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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
  第三節 群青 第五話 (通算第75話)

 ブレックスは傍らにいたヘンケンに親書を渡した。それは、訝しがっていたヘンケンの表情を、苦虫を噛んだような顔へ変えるのに充分すぎる内容だった。つられて、シャアも覗き込む。
「これは……」
「なんてことだ……」
 二人とも息を飲んだ。絶句したと言っていい。衝撃的な内容というよりも、信じたくないという方が強い。しかし、歴史的に見ても軍人の全てが立派であるということはない。権力と暴力を自分自身の力と勘違いした唯我独尊的な軍人の方が多いのであり、地球連邦軍とて例外ではない。表沙汰にならないのは軍と警察の隠蔽体質、そして政府の報道管制の賜物である。
 ブレックスは押し黙ったまま、エマを軽く睨んでいた。睨まれた方のエマは、理由も解らず、困惑していた。その困惑を看てとったブレックスはエマを見据えて訊ねた。
「中尉は親書の中を知らないのだね?」
「はい……」
 ブレックスの確信に満ちた問いに対して、エマの声は弱い。和平の使者として来たからには、親書に非難されるような内容が書かれているとは予想する筈もないが、ブレックスに言わせれば、バスクという人間を知らなすぎるとしか思えない。果たしてその通りであるとして、エマが批難されるべきかどうか。エマからすれば、ブレックスらの批難は寝耳に水――信じられない思いである。
 そんなエマの態度にヘンケンがシャアと顔を見合せると、ブレックスが頷いた。エマに親書を見せようと言うのである。ヘンケンがエマに手渡した。
「見たまえ、中尉。これがバスクという人間だよ」
 そこに書かれていたのは、市民を守るための軍隊が民間人を人質にとり、相手を脅迫している事実である。
「《ガンダムマークII》を返さなければ、メズーン・メックスの両親および関係者の命はない――」
 手渡された親書をみれば、ブレックスたちの反応は尤もだと言える。だが……
「そんなっ……これは、何かの間違いです!」
 エマは必死に言い放った。目の前で自分が信じていたものが崩れ去っても、それに拠った自分のプライドが拒否した。だが、いくら否定しても、それは虚しく空を切るだけの言葉に過ぎなかった。何故ならば、親書の字はバスクの直筆に間違いないからだ。
「否定したい気持ちは判る。だが、ティターンズはまともな軍隊ではない」
 エマの顔が驚愕に満ちる。ティターンズはエリートであると信じていたエマにとって、それは自分を否定されたに等しい。だが、親書を見せられた今、何を言っても苦しい言い訳にしか聞こえないと解る。だが、言わずにはいられなかった。
「我々はジオンの残党から宇宙を守るために……」
「それが詭弁でなくて、なんだというんだね。所詮、ティターンズは私兵だよ」
 抗弁を柔らかく手で遮った、穏やかなブレックスの声がエマの心に突き刺さる。辛うじて絞り出た声は震えていた。
「……バスク、大佐の私兵だと?」
「いいや。バスクのではない。もっと多くの地球の重力に魂を引かれた人々、全ての、だよ」
 静かにブレックスか言う。その静かさが確固たる思いを屹立させていた。エマもバスクやジャミトフの私兵だと言われれば否定のしようもあったかもしれない。しかし、地球の重力に魂を引かれた人々と言われてしまっては、否定できるだけの言葉も根拠もありはしなかった。
「……重力に魂を引かれた人々……」
 単にアースノイド・スペースノイドという言い方でないことが、エマに聞く耳を与えたのかもしれない。ブレックスの言葉を呟いて、反芻してみる。
 地球にいた時と違い、宇宙に上がってみると、理想と現実の差というものが見えてきていた。それでも、なお、ティターンズの理想を信じ、地球を守ろうという気概と誇りを持って任務を遂行してきたエマにとって、ティターンズが私兵だと言われたことは、予想外のことだった。ブレックスの口振りからすれば、エゥーゴは違うと言いたいのが理解できる。そして、エマにはティターンズの傲慢さも理解できない訳ではない。
「で、どうしますか? 人命が掛かっていますし……」
 エマを気にしながらも、ヘンケンが結論を急かす。バスクとて部下が《アーガマ》にいる以上、発砲はしないと思いたいが、あまり時間を掛ける訳にはいかない。しびれを切らしたバスクが作戦を強行しないとも限らない。
「艦長、私にバスクの言いなりになれというのか?」
 ブレックスとてそうは言ったものの、割りきれぬ感情があった。人質を見殺しにするという選択肢は選びたくない、しかし、入手した《ガンダム》を返すというのも、できる相談ではない。プライドの問題ではなく、スポンサーの意向と戦力や今後の戦略にも絡んでくる。
「せめて、クワトロ大尉の部隊が使えたらな……」
 それはぼやきに近い。
 現時点で、ジオン共和国がエゥーゴの反ティターンズ派に与しているのを知られる訳にはいかない。シャアたちがエゥーゴの制服を着、MSさえアナハイムの擬装をさせた意味がなくなる。
 だが、人質救出作戦を実施しながら、追手から逃げ切るには今の戦力では心許ないのも事実である。最善の方法はないものか……その場にいる全員が、途方に呉れた。エマも含めてである。
 エマはなんとしても、バスクに――いや、ティターンズにこの様な卑劣な作戦を実施させる訳にはいかなかった。少なくとも、人質を殺させてはならない。そのためには、裏切り者の汚名を着たとしても。 
 

 
後書き
あと五話(一節)で第一部が完結です!
何年かかってるんだよ……というお話ですが、ライフワークの予定ですので、気長にお待ちください(笑) 
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