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春の歩道

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6部分:第六章


第六章

16.煙草の煙
 小さい頃は煙草の煙が不思議だった

 夜の部屋の中で祖父が吸う煙草の煙は

 青くてテレビの灯りの中にゆらゆらとしていた

 煙は白くはなかったから  それが不思議だった

 青い煙を見ているとどうしても

 何かそれが特別なものに見えた

 煙草の煙は普通じゃなくて  それを吸う祖父もまた

 特別なものに思えたのは今ではもう昔のこと

 大人になって見る煙は何でもない

 けれどその色は相変わらず青いまま

 
 青い煙は今も部屋の中でゆらゆらと

 青い煙がとても不思議だったあの時

 大人が吸う煙草の煙がどうして青いのか

 そのことが気になって仕方なかったあの時

 白い煙に慣れていたから  その青が不思議で

 夜にくゆらぐその煙が

 ここにあるものに思えなかった

 それが大人の証に思えて  何時か吸いたいと思った

 けれどそう思ったのはほんの子供の頃で

 煙草を吸わなかった僕は今は

 青い煙で子供の頃を思い出すだけ


 煙草の煙は普通じゃなくて  それを吸う祖父もまた

 特別なものに思えたのは今ではもう昔のこと

 大人になって見る煙は何でもない

 けれどその色は相変わらず青いまま


17.メリーゴーランド
 子供の頃よく乗ったメリーゴーランド
 
 今は見て楽しむだけ

 彼女が乗って朗らかに笑っているのを見る

 それだけだけれどこれが楽しい

 彼女の笑顔を見ていると僕まで幸せになるから

 楽しく回るメリーゴーランド

 彼女はそこから僕に向かって微笑んでくれている

 その顔を見ているだけで僕は

 心が楽しくなって回るから
 
 メリーゴーランドの楽しみ方は一つじゃない

 今は大人の楽しみを味わっている

 
 子供の頃のメリーゴーランドの思い出

 いつも乗って遊んでた

 今は乗ることはないけれど彼女が乗っている

 それを見て僕はにこやかに笑う

 彼女の笑顔を見ているだけで幸せになれる

 楽しみを与えるメリーゴーランド

 彼女の笑みが見えたり消えたりそれを追ったりで

 そうして僕は楽しんでいる

 心も一緒に楽しく回る

 メリーゴーランドは楽しみを回りに与えてくれる

 それをわかったのは大人になってから

 
 メリーゴーランドの楽しみ方は一つじゃない

 今は大人の楽しみを味わっている


18.ほどけないリボン
 どうしてもほどけないリボン

 子供の頃の思い出の一つ

 何をしてもほどけなくていらいらした

 そのことは今も覚えている

 ふとリボンを見て思い出すのはそのこと

 今は簡単にどんなリボンもほどける

 けれどほどかれたリボンは何処か虚しい

 子供の頃はほどくのにあんなに苦労したのに
 
 今じゃ一瞬で終わってしまう

 嬉しいはずなのに何故か寂しい

 ほどけたリボンを見てそれを感じる

 
 ほどけなかったリボンが

 子供の頃気になっていたよ

 ほどけなくて悔しい思いをしたのは

 嫌な思い出の筈だった

 それを忘れたことはないし忘れはしない

 けれど今はどんなリボンもほどける

 それでも嬉しくはないのはどうしてなのか

 あの時はほどくのに懸命になっていたからか

 それが今では造作もない

 そのことが何か楽しくないんだ

 リボンはほどけないからいいのかも


 子供の頃はほどくのにあんなに苦労したのに
 
 今じゃ一瞬で終わってしまう

 嬉しいはずなのに何故か寂しい

 ほどけたリボンを見てそれを感じる
 
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