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トスカ

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11部分:第二幕その四


第二幕その四

 後には従者達だけでなくアラゴン公やオーストリア軍の将校達、そして各国の大使達もいる。
貴族達     「王妃様に敬礼!」
貴族達     「ナポリに栄光あれ!」   
 広間にいる者達は皆王妃に礼をする。玉座の前に着くと向き直る。
王妃       「穏やかに。そしてくつろいで」
貴族達     「はい」
貴族達     「それでは」
 一同に宴を楽しむよう言った。貴族達はそれに従い散る。
民衆       「王妃様万歳!」
民衆       「ハプスブルクに栄光あれ!」
 広間からも階下からも王妃を讃える声がする。シャンパンが次々と栓を放たれ乾杯の声が木霊する。
 王妃はやがて賑やかな宴の中に入った。そしてトスカとパイジェッロの前に来た。
王妃       「(優しい声でトスカに声をかける)トスカ。調子はどうですか?」
トスカ      「あっ、これは王妃様」
 王妃の姿を見て恭しく一礼する。
トスカ      「これはどうも」
王妃       「堅苦しいことはよいのです。穏やかに」
トスカ      「有り難うございます」
 再び一礼する。そうして二人は向き直る。
王妃       「それで喉の調子はどうですか?」
トスカ      「今宵は王妃様に満足して頂けると思います」
 にこやかに笑って述べる。王妃はその顔を見て安心したように述べる。
王妃       「それは何よりです。楽しみにしていますよ」
トスカ      「はい」
王妃       「ただ。一つ気になることが」
トスカ      「気になることが?」
王妃       「そう。パイジェッロのことで。そなたに謝らなければならないことが一つあるように思えるのだけれど」
 楽しそうに笑いながらパイジェッロを見る。それを見たパイジェッロはギクリとした顔になる。トスカは何が何なのかわからないといった顔を見せている。
王妃       「どうかしら、それは」
スカルピア   「陛下」
 そこにスカルピアがやって来てパイジェッロを庇うようにして言う。
スカルピア   「それはあのコルシカの男に呼ばれてパリに行ったことですな」
王妃       「しかも作曲までしたとか。それはどうかしら」
スカルピア   「罪ありと申せど悔悟の情ありと見受けられますが」
王妃       「(スカルピアに顔を向け)これは男爵」
スカルピア   「はい」
 粗野な動作であるが恭しく王妃に一礼する。
スカルピア   「礼の前に一言申し訳ありません」
王妃       「よいのです。ここは無礼講ですから」
スカルピア   「有り難き御言葉」
王妃       「それよりも男爵よ」
スカルピア   「何でしょうか」
王妃       「他人のことよりもそなたのことです。アンジェロッティを逃がしたことは」
スカルピア   「それが何か」
 思わず顔が強張ってしまう。
王妃       「それがそなたの不幸にならなければいいのですが。どうやらそなたは敵が多いようですし」
スカルピア   「(きっとした顔で)申し上げますが陛下と同じ敵だと存じます」
王妃       「私の敵でもあると」
スカルピア   「私はジャコバン派にかぶれた者達を取り締まっているだけです」
王妃       「それは私の敵でもあると」
スカルピア   「左様です。ですから」
王妃       「そなたの言いたいことはわかりました。しかし」
スカルピア   「しかし?」
 王妃の次の言葉を待つ。心なしか身構えている。
王妃       「彼の者の妹は美しく裕福でしたね。誰でも知っていることですが」
 スカルピアを当てつけて言う。
王妃       「それはどう思いますか?」
スカルピア   「陛下は私に何か後ろめたいことがあると仰るのでしょうか」
王妃       「さて、それは」
 笑って誤魔化す。
王妃       「どうでしょうか」
侍従       「陛下」
 ここに侍従がやって来る。
侍従       「そろそろです」
王妃       「時間ですね?」
侍従       「そうです。ですから」
王妃       「わかりました。それではトスカ、パイジェッロ」
トスカ      「はい」
 王妃に対してパイジェッロと共に一礼する。
 
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