| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

2,遅れたスタート

 
前書き
第二話です。

戦闘パートは、あれ?
おかしいなぁ。、、、 

 
人間万事塞翁が馬。そんな言葉を習ったのは確か高校生の時だった。

塞翁さんの馬のあれやこれやを周りが幸だ不幸だと言い募っているが、それが不吉なぐらい裏目に出るというなかなかシリアスでどんでん返しの多い作品だ。

俺の場合はどうなのだろう。

βテストに受かったのは幸だ。
留学は不幸、少なくとも俺の中では。
それで事件に巻き込まれなかったのは一般的には幸だろう。
では、今の状況は幸か不幸か?

「「リンクスタート」」

視界が切り替わっていく感覚。聴覚が幻想の音を捉える。
映しだすのは遙か上空から見下ろす虚空に浮かぶ巨大な城だ。

俺は、世界で初めて本当に人が死ぬ仮想空間に旅立った経緯を反芻していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺のことを待っていた女性警官は自身を橘弥生と名乗った。
近くに待機していた警察車両(黒塗りの偉そうなヤツ)に乗っている間にもたった名詞には「警察庁・SAO事件対策課」と書いてあった。

思わず、「警察って儲かるんですか?」と尋ねてしまったときはギロリと睨まれたが、基本的には最初のイメージ通りの凛とした人らしい。

そうして連れられたのは警察の取り調べ室、ではなく一般的な病院の執務室だった。

白く塗られた外壁、赤い十字。
スタンダードな病院の姿よりも始まりの街の教会の方が医療のイメージがあるあたり、俺は骨の髄までアインクラッドに侵されていると言って良いだろう。

うん、と目の前の男は気軽な感じで第一声を発した。確か名前を菊岡と言ったか。
「まずは留学でお疲れのところを来てくれてホントにアリガトウ。あ、これ僕のお気に入りだから食べて食べて」

と、目の前に置かれたのは料理雑誌なら星が幾つつくかという高級ケーキだ。
思わず、断ろうとしたが目の前でバクバクと食べられて居所がない。仕方なく一口と口に含んだら、案の定、トロけるような上品な甘さが口の中に広がった。

「経費だからどんどん食べてね。いや、だけどSAO購入者の最後の一人が見つかって本当に良かった」
「俺が最後だったんですか?」
「うん、他の人達は即日ログインしたか、ニュースを見て逆に連絡してくれたよ。だから一万人っていてるけど、実際には9900人位なのかな?ログインしたのは」

残り100の方が気になるでしょ?という俺の心を読んだ菊岡さんに思わず頷く。完全にあちらのペースだが、情報のためには少しの待ちも必要だ。

「今まで回収した99人の内、使える状態でソフトを回収したのが70、残りは破損していて使い物にならなかったね。そのうちの60は既に僕達の方で解析に回していて、大半が壊れちゃったよ。」

茅場さんが厄介なもんを大量に仕込むから、解析するとソフトが破損するんだよね、あれ。と明るく戯けるが周囲の付き人たちの表情は固い。
皆が皆、糸口のない解決策に手をこまねいている状態なのだ。

「ナーヴギア自体をいじってログアウトは出来ないんですか?」

「うん、それも試したけど全部無理だった。外すのもバッテリー切れも外部破損も、おまけに回線遮断も無理で実際に死人まで出てると、手が出せないよねぇ、一般人には」

恐らく、今俺の思いつくことなんて全て試した後なんだろう。だからこそココで今、こんな世間話に興じるしか無い。
何よりも開発したのは、日本一の頭脳とも言える茅場明彦だ。彼が計画の首謀者というからには、外部からの救出手段は本当にないのだろう。

「だけど、生還の為なら手がないわけじゃない。だって既に茅場さんから明確な救出法は出てるじゃない」
「それは……どういう?」
「簡単だよ。外部からの救出は無理なら、内部からクリアするのを助ければいいんだ」

ここにきて、やっと疑問の一つが解消されてきている。どうして、俺が呼ばれたか?が嫌な方向で。

「そのアイデアで残りの10個の内、8個のソフトで警察やら自衛隊やらとにかく戦闘のスペシャリストを送ったんだ。結果はどうなったと思う?」

「まさか、全滅?」
「いや、二人だけ生きてるよ。残りは3日と待たずに死んだ」

ケロリ、ととんでもないことを口にされ、思わずまだ握っていたフォークがカタンと転がった。
オマエの采配で6人が死んだってことなのに、なぜこの男はこうも平然としていられるんだ?

「提案者ではなかったとはいえ、僕もさすがに落ち込んだよ。まさか精鋭中の精鋭がどこぞの軍隊ならともかくデータの群れに殺されるとは夢にも思わなかった。」

菊岡が食べる苺から赤い汁が溢れる。ゾクリ、と寒気がした。
「増援を送れっていう上からの指示に僕はさすがに反論した。戦場が海でも陸でも、空でもないのに自衛隊送ってどうするんですか?ってね」

「送るなら、プロ。それもたまたまβテストを受けたのにソフトを眠らせていただけだった大学生を、と?」

頷かれも否定もしない顔に予想が外れていなかったことに気付く。

こいつ、どんだけクレイジーなんだよ。

「作戦はキケンが高いが、成功させなければならない。存命の8500人の命が掛かっている」

恐らくこれが現実での事件なら警察は2日もあれば解決できたはずだ。
自衛隊の圧倒的な制圧力の前では如何なる事件も解決できるだろう。

だが、これは剣の世界での事件。右も左も分からぬ物を潜り込ませて死なれては其れこそ手詰まりだ。
必要なのは情報と技術。
それも、開発側ではなく、ユーザー側の生のもの。

「現在、βテストで最上位層まで上り詰め、日本にいるのは烏合裕介くん、キミ一人だけだ」

やっぱりこんな愚か者は者は俺一人しかいなかったか。と意識の遠くで誰かが思った。
あの世界で共に剣をとった数人の顔が思い浮かんでは消えていく。
彼らは今、限界の中で攻略に邁進しているのか。

余りにも軽薄な形で、菊岡は悪魔の提案を持ちかけてきた。

「プレイヤー、クロウ君。橘とチームを組んで、ソードアート・オンラインをクリアしてくれない?」

今なら、特別にサービスを色々つけちゃうよ、そう言って持ってくるファイルの内容を見なくても、俺は首肯することに気づいていた。

怖いか?そりゃ怖いと思う。だけど、俺はもう取り憑かれているんだ。あの世界に。

俺が一番苛ついている理由――それがこの騒動で自分がSAO側にいないことなんだから。
 
 

 
後書き
菊岡さん、俺の中ではこんなキャラ。
適当そうで無茶を言うw

弥生さんの設定はキャリア組だから、、、2■歳ですね。(これ以上は作者のみが危ない)
SAOの平均年齢を考えると、そこそこ年齢上のほうかもしれないなぁ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧