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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 26 「砕け始める今」

 フォワード達と一緒に合流地点に向かっていると遠目に3人の女性の姿が見えてきた。ふたりは機動六課に所属しているスターズ並びにライトニングの隊長であるなのはとフェイトだ。もうひとりは聖王教会のシスターであるシャッハのようだ。彼女の本名はシャッハ・ヌエラであり、カリムの秘書的な存在であるため面識がある。

「あっ……良いタイミング」
「お待たせしました」
「お届けです」

 なのはとフェイトはスバル達からレイジングハートとバルディッシュを受け取る。どうやらはやてとシグナムは本部の人間と話しているらしく、そこにはシャッハが俺達の代わりにデバイスを届けてくれるらしい。
 状況を考えれば俺達は戦闘機人といった敵戦力を鎮圧しなければならないため非常に助かる。途中で敵と相対する可能性もありはするが、シャッハはシスターという肩書きがあるがAAAランクの騎士であり、シグナムとやり合える実力者だ。任せない方が現状では愚策だろう。

「こいつらを頼む。正直……状況はあまり良いとは言えない」
「はい、必ずお届けします」

 そう言ってシャッハははやて達の元へ移動を始めた。
 残された俺達がするべきことは、まず初めになのは達に先ほどの戦闘機人などの情報を伝えること。それから方針を決めて動くことになるだろう。

「ショウくん、状況が良くないって言ってたけどここに来るまで何かあった?」
「ああ、まずここに来る前にオーバーSランクと推定される敵が確認された。それにはヴィータとリインが向かったから今対応しているはずだ。加えて、さっき戦闘機人2人と交戦した。その2人以外にも戦闘機人が居る可能性は高い」

 先ほどの戦闘を見る限り、今のフォワード達ならば戦闘機人に全く歯が立たないということはないだろう。無論、これまでに確認されている戦闘機人の特徴は全員バラバラ……最悪の組み合わせで相対してしまうと一方的にやられる可能性はあるのだが。だがそれ以上に……

「それに……敵の目的は対象3名を生きた状態で捕らえることらしい」
「それ本当?」
「信憑性が高いとまでは言えないがな。たださっき戦った戦闘機人の性格的に一概に誤情報だとも言えない気がする」
「私やなのははその場にいなかったからあれだけど……ショウがそう言うならそれも踏まえて行動した方がよさそうだね」
「うん、ただそうなると敵が誰を捉えようとしているかが重要なポイントだね」

 そう……この場に居るメンバーで複数存在している戦闘機人並びにガジェットの沈静化をしなければならない。
 なのはにフェイトが合流したのだから戦力的には先ほどより格段に増してはいるが、状況的に戦力を分散させて行動させなければ対応は厳しい。まだ本部だけならば良かったのだが……。

「ショウ、心当たりでもあるの?」
「ん、あぁ……まあ憶測でしたないが何人かはな」
「今は私達以上に戦闘機人と戦闘したショウくんが1番情報を持ってるだろうし話してみて」

 状況を考えれば嘘というか隠し事をせずに全てを話す方が良いのだろう。だがそうなれば……高い確率でスバルの精神状態に影響が出るだろう。
 俺はゲンヤさんからスバルの体のことは聞いてはいるが、おそらくほとんどのメンバーはそれを知らないはず。あのときのゲンヤさんの口ぶりやスバルやギンガの普段の振る舞いを見ても、誰にでも自分の体のことを伝えてはないはずだ。
 とはいえ、完全に隠してしまって何かあってはかえって悪手だ。スバルに俺が体のことを知っていると感づかれる可能性はあるが仕方あるまい。言葉を選びつつ説明する他にないだろう。

「まず考えられるのは……スバルとギンガだ」
「え……私とギン姉ですか?」
「ショウくん、その理由は?」
「さっき戦った戦闘機人2人の言動からだ。俺の聞き間違いでなければ、最初スバルに敵が一撃を入れたときにもう片方が注意するように生きたまま捉えるんだと言っていた。目的までは定かじゃないがスバルが捕獲対象に入っていることは考えられる」
「確かに捕獲候補である可能性はあるね……ギンガの方もスバルとの繋がりを考えれば名前が出て当然だろうし」
「だ、だったら早くギン姉と合流しないと!」

 スバルの言うことは最もだ。通信状態が悪いこともあってギンガと連絡は取れていない。一足先になのは達と合流していてほしかったが、この場にいないことを考えると最悪敵と交戦していることも考えられる。
 ギンガはスバル達よりも実力はあるので簡単に倒されたりはしないだろう。だがそれでも、戦闘機人を複数人相手にすれば長くは持たないはずだ。早めに合流出来た方が良い……しかし

「スバル、考えを口にして不安にさせた俺が言うのもあれだが落ち着け。敵の捕獲対象の候補として考えられるのはお前やギンガだけじゃないんだ。正直俺が最も可能性が高いと思うのは……ヴィヴィオだ」

 その名前を口にした瞬間、フォワード達だけでなくなのはやフェイトの表情にも変化が現れる。フォワード達の前ということもあって、すぐになのはとフェイトの表情は戻りはしたが、それでも彼女達の顔に出た感情はあまり良いと言えるものではなかった。
 特になのはの方は……ヴィヴィオに何かあった場合、精神的にかなりダメージを負ってしまうかもしれない。前々から心配していたことではあるが、思ってた以上になのはの中のヴィヴィオの存在は大きくなってしまっているようだ。親子のように過ごしていれば当然の話ではあるのだが……。

「お兄ちゃん、敵がヴィヴィオを捕獲しようとする理由は何なのかな?」
「確かにキャロの言うとおり……ヴィヴィオは記憶が定かじゃない部分があるみたいだし、捕獲しても敵にメリットがあるようには思えない。兄さんは何でヴィヴィオが1番可能性が高いと思うの?」
「ヴィヴィオを保護した経緯を考えてみろ。スカリエッティ一味はこれまでレリックを狙っていたんだ。ヴィヴィオを保護した時もレリックが絡んでいる……それにスカリエッティなら俺達の知らない何かを知っていても不思議じゃない」
「うん、そうだね……違法な研究を行わなかったら、間違いなく歴史に名を残していた天才だろうから。……ショウ、他にはまだ誰かいる?」

 スカリエッティが生命にも手を伸ばす研究者ということを考えれば、フェイトやエリオも候補には考えられる。だが戦闘機人……ノーヴェやウェンディの言動を考えるとスバル達の方が可能性としては上になるだろう。だが考えすぎればかえって動けなくなってしまうこともある。

「浮かばないわけじゃないが可能性を考えればキリがなくなる。それに敵の言葉を信じるなら捕獲対象は3名……なら今挙げた3人が俺の中での最有力候補だ。なのは、フェイト……どうする?」
「とりあえず、まずはギンガとロングアーチと連絡を取ってみよう」
「そうだね、通信状態次第ではあるけど安否確認が出来ればこれからの行動も決めやすいから」

 そう言ってなのははギンガに、フェイトはロングアーチと通信を開始する。出来ることならば、通信状態が悪いにしても無事だという言葉だけでも聞こえてほしい。

「……不味いね、ギンガとは全く通信が繋がらない。すでに敵と交戦してるのかも」
「そんな……」
「六課の方もガジェットとアンノウンの襲撃を受けてるって。今は持ちこたえてるらしいけど、状況は良くないみたい。早く救援に行かないと」
「二手に分かれよう。スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除」
「ライトニングは六課に戻る」

 スバルが捕獲対象かもしれないということを考えると不安ではあるが、現状で最も安全なのは隊長陣の傍と言えるだろう。機動性を考えても六課の対応はライトニングが向かうのが適している以上、なのはとフェイトの方針に口を挟むポイントはない。
 問題は……俺がどちらと一緒に行くかだ。
 飛行速度などで考えれば俺はこの中でフェイトに次に速いだろう。だが施設内での戦闘を考えれば、なのはのような砲撃魔導師は攻撃手段が限られてくる。また地上本部のあちこちから爆発が起きていたことを考えると、ノーヴェやウェンディ以外にここを襲撃した戦闘機人が居る可能性は大だ。

「ショウくんは……」
「なのは達と一緒に行って」
「フェイトちゃん、でも……」
「確かにショウの機動力を考えれば六課に向かってもらうのも手ではあるよ。でもスバルやギンガが捕獲対象かもしれないことを考えると、少しでもそっちの戦力が多い方が良い。それに……施設内じゃなのはは思いっきり戦えないでしょ?」
「……そうだね。ショウくん、お願いできる?」
「ああ」

 とはいえ、戦力は極力均等に分けておいた方が良いだろう。俺には単独でも相応の実力を発揮する相棒が居るのだから。

「セイ、お前はフェイト達と一緒に六課に迎え。必要と判断したならこっちの魔力消費は気にせず魔法を使っていい」
「分かりました」
「ショウ、いいの?」
「状況が状況だ。少しでも戦力は均等にしておいた方が良い」

 そう口にすると、セイの戦闘力はフェイト達も知っているだけに納得したようだ。
 方針が決まったこともあり、俺達は素早く行動を開始する。だが行動を開始してすぐにある問題が生じる。スバルがどんどん速度を上げて先行してしまったのだ。
 俺やなのはは飛行しているし、ティアナは俺に抱えられる形で付いてきているのだが、施設内の通路は一直線というわけではない。そのため、ほぼ速度を下げずに進めるスバルの方が先に行ってしまうのだ。

「スバル、先行し過ぎ!」
『ごめん、でも大丈夫だから!』
「仕方ないね。こういう場所ではスバルの方が早い……でも大丈夫、こっちが急げばいい。ショウくん、スバルに追いつける?」
「今すぐ速度を上げればどうにかな」
「じゃあティアナは私に任せてスバルを追って。私達もすぐに追いつくから」
「分かった」

 可能な限り減速せずになのはにティアナを渡すと俺は一気に加速した。曲がり角が多いものの単独飛行ならばより自由に飛べるためコーナリングは滑らかになる。まあほぼトップスピードを維持したままでこのような芸当が出来るのはフェイトのおかげなのだが。
 ……捉えた。
 通路の終わりを告げる光が見えた直後、その先にスバルが立っているのが見えた。減速しつつ着地しようとした瞬間――

「返せ……ギン姉を返せぇぇぇぇえッ!」

 ――スバルと雄叫びと共に凄まじい魔力の奔流が襲い掛かってきた。吹き飛ばされることはなかったが、それでもスバルが普段の状態ではないと断定するには十分な出来事である。
 通路を抜けるのと同時に視界に飛び込んできたのはノーヴェの放つ弾幕に突貫するスバルの姿。掠めた個所から血が舞っているだけに非常に危険だと言える。しかし、激情に駆られたスバルは痛覚が麻痺をしているのかスピードを緩める気配はない。

「うおおぉぉぉッ!」
「く……!」
「ど……けえぇぇぇぇッ!」

 ノーヴェを障壁を打ち破った直後、スバルは追撃で蹴りを放つ。体勢を立て直したノーヴェもすぐさま蹴りで応戦。本来ならば蹴り技はスバルよりもノーヴェに軍配が上がると思われた。
 だが今のスバルはリミッターでも外れているのか、一瞬の均衡のあとノーヴェを蹴り飛ばした。敵の装備を破損させる威力を以て……。

「ノーヴェ、ウェンディ、あれは姉が抑える。お前たちはここから離脱しろ」
「了解っス」
「でもチンク姉が……」
「案ずるなノーヴェ、姉ならば触れずに戦える!」

 眼帯を付けた戦闘機人が複数のナイフを投擲すると、それらはスバルの周囲で急に爆発した。ナイフ自体は特別なものに見えなかっただけにおそらくあの戦闘機人の能力なのだろう。

〔マスターどうするの? このままじゃギンガちゃんがさらわれちゃうよ!〕
〔分かってる……だが〕

 今のスバルは正気を失っている。ただギンガを取り戻そうと……いや、ギンガを連れて逃げようとしているウェンディ達に向かって行こうとしないあたり、今スバルにあるのは目の前の敵を破壊するという意思だけだ。
 どうする……。
 ギンガを助けに行けば1対2で戦うことになりはするが、ノーヴェはさっきのスバルの一撃でダメージを受けている。リミッターが掛かったままの今の状態でも十分にギンガを救いだせるだろう。
 だがギンガを救いに行くということはスバルを放置することになる。先ほどからスバルは防御魔法を使う気配がない。しかも相手は……最悪殺すつもりで攻撃をしてくるだろう。また先ほどのスバルの攻撃を見る限り、人を粉砕してしまってもおかしくない威力があったように思える。
 これに加えて、マッハキャリバーにもダメージが見て取れる。マッハキャリバーが機能停止すれば、それはつまり完全に防御という選択肢が消えるということだ。そうなればスバルが命を落とす確率は爆発的に高まってしまう。それだけに正気を欠いた今のスバルを放置するのはかなり危険だ。

「……スバルを止める」

 ギンガを見捨てることになってしまうが、少なくともギンガは生きた状態で捕らえられているはずだ。ならばまだ今後取り返すチャンスはある。しかし、ここでスバルを放置して命を落としてしまうような事態になればどうすることもできないのだから。

「スバル、落ち着け!」
「放せ……放せ……邪魔をするなぁぁぁぁッ!」
「――ッ!?」

 こちらを振り返ったスバルと視線が交差する。俺の視界に映ったのはノーヴェやウェンディと同じ黄金に輝く瞳。そこにあるのは殺意に等しい破壊衝動のみ。
 それに突き動かされるようにスバルは俺にリボルバーナックルを装着した拳を突き出してくる。反射的に魔力を纏わせた左腕で軌道を逸らす。が……攻撃を逸らした直後、左腕の肘から先の骨が砕けるような感覚に襲われた。

〔マスター!?〕
「大丈夫だ……動けないわけじゃない」

 とはいえ、痛みからしてほぼ確実に左腕の肘から先は折れている。スバルと何度か格闘戦をしたことがあるが、今までにこんなことはなかった。
 つまり……魔導師としてのスバルの能力じゃなく《戦闘機人》としてのスバルの能力か。
 ノーヴェへのダメージや今の軽い接触だけで体の内部を破壊するあたり、おそらくスバルの能力は振動系の類だろう。触れなければ威力を発揮しないものではあるが、直撃すれば人間だけでなく戦闘機人ですら一撃で葬りかねない能力だ。マッハキャリバーにも影響が出るあたり、自分自身にも幾分か反動を受けていそうなので諸刃の剣でもあるのだろうが。

「敵を前にして背中を向けるとは迂闊だな!」

 大量のナイフがスバルに対して投擲される。ひとつひとつが爆発物であり、またスバルに防御の意思がないことを考えると迎撃しないわけにはいかない。だがこの行動は必然的にスバルの援護に繋がるため、自分に敵意を向けた戦闘機人にスバルは殺す勢いで襲い掛かる。

「ギン姉を返せぇぇッ!」
「ぐっ……」
「う……ああぁぁぁぁッ」

 敵の防御魔法を振動を交えた拳とゼロ距離射撃で強引に粉砕し吹き飛ばす。
 軽く触れただけでもバリアジャケットを抜けて骨を砕く威力があるだけに、直接触れられていない戦闘機人にも内部ダメージはあるらしく、立ち上がることができないようだ。
 しかし、スバルのマッハキャリバーにも限界が来ている。これ以上負荷を掛ければ機能停止……最悪大破して修復が不可能になりかねない。
 スバルを止めるにはスバルの意識を刈り取るしかない。意識を刈り取れればマッハキャリバーは今以上にダメージを受けることも防げる。だがそれは必然的に敵に隙を見せることに繋がる……立ち上がれないとはいえ攻撃手段はあるはずだ。

「行かせ……るか!」
「だから……邪魔するな!」

 敵が倒れたままだったならばスバルもギンガのあとを追っていたかもしれないのに、敵が大量のナイフを出現させてしまった。そのためスバルは敵を仕留めようと最後の一撃を放つ準備に入ってしまう。
 ――くそっ!
 このまま放置すればスバルが敵を殺すか、もしくはスバルが爆発に飲み込まれる。下手をすれば命を落としかねない。前者はスバルが冷静さを取り戻したときのことを考えると避けたい未来であり、後者もスバルの周囲にとって喜ばしくない未来だ。
 故に俺が取った行動はスバルを爆発から防ぎながらも彼女の意識を刈り取るというもの。
 防御魔法を周囲に展開しながらスバルの前に立ち、妨害しようとする俺を排除しようと攻撃を繰り出してきた彼女に俺はカウンターで一撃を放つ。
 それと並行して周囲には爆発が巻き起こり、その煙が晴れた時には俺の視界には幾分か爆発でダメージを受けてしまった自分のバリアジャケットと横たわったスバルの姿が映った。

黒衣の魔導剣士(ブラックフェンサー)……どういうつもりだ?」
「教え子を殺させるわけにも……教え子に人殺しをさせるわけにもいかなかっただけだ。動けないんだろうが悪く思うな。今度は俺が相手になってやる」
「くっ……」
「そうはさせないよ黒衣の魔導剣士!」

 床から新たな戦闘機人が現れる。反射的に応戦しようとしたが爆発で思った以上にダメージを受けてしまったのか一瞬で遅れてしまう。そのため戦闘機人に倒れていた戦闘機人を連れて行かれてしまう形になり、俺の一撃は無残に床を叩き割るだけだった。
 それからすぐ後方からなのは達の声が聞こえた。俺は自分の不甲斐なさと無力感に襲われながらも事態はまだ終息を迎えていないため踏みとどまり口を開く。

「悪い……ギンガを連れて行かれた」

 
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