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最高の贈りもの

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1部分:第一章


第一章

                          最高の贈りもの
 寒い。そこはひたすら寒かった。
 今ペドロ=クリスとテレサ=シエラモレナはシベリアにいる。何故そこにいるかというと。
「ここにいるのね?」
「ああ、いるらしいんだ」
 ラテン系そのものの顔立ちに黒い巻き毛と瞳の若い男がこれまたラテン系そのものの濃い顔立ちに波うつ黒髪の小柄な女に言う。二人共実に寒そうだ。
「マンモスがさ」
「それとスペインがあまりにも暑いから」
「避暑も兼ねてな」
 それでだ。シベリアに来たと言うのだ。コートと帽子で完全装備の二人の周りには雪しかない。そして遠くに雪で白くなったタイガが見える。
 そうした殺風景な中でだ。ペドロはテレサに言うのだった。
「来たんだけれどな」
「確かにスペインは暑いわよ」
 テレサもそれは認める。今年のスペインはとりわけ暑かった。
 だがそれでもだとだ。彼女はペドロに言うのだ。
「けれどね。幾ら何でも」
「シベリアはか?」
「寒過ぎるでしょ。しかもね」
「何もないな」
「遊ぶ場所とかないの?」
 その白い大平原の中でペドロに問う。
「スキーしたりとか」
「雪合戦はできるか?」
「子供じゃないんだから」
「あとは」
「何があるのよ、ここに」
「ウォッカか」
 言わずと知れたロシアの酒だ。アルコール度がかなり強い。
「それがあるけれどな」
「ワインは?」
「何でもアルコールが弱くて飲めたものじゃないらしいな」
 身体を温められないのだ。何故ロシアはウォッカなのか、それはあまりにも寒く身体を温めなくてはならないからだ。だからなのだ。
「特にここじゃな」
「シベリアではなのね」
「ああ、ウォッカを飲んでサウナを楽しむ」
「凄く心臓に悪そうね」
「それがロシア人の遊び方なんだってよ」
「お酒とサウナだけって」
 それを聞いてだ。テレサは。
 呆れ果てた声でだ。ペドロに言うのであった。
「全く。遊ぶところはないししかも周りはこれ」
「マンモス探そうな」
「考えてみたら。スペインが幾つも入る様な場所で探すのよね」
「そこに見えてる森の中とかでな」
「確か狼とか虎もいるのよね」
「虎は東の方だからここにはいないみたいだな」
 シベリアにはだ。いないというのだ。ロシアで虎がいると言われているのはアムール河周辺だ。それは大体豹も同じである。
「狼はいるな」
「狼に襲われたら洒落にならないじゃない」
「まあ絶滅しそうだっていうけれどな」
 シベリアオオカミである。実際に絶滅危惧種に指定されている。
「滅多に会えないだろ」
「マンモスとどっちが会う可能性高いの?」
「狼じゃないのか?マンモスはひょっとしたらだしな」
「全く。シベリアって本当に何もないのね」
「だから雪と森とサウナとウォッカと」
「それが何もないっていうのよ」
 スペイン人のテレサから見て。シベリアはそうした場所だった。尚このことはロシア人から見てもあまり違いはなかったりする。
「道理で流刑地になった筈だわ」
「ああ、ここに流刑になったらな」
「死んだも同然だったわね、確か」
「寒い中で重労働させられるからな」
 ロマノフ朝の頃は送ってそれで終わりだった。ただし退屈と寒さはある。しかしソ連時代は退屈ではなく寒さがあった。それでだったのだ。
 
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