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花火の下で

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1部分:第一章


第一章

                          花火の下で
 冬だ。それでもだ。
 花火職人達は忙しい。それはこの工場でも同じでだ。
 職人達はせっせと花火を作っている。その中でだ。
 白い硬い髪の毛を角刈りにした六十程の男がだ。若い面々に言っていた。
「おい、そっちはできたか?」
「はい、できてきてます」
「順調です」
「頼むぞ。また仕事がきてるからな」
「わかりました。けれどですね」
「忙しいですね、最近」
 若い面々は困った顔でだ。その角刈りの男、新道昭道に言った。作業をしながら。
「ひっきりなしに注文が来て」
「それでこうですから」
「俺の若い頃は冬に仕事なんてなかったんだけれどな」
 新道はここでこう言った。
「花火っていえば夏ばかりだったよ」
「今はスキーがありますからね」
「それで、ですよね」
「そうだよ。スキー場でも花火だよ」
 当然夜に打ち上げる。それで夜のスキー場を飾るのだ。
 そのことについてだ。新道はこんなことも言った。
「あれだな。高校の頃に読んだ太宰治な」
「えっ、社長太宰読むんですか!?」
「週刊ベースボールが愛読書じゃなかったんですか」
「馬鹿野郎、俺だってスワローズの記事以外も読むんだよ」
 彼の贔屓のヤクルト以外にもだというのだ。
「ちゃんと文学も読んでるからな」
「太宰もですか」
「読んでたんですか」
「そうだよ。それでその太宰のな」
 新道は太宰の話をしていく。
「冬の花火ってのがあってな」
「冬の花火ですか」
「そのままですね」
「それで太宰が言ってたんだよ。冬の花火は風情がないっていうか場違いなものだってな」
 花火は夏、その観点からの言葉であるのは言うまでもない。
「けれど今は違うんだな」
「こうして冬もですからね」
「花火の受注がありますから」
「打ち上げるんだな。時代は変わったな」
 新道は今度はその首を捻って述べた。
「こんな時代になったんだな」
「あと野球場でもあげますしね」
「ドーム以外でも」
「仕事があるのはいいことだよ」
 これは社長として当然のことだった。それを言ってサらに言うのだった。
「とにかくな。じゃあその冬の花火作るからな」
「ええ、わかりました」
「頑張って作っていきましょう」
「これが終わったら正月休みだ」
 年末だ。だから余計に忙しかった。
「皆それぞれ羽根を伸ばしてこいよ」
「俺実家に帰りますんで」
「俺は彼女と一緒にちょっと旅行ってきます」
 その旅行の話をしただ。泉京にだ。新道は言った。
「おい泉」
「はい、何ですか?」
「御前確かスキー場に行くんだったな」
「そうです。ちょっと」
「で、何処だ?」
「長野の方ですけれど」
「長野か。そこはまさかと思うけれどな」
 新道は長野と聞いてだ。少し考えてからだ。こう京に言った。
「あれか。うちの会社が仕事してるところか」
「はい、そうです」
「あそこに行くのか」
 京の返事にだ。また考える顔になる彼だった。
 
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