畜生道
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第一章
畜生道
大谷直人はとかく嫌われていた。
嫌われる理由は簡単だった。とにかく性格が悪かった。
彼に意地悪をされた者、馬鹿にされた者、ちょっとしたものを高く売られた者、嘘を言われた者は枚挙に暇がなかった。しかもだ。
「強い先輩にはへいこらしてな」
「少しでも強い相手には媚売ってなあ」
「自分より勉強できないと凄く馬鹿にしてくるよな」
「で、成績のいい奴にはへらへらしてな」
「先生に平気でちくるんだぜ」
こうしたことも話される。
「三組の中田な、自転車通学がばれて怒られただろ」
「ああ、あいつの家って自転車通学できる距離じゃなかったな」
「中途半端に遠かったよな」
それでだというのだ。
「で、部活の時にこっそり乗ってたのかよ」
「ああ、けれどそれを大谷がちくったんだよ」
そうしたというのだ。大谷は。
「部活の先生にな」
「ってあいつ関係ねえだろ」
「あいつも普通にこっそり自転車通学してるだろ」
「で、自分のことは棚に置いてかよ」
「先生にちくったのかよ」
誰もがだ。そのことを聞いてだ。
大谷に悪感情を抱かないではいられなかった。しかもだ。大谷のやったことはまだあった。
「あいつ部活で出席簿担当らしいんだよ」
「よくあんなのにそんなの任せるな」
「出席簿滅茶苦茶つけるだろ」
「あいつ勝手に後輩の一人の出席全部欠席にしたらしいんだよ」
このこともだ。語られたのだった。
「いじめてる後輩のな。で、その後輩嫌になって退部したらしいんだよ」
「そんな奴好きにさせてる先公も馬鹿だけれどな」
「しかし普通そんなのしないだろ」
「何処まで屑なんだよ」
「本当に最低な奴だな」
またしてもだ。大谷に対しての悪感情が膨れ上がった。
「あんな奴一緒にいたくないな」
「性格最悪だろ」
「っていうか本当にどっかに消えろよ」
「顔も見たくねえよ」
殆どの人間、それこそ彼に媚を売られていたりへらへらされている人間以外は彼を忌み嫌っていた。とにかく底意地が悪く裏表の強い自己中心的な性格だった。
それは中学だけでなく高校でも同じだった。高校でもだ。
「あいつと一緒のクラスか」
「もう関わりたくねえよ」
「何処まで性格悪いんだよ」
「中学の時からそうだったんだって?」
別の中学だった人間がかつて同じ中学だった人間に尋ねた。
「あいつの性格って」
「その時より酷くなってるぜ」
その同じ中学だった彼は極めて忌々しげな顔でこう答えた。
「あいつ人のポケットに煙草入れて先生にちくったよな」
「で、そいつ停学になったな」
「それはしなかったんだよ」
そうしたことはだ。まだしなかったというのだ。
「確かに最低な奴だったけれどな」
「さらに最低になったのかよ」
「最低の最低にかよ」
「ああ、どんどん悪くなってるよ」
性格の悪さにもランクがあるのだ。大谷は中学の頃から性格はかなり悪かったが高校になりさらに悪いものになっているというのだ。
「俺中学の時からあいつ嫌いだけれどな」
「今はもっとか」
「冗談抜きで死んで欲しいよ」
彼は心の奥底から忌々しげに言った。
「さっさとな」
「ああ、それはわかるよ」
問うた彼もだ。その言葉に頷く。とにかく高校でも彼は嫌われていた。
高校では最早彼は校内でも有名な嫌われ者だった。しかしそれでその悪質な人格が矯正される訳でもなく大学でもそれは同じでだ。社会人になってもだ。
頭の悪い、それこそ人が全くわからない上司や先輩達には徹底的に忌み嫌われた。自分の仕事のミスを押し付けたり他人の手柄を横取りしたりだった。しかもだ。
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