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甘やかした結果

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4部分:第四章


第四章

「悪さばかりして」
「じゃあ御前はどんなタマがいいんだ?」
「どうした猫だったらいいのよ」
「えっ?」
「大人しくて何もしない置物みたいな猫か?」
「そんな猫がいいの?」
 両親は紅茶を飲みながら少し真面目な顔になって彼に問うてきた。
「そんな猫で面白いか?」
「何もしない猫が」
「それは」
 そう言われるとだ。新太もだ。
 少し考えた。そしてこう言ったのだった。
「何かね。そんな猫だとね」
「だろう?面白くないだろ」
「それだったらぬいぐるみと変わらないわよね」
「言われてみればそうかな」
 確かにタマは悪さばかりする。しかしだ。
 常に家族の傍にいてくれる。落ち込んでいる時もだ。
 風邪をひいていると枕元に来てくれる。その時のことも思い出してだ。
 考える顔になりだ。両親にこう言った。
「そういうのは」
「そうだろ?だからな」
「タマはそれでいいのよ」
 これが両親の言葉だった。
「悪さをする位でな」
「そういう猫でないとね」
「悪さをするのも」
 それはどうかとだ。新太はここで考えた。
 そしてそのうえでタマの顔を自分の方にやる。見れば。
 口はへの字になり目はつり上がっている。不機嫌さをこれ以上はないまでに出している。実はタマは持たれたりすることが嫌いなのだ。
 だからこうした顔になっている。しかしその顔を見てもだ。
 新太は嫌にならなかった。それでこう両親に言った。
「まあね。こんな悪い奴だからね」
「いいだろ?」
「可愛いでしょ」
「嫌いじゃないよ」
 このことは紛れもない事実だった。彼にしても。
「仕返しもしてくるけれど全然ね」
「そうだろ。じゃあこれからもな」
「このままいくわよ」
「まあいいか。こいつはこいつで」
 新太はあくまで甘やかすという両親にようやく妥協した。そうしてだ。
 タマをおろした。するとだ。
 すぐに足の甲を噛んできた。かぷりと。そんなタマだったが。
 それでも今は怒らなかった。そうして言うのだった。
「じゃあね」
「ああ、タマはタマだ」
「可愛がっていくからね」
「こいつはこいつなんだね」
 噛んだのは一噛みだけでだ。もうだった。
 タマは新太の足にその身体を摺りつけてきていた。何度も何度も。
 タマは親しい相手、自分が好きな相手にしかそうしない。このことは新太も知っている。それでだ。
 そのタマを見てだ。こう両親に答えた。
「じゃあね」
「ああ、わかったな」
「タマはたまでいいわね」
「いいよ。タマはタマだね」
 こう答えてだ。そのうえでだった。
 自分に何度も身体を摺り寄せてくるタマの背中を撫でた。そしてだ。
 腰を下ろしてその目を見る。するとだ。
 タマもその彼の顔を見てきてだ。こう応えてきた。
「ニャア」 
 鳴いた。すると牙も口の中も見える。しかしその顔は決して悪いものではなかった。
 そのタマを見てだ。新太は笑みになった。そうしてだった。
 自然と冷蔵庫に向かい煮干を出した。そしてその煮干を。
 皿の上に出してタマに出す。するとタマはその煮干を食べはじめた。
 その様子を見てだ。こう言うのだった。
「じゃあ僕もね」
「そうして甘やかせばいいんだよ」
「猫は甘やかすものよ」
「悪い奴だけれどね」
 だがそれでもだとだ。新太は両親にまた言った。そうしてだった。
 彼もまたタマを可愛がるのだった。そうしたのである。その結果タマはさらに悪くなった。だがそのタマをだ。彼はこのうえなく可愛く思うのだった。
 だが学校から帰るとだ。彼のベッドの上でどや顔で寝転がるタマを見てだ。彼は母の賀代子に言った。下の階で夕食の支度をしている彼女に。
「お母さん、またタマだけれど」
「タマがどうしたの?」
「人のベッドの上で寝てるんだけれど。我が者顔で」
「いいじゃない、別に」
「全く。人のベッドに」
 偉そうに寝ていることがだ。彼は不満だった。
 そしてタマのところに来て言った。こう。
「どいてくれるかな」
「ニャア」
 タマは顔をあげて新太に言ってきた。ただしだ。
 その言葉の意味、新太がわかった意味はだ。こうしたものだった。
「五月蝿いわ、か。酷いこと言うな」
「そのうちどくわよ。待ったら?」
 また下から母が言ってきた。
「ゲームでもしてね」
「仕方ないな。じゃあそうしようか」
 こう言ってだ。彼は今はゲームをした。タマはその彼の後ろでだ。話が者顔で彼のベッドの上に寝ていた。それが今のタマであった。


甘やかした結果   完


                         2012・4・27
 
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