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狂人の村

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2部分:第二章


第二章

「だが。全員緘口令を敷きだ」
「喋ることはですか」
「許さないと」
「そして真実も話すな」
 それもだというのだ。
「決してだ。いいな」
「では暫くは隔離ですね」
「そうされるのですね」
「そうだ、隔離する」
 まさにそうするというのである。
「そして隔離先は特別収容所だ」
「そこから出さないと」
「少なくとも病気のことが全てわかるまではだ」
 それまではというのだ。
「決して出すな。病気はインフルエンザということにしておけ」
「インフルエンザですか」
「それだというのですね」
「それが一番適当な理由になる」
 だからだというのだ。
「それでいいな」
「それでインフルエンザですね」
「そう言って」
「さて、いいな」
 あらためて言う彼だった。
「そうするぞ」
「そしてワクチンの開発もですね」
「急ぐのですね」
「それは絶対にだ」
 口調が強いものになった。その口調が何よりもであった。
「万難を排して行え」
「わかりました」
「それでは」
 こうして村人達は隔離されそのうえでワクチンの開発が進められた。すぐに鼠とダニの研究からワクチンが作られそれが村人達に投与された。
 このワクチンにより病気は忽ちのうちになくなった。村は救われた。
 しかしである。ここで独裁者はさらに言った。
「そのワクチンをインフルエンザウィルスのワクチンとして国民全員に投与するのだ」
「ワクチンをですか」
「その名目で」
「全員にするのだ」
 こう言うのである。
「予防用ワクチンにしてだ」
「完全にインフルエンザと同じようにしてなのですね」
「そのうえで」
「当然本来のインフルエンザウィルスの投与もこれまで通り行う」
 このことも忘れなかった。彼は少なくとも政治家として真面目に考えてそのうえで対処を行っていた。指導者としてである。
「いいな」
「わかりました」
「それでは」
 こうしてであった。方針が決定された。国民全員に速やかにワクチンが投与された。それ以降集団発狂することはなくなった。
 しかしである。独裁者はここでだ。全てが終わったことを見届けてから言うのだった。
「村人達は元の村に戻ったな」
「はい」
「それは既に」
「それでどうされますか?」
「捨て置け」
 彼等には何もしないというのだ。
「あの者達も真実は知らないな」
「はい、何も」
「それは知りません」
 全くだというのである。そしてこれは事実であった。
 
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