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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第三部
名誉と誇り
  にじゅうはち

 
前書き
ちょろっと三人称視点入ります 

 
 ガルド達先遣隊は、10分ほどの小休憩を取った後、再度森の奥へと歩みを進み始めていた。
 奥に進むにつれて多少の戦闘は見られたが、先遣部隊に目立った損害はなく、進行速度は出立時とそう変わらない。

 そこから更に歩き続けて1時間が経過したころ、まずは先頭が足を止め、それに倣って全体の動きが止まる。

「ここいらが冒険者の奴等が見付けた、痕跡の終点でさぁ」

 木に掘られている目印を指でなぞりながら、『餓狼団』の斥候と思われる小男がガルドへと伝える。

「そうかいそうかい」

 そう言って辺りを見渡すが、視界に入ってくるのは樹木ばかりである。
 ガルドは腰に手を当てがい、期待はずれだとばかりに溜息をついた。

「やっぱよぉ、こっちはハズレで間違いなさそうだなぁ」
「ですねぇ」
「おう、ピピン。おめぇもそう思うかい?」

 ピピンと呼ばれた斥候の男は、「へへ」と、並びの悪い歯を見せて鼻の頭を掻く。

「野生の獣がやったにしちゃ、あまりのも素直すぎるってもんでさぁ。混沌獣(ペルトゥール)を獣扱いすんのも、アレかもしれませんがね。見付けて下さいと言わんばかりに、この辺一体の魔物と獣が間引かれちまってます」

 ガルドは剃り上がっている頭をペチペチと叩き、「だよなぁ~」と、非常に落胆した様子で言葉を漏らす。

「途中でなんとなぁく気付いちゃあいたが……。こりゃあ、おやっさんが当たりか」
「アニキ、随分と残念そうじゃないですか」
「あん? そりゃあそうだろう。久方ぶりに骨のあるヤツと殺り合えると思って期待してたんだぜぇ? なぁフォウ」

 ガルドが声を掛けると、同じく先頭集団にいた人物の1人が、口元だけ晒されている冑を脱ぎながら応えた。

「うん? まあ、損害がなくてよかったじゃないか」

 頭を振って無造作に髪を整えるその姿と、ハスキーではあるが女性特有の透き通った声。
 女性としてはかなり長身の部類に入るだろうが、一際目立つのは背負った大きな両刃の剣、ツヴァイハンダーである。
 そんじょそこらの男ですら持て余すような刀剣を、彼女はその背に差しているのだ。

「だか、確かに残念と言えば残念だな」
「はぁ……うちの幹部連中はどうしてこうも戦うことが好きなんすかねぇ。びょーきでさぁ」

 ニヤリと口角を持ち上げるフォウに、ピピンは参ったとばかりに手を上げる。
 ガルドはそんなピピンの頭をがしがしと乱暴に撫で、豪快に笑う。

「よぉし! ヴァルクムントのおやっさんへ伝令を出せ!」







 私とエリステインは、ブリッジから先遣隊の様子を立体映像で観察していた。

「なんか、早速バレちゃいましたね」
「構わない。問題は、こちらに向かってきている混戦部隊だ」

 私の船から進路は外れてはいるので、このまま進んできたとしてもかち合う心配はない。
 だからといって、手放しで安心できるほど楽観的でもなければ、考えなしでもない。むしろ、外に陣をはった討伐隊のあの数を見れば、こうなることは容易に予想できた。
 あれだけの人数がいて、馬鹿正直に私が残したデコイだけを追うようなことは有り得ない。四方八方、とはいかなくとも、ある程度方角を定めての人海戦術がもっとも効率が良い。

 空打ったとしても、あとは徐々に包囲網を狭めて行けば良いだけだ。時間は掛かるが、確実な方法である。

 であるならば、そうなる前に手を打とう。

「出るぞ。準備しておけ」
「え……? 出るって」

 困惑するエリステインに向かって、私はヘルメットの中で不敵に笑う。

「ヴァルクムントを釣る」







 先遣隊から遅れて森へ入り、数時間が経過しようとしていた。
 第2騎士隊を含む混戦部隊は、先遣隊よりも多くの魔物や亜人族(デミヒューマン)との戦闘を繰り広げていた。
 軽傷者を出しつつも、1人として脱落者はおらず、まだまだ森の探索を行う余力はある。

 数度目の休憩を挟み、ヴァルクムントは手に持った干し肉を引き千切ることなく口へ放り込み、その体格に見合った強靭な顎の力でなんなく咀嚼する。

「こんなんじゃ、腹に溜まりゃしねぇ」
「我慢してください。この大所帯じゃ、料理を作るだけで日を跨いじゃいますよ」

 そう言ったヴァルクムントに、同騎士隊の部下が苦笑いで応える。

「わかっちゃいるがよ……」

 どうにもならないことと理解しており、別に求めているわけでもないだろう。ヴァルクムントは下顎を撫でると、部下の男に手を差し出す。
 部下の男は更に1枚干し肉を取り出して、ヴァルクムントの巨大な手のひらの上に置く。それが一口で放り込まれる様を見て、また苦笑いを溢す。
 常人であれば、固い干し肉を何度も噛んでいることで、ある程度の満腹感を覚える。それがただの錯覚であると分かってはいるが、1枚食べるのにも通常食のようにとはいかないものだ。
 それをヴァルクムントは、事も無げに丸々1枚口へと放り込み、まるで屋台の串焼きと同じように食してしまうのだ。
 いったい普段はどうしているのかと、不思議に思ってします。

 部下の男がまだ1枚目の干し肉を食べている側ら、ヴァルクムントは既に干し肉を胃袋へと納め終わり、動物の内臓で作られた水筒で喉を潤しているところであった。

「うっしょお」

 ヴァルクムントはおもむろに腰を上げると、部下の男を見下ろす。
 同じ隊で長年彼に付き従っているとはいえ、まるで小山のような男から見下ろされる圧迫感と、歴戦の戦士が醸し出す空気に一瞬呑まれてしまう。

「おう。こっから先はお前らで行ってこい」
「……は? 隊長はどうなさるおつもりで?」

 あまりにも無責任過ぎる物言いに、部下の男は先程まで感じていた畏怖を忘れ、呆けたように問いかけた。

「俺ぁちょっくらやることができた。ここから1時間ほど行ったところで何もなけりゃあ、今日のところはそれでいい。そんぐらいならおめぇにもできるだろ」

 肩で偃月刀を弾ませ、悪びれることもなく森の奥を指差して宣うヴァルクムント。
 部下の男は、何を言ってもこの男が譲らないのを長い年月から熟知していた。一度大きく疲れたような溜息を吐くと、諦めた顔で大男を見上げる。

「……わかりました。では、戻ったら隊長がしっかり報告して下さいよ。いやですからね、お小言いわれるのは」
「はっ! こちとら命掛けてんだ。小言の1つや2つ、びびってんじゃねぞ」

 そう言って、ヴァルクムントは鼻で笑い、なんのことはないと振り払うように腕を振るう。

「そうですか。では、隊長が勝手に単独行動を取ったと、私からヘイムダル様へお伝えしておきます」
「……おい。それとこれとは話がちげーんじゃねぇか?」
「違わないです。何と言っても、私たちも命が掛かってますから。今後のためにも、ですね」

 爽やかな笑顔の中に、若干の怒気を孕ませた笑みである。
 ヴァルクムントは一度舌打ちをすると、部下の男へ背を向けて1人、隊列から外れて森の奥へと進んでいく。「ったく、なんだってんだ」とぶつくさと文句を言いながらも、考えを改めるようなことはないようだ。

「ちゃんと帰ってきて下さいよ!」

 その背に掛けられた部下の言葉に、振り返ることなくヴァルクムントは手を振ることで応えた。







「ここに、こんな拓けたところがあるたぁなぁ」

 周りは不自然なほどに地面が均されており、半径100メートルほどの円形が出来上がっていた。

 偃月刀を肩に担いだ大男、ヴァルクムントは周囲を見渡して言ちると、視線を一点へと固定する。

「なぁ、そうは思わないかい。嬢ちゃん」

 上半身は見たこともないデザインの、何かの生物の皮を鞣したタートルネックのノースリーブの肌着と、これまた見たことのない形状の胸当てと肩当てを身に付け、下半身はほとんど太ももが見えているホットパンツに、膝まで隠せる足鎧を装備している女性。
 肌に直接着ているのだろう、衣服の体をなしているとは思えない網目上の何かが、露出している肌を申し訳程度に覆っている。
 場所が場所であれば、その女性の美しく人好きのする容姿も相まって、男共の視線を釘付けにしただろうことは、想像に難くない。
 だが当然、ヴァルクムントにそういった反応は望めない。

 ざっと見たところ、武器の類を持っているようには見えないが、暗器を隠し持っている可能性は捨てきれない。
 油断しないことにこしたことはないが、ヴァルクムントは目の前の『嬢ちゃん』と呼んだ女性に、自身を傷つけることはできないと当たりをつけた。
 
「さて、どういった訳かは知らねぇが、俺も仕事なんでなぁ」

 凝りを解すように左右に首を傾けながらも、ヴァルクムントは視線を外すことなく、その一点を見続ける。

「嬢ちゃんには悪ぃが、“エリステイン・フラウ・リンドルム捕縛”の任、遂行させてもらうぜぃ」

 そう言って、『生ける伝説』は不敵に笑った。 
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