約束をしてるし。僕にはその義務がある」
 
 「最初ってのは何時から?」
 
 そう、エキドナの第一の疑問はそこだ。
 この繰り返される四日間は何時から始まっているのか?
 繰り返される四日間は気付く事のない四日間。その四日間に気付いてしまったエキドナはこうして来たくもない姉の所まで出向き現在に至っている。
 
 「何時からねぇ……数えるのも馬鹿らしい程かな?」
 
 「答えになってないよ」
 
 「答え合わせなんて意味ないよ。
 それとも君は僕に答え合わせさせる為に来たのかな?」
 
 ラードンはエキドナを愛している。
 殺したい程。心の底から愛している。
 だが、エキドナに対する態度は冷たい。
 いや、敢えて冷たくしている。
 そうやって妹と遊んでいるのだ。
 
 「はは、次の質問は?」
 
 「……そうだね。
 姉さんは何時からスバル君の異変に気付いたのかな?」
 
 「おっと……その質問の回答は難しいね」
 
 少し悩む素振りを見せるラードン。
 ────そして。
 
 「はっきり断言しよう。
 解んない♪」
 
 そして空間は凍り付く。
 
 「いやーね。僕も詳しく解んないんだ。気付いたらその変化に気付いてたんだよ。まぁ、当の本人はそんな自分の変化すら忘れちゃってるけど」
 
 「……」
 
 「そんなゴミを見るような目で僕を見ないでよ……興奮するじゃない」
 
 ────駄目だ……この人は。
 この人と話をすると疲れる。
 それは、この会話が始まる前から分かっていた事だ。
 だが、実際会話が始まると予想以上の疲労感に苛立ちを感じる。
 落ち着いて冷静に対処しようにも……この変態はその冷静な対処すら無効化する空気の読めない魔女なのだ。
 
 「まぁ、僕の知らない事を知ってると言っても。姉さんの知っている事は別段、大した事じゃ無いって事は分かったよ」
 
 「そ、そんな事はないよ!?」
 
 「なら、僕をあっと言わせるネタを話してくれないかな?」
 
 「そ、そうだね……」
 
 今度からこそ真剣に悩みながらラードンは記憶の情報を漁っている。
 ────まぁ、期待はしてないけどね。
 この姉の事だ。
 また、どうでもいい事を言ってくるに違いない。そう頭の片隅に言い聞かせ姉の行動を待つ。
 
 「た、例えば……だよ」
 
 ラードンはこっそりと小声で。
 
 「今日、ナツキ スバルの体験する一日ってのは……?」
 
 「……?」
 
 「いや。だからこれから始まるスバルの日程? みたいな」
 
 そう、ラードンはナツキ スバルの繰り返される四日間を全て見届けてきた。
 ────運命は変わろうとしている。
 これも抑止力なのかな?
 目の前の結果『エキドナ』の登場は正にそれだ。
 何時かはここを訪れると分かっていた。それは決められた事だったので問題ない。
 寧ろ、これは結果が変わろうとする抑止力の働きかけもあるだろう。
 ────じゃないと……エキドナの登場はありえない。
 予期せぬ来訪者 エキドナ。
 彼女ならナツキ スバルを助け出す為に力を貸してくれる存在と成るだろう。
 
 「姉さんの言ってる意味は解らないけど……その笑顔は?」
 
 「あり?」
 
 「そのニヤけ方は悪巧みしてる顔だよ」
 
 「そんな事ないよ!
 これから始まるRe:スタートが楽しみなだけさ!」
 
 さぁ、これからどうなるのだろう。
 僕は助けないよ、スバル。
 でも、手助けはしてあげる。
 君が何度、僕を忘れても。
 僕は何度でも君に助言しよう。
 そしてその度に君を殺す。
 
 「じゃあ……運命に抗うとしますか!」
 
 
 
 
 
 
 ────ガチャガチャ。
 
 ふぅー。美味かったー。
 やっぱりレムは天才だね、俺の伝授したホットケーキも完璧にマスターして俺より遥かに美味しいホットケーキを作ってるし……師匠としてはちょっと悲しいけど。
 俺個人としては嬉しかった。
 だってさ。俺の元居た世界の料理を俺以外の奴が作るって嬉しくね?
 自分で作るんじゃなくて他人に作ってもらうから美味しいって言うのかね?
 なんだろう。説明すると難しいな。
 
 「バルス、手が止まってるわよ」
 
 「おぉ、すまねぇ」
 
 洗い物をしながら考え事は駄目だな。作業スピードが落ちちまう。
 この前もそれで指を切ったっけ……。
 
 「洗いもんはこんだけか?」
 
 あと少しで終わるけどその前に一応、確認しておく。
 
 「えぇ、今はそれだけで終わりよ」
 
 「分かった。さっさと終わらせて仕事しねぇと」
 
 「………」
 
 「どうした?
 急に黙り込んで?」
 
 「バルス……さっきから突っ込もうと思ってたけどその服は?」
 
 「普段着ですよ」
 
 「……バルス。今日はお客様が来るのよ?その服装は論外」
 
 論外って……そりゃひでぇな。
 まぁ、この異世界では珍しい服装かも知んねぇけど俺からすりゃ俺以外の奴が着てる服も珍しいの一言だぜ?
 
 「只今絶賛クリーニング中だ。
 そのお客様が来るまでには乾いてると思うぜ」
 
 「そう、ならいいのだけれど」
 
 ────乾いてるよね?
 ちょっと不安になっちまった。
 今日は天気もいいし……洗濯日和だから乾く……そう信じて干したけど。
 なんかさっきから雲行きが怪しくなってきた。
 
 「あ、そうそう。
 言い忘れてたわバルス」
 
 「なんだよ」
 
 「今日は『雨』が降るから洗濯物は外に干さないでね」
 
 直後、雨が振り始めた。
 
 「なんでさ!?」
 
 雨の降る気配なんて無かった。
 さっきまで日光さんさんで昼寝するにはベストな日だった筈なのに……。
 
 「やばっ。洗濯物干しちまった」
 
 「はぁー。これだからバルスは」
 
 「うるせぇ!てか、なんで雨降るって解ったんだ?」
 
 天気予報……なんてものはこの異世界に存在しない。
 雨なんて降る素振りすら見せなかった。なんでラムは雨が降るって知ってたんだ?
 
 「まずは洗濯物を取り出してから。
 急がないと二度手間になるわ」
 
 「そうだった!急がねぇと」
 
 *********************************************************
 
 「ギリギリセーフ……」
 
 「いえ、アウトよ」
 
 取り出した洗濯物は全体的に湿っていて。
 ちょっと濡れてるなぁ~って感じだった。
 
 「やっぱりバルスはバルスね」
 
 「その駄目な子は駄目みたいな言い方やめてくれる?
 俺だって努力したよ?」
 
 「努力して結果が出なければ無意味よ。別室で干し直すから手伝って」
 
 「……ちょくちょくダメージを与えられてるけど了解。
 元は俺のミスだし。俺一人でやるけど?」
 
 「一人でやるより二人でやった方が効率がいいわ。私も今は暇だし手伝ってあげる」
 
 そう言ってラムは洗濯物を籠に入れて持ち運ぶ。
 そう、彼女は怠け者だが。
 なんだかんが言って仕事をする立派なメイドだと改めて実感させられた。
 
 「サンキュー」
 
 「感謝の礼なんて要らないわ。
 ……そうね。強いて要望を言うなら今日の私のする分の仕事をしてくれても構わないわよ」
 
 「見返りデカくね!?」
 
 「そう?
 相応の報酬だと思うけど」
 
 相応……ね。
 俺は置いてあった籠に入るだけ洗濯物を詰める。
 うんとこしょっと。
 持ち上げる……結構な重さだな。
 ラムは俺より洗濯物が詰まってるのにそれをやすやすと持ち運んでいる。
 女の子に力仕事で負けるのはちょっと……なぁ。
 
 「バルス。早くしないと置いていくわよ」
 
 「はいよ、今行くぜ」
 
 ────俺って役に立ってるのか?
 
 そんな不安が込み上げる。
 俺のスペックではあの双子には敵わない。
 仕事量も俺と変わらぬ筈なのにレムとラムは疲れた仕草一つ見せない。
 最初は慣れてるな。
 なんて思ってたけど違う。
 あの双子は本当に疲れてないんだ。
 余裕なんだろう……ここで働き始めてやっと一ヶ月。慣れれば俺でも出来る様に成るって思ってた。
 慣れない……。
 いや、多少は慣れたと思う。
 だが、それは人並での話だ。
 奴らと同じペースで仕事してたらとっくにバテてる。
 だから、俺は俺なりに役に立ちたいと思った。
 それでも奴らとの距離は縮まらない。
 でも、コツコツと俺は奴らを目指して進むんだ。
 
 「雨は当分止まないから当分は外の掃除をしなくて済むわ」
 
 「おいおい姉様。
 そのガッツポーズは使用人としてどうかと思うぜ?」
 
 「ならバルスはこの雨の中、外の掃除をしたい?」
 
 「御免こうむる……まぁ、正直。ラッキーだとは思ってるぜ」
 
 少し、雨の降りが強くなった。
 今、気付いたけど屋敷の窓全部、締まってる。
 雨が降るって解ってたから先に締めておいたのね。
 
 「そういや……明日になれば分かるって昨日言ってたよな」
 
 昨日、一番気になっていたワードを思い出す。
 
 「もう今日になっちまったけど。
 そろそろ教えてちょ?」
 
 「午後に成れば分かるわよ」
 
 「引き伸ばし!?
 昨日から無茶苦茶気になってたんですけど……」
 
 昨日それのせいでなかなか寝付けなかったんだからな。
 
 「まぁ、いいじゃない。
 明日になればから午後になればに成ったのだから」
 
 「先延ばしされると余計気になるんですけど」
 
 そして「ふふっ」とラムは笑って無言。
 お楽しみって奴ですね、分かります。
 
 「なら、話を変えるけど。
 ラムはなんで今日、雨が降るって分かったんだ?」
 
 「その質問は誤りよ。
 分かったんだ。
 では無くて知ってたんだ。
 が、正しいわバルス」
 
 妙にドやった表情でラムは告げる。
 
 「じゃあそうするけど。
 なんで知ってたんだ?」
 
 「『午後』に成れば解るわよ」
 
 「これも午後なの!?」
 
 「そう、そうね……。
 丁度お昼時かしら」
 
 ────午後……。

 客人の正体は午後では解る。
 
 雨が降ると知ってたのも午後で解る?
 
 なんか関係してるのか?
 俺のチンケな脳みそで考えても答えは出ない。
 いや、出せない。
 多分、それは俺の予想を大きく上回った回答『結果』だからだ。
 この異世界は魔法って言うチートOKな世界なんだ。その類がヒントと言われても100%の回答なんて出せる訳ない。
 だが、ここでラムの言っていた単語を思い出す。
 ────神様?
 そう、彼女は未完成な神様と言っていた。
 
 ────まさかな。
 
 そう、それは流石にない。
 そう俺は信じ、午後がやって来るのを待つ。
 仕事してりゃ時間なんて忘れる。
 この胸のモヤモヤもそれで忘れる筈だ……。
 
 
 
 「うーん。スバル君じゃないか?
 どうしだんだい?こんな所で?」
 
 それは聞き慣れた声の……筈だった。
 なのにおかしい。
 『声』と『外見』が一致しない!?
 
 「誰で、せう?」
 
 「おやおや。主人の顔を忘れるなんてとんだお茶目さんだ」
 
 そして男は歩み寄り。
 
 「この瞳の色で解るだろう。
 スバル君?」
 
 ────碧眼と金眼。
 そう、俺はこの青年を知っている。
 普段はピエロみたいな身なりで口調も変態じみた青年を俺は知っている。
 
 「………………ロズっち?」
 
 「はははっ。私のそんな風に呼ぶのは君くらいだよ、スバル君」
 
 ……どうやらロズワールの様だ。
 色々と突っ込みたい。
 なんでそんなまともな服装なの!?
 
 「ロズっち……?
 その服装は?」
 
 「おや、似合ってないかな?」
 
 「いや、無茶苦茶似合ってる。
 はっきり言うぜ? 超イケメン……素がそれだったら嫌いなレベルで」
 
 金持ちが着てる感じの服だけど超似合ってる……モデルかよ
 
 「おやおや。それは褒めてるのかな?それとも貶してるのかな?」
 
 「いや、褒め言葉として受け取ってくれ……。
 で、その口調は?」
 
 「おかしいかな?」
 
 「違和感しか感じないからマジで辞めてほしい」
 
 普段のロズっちを思い出す。
 ピエロ。正にピエロ!theピエロ!
 それなのに目の前のロズっちは別人じみてる。
 もしかして別人……?
 ってレベルだ。
 でも、確かにその雰囲気?
 顔立ち、立ち振る舞いを見る限りロズっちと判断出来る……ロズっちじゃないと祈りたいけど。
 
 「これにはちょっとした訳ありでね。……まぁ、昼食に成れば解るだろうさ」
 
 「昼食?
 そういやラムも午後……お昼頃に解るって言ってたな」
 
 「おや、レムから聞いてないのかい?」
 
 「聞いてねぇよ。
 つっても聞いても教えてくれないんだけど」
 
 そしてロズワールは意地悪な笑みを浮かべ。
 
 「成程、そういう事か」
 
 「教えてくれるなら教えてくれてもいいんだぜ?」
 
 「いんやー。ここはお昼のお楽しみだーね」
 
 一瞬、普段のロズっちに戻った。
 
 「さて、私は雑務があるのでこの辺で。それでは失礼するよスバル君」
 
 なんと礼儀正しいロズっちだろう。
 見慣れたロズっちと比べると気持ち悪いんだけど……。
 この変化も『午後』と関係あるのだろうか?
 
 「そういや今日の昼飯は馬鈴薯尽くしだったな……」
 
 昨日、レムがあんだけ仕込みに時間掛かってたんだ。相当な量だろう。
 ロズワールの急なイメチェンも気になるけど今日、屋敷に遊びに来るロズワールの友人の娘さんも気になって仕方ない。
 もしかして……ロズっちのイメチェンはその娘さんが原因……?
 まぁー。初見ロズっちはピエロって勘違いするレベルだからな。
 いくらピエロでも(それでも十分イケメンな訳だが)あんなのが急に現れたらビックリするよな普通。
 イケメンはどんな服着てもイケメン……。
 それは異世界でも通じるらしい。
 イケメン爆発しろ。
 ────まぁ、口調もそれなら理解出来るけどさ。アイデンティティを捨てるのはちょっとねぇ……。
 俺の頭の中ではロズっち=ピエロで通ってるからさ。
 急にあんな変化をされると結構戸惑う。
 俺の主人=ピエロ〇。
 俺の主人=真面目な口調で真面目な服装のロズっち×。
 ピエロが主人って俺はサーカス団で働いてんのかよ。
 まぁ、ロズっちのピエロ姿を見慣れちまったからロズっちをロズっちって認識出来てたんだよな。
 あれでも結構お偉いさんらしいし。
 ピエロの姿じゃ。検討も付かないけど。
 
 「レムの手伝いにでも行きますか」
 
 午後に成れば。
 昼食に成れば解る。
 それなら最短ルート選ぶぜ。
 昨日は忙しそうだったから聞こうに聞けなかったけどレムなら教えてくれるかも知んねぇし。
 厨房目指してまっしぐら。
 ガチャガチャッ。ガタゴトッ。
 これはとても忙しそうな予感。
 厨房に近付くにつれ物音は大きくなり、ドアの前に立つと開けるのを戸惑うくらい熱気を感じだ。
 
 「……失礼しまーす」
 
 ドアを開けるとまず見えたのはレムの後ろ姿。
 その姿はさながら一流シェフ。
 真剣に料理に取り組み、全神経を料理に向けている。
 ────これは話し掛けにくい……。
 そう判断し。ゆっくりと扉を閉じ、厨房を後にした。
 レムも午後を……楽しみにしてる。
 レムが昨日、一生懸命取り組んでいた料理の下ごしらえを思い出す。
 昨日からずっと頑張ってるんだよな。
 ラムも今日を楽しみにしてたよな?
 レムみたいに行動には出てないけど……いや、出てたかも。
 この二日間、あのサボり魔はちゃんと仕事をしていた。
 何時もはサボってるような口振りだけどそうじゃない。
 レムの陰に隠れてサボってる様に見えるけど仕事はきちんとこなしている。
 苦手な事も自分なりにやっている。
 ────まぁ、それで昨日は大惨事だったんだけどな。
 
 「一体、どんな奴が来るんだ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 時は一刻一刻と過ぎてゆき。
 そろそろ昼食の時間だ。
 相変わらず雨は振り続けている。
 しまいには雷も。こんな悪天候になるとは思わなかった。
 その客人は馬車でやって来るのかね?
 それともロズっちみたいに空を飛んで来るとか?
 どちらにせよこの悪天候では遅れそうだ。
 雨は止まない。
 雷は雷鳴を轟かせる。
 一瞬ピカっと光り、雷鳴は遅れてやってくる。
 それの繰り返し。
 屋敷は闇に包まれていた。
 闇って程じゃないけど普段、歩いている屋敷の廊下と比べればそれは歴然で。
 太陽の光が届かないだけでこれ程の差が出るとは思いもしなかった。
 
 ────雷鳴が轟く。
 
 なんだろう。
 少し、懐かしい。
 
 ────雷鳴が轟く。
 
 久々に雷を見たからかな……。
 胸がざわついてる。
 
 ────雷鳴は轟き、唸る。
 
 やって来る。
 招かれた客人が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「────レム」
 
 「はい、お姉様」
 
 双子の鬼は同時に感じ取った。
 自分達とは比較に成らない魔力。
 それを感じ終えると鬼の双子は笑顔で────笑顔で今日の日を祝福する。
 祈りを捧げるように。
 今日という日を祝福するのだ。
 
 
 
 
 「────さて、今回はきちんと接せねば」
 
 ロズワールは標準語で普通の服装で……。
 お洒落な誰に見せても問題ない身なりで彼女の来訪を待ち続ける。
 ────あの少年なら問題ないだろう。少しばかり羨ましい……。
 ナツキ スバルなら彼女と対等に接する事が出来るだろう。
 分をわきまえないから……。
 だが、今回はそれで難を乗り越えられるとロズワールは確信している。
 
 「前回同様、会った瞬間。
 殺されるのはコリゴリだからねぇー」
 
 おっとこの口調は彼女の前では禁句だった。
 ロズワールは反省し。
 振り続ける雨を見届ける。
 止む気配を見せない雨は激しさを増し、振り続ける。
 以前と同じだ。
 
 「私の事は覚えていているかな。
 忘れていてくれた方が私としては都合がいい訳だが……」
 
 そう、あれは何年前だっただろう。
 挨拶しようと口を開けた瞬間────体の至る所をレイピアで貫かれた様な激痛に感じた。
 それは錯覚では無かった。
 全身、至る所に綺麗な穴が空いていた。
 それを確認する前にロズワールは意識を失い……意識を取り戻したのはそれから三ヶ月後の事だった。
 後々、知ったのはその怪我を治療してくれたのはその娘と母である事。
 どうやらロズワール服装と口調に驚き、こうなってしまったと娘は言っていた。
 その後、何度も何度も何度も。
 娘は。
 ────ごめんなさい。
 ────ごめんなさい。
 ────ごめんなさい。
 と泣きながら頭を下げて謝ってきた。
 そしてロズワールは笑顔でそれを許した。
 普通、これ程の怪我を負わされたら恐怖し畏怖するだろう。
 だが、ロズワールは寧ろ。
 
 ────素晴らしい。
 
 そう言って褒めたのだ。
 その後、ロズワールはこの傷を勲章として残し。
 あの一瞬のひとときを心に刻んだ。
 忘れない。
 忘れられない。
 忘れられるわけがない!
 ロズワールは待ち続ける。
 この空の下────舞い降りる神を。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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