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不器用なマジシャン

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2部分:第二章


第二章

 小津はだ。ここで亮太に話す。
「ここだよ」
「ここですか」
「そうだよ。部屋はもう用意してもらってるから」
「あっ、それは有り難いですね」
 亮太は部屋はもう用意されていると聞いてだ。笑顔で答えた。
「じゃあすぐにその部屋に入って」
「着替えてね」
「わかりました」
 亮太が応えるとだ。マネージャー、眼鏡の大人の女性がだ。こう彼に言ってきた。
「じゃあ亮ちゃん」
「はい、タキシードに着替えて」
「マジックは何をするのかしら」
 マネージャーが尋ねるのはこのことだった。
「今日は何をするのかしら」
「そうですね。腹話術とですね」
 彼はそれもできるのだ。多才なのである。
「それと手錠を抜けたり」
「それもするの」
「はい、させてもらいます」
 こうマネージャーに話す彼だった。
「それでどうでしょうか」
「道具はもうあるから」
 マネージャーはいささか事務的な感じで彼に話す。
「思う存分やってね」
「是非やらせてもらいます」
「では行きましょう」
 マネージャーはまた彼に話した。こうしてだった。
 彼等はグラウンドを横切ってそのうえで校舎に向かう。グラウンドは土のフラウンドで白くラインまで引かれている。そのグラウンドを通るのだった。
 そうして校舎の中に入る。校舎の中は普通の学校と同じだ。コンクリートの壁にビニールの床だ。そして蛍光灯が上にある。
 その標準的と言ってもいい校舎の中を進んでだ。用意されたその部屋に入る。そこは教室をそのまま使った場所であった。
 その中には亮太と小津が入った。マネージャーは学校の人とマジックのことで話す為に職員室に向かった。それで二人で入ったのだ。
 部屋に入るとすぐにだ。亮太は着替えに入った。小津はその着替えを手伝おうとした。しかし当の彼にこう言われてしまった。
「ああ、いいですいいです」
「自分で着替えるんだ」
「ええ。これ位気にしなくていいですよ」
 にこりと笑ってだ。小津に話すのである。
「本当に」
「じゃあ道具を用意しておくね」
「それもいいです」
 それも自分でするというのである。
「俺がしますから」
「何でも自分でするんだね」
「人に何かしてもらうのって悪いじゃないですか」
 亮太のその性格が出ている言葉だった。
「ですから」
「ううん、いいね」
「いいですか?」
「そういう性格だからこの仕事を受けてくれたんだね」
 小津はしみじみとした口調でその亮太に話した。
「こうしたさ。身体障害者の人へのお仕事って断ったりする人が多いんだ」
「どうしてですか、それは」
「偏見だよ」
 それによってだというのだ。
「偏見があるからね。そうした人達に対する」
「身体の何処かが悪いから差別されるんですか」
「人間ってのは嫌な一面もあってね」
 小津の顔が悲しいものになる。いかつい顔だがそこには確かな心がある。
「自分と違う人を差別したりもするんだよ」
「それは知ってるつもりですけれど」
 亮太はそのタキシードに着替えながら小津に話す。
「何で身体が問題あるんですか?」
「だから。身体が悪いと何かができなかったりするじゃない」
「人はそれぞれ何かができたりできなかったりしますよ」
「それが差別されるんだよ」
「わからないですね。俺には」
 亮太は首を捻る。そうしてだ。彼はこう言うのだった。
 
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