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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 29 「星と交わす約束」

 機動六課の隊舎が壊滅してから1週間が経過した。
 スカリエッティ一味による襲撃で拠点を失ってしまった私達六課のメンバーは、現在はやてちゃんの手配によって廃艦されるはずだったL級巡航艦《アースラ》を新たな拠点として利用させてもらっている。
 私としては整備さえちゃんとすればまだまだアースラは頑張れそうな気はするけど……私が乗るようになる前からアースラは働いてきたわけだし、今回の事件が終わったら休ませてあげるべきだよね。
 子供の頃から乗っていた船なのでどの船よりも愛着があるし、思い出だってたくさんある。あの日……あのとき魔法に出会っていなければ今の私はなかっただろうし、みんなとも出会うことはなかった。私の知る世界は地球という世界だけだった。
 そんな風に考えると、これまでの時間がとても貴重でかけがえのないものだったと思える。
 決して良いことばかりあったわけじゃない。困ったときもあれば辛かったときもある。傷ついて怖くて何も考えたくなくなったときだってある。でも多くの人が私を助けてくれた。その度に私は優しさや勇気といった大切な感情を感じることが出来たと思う。
 だからこそ私は折れることなく魔導師としてやってこれた。日々目標を持って生活することが出来たんだと思う。そして、それはこれからも変えることなく過ごしていきたい。そのためにも必ず今回の事件を終わらせて見せる。

「……待っててね」

 ヴィヴィオ、必ずママが助けてあげるから。
 血の繋がりがある本当の親子というわけじゃないけど、今の私はあの子の保護責任者。一緒に過ごした時間はわずかだけど私にとって大切な存在だ。
 それだけにあの子が、痛い目に遭っていたり怖い目に遭っているんじゃないかと考えると体が震えそうになる。でもそれは私だけじゃない。みんな何かしらの不安や恐怖を感じている。それに負けない想いや決意を胸に今を過ごしているんだ。
 アルトは療養中のヴァイスくんに代わってヘリパイロットをしてくれるみたいだし、ルキノはアースラの操舵手をやってくれている。他にも多くの人達が今自分にやれることをやろうとしているのだから、私も機動六課のスターズの隊長として務めを果たさないと。

「悪い、少し遅れた」

 そう言って会議室に入ってきたのは私達と同じ制服に身を包んだショウくんだ。左腕をきちんと袖に通せていることからも分かるだろうけど、彼の怪我は完治している。
 スバルは確かマリーさんのところで最終確認をしてから合流すると聞いている。そのため六課のフォワード達が揃うのは午後になるだろう。

「お兄ちゃん、もう怪我は大丈夫なの?」
「ああ、他に比べればそこまで大したものじゃなかったしな」

 骨折というと地球では結構な怪我に分類される気がするけど、地球よりも格段に発達した医療技術がある魔法世界で過ごしていれば今のような言葉も出るだろう。
 実際のところ、意識を取り戻してないヴァイスくんやまだ病院での生活を送っているメンバーは何人もいるのが現状だ。もしも私がショウくんの立場だった場合でも似たような言葉を言ったに違いない。
 ……ショウくんの怪我自体は完治してる。それは間違いない。でも筋力に関しては怪我をする前よりも落ちてるはず。
 痩せ細ってる印象は受けないから日常生活には問題ないように思えるけど、戦闘のことを考えると不安になる。
 私みたいに魔力弾や砲撃で戦う魔導師なら懐に入れないようにすればいい。だけどショウくんは近接戦中心の魔導師。合体・分離ができる今の剣の特性上、両手で剣を扱う場合もある。そうなれば筋力の低下による感覚のズレは影響を与えるに違いない。
 剣を扱うようになって間もない人ならあれだけど、今のショウくんはシグナムさんに劣らない達人レベルの技量を持ってる。なら微妙な感覚のズレは常人よりも遥かに大きいものなのではないだろうか。現状ではかけがえのない前線メンバーではあるけど、もしものことを考えると……

「ん……なのは、何か俺に言いたいことでもあるのか? あれか、予定していた時間よりも遅れたから怒ってるのか?」
「別に怒ってないよ……ていうか、私の顔って怒ってたかな。私としてはそんな顔をした覚えはないんだけど。前々から思ってたことではあるけど、ショウくんって割と私のことを鬼教官というかそっち方面の印象を付けたがるよね」
「あの実に効率良く限界まで鍛え上げる教導はある意味鬼だと思うがな。あと十分に怒ってる顔をしてるぞ、現在進行形で」

 それはショウくんが怒らせるようなことを言ってるからなんだけど。フォワード達が近くに居るから怒鳴ったりはしないけど。一応みんなからは私は大人として見られているし、隊長として見本とならないといけないから。……どこかの誰かさんのせいですでに威厳的なものはなくなってる可能性が高いけど。
 それに加えて……ショウくんはショウくんでフォワード達の前でも割といつもどおり接してくるから締まりに欠けるんだよね。まあピリピリというか気まずい空気にしたいとは思ってないからある意味ありがたくはあるんだけど。でもだからって意地悪な言い回しをしなくてもいいんじゃないかな。
 ショウくんの今みたいな言動は子供の頃からあるけど、何度考えても私にだけ他よりも顕著な気がする。
 はやてちゃんやシュテルに対しても似たようなことは言えるだろうけど、今はともかく昔のはやてちゃんは唐突にボケたり……む、胸を揉んだりしてくる子だったから冷たくされたりするのも自業自得。シュテルも人のことをすぐからかうから当然といえば当然な気がする。
 冷静に思い返してみても、私はふたりほどショウくんに何かした覚えはない。にも関わらず意地悪されるってどういうこと……昔はからかわれたりするポジションではあったけど、でもからかうにしたってアリサちゃん達と顔を合わせたときとかでいいんじゃないかな。

「そんな今にも砲撃を撃ち込んできそうな顔で見ないでほしんだが」
「そんな顔してません……それともあれかな、それは撃ち込んでほしいって言うフリなのかな?」
「なのは、なのは落ち着いて。声のトーンが本気っていうか本当に砲撃撃ってもおかしくない顔してるから!?」

 フェイトちゃん、私は十分に落ち着いてるよ。あとフェイトちゃんとは親友だからフェイトちゃんの性格はよく理解してるつもりだけど、時折フェイトちゃんってさらりとあれこれ言っちゃうよね。そこに悪気がないのは知ってるし、優しいからこそ割って入ってきたとは分かるんだけど……私も人間だから微々たるものではあるけど思うところはあるんだよ。
 まあ……今私の胸の内にある感情の大半はショウくんに対するものなんだけど。フェイトちゃんに対して思ったこともまとめてショウくんに向けてもいいんじゃないかって思うほどに。
 フェイトちゃんやディアーチェには割かし思いやりがあるというか優しい言動をするくせに……もうちょっと私にも優しくしてくれていい気がするだけど。この前は私が泣き止むまで抱きしめてくれてたんだし。
 そこまで考えた瞬間、私は自分の顔が急激に熱くなるのを感じた。人前で泣いたことへの恥ずかしさもあるが、やはり異性に抱きしめられていたというのは羞恥心を刺激する。たとえその相手が昔から付き合いのある幼馴染とも言えそうな間柄でも。
 ……不味い、今あのときのことを思い出すのは非常に不味い。
 というか、私ってあのとき割と取り乱してたというかヴィヴィオのこと以外のことを考える余裕はなかったはずだよね。なのにショウくんから感じた優しさとか力強さをはっきりを覚えてるし、触れていて落ち着く、頼れる、甘えたいみたいなことを考えちゃう自分が居る。

「分かっていたことではあるが、本当お前って時折ひとりで百面相するよな。何考えてるかは知らないが、今後どう動くにしてもあまり気負い過ぎるなよ」

 そう言ってショウくんは空いていた私の隣の席に腰を下ろした。別に何か狙いがあって気負うなと言ったわけじゃないんだろうけど、今の私にとってはなかなかに精神に影響を与える言葉である。前触れもなしにアメをくれないでほしい。
 これからが大切って時なのに私を揺さぶらないでほしい。……私が勝手に揺れちゃってるだけなんだけど。
 昔から薄々ではあるけどショウくんに対して他の人にはない感情があるのは気づいていた。でもそれが何なのか、ちゃんと見つめようとはしてなかった気がする。
 それは多分今も一緒だ。見つめようと思えば見つめられるんだろうけど、私はそれよりも優先しようとすることがたくさんある。もしかしたらそれが祟って後々私は傷つくことになるのかもしれない。でもそれで良いと思う。
 だって私が傷つくよりもヴィヴィオやギンガを助け出すこと。今回の事件を終わらせることの方が大切なことだから。

「みんなお揃いやな」
「失礼します」

 室内に入ってきたのははやてちゃんとグリフィスくんだ。彼女達がここに来たということは何かしらの報告か今後の方針に関する説明があるのだろう。

「ショウくんもちゃんと居るみたいやね。腕の方は問題あったりせぇへんか?」
「問題があるなら制服の袖に腕は通してない」
「それもそうやな。完治したばかりであれやけど、今後のことを考えるとショウくんは重要な戦力。頼りにさせてもらうで」
「本業は技術者のはずなんだがな……まあ期待に応えられるように努力はするさ」

 昔からの名残を感じさせる会話ではある。でもはやてちゃんとしては本当はもっと言いたいことがある気がしてならない。でも彼女には部隊長としての立場や責任がある。それ故にショウくんに対して戦力といった言葉を使わぜるを得ない。
 ただそれはショウくんも理解してるんだろう。昔からふたりは互いのことをよく理解していた。中学卒業前くらいに一度ギクシャクしてたというか距離が出来たように思えるけど、あの頃は私達が自分達の道を歩き始めた時期でもある。それを考えれば多少距離が出来てしまうのはおかしいことじゃない。

「それで……今後の方針は決まったのか?」
「もちろんや」
「地上本部による事件の対策は相変わらず後手に回っています。理由としては地上本部だけの事件調査の継続を強行に主張し、本局の介入を固く拒んでいるからです。よって本局からの戦力投入はまだ行われません。また同様に本局所属である機動六課にも捜査情報は公開されません」

 地上本部と本局の仲が悪いのは今に始まったことじゃないけど、今の状況から考えれば互いに協力するのがベストだって思うはず。立場に違いはあれど管理局員ということには変わりはないんだから……それで簡単に事が進むのならそもそも仲が悪くなったりしてないんだろうけど。

「そけやけどな、私達が追うのはテロ事件でもその主犯格のジェイル・スカリエッティでもない。ロストロギア《レリック》、その捜査線上にスカリエッティとその一味が居るだけ。そういう方向や……で、その過程において誘拐されたギンガ・ナカジマ陸曹となのは隊長とフェイト隊長の保護児童ヴィヴィオを捜索・救出する。そういう線で動いていく……両隊長とショウくん、何か意見があれば聞かせてほしい」

 私達からすれば現状で最も動きやすい理想の状況だ。反対意見はこれといって浮かんでこない。だけど……そう簡単に今の状況が生まれるものではないということもこれまでの経験から分かってしまう。

「文句の言いようがない状況だけど……また無茶してない?」
「大丈夫なの?」
「後見人の皆さんの黙認と協力は固めてあるよ、大丈夫。何よりこういうときのための機動六課や。ここで動けな部隊を興した意味もない」

 はやてちゃんが部隊を興した理由は知っているし、それに賛同したからこそ私やフェイトちゃんは機動六課が出来た際に隊長を引き受けた。それに彼女の迷いのない目を見てしまってはこれ以上心配の言葉を掛けるのはかえって悪手に思えてくる。
 こういうときのはやてちゃんは相変わらずカリスマ性があるというか、素直に力になりたいとか何が何でも事件を終わらせてみせるって気にさせてくれる。子供の頃はあんな感じだったのに人は変わるものだ。まあこっちが本来のはやてちゃんなのかもしれないけど。

「了解」
「なら異存はありません」
「両隊長はOKみたいやな……ショウくんはどないや?」

 ショウくんは立場だけで言えば私やフェイトちゃんみたいに隊長職に就いているわけじゃない。しかし、彼は私達と同様に隊長として扱われても問題ない能力を備えている。故にロングアーチの副隊長みたいな扱いになってるわけだ。
 それを抜いたとしても、機動六課の中で最もはやてちゃんの意見に反対できるのはショウくんだろう。その意見は冷静な分析に基づいていることもあって無下に出来るものはほとんどない。もしもそれを無視する形で事を進めれば、今後常に何か引っかかっているような感覚に襲われるはずだ。

「何かあるなら素直に言うてくれてええからな」
「……どうもこうも言うことなんてあるわけないだろ。お前が大丈夫だって言うんなら今はそれを信じて進むだけだ」
「そうか……よし、なら捜査・出動は本日中の予定や。みんな万全の態勢で出動命令を待っててな」

 私達が一斉に肯定の返事をすると、はやてちゃんはグリフィスくんを連れて部屋から出て行った。フェイトちゃんやフォワード達もそれぞれ動き始める。

「さて……」
「あ、ショウくん。ちょっといいかな?」
「何だ?」
「その……フォワード達のデバイスのファイナルリミッターを解除しようかなって思ってるんだ。本音を言えばもう少し慎重に行きたかったけど、状況が状況なだけにそうも言ってられないし」

 ショウくんは一瞬考える素振りを見せたけど、すぐに私に視線を戻す。

「そうだな……まあ今のあいつらならどうにか使いこなせるだろう。分かった、どうせ全員のデバイスの状態は確認しておきたかったからやっておく。マッハキャリバーに関してはマリーさん達が修理ついてで強化も行うかもって言ってたから頼んでおこう」
「うん、お願い。怪我が治ったばかりなのにごめんね」
「感覚を戻すリハビリにもなるし、何よりそういうのは俺の本職だ。気にするな」

 そう言われてしまっては私が返す言葉はありがとうというお礼の言葉しかなくなる。言ったところで彼は仕事だとか言って素直に受け取ってくれないんだろうけど。

「……そういえば、ファラ達の姿が見えないけど」
「あぁ、あいつらは今メンテナンスと強化を行ってもらってる」
「強化って試作の? そういうのもショウくんの仕事だってのは理解してるけど、今は安定性を重視したほうがいいんじゃないかな?」
「心配しなくていい。強化といってもブレイドビッドみたいな攻撃や装甲に関するパーツを追加するだけだ」

 確かに相手が相手なだけに長期戦になる可能性は十分にありえる。
 ショウくんはスタイル的にはフェイトちゃんと同じようにどの距離でも戦えるオールラウンダーだけど、最も真価を発揮するのは近接戦闘だ。昔よりも格段に良くなったとはいえ、インテリジェントデバイスはアームドデバイスよりも耐久力に劣るのに変わりはない。
 それを補うためにファラは合体剣に姿を変えたわけだし、予備のブレイドビッドみたいなのを用意しておいて損はない。それにブレイドビッドみたいなものなら確立された技術だし、安全性も高いだろうから心配することもないかな。

「そっか、なら大丈夫かな。作業の方はシュテル達がやってくれてるの?」
「まあな。今の俺よりはあいつらの方が作業は速いし……可能ならリミッターの解除とかも手伝ってもらおうかな。そうした方がメンテナンスする時間も作りやすくなるし……最低でもお前のレイジングハートは見ておきたいからな」
「あはは……エクシードはともかく、ブラスターは使うつもりないんだけどな」

 エクシードモードとブラスターモード。
 これらはかつて使用していたエクセリオンモードの代わりに存在している。
 まずエクシードモードについてだが、このときの外見はエクセリオンモードと酷似している。だけど射撃と砲撃を徹底的に特化させた仕様にしてあるため、常に莫大な魔力を消費していたエクセリオンモードより負荷は少なく、また一点特化させたことで扱いも良くなっている。限定解除時のフルトライブ状態と言えるかもしれない。
 次にブラスターモード……これは私とレイジングハートの《最後の切り札》。
 新システムである《ブラスターシステム》を使用するリミットブレイクモードであり、ブラスタービットと呼ばれる射撃や砲撃を行える遠隔操作機を私とレイジングハートで最大4基稼働させることができる。
 コンセプトは使用者とデバイス、双方の限界を超えた強化を主体にしている。そういう意味ではエクセリオンモードに近い。
 でも……ブラスターはエクセリオンモードを超えた機能を持ってる。強化は段階的に行うけれど、最低限の強化でも負荷はエクセリオンモード以上になり得る。最大強化……ううん、そこまでしなくても少しでも使うタイミングや使い方を間違えば私は魔導師としての道を歩めなくなるに違いない。それくらいブラスターは危険だ。

「ただでさえあれは負荷が大きいんだ。そう易々と使われても困る……必要ないのに使っていたらフェイトあたりは泣きながら怒るぞ」
「分かってる、使うつもりはないから大丈夫だよ」
「あいにく俺はお前の大丈夫ほど信用していない大丈夫はない」

 これまでのことを考えればそう言われても仕方がない部分はあるけれど、でも最近は無茶な戦い方とかはしていないし、ブラスターモードを使わなくても十分に戦える力量は付けているつもりだ。それはショウくんだって分かってるはずなんだから、そこまで本気のトーンで言わなくてもいいと思う。

「だからそういうところが意地悪って言うんだよ。そんな風に言うならブラスターモードの開発に協力しなければよかったのに」
「あのな、知らないところで滅茶苦茶なものを作られる方が困るだろ。それに……無理や無茶をしなくちゃどうにもならない状況があるのも事実だ。どれだけ傷つくことになろうと死なれるよりずっと良い……他は止めるだろうが、もしも必要だと思ったら迷わず使え。その代わり、必ず生きて帰ってこい」
「……うん、約束する。どんなに傷ついても必ず帰って来るよ。だからショウくんも絶対生きて帰ってね」
「当たり前だ。親よりも早く死ぬわけにはいかない」


 
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