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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第54話:人の噂は風に乗って瞬く間に広がる。

 
前書き
ウルフ VS ピクトル
勝負の行方は? 

 
(グランバニア城下・高等学校学生寮)
ウルフSIDE

男という生き物は度し難い生物で、食欲を満たすと直ぐに性欲を満たしたくなる物らしい。
そんな男である俺の隣ではピクトルさんが裸で寝息を立てている。
何故寝てるのって? それは彼女のベッドだからさ。
何故裸なのかって? それは俺も裸だからさ……悪いか!?

悪い! 誰が何と言おうと悪いだろう……
しかも何時もと同じ様に頑張っちゃったから、初めてだったピクトルさんは完全ダウン。
リュカ家の血筋外の女性相手に、初めから全力投球は拙いよねぇ……俺も初めて(リュカ家以外の女性がって意味)だったので、力加減が判らなかったよ。

起こすのも悪いし、俺は静かに帰り支度する。
服を着て置き手紙(彼女の寝顔と『また来週いつもの丘で』と書いた手紙)を置いて、静かにピクトルさんの部屋から出て行きます。
兎も角この事は誰にも知られない様にしないと……そう、リュカさんにだって秘密にするんだ!

玄関から出ると、そこは集合住宅の廊下だ。
地上4階建ての高等学校生専用のマンションにはワンフロアに8部屋あり、丁度お隣さんも外出らしく玄関が開く気配がする。

先程までかなり激しく運動してたから、お隣さんも分かってるのだろうと思う。
恥ずかしいけど迷惑をかけたのだろうし、出てきたら会釈ぐらいはした方が良いだろう。
ワザワザ声をかける必要はないだろう。赤の他人なのだからね。

そして出てきたお隣さんに無言で会釈しようとし俺は固まる。
隣の部屋から出てきたのは顔見知りだった……
彼女の名はリューナ。ラインハットから留学してきた天才少女だ。

そして彼女の父親は、俺が現在進行形で付き合ってる2人の女性の父親と同一人物。
「な……え……う……」
「やっぱりウルフさんの声だった(笑)」
俺の言葉にならない呻きを聞きながら、リューナ嬢は美しい笑顔で話しかける。

「随分激しくプレイしてたけど、大丈夫なの? 彼女、処女だったでしょ(笑)」
女の笑顔が怖いと感じるんはポピー姉さん以外では初めてだ。
よくよく考えれば、そのポピー姉さんのお膝元で暮らしてたのだから要注意人物なのだ。

「どうする、言い訳したいのなら聞くけど……この近くにケーキの美味しい店があるのよ♥」
「あ、あーそう。ケ、ケーキ美味しいんだ! 是非行きたいなぁ。美女にケーキをご馳走したいなぁ!」
コイツ(リューナ)の住まいを確認しておかなかった俺のミスだ。迂闊だったよ……




(グランバニア城下・喫茶店アマン・デ・リュムール)

大通りに面した場所にあるアマン・デ・リュムールは、オシャレなオープンカフェになっており、傾きかけてきた日差しに照らされ独特の雰囲気を醸し出している。
そんなカフェで美女と一緒にお茶をするなんて、俺は何て幸せ者なんだろうか。
願わくはニフラムで消え去りたいよ(泣)

「ほらぁ~ウルフさん。そんな絶望的な顔をしないでケーキを味わって♥」
無邪気な笑顔で自身の食べてるマロンケーキを一サジ取り、俺の口へ“あ~ん♥”と近づけるリューナ様……幸せすぎて涙しか出てこない。

「ピクトルさんがよく話してくれたのよ。超格好いいエリートと毎週土曜日に絵を描いてるって。もう恋する乙女のオーラ出しまくりで、その彼の事を語ってくれたわ」
“あ~ん”されたケーキを俺が食べないと解ったのか、そのまま自分の口に入れるとお隣さん(ピクトルさん)との事を話し出す。

「彼女の話を聞く限り、絶対相手はウルフさんだと思ってたのよ。でもウルフさんって本当はヘタレでしょ。だからウルフさん的には恋愛感情がないんだと思って話を聞いてたんだけど……まさかここに来ての急展開だとは思わないでしょ。思わず隣から聞こえてくるプレイの音に聞き耳を立てちゃったわ、ご馳走様でしたぁ(笑)」
「ど、どう致しまして……」

「でもね、もしかしたら別の男に乗り換えたかもしれないから、ウルフさんの声に似てる男の顔を拝んでやろうと思って、出てくるタイミングを合わせて私も部屋から出たの。まぁ、そしたらこの状態ですけどね(笑)」
にこやかに、そして楽しそうに現状を話すリューナお嬢様……そして再度俺に“あ~ん”をしてくる。

「あの……胸がいっぱいで……食べたくありません……」
丁寧な口調で拒絶の意を伝えると、色っぽく微笑んで自分の口へケーキを運ぶリューナ姫様。
メルキドに向けてルーラを唱えたら逃げられるかなぁ……

「もう。私は親切心でウルフさんを誘ったのよ。私からの“あ~ん♥”を拒否って良いの」
「そ、そっすね……脅迫者に逆らっちゃダメっすよね……」
絶望感から俺は頭を抱えて俯いた。

「失礼ね。私はウルフさんとピクトルさんの事を誰にも言うつもりは無いわ。まぁお父さんから“今日の出来事を端折らず話せ”と命令されたら全部言うけど、聞かれない限り言わないわよ、誰にも」
「そうですか……その間、俺は何をすれば良いんですか? 靴でも舐めましょうか……」

「だから脅さないってばぁ。ここに誘ったのも意味があってなのよ」
「意味っすか? 主従関係をハッキリさせるって事ですか?」
カフェのオシャレなテーブルに顔を打っ伏したまま、リューナご主人様の言葉に返事をする。

「違うわよ。周りを見てみなさいよ……このカフェは結構有名で、お城に勤めてる方々も利用する店なの。しかも大通りに面してるから、城勤めの兵士さんとかが沢山通るし、ウルフさんは城内で有名人だから目立つの。私も美女だから皆さんから視線を集めるし、お城に帰れば私達の事で噂になってるわよ」

……………あぁ!
木を隠すなら森の中へとは言うが、スキャンダルを隠す為に別のスキャンダルを捏ち上げるって事か!
確かにピクトルさんとの仲を疑われる事より、リューナとの仲を疑われた方がマリーとリューノからの疑惑を躱す事が出来る。

“美女とカフェでデートしてたって噂だけど誰と浮気してたのよ!?”と言われても、“馬鹿、あれはリューナだよ。城下で偶然会ったから、ケーキを奢ったんだよ。親元を離れて大変そうだったし、家族だからね!”とか言っちゃって、如何とでも言い訳が出来る。

最悪“俺はリュカさんの娘が全員好きなんだ! 目標は全部の娘を孕ませる事さ!”とジョークを言える。
仮に本気に取られても、リューナが生涯の伴侶以外とセッ○スするわけないし、そう皆に認識されてるから大事(おおごと)には発展しない。

「解ったでしょ♥ じゃぁはい、あ~ん」
「あ~ん♥ うん、美味しいなぁ!」
俺の視界が明るく開け、やっとケーキを堪能する事が出来た。美味しぃー☆

「流石リュカ家で一番の才女だよリューナは。如何する、お代わり食べるか? 何だったら毎週奢っても良いぞ!」
「ううん、要らない。これ以上食べたら太っちゃうし、毎週ウルフさんとケーキデートなんてゴメンだわ」
ですよね~。

うん。何と言われようと構わない。
リューナの優しさに身を委ね、俺は周囲の連中に見せ付ける様イチャイチャ振る舞った。
“あ~ん”は勿論“頬に付いたクリームを指で掬って食べる”等のアピールで、城に噂を広めてもらうのだ!

本当はキスの一つもしてやろうと思ったんだけど、先方にガッツリ拒絶されました。
柔らかい笑顔で『図に乗んなよ』って言われました。
ポピー姉さんの影が見えてチビリそうになりました!




(グランバニア城・カフェ)

リューナとの楽しいケーキデートを終え、俺は城に戻ってきた。
どの程度噂が広まってるのかを確かめる為に、部屋には帰らず城内カフェに直行する。
すると案の定、俺の姿を見るなりヒソヒソと会話をする若い連中が数人。

狙ったとは言え噂が広がるのが早い。
お陰でこちらも助かる事だらけだけど、仕事をしろと言いたくなる。
あとはレクルト辺りが噂の真相を聞きにやって来るのを待つだけだ。

するとカフェの入り口付近が騒がしくなり、何者かが俺の眼前へ早足で近付いてきた。
俺は平静を装う為に、その何者かには視線を向けず目の前に置かれたコーヒーだけを注視していたのだが、その何者かは断りも無く俺の前の席に座ると、澄んだ声で紅茶を注文しこちらの反応を待った。

ヤバいです。この声はヤバいですよ。
俺は心の中で『平常心』と言い聞かせ、視線をゆっくり目の前の人物に向ける。
そう……目の前の人物とは、紫のターバンを頭に巻き吸い込まれそうな澄んだ瞳で微笑みを浮かべる我らのパパ……グランバニア王国のリュケイロム国王陛下でしたー!

以前、リューノに手を出してしまったとき、俺は恥ずかしさから突飛な行動に出てしまい、速攻で二人の関係がバレてしまった事がある。
同じ轍は踏めない……何時もの通りに振る舞うんだ!

「どうしたんッスか?」
うん。声も裏返ってないし、普段からこんな感じだし、現在ミスは見当たらない。
流石に今回だけはリュカさんを騙し通せるだろう。

「言った通り、彼女……ピクトルさんは部屋の扉も股の間も開いただろ(笑)」
コイツは巷の噂話を仕入れてないのか?
ちょっと話を聞けば、俺が誰とデートしてたか判るだろう。相手がピクトルさんでは無い事は直ぐに判るだろうに……

「何を言ってるんですかリュカさんは? ピクトルさんは俺が言った通り、男を簡単に部屋へ入れる様な女性ではなかったですよ!」
「ほう……では今日、彼女の部屋には近付いてもないのだな?」

「ええ。無礼な事を言って彼女を傷付けてしまいましたからね。土下座して謝罪しましたよ……その帰りにとある美女とバッタリ出会って、落ち込んだ俺を慰めてくれたんです」
「なるほど……城下のカフェでリューナ相手に“あ~ん♥”とかしてたのは、そう言う理由か」

「な、なんだ……カフェの相手がリューナだって知ってたんですか。なら何でピクトルさんとの事が開口一番に出てくるんですか!?」
「お前が僕の事を舐めてるからだよ」

柔らかい口調の中に幾分かの苛立ちに似た感情が見受けられる。
俺はリューナとの事だけを全面に話そうとしたが、丁度のタイミングで店員がリュカさんの紅茶を持ってきた為、一旦沈黙する事となった。

届いた紅茶を一口飲むリュカさんにつられ、俺も自分のコーヒーに口を付ける。
既に温くなったコーヒーは不味く、リュカさんからの言葉と相俟って俺の心を落ち込ませる。
せめて美味いコーヒーで気分を変えたいので、お代わりを要求する為にカップ内のコーヒーを飲み干した。

そんなタイミングで口を開いたのはリュカさん……
破壊力抜群の一言を俺に浴びせかける。

「僕が……娘の下宿先を知らないとでも思ったのか?」

ウルフSIDE END



 
 

 
後書き
ウルポンのピンチは続く 
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