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私inワンダーランド

作者:しばいぬ
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第二話

太陽。というものはここにはなく、ただそうなるのが当たり前であるかのように空が暗くなっていく。月も、星もなく、空には雲が泳いでいる。
私は天狗に抱えられ、徐々に高度を上げていく。あの四階建てしかない町の複雑にいりくんでいる様が目下に広がっている。ここまで来ると一種の諦めがある。なるようになれ、ままよ。
「天狗さん?これは何処に向かっているんですかぁ?」
バッサバッサと無言で天狗は羽ばたき続けた。

空はすっかり暗くなり、星も月もない黒い空にポツリ、と一つ、明かりがある。天狗の住みか、空中島。そこには昔、数百人の天狗が暮らしていた。だが地上の妖怪たちが栄えると共に数が減っていき、今、残っているのはこの老いた天狗、一人だけだった。
空中島に建っている物は、蔦や苔が自由に侵食されていること以外は、地上同様の日本家屋であるのだが、光がない今、そこは闇に包まれている。
「うわっ」
と、花も恥じらう乙女、西宮雀の声が漏れる。降ろされると同時に足に触る蔦や独特の踏み心地の苔から歓迎される。
というか暗くて何にもわからないんですけど!?
私はとにかく怪我をしないように苔の上に座り込んだ。わずかに濡れていたのか、水が下着にまで染みてきた。
夜が開けるまで、雀はずっと、ただずっと。座っていた。

会議を終え、帰路につく猫又だが、高天原頂上にある高天原会議室から猫又食堂まで、人の姿で歩くとすると軽く四時間は掛かる。だが猫の姿になれば二時間もあれば帰れるのだが、その姿になれば体長は尻尾まで含めても30cm程となり、通行人や異形の者達に蹴られたりする危険がある。そのため普段は人の姿で出歩いているのだが、今日は酒の酔いもあってか、猫の姿で高天原会議室の窓から外へと出ていた。
猫の耳は六万ヘルツの音まで聞き分けられ、さらに音の方向や距離まで探知することができる。そのため。
「天狗さん?これは何処に向かっているんですかぁ?」
という声が、西側領地上空から発せられたのに気がついた。



朝日が差し込み、私は目を覚ました。一階からは美味しそうなベーコンの臭いがし、お母さんが私の名前を呼んだ。私は小さく返事を返し、ベッドから降りた。


目を覚ませばそこは苔むした畳の一室。私はいつの間にか眠っていたようだった。あたりを見渡しても不自然に生えた花や植物しか見当たらず、私の知っている世界ではないことをうっすらと実感させた。
私はゆっくりと立ち上がり蔦の張り付いた襖を開けた。
すると、私を連れ去った、老いた天狗が横たわっていた。
「ピンクか」
「何でこんなことしたんです?ひいおじいちゃん」
「はっは、冷静」
ビッと人差し指を向ける天狗ことひいおじいちゃん。
生前、私のひいおじいちゃんは自分のことを天狗だと言い、村のみんなから可愛そうな人と言われていました。本当に天狗になるまでは。
「おじいちゃんが天狗になってから大変だったそうですよ?私はおじいちゃんと入れ違いで生まれたそうですが」
「だぁから夢枕に立って色々教えただろ?達磨の稽古をわすれたか」
「あれって意味あったの?」
「さぁ?自分で見つけな?」おじいちゃんがひょいと立ち上がる。
「・・・俺が夢枕に立たなくなってから、家の方はどうなった」
「スイスにお引っ越しです」
「なんでぇ?」おじいちゃんが身を丸くし口をあんぐりと開けて聞き返した。
「お母さんがスイスの大学で講師をすることになって、お父さんがスイスの遺跡を調べるそうですよ?」私はゆっくりとおじいちゃんに目を会わせた。
「・・・おじいちゃん」
「なに」
「私はここでなにをしたらいいの?」
「帰りたいなら帰ればいい、本当に帰りたいと思ってるなら、帰れるはずだぞ?」おじいちゃんはにっこりと笑い、どこかに飛んでいった。
私を、空中島に残して。




「・・・天狗」
ここの者達は空を飛ぶ手段を持たないため、空へ、天狗につれていかれては成す術がない。つまり、実質、猫又に課せられた責任は果たせなくなることなる。
猫又は、見なかったことにして帰路についた。探す振りをしておけば、勝手に行方不明になったということになるのだから!
「させねーぞ?」ニュッ、と天狗が上から顔を除かせた。
「うぎゃぁっ!」猫又は真上へ飛び上がった。
「はっは、傑作」ケタケタと笑う老いた天狗は懐に猫又を入れて空中島へと飛び上がった。
「おい!なにすんだよ!」
猫又は暴れだしたが懐にマタタビが仕込まれており、視界がぼやけていく。
「あいつは俺の孫娘だ。よろしく頼むぜ?ミケ」
「もうあんたの飼い猫じゃぁない」 
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