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メン・タンク・マッチ:MTM

作者:鷲金
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初動編
  MTM:初動編 第1話「道導(みちしるべ)」

 
前書き
メン・タンク・マッチ:初動編の第1話を掲載開始しました。
初動編は、主人公達がメン・タンク・マッチに参加するまでの話です。

*メン・タンク・マッチ:MTMはまだ未完成の作品のため、全てを一度に掲載することは出来ません。また、各話の修正などで更新が遅れる上、更新期間がランダムで投稿することになります。一応、最終話まで投稿する予定です。
MTMは20話以上の物語を予定しています。 

 
2010年4月

関東地方・某県・沿岸部に位置する町。
その町中にある1つの学校。
県立信道高等学校(けんりつしんどうこうとうがっこう)と書かれた銘板がある校門には、帰宅する生徒が次々と学校を出ている。他に、野外や体育館ではサッカー部や野球部などの体育会系が屋内では吹奏楽部や美術部などの文化系が部活動をしている。
そんな中、校舎内に[3―A]とあるプレートが掛けられた教室で、夕日で暖色になった空を、飛ぶ烏に飛行機雲を作るジェット機を窓から眺めているブレザーを着た生徒が居た。
「おい、天桐(あまぎり)
「・・・・・・」
男に天桐と呼ばれるその生徒は、反応せずただ窓の外を眺めている。
「キ・イ・テ・イ・ル・ノ・カ?」
机をコンコンと叩くと、やっと気付いたのか天桐が男の方に顔を向き直した。
「え?えぇ、聞いてますよ。先生、彼女に振られて落ち込んでるんでしょ。大変ですね」
「ちげーよ。お前の進路の話をしてるんだろうが!つーか、俺はまだ彼女は。って、何を言わせるんだ」
先生は、右手で天桐の頭に手刀を叩きこもうとするが、それを見事に天桐は白刃取りを決めた。
「はい、分かっています。進路ですよね。だから、この手を退けて下さい」
「たく」
右手を机の上に戻した。
「で、天桐。お前は、将来何がしたいんだ?」
先生は、机の上にある書類に目をやりながら質問する。
「わからないです」
先生は、右に少しコケかけた。
「わからないって、それはないだろ」
それに付け加え先生は、
「何かあるだろ。自分が少しでも興味があるものとか。こんなことをしたいなりたいという夢とかさ。考えてみろ」
「う~~~ん」
天桐は腕を組み考えはじめて10秒程度で。
「あ」
「あったか?」
「やっぱないです」
「ハァー」
先生は俯き溜息をつく。それに対して天桐は、
「それに・・・今の俺に、夢とか何にもないですから。このまま何も見つからないのかもしれませんね」
「天桐、お前」
先生は、天桐の顔を見つめる。
「ニートになるのか?」
「ハハハ。いいですねそれ。一生、楽して遊べそうだ」
と天桐は笑いながら言うが、それは本心ではないただの冗談のつもりだ。
だが、それを知ってる上で先生は、
「よし、ではご両親に報告しとくか。息子さんは、親のすねかじりへ永久就職するそうですって。ヨイショ」
「いやいや、冗談に決まってるでしょ。だから、そんなことしないで。今月の小遣いがまた」
机を立ち上がろうとする先生の腕を両手で引っ張り阻止しようとする。
「じゃあ、真面目に進路を考えろ」
「分かりました、分かりましたから」
と言うと先生は席に戻ってくれた
「既にクラスのほとんどが大体のことを決めてる」
井崎(いのざき)松下(まつした)はどうなんですか?あいつらも先週、進路相談してたでしょ」
「あいつらは、ほぼ決まりかけている。明日あいつらと面談して決まるだろう。で、問題はお前だ。」
「チッ。くそ、あいつらもか」
舌打ちをする天桐に先生は、
「もう、この春でお前は高校3年生になったんだ」
「そうですけど。」
「3年連続でお前の担任になったからこそお前のことはよく分かる」
「はぁ」
「それに、お前の成績なら私立の大学も行けるだろ。運動も出来るお前ならハードな仕事とか出来るぞ。どうだ?」
「いや、進学も考えたんですけどね」
と窓の外を再び見ると
「けど、俺はほんとにまだ決まらないですよ。自分の心に響くものが中々見つからないんですよ」
途方に暮れた顔をする。
「じゃあ、お前の心に響くものって一体どういうものなんだ?」
「そ、それは。心から熱くなれるものですかね。自分の存在意義が見出だせたらそれでいいです」
「で、それが見つからないまま卒業になると」
「いや、それは。そうはなら・・・」
途中で言葉を止めるとそこから沈黙してしまった。
「ハァー。」
溜息をつく先生は机に置いてあるファイルから1枚の紙を差し出した。
「ほら、この進路希望用紙に来月までにちゃんと書いてこい。帰っていいからじっくり考えろ」
「・・・はい」
そういい紙を受け取った天桐はリュックに入れた。
「今度は、白紙で出すなよ」
「あぁ、分かりました。来月までには、絶対書いて出しますから」
と言い席を立ち荷物を持って廊下に向かう。
「もう3年生なんだ。早く自分の道を見つけてご両親を少しは安心させてやれ」
「はーい。先生も、もう30なんだから早くお嫁さん見つけてお母さんを安心させないと」
「余計なお世話だ。さっさと帰れ」
「はいはい、さようなら」
教室を出ていった。すると、先生は少し切ない顔をし、
「あいつはやる気さえ出れば凄い奴なんだがなぁ」
夕日を見た。


時刻は既に夕方の5時半を回っていた。
天桐が、一階の下駄箱で上履きから外靴に履き替えた天桐は校門に向かった。
天桐が向かう校門には二人の生徒が立っていた。
その内一人は、天桐の姿を確認すると
「あ、来たよ竜二」
もう一人の生徒の肩を叩いた。
「はぁ、やっと出て来たか士良(しろう)
竜二と呼ばれた生徒はヘッドホンを耳から外した。
「おう、わりーな待たせちまって賢太、竜二」
天桐は二人の元に駆け寄った。
「お前が遅いから入れた曲の半分も聞いちまったよ」
「仕方ねえだろ。思った以上に先生との話が長くなっちまったんだから」
「で、先生とちゃんと話したの?」
「あぁ、まぁなんとなくな」
この二人は天桐のクラスメートであり友人である矢元竜二(やもとりょうじ)と城ノ崎賢太(きのざきけんた)である。
二人は、天桐の進路相談が終わるのを待っていてくれた。
「じゃあ、今日は士良に奢ってもらおうか」
「そうだな。じゃあ、士良ゴチになります」
「おいマジかよ。今月少し厳しんだけど」
ポケットの財布の残金を確認する。
「まぁ大丈夫かな。じゃあ、いつもの店な」
三人は、学校を出て町に向かい歩き出した。

歩き始めて5分程で足を止めた。
目の前には、古い西洋風のレンガの2階建ての建物だ。
建物には、[喫茶店 可華蜜(かげみつ)]と掛かれた看板が付けられている。どうやら喫茶店ようだ。
天桐達は、店の玄関口に向かいオープンとある札の付いたドアを開けた。
開けた瞬間に、(カランカラン)とドアの上についている鐘が来客のことを店の人に知らせる。
すると、店の奥から金髪に染めた天桐達とさほど年が離れていない黒色の前掛けを着けた青年が出て来た。
「いらっしゃいませって、お前らか」
その青年は天桐達とは知り合いのようだ。
「先パイ、ちーす」
「加埜先輩、いつもの3名です」
「相変わらず、見た目がもろヤンキーだな。客が逃げちまいそうだ」
「うっせえ。早く奥のテーブル空いてるから座れ」
この青年は加埜 進一(かの しんいち)。天桐達の高校で今年の3月に卒業した1つ上の先輩だ。
加埜に言われた三人は奥の四人用テーブル席に着いた。
「で、何にする?」
加埜はオーダー用の紙とペンをもって注文を聞く。
「うんじゃあ、俺は、メロンソーダ」
「僕は。カフェオレ」
矢元と城ノ崎はメニューを見ずに答える。
「士良は?」
「じゃあ、カルピス」
「はいよ」
メニュー書き終え店の奥に戻って行った。
それから三人は少しばかし談笑をはじめた。
すると、城ノ崎が
「で、どうなったの進路の話は?」
先ほどの進路相談のことで聞いてきた。
「あぁ、来月までに希望用紙を出せって」
「まぁ、まだ決めれないなら仕方ないかな」
少し不安げに天桐に言う。
「二人は、進学と就職だったな」
「うん、僕は、東京の大学に進学する予定だよ」
城ノ崎はそう答えると矢元も続けて
「俺は、一応就職だけどな。親父の知り合いが経営している運搬関係の会社。学園艦に物資を運んだりする仕事らしい」
三人で話をしていると何かの音がなり始めた天桐は、音の方を向いた。どうやら店に置いてあるテレビでスポーツ特集をやっているようでその音楽だったようだ。
「それでは、次は戦車道の話題です。今回、去年で全国大会8連覇を達成した黒森峰女学園に取材を取りました」
テレビの中で司会の女性が言うと、画面に戦車の画像が映りだした。
「おい、持ってきたぞ。それと親父がこれもサービスしろって」
ちょうど加埜が注文したものが載ったトレーを持って来た。トレーには、三人が注文した3つのドリンクの他に注文もしていないはずの三人分のパンケーキがあった。
「おぉ、パンケーキじゃん」
「親父さんのパンケーキ上手いよね」
「親父さんに礼言わなきゃ」
「あぁ、いいよ親父照れ屋だから」
三人に礼は言わなくていいよ手を振った。
「それより早く食え冷めちまうぞ」
早く食べるよう進めるので三人はナイフとフォークを持って一口サイズに切ったあと自分の口に運んだ。
「うーん、甘い」
「この味だよ。めちゃうめー」
「流石、親父さんのパンケーキ。世界一だな」
三人は次々と口に頬張るほど食べていく。
加埜はテーブルに伝票を置くと奥に帰って行った。
食べる途中で天桐は、テレビの内容が気になり画面に顔を向ける。
「では、黒森峰女学園1年生の西住まほさんにインタビューしたいと思います」
リポーターがインタビューする一人の女子生徒にマイクを向けた。
「おい、どうした?」
「え?いや、なんでも」
矢元も天桐が見ているテレビを見る。
「戦車道か。そういや、俺の従兄妹が戦車道してるんだよな」
「へぇー、戦車に乗るって凄いね」
城ノ崎は口に付いた生クリームを拭きながら言う。
「なんだ。お前、戦車道やりたいのか?」
加埜がいつの間にか戻ってきていた。
「戦車道は女がするもんだ。俺達、男には関係ねー話だよ」
「わかってるよ」
そう答えたが、再びテレビに顔を向けた。
「それでは、次はバレーボールの話題です」
戦車の特集が終えると天桐はパンケーキに食べ始めた。
三人がパンケーキを全て食べ尽くすと、
約束通り天桐が皆の分を払い三人は店を出た。
「じゃあ、塾だから」
「俺もバイトだからまた明日な」
城ノ崎と矢元は用事があることを天桐に伝え別々の方向へと歩いていった。
「あぁ、明日な」
天桐は、そこで二人と別れた。


天桐が10分程歩いて行き、2階建てのアパートがある敷地に入った。
彼はこのアパートの2階で一人暮らしをしている。
彼の両親は、今はこの町とは違う東京都内に住んでいる
父親は公務員で、母親は専業主婦兼合気道の先生をやっている。
一人暮らしをしている彼は、その両親の仕送りで生活をしているのだが、お金を増やすためにバイトをしたこともある。
だが、そのバイトで少し問題が起こり今はバイトを全くしていない。
天桐は、階段を上がり203号室の鍵を開けて部屋に入った。
部屋は和室の7畳間で、台所にシャワー風呂にトイレがあり、ある程度快適ではある。
リュックを机に置き、制服を脱いで部屋着に着替えた。
置いたリュックから教科書や貰った進路希望の用紙を取り出しリュックを机の横に置いた。
次に、机に置いてあるノートパソコンを開き電源をつけた。
日課の1つであるパソコンでメールにニュースなどを少し確認し、気分転換で音楽を聞いたり動画を見たりする。
動画で何か面白いものがないか探しているとたまたま、戦車道の動画がを見つけた。
試しに動画を見てみるかと動画にカーソルを持っていきクリックした。
すると、戦車同士の戦いが映しだされた。
激しい轟音に機械の音や爆発音が鳴り響く
動画は5分程度で終わったが、気が付くと次の戦車道の動画も見ていた。
次々見ていくと動画の中に60回黒森峰女学園決勝戦という動画があった。
「テレビで言ってた学校か」
それもクリックして動画を見ると、
黒い制服を着た女子達がデカくて重そうな戦車に乗り込み。
綺麗に隊列を組んだ戦車が大砲を一斉に相手に向かい撃っている。
その後も、いくつかの動画を見ること30分、次は戦車道のことを少し調べてみた。
ルールやどういう戦車があるのか社会人や学生など試合情報などいつの間にか天桐は無我夢中になって調べていた。
途中で天桐は、パソコンの時計を見て今が19時7分と知った。
「もう、こんな時間か」
パソコンをシャットダウンした後、外着に着替えて外に出かけた。晩飯を買いに行ったのだ。
彼は晩飯で基本、自炊から外食、コンビニのどれかで済ます。今回の晩飯はコンビニになった。
コンビニへは歩いて5分もかからない距離にあるのでよく何か買いに行っている。
コンビニに近づいて行くと騒ぎ声が聞こえてきた。
「おい、おっさん。今なんか言ったか?」
「だから、こんな所で座ってたら周りのお客さんに迷惑がかかるだろ。早くどきなさい」
なんだなんだと見ると三人組の若い男と40歳過ぎに見える中年男性が言い争っていた。
三人組の若いヤンキー風の男はコンビニの玄関口の側に座り込んでタバコを吸ったり、缶やペットボトルの飲料水を飲んでいる。一方、中年男性はスーツに革鞄を持ったサラリーマン風で三人組の前で立っていた。
「ここに座ってたら他の人が店に入りにくいじゃないか。それにタバコの吸い殻をそこに捨てるな」
マナーがなっていない三人を注意すると、ムカついたのかヤンキーの一人が足で中年男性の腹を蹴った。
「グハッ」
蹴られた中年男性は腹を両手で抑えて苦しみながら両膝を地面について蹲った。
「おいどうする?このおっさんシメるか」
蹴ったヤンキーは他の仲間二人に聞くと
「財布だけもらっとこうぜ」
と答えが返ったので蹲る中年男性に手を伸ばした時。
「おい、お前ら」
突然、声を掛けられたのか少し驚いたヤンキー達は周りを振り返った。すると、天桐と目が合った。
「あ?なんだテメー」
蹴ったヤンキーが天桐に近づいていく。
「やめとけって言ってるんだ」
天桐は再度警告をした。
「うるせ」
と天桐の目の前に立った瞬間、不意をつく感じで天桐の腹に右拳を打ち込んだ。
「グッ」
それを受けた天桐の体が少し揺れ倒れかけた。
「ヘヘヘ」
殴った方は拳を引いて少し笑った。
余りよろしくないこの状況で天桐は突然、
「・・・よし、これで一応は正当防衛になるのかな?」
と独り言を言い出した。その天桐の言葉に、
「は?」
理解出来なかったのか一瞬の隙が出来た。
「フン」
天桐はその瞬間、そのヤンキーと同じように腹に拳を打ち込んだ。
「ウ、グヘッ」
今度はヤンキーの方が膝を付いて地面に内容物を吐いたのだ。それを見た仲間の二人は驚いたのか顔色が変わった。
「よしお前ら、やるか」
威嚇すると残りの二人は少し後退る。
「さっさとこいつ連れてどっか行け」
天桐の言葉を聞いた二人は慌てて吐いている仲間を立たせて消えていった。
「大丈夫かおっさん?」
天桐は蹲った中年男性に声を掛けり。
「あ、あぁ大丈夫だ」
中年男性はそう返事をしたが立つが難しそうだったのを見て天桐は肩を貸して立たせて上げた。
「いや、すまなかったね。私を助けるために、怪我をさせてしまって」
とお礼をいった。
「いえ。」
「是非、礼がしたい名前いいかな?」
中年男性は名前を聞いてきた。
「いや、いいすっよ。別に大したことじゃないですし。じゃあ、俺行くで」
だが、面倒なのでその場からさっさと立ち去った。


あれから天桐は家に向かって帰っていた。
「くそー、まだ痛ー」
そう言いながら腹をさする。
(にしても、油断してくれてよかった。あのまま、他の奴も加勢されたら負けてたな。)
そう考えているとアパートの側まで来て、突然止まり出した。
何かを思い出した。
「あ、晩飯何も買ってねぇ」
自分がコンビニへ晩飯を買いに行ったことを、さっきの騒ぎですっかり忘れてしまっていたのだ。
コンビニに戻ろうと反転しようとするが、
「ハアー、もういいわ。どうせ金がほとんどねーし。家に帰って適当に食うか」
諦めて自宅に帰った。


翌日、学校に登校した天桐は一時間目二時間目と授業を受けた。午前中の授業が終わり昼食の時間になったので、矢元と城ノ崎と共に学食に向かった。
昼飯を買った三人は、空いているテーブルに付き談笑を交えて飯を食べ始めた。
「それでよ、バイトの後輩の彼女が」
矢元がバイト仲間の話をして
「それは大変だね」
城ノ崎は感想を述べると、
「へぇー。」
だが天桐は少し乗る気がない返事をした。
「士良、どうした?」
矢元が不信に思ったのか天桐に聞いた。
「え?」
「お前、今日元気なくね」
「そうだね。なんか昨日変なことでもあったの?」
「いや、別に。大丈夫だって、すまんな心配かけて」
と心配する二人を安心させようとそう言った。


放課後、城ノ崎の提案で三人は本屋に寄った。
矢元は音楽関係の雑誌を城ノ崎は大学試験に関する勉強本があるコーナーで立ち読みを始めた。
一方、天桐はいくつかの雑誌コーナーを歩いて周り適当な本を読んでみようと探していた。
するとスポーツ関連のコーナーに戦車道の雑誌を見つけた。
天桐は、試しに雑誌を手に取り開いて見た。
内容は、戦車道のプロ講座や大会結果など戦車道に関する様々な情報が載っている。
読んでいると天桐は何かふと思ったのか。
「て、俺には関係ないじゃん」
雑誌を閉じて戸棚に戻した。
本屋を出た三人はしばらく近くの公園で談笑した。
それからいつも通りに時間が来たため、
「じゃあ、俺バイトいくからお先に」
「僕は、こっちだから」
「あぁ、また明日」
三人は別々の道を歩いた。
いつも通りに天桐は、一人でアパートに帰る道を歩いた。
例のコンビニの前を歩いた時だ。
「ねぇ、君」
不意に誰から声を掛けられた。
「うん?」
周りを見渡すと自分を見る男が立っていた。
「やはり君だったか」
天桐に話しかけたその男の顔には見覚があった。
「おじさん、この前コンビニの」
昨日、このコンビニでヤンキー三人組にやられていた中年男性だ。
「覚えていてくれたか。昨日、ここで君に助けてくれたおじさんだ」
その中年男性は天桐の元に歩み寄っていった。
「いや、君がこの辺に住んでいると思ってね。待っていれば、もしかすると会えるんじゃないかって少し待っていたんだよ」
と中年男性は言う。だが、額の汗を見るとコンビニの外に1,2時間位立っていたんじゃないかと思えた。
「是非、昨日の礼がしたいんだ。少しいいかな?」
「えぇ、・・・いいですよ」
と何気に仕方なく言葉を返した。断ってもまた言ってきそうだったからだ。
話し合った結果、礼として何かをご馳走になることになった。
ちょうど近くの加埜先輩家の喫茶店があるので、天桐はそこを提案して向かった。
店に入ると、バイトの女の子が接客をしてくれた。その時間、店に先輩はいなかった。
「さぁ、私のおごりだ。遠慮しないで好きなものを注文しなさい」
「は、はい」
テーブルに着いた天桐は、メニューを見開いて何を注文するべきか考えた。余り高いものは失礼かもしれないと思い。
結局、店で一番高くて美味しいジャンボパフェを頼んだ。
奢りとはいえ少しは遠慮しようと思ったが、おじさんの雰囲気からみて思ったことに、今月の小遣いが少し厳しいのもあって美味しくて少し高いものを食べたいと思っていた。
タダで食べられるのならいいかなという少し欲が出た結果、
ジャンボパフェになった。
しばらくして、
「お待たせしました」
バイトの女の子は、注文したジャンボパフェと中年男性のコーヒーをテーブルに置き
「ごゆっくりどうぞ」
と伝票を置いて去って行った。
「じゃあ、ごちそうになります」
天桐は、そういい。
「あぁ、どうぞ召し上がれ」
中年男性に確認をとってから食べ始めた。
(うめーしあめー)
心の中でそう思いながら食べていく。
食べている途中で二人は少し話始めた。
「ところで、おじさんはえーと?」
「あぁ、そういえば名前も名乗っていなかったな」
中年男性は懐に腕を入れて何かを取り出そうとする。
「私は、錦大吾郎(にしきだいごろう)と言うものだ。日本スポーツ連盟で働いている」
名を名乗り名刺を渡してきたので、慌てて
「あ、オ、僕は天桐士良と言います。」
と天桐も自分の名前を言った。
[日本スポーツ連盟協議会 錦大吾郎(にしきだいごろう)
受け取った名刺にはそう書かれていた。
「錦さんは、スポーツ連盟の方なんですか」
天桐は名刺から錦の顔に目をやる。
「そうだ」
錦はコーヒーを飲みそう答えた。
「錦さんは、どういった仕事をしてるんですか。そのスポーツ連盟で」
「今は、戦車道関連のことをしている」
錦の言った戦車道という言葉に天桐は少し反応した。
「戦車道ですか・・・へぇー」
天桐はなんとなくそう返した。
「ところで、天桐君。君は、戦車道を知ってるかね?」
錦から来た突然の質問に一瞬、声が止まった。
「・・・えぇ、名前とかならある程度は」
そう答えた。
「戦車道ってあれですよね。女性がやる戦車に乗ったりする」
「そうだね。戦車道は女性が嗜む伝統競技だ」
錦はそう答えると更に続けた。
「私たち、男性には縁のないものだよ」
錦のその言葉に何かを感じたが
「・・・そうですね」
と答えた。
「もし仮に、男性でも戦車道が出来たら天桐君もやってみたいかね?」
突然何を言い出すんだと思った天桐は、
「そうですね。もし出来るなら、やりたいですね。戦車乗り回したり大砲撃ってみたり」
と少し作り笑いで答える。
錦はその返事を聞いた後、1つ咳払いをして少し真剣な顔をしてもう1つ質問してきた。
「君、戦車の試合に出てみないか?」
「は、はい。・・・・・・え?」
とうっかり答えたが再度、質問を思い出して変なこと気付いた。
(戦車の試合に出てみない・・・か?)
「はぁ?」
天桐は理解出来ないせいかそんな言葉を出してしまった。
そんな二人の空気の中を(カランカラン)と鐘が鳴り響いた。 
 

 
後書き
予告:
天桐が助けた錦というスポーツ連盟の人から突然言われた問い。
そして、天桐の答えは。迷う中で、彼はどんな道を選ぶのか。
更に、行われるという大会についても明らかに。

次回、遂に戦車登場予定?。 
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