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機械の女

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3部分:第三章


第三章

「有り難うな」
「御礼はいいぜ。その代わりな」
「その代わり?何だよ」
「幸せになれよ」
 明るい顔での言葉だった。
「それでいいな」
「ああ、それじゃあな」
「しかしよくそれだけ見事に相性のいい相手がいたな」
 同僚は腕を組みながら述べた。
「運がいいなんてものじゃないな」
「そうか?御前もだろう?」
「いや、俺以上だろ。とにかくな」
「ああ。とにかく?」
「その相手と結婚するんだよな」
 今度はかなり単刀直入にな言葉だった。
「御前もな。そうだよな」
「ああ、それはな」
 スルーもその問いには真剣な顔で頷くのだった。
「そのつもりさ。僕も向こうもな」
「じゃあそうしろ。結婚は人生の本当のスタートだ」
 墓場とは言わなかった。それがこの同僚の言葉だった。
「いいな、本当のスタートに入るんだ」
「二人でか」
「人間は一人で生きるものじゃないんだよ」
 同僚はその持論をまた言披露してみせた。
「二人で生きるものなんだよ」
「そうか、二人か」
「わかったな。それじゃあな」
「幸せになるな」
 彼ともこう話すのだった。そして二人の交際は結婚を前提として続いていった。そして街のブティックで二人で入った時だ。スルーは店の中に陳列されているアンドロイドを見ていた。かなり高級な店でマネキンにそうしたアンドロイドも入れているのである。
 その服を着て人間の様に動いているアンドロイドを見てだ。彼はふと言ったのである。
「それにしても」
「どうしたの?」
「いや、あのね」
 隣にいるアンジェレッタの言葉に応えて言った。
「最近思うことだけれど」
「ええ」
「アンドロイドを恋人にしている人もいるじゃない」
 この時代にはそうした目的でアンドロイドを使う者もいる、それも男女共にである。
「それはどうかなって」
「それは嫌なの?」
 何故かここで顔を曇らせて問うアンジェレッタだった。
「そうしたことは」
「あまり好きじゃないね」
 自分の考えを素直に述べたスルーだった。
「僕はね」
「それはどうしてなの?」
「いやさ、やっぱり人間は人間と交際して結婚するべきだよ」
 これが彼の考えだった。それで首を傾げながら言うのだった。
「だからね。アンドロイドと交際するのはね」
「駄目なのね」
「好きにはなれないね」
 こうエリザベスにも述べた。
「どうしてもね」
「そうなの」
「あくまで僕の好き嫌いだよ」
 こう断りはする。
「けれどね。どうしてもね」
「アンドロイドは好きにはなれないのね」
「交際相手としてはね」
 また言うのであった。
「それは自然じゃないから」
「わかったわ」
「あれっ!?」
 そしてであった。ここで彼はエリザベスの表情に気付いたのである。
「何でなの?」
「何でって?」
「顔が暗いよ」
 表情が曇ったことに気付いたのだ。実際に彼女はそうなっていた。
「何かあったの?」
「いえ、何も」
 それは否定するエリザベスだった。
 
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