| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四話 決闘者 ―デュエリスト―

 とある休日、紗那は閉ざされた大きな扉の前で立ち尽くしていた。

「……どうしようかな、この後……」

 暇になっちゃった、と白いワンピース姿で、かばんを肩から下げた紗那はため息を吐く。その日彼女は勉強に使う本を借りるために図書館に行こうと思っていて、実際に来たのだが……着いてみると運悪く休館日で中に入れず、予定がなくなってしまったのだ。

 とはいえ、この日は夏にありがちな湿気の高いジメジメした気候ではなく、カラッとした良い天気だった。そのまま帰るのももったいないし芸がないと思った紗那は、少し散歩してから帰ろうと図書館の近くにある公園に向けて歩き出した。とくに遊具が置いてある訳ではないが、大きな丘や池、噴水や木々がたくさんある自然に富んだ場所だ。

「……いい天気……」

 そう呟いて見上げた空には、大きな入道雲が浮いている。それを見て反射的に「行ってみたい……」と思った紗那は、自分の思考がかなりブレイブデュエルに毒されていることに気付いてクスッと笑った。どうやら彼女が自分で考えているよりも、ブレイブデュエルは生活の一部になっているらしい。それは彼女にとってとても喜ばしいこと……なのだが、最近になってひとつ困ったことができてしまった。それを思い出し、紗那は小さくため息を吐いた。

 先日の疾風とのバトルの後、紗那にはいつの間にか二つ名が付けられていた。その名も“風雪の忍”。忍者のようなバリアジャケットで風のように速く空を翔け抜け、雪の舞うように回避し戦う、という意味からつけられたらしい。だが、紗那はそれを素直に喜べないでいた。通り名が付くのはまだいいとして……まぁそれだけでも彼女にとっては“目立つ”という意味であまり喜べることではないのだが……彼女は基本的に無口でデュエル中は必要以上に話さないので、寡黙な人間だという印象がついてしまったらしい。そのため一部のデュエリストからは近寄りがたい存在……さらにエスカレートすると不気味、とまで言われてしまっているらしいのだ。

 困ったなぁ、と少々落ちこんだ紗那だったが……それを首を振って気分を変えようと振り払った。気晴らしのために散歩中なんだから、と気持ちを切り替えて公園の中を歩いていく。鳥の声や、駆け回って遊ぶ子供たちの声。それらを聞きながら、ゆっくりと歩く。そして池のほとりにあるベンチに休憩をしようと腰を下ろして一息つき……ふと、道の向こうから歩いてくる人影を見つけた。

「……あれ?」

 その人影が知っている人間に似ているような気がして、紗那はしかしこんなところでバッタリ会うものかと首を傾げた。その人影の方も彼女に気付いたようで片手を上げて近づいてくる。それは紗那の予測した通り……

「疾風?」

「おう、紗那。おはよう」

 そう、黒い長そでTシャツに黒いズボン、という夏にあるまじき暑そうな恰好をした疾風だった。ワンショルダーバッグを肩にかけてこれまた黒いサングラスをかけている。

「あぁ、うん、おはよう。……ところで、なんでここに?」

「図書館に本返しに来たんだよ。……なんか閉まってたから返却用のポストに突っ込んどいたけど」

「あ、私と同じだ。私も図書館に勉強のために本借りに来たんだけど閉まってて……そのまま帰るのももったいないから、散歩でもして帰ろうかな、って」

 おやまぁ、と肩をすくめた疾風。とはいえせっかく会ったのだ、少し一緒に歩こうと二人は連れ立って歩き出した。

「ところでどんな本借りてたの?」

「ハードカバーのファンタジー……でいいのかな、あれは? 宇宙からの侵略者のエイリアンと、伝説の金属に属性精霊の加護を授けた剣を振るう勇者が戦う……っていう。まぁ、ファンタジーとSFの合いの子みたいなやつだ」

「……す、すごい世界観だね」

「だろ? ぶっとんだ設定で逆に興味が湧いてさ。借りてみたらこれがムチャクチャ面白くて……速攻で読破して何度も読み返しちまったよ」

「へぇ……確かに面白そう。今度私も借りてみるね」

 と、そんな風に話しながら公園の中を歩いていく。だが、夏の暑い時期の晴れた日にそんな健康的なことをすれば汗をかくのは当然。なので……

「あー……喉渇いちまった。そこら辺の喫茶店でも入ろうぜ。……ちょっと用事があるからそんなに長居はできねぇけど」

「うん、いいよ」

 一旦休憩しようと、二人はすぐ近くにあった“フラワーガーデン”という喫茶店に入った。疾風はアイスコーヒーとチョコチップクッキー、紗那はアイスティーとモンブランを注文して一服する。かなり美味いなここの菓子、と思いながら少し休んだ頃、疾風はこんなことを思い出した。

「そういえば、最近有名だな紗那。風雪の忍と戦った、って話をよく聞くぜ」

「そうなんだよ。花梨さんも“イベントデュエルのメインやってくれないか”なんて言うし……だいたいいつも行ってるって意味なら疾風だって一緒にいるのにどうして私だけ……」

 そりゃまぁお前みたいな美人があんな刺激的なバリアジャケット着てりゃ目立つだろうよ、と疾風は思ったのだが……恥ずかしがって黙られても面倒だと疾風は黙っておくことにしてクッキーを頬張った。が、その代わりにふと気になったことがあったので尋ねてみる。

「二つ名って言えばさ」

「うん?」

「二つ名持ちじゃないにしても、有名なデュエリストってどんな人がいるんだ? 俺らに近いような年代のデュエリストもいたりするのか?」

「えー、っと……そうだね、年代が近いところでいくと……この人たち、とか。フローリアン姉妹っていう、高校生の女の子たち」

 端末を取り出し、しばし検索して紗那が見せてくれた画面には、二人の少女が映っていた。ピンクの髪のストレートロングの少女と、赤い髪の三つ編みロングの少女。どちらも色違いではあるが同じコート状のバリアジャケットを着て、銃剣型のデバイスを構えている。戦闘スタイルは赤毛の方がまっすぐで直情的な、桃毛の方が搦め手が得意そうな印象だった。

「へぇ……両手持ちの銃剣使いか。俺のリラと武器が似てんな。こっちの二人は実体剣みたいだけど」

「武器形態も射撃か斬撃、どっちかに選択するみたいだしね。……でもその分個々の攻撃力は上がってると思うよ。それに剣を合体させた時のこの刀身の長さ見て」

「うわ、こりゃすげぇな。しかも両刃かよ……食らったら痛そうだな」



「次は……大人の人が多いけど、この人たち。ベルカスタイルショップ、八神堂のチーム」

 ピンクのポニーテールで剣を持った女性や、黄緑色の服を着た女性。兎のぬいぐるみのついた帽子をかぶって、ハンマーを持った女の子。そして彼女たちに囲まれて笑顔を見せる、茶髪の幼い少女。

「なんかバリアジャケット騎士っぽくてカッコいいじゃん。武器も特徴的だな、剣はいいとしてハンマーって……っていうかこの真ん中にいる女の子、小学生くらいだよな?」

「うん。でも、実はこの子がこのチームのリーダーなんだよ?」

「うぇ!? マジか……世界は広いな」

「こんな風に大人と子供が一緒にプレイできるところも、ブレイブデュエルの良いところだよね」



「本当はもう一か所ミッドチルダスタイルの代表店舗があるんだけど、そっちはあんまり情報が多くなくて……えっと……こっちの方が見て欲しいな……最後はこのチーム“ダークマテリアルズ”。三人の女の子たちが組んでるチームだよ。この画像はもう一人、時々一緒に組む子が写ってるけど……」

「……さっきから女子ばっかだなオイ」

 最近の女の子は強いんだなぁ、ともはや呆れたような疾風はどれどれ、と紗那が差し出した端末の画面を覗き込んだ。穏やかな雰囲気を醸し出す白い装束に金髪の少女や、黒い装束で分厚い本を持った銀髪の少女。見るからに活発そうな満面の笑みを浮かべた青い髪の少女。そして、赤い装束を纏った茶髪の無表情な少女。また個性的なメンツだねぇ、と疾風が彼らを見て思った時、紗那はその最後の人物を指さした。

「……でね? この人が……私が動画で見た片方の子。名前は……シュテル・ザ・デストラクター」

「デ、殲滅者(デストラクター)? すげぇ名前だなおい……本名?」

「まさか。試合用のデュエルネームっていうのを、別に設定してるみたい」

 そう苦笑する紗那に、まぁそりゃそうだわな、と頷いて画面をもう一度見た疾風。この少女こそ、紗那がブレイブデュエルの世界に足を踏み入れるきっかけとなった人物の片割れ。幾度も話に聞いた、“美しく力強い戦い”で紗那を魅せた少女なのだろう。

「それにしても、こんな子がねぇ……やっぱりゲームは子供のほうがうまいのかな」

「そうかも。すごく上手に炎を操るんだよ。すごく力強くて、でも綺麗で……」

 例の動画を思い出してはにかむ紗那。しかし、その表情はすぐに曇ってしまった。……そう、もう一人は……

「でも、あの動画で見たもう一人の方が……なかなか見つからなくて」

「前に言ってたよな。漆黒のバリアジャケットを着た二刀流の少年、だっけ?」

「……そう。随分探してるんだけど……」

 と、しょんぼりした紗那。かつて彼女はある動画でブレイブデュエルを知った。そこに映っていた一組の少年と少女。そのうちの一人は先ほども話題に出た、シュテルという少女。しかし、もう一人の少年の方は……いくら探しても、見つからないらしい。

「デュエルの記録はよく見てるんだろ? なのに見つけられないって……何でなんだろうな」

「わからない。……後で聞いたらあの映像はグランツ研究所でのバトルだったそうだから、そこを重点的に探してて……あれだけのデュエリストなら、シュテルさんみたいにショップ代表として活動してると思ったんだけど……」

「……よっぽどその少年のこと気に入ってるんだな。憧れてる、っていうか」

「うん。……彼の戦い、本当にカッコよかったから。それに……初めてだったんだ。新しい何かを始めようと思うほど、誰かに影響を受けた、っていうことも……」

「そっか」

 紗那には珍しくすぐに頷くほどに、その黒き剣士への憧れは強いらしい。今でも目を瞑れば明確に思い出せる、あの壮絶な戦い。あの炎使いの少女と二刀流の少年がこの世界を、この空を教えてくれた。ブレイブデュエルと出会わせてくれた。そういう意味では、ある意味……恩義と感謝を感じている、とも言えるのかもしれないが。

「……でも、私は疾風にも感謝してるんだよ?」

「……へ? 俺?」

 突然の紗那の言葉に、疾風はきょとんとした顔を見せる。頷いた紗那は、思い出すようにしながら先を続ける。

「……自分の好きなものを無条件に認めて、共感して……しかも、一緒に行動までしてくれる。私にとって、これほど嬉しいことはないんだよ?」

 紗那自身は、社交的な方ではない。無論、だから友達がいないという訳ではないのだが……自分の好きなことについて、好き勝手話せる間柄の人間が少なかったことも事実。加えて、普段の自分とはギャップがありすぎるような内容だ。己の中に抱えた熱量を、中々誰かに伝えることができなかったのだろう。

 だが親しくなった疾風は、勇気を出して話してみた話題にも引くことなく、いつも通りに接してくれた。そして誘えば付き合ってくれた。正直なところブレイブデュエルを始めるにも、始めたいという気持ちは強かったもののひとりでは心細く、踏ん切りがつかなかった部分もあるのだ。でも、一緒にできるなら……と言った紗那の言葉を、断らずに受け入れてくれた。それは紗那にとって、新た世界へと足を踏み出す、何よりのきっかけとなっていたのだった。

「……だから……ありがとう、疾風」

「……お、おう……まぁ、それを言うなら俺もなんだけどな。ブレイブデュエルを教えてくれたのはお前なんだし……お前といると楽しいし……」

 ボソッと呟いた疾風だったが、その瞬間恥ずかしくなって咳払いをして誤魔化す。

「ま、まぁ、今見つけられなくてもそんなに気にすることないんじゃないか? 俺たちだってデュエリストになったんだ。デュエリストで居続けて、同じ世界に居続けさえすれば……きっといつか、出会うこともあるさ」

「……そう、だよね……きっといつか、会えるよね……」

 疾風の言葉に励まされた紗那は、いつか来る出会いの日を夢見て、そう、笑った。







 雑談しながら時間を潰すうち、疾風は時計を見て声を上げた。どうやら時間が来たらしい。

「っと。そろそろ時間だ」

「うん、わかった」

 頷きあい、二人一緒に喫茶店のテラス席を立つ。店の前に出て分かれる直前、疾風は紗那にこの後のことを聞いた。

「この後どうするんだ? アズールに行くのか?」

「……そう、だね。たまには一人でデュエルしに行くのも良いかな。話してたらやりたくなってきちゃった。……勉強しに来たのに条件反射でホルダー持ってきちゃったし」

「デュエリストの癖が染み付きつつあるな。……じゃあ、また明日な」

「うん。また明日」

 そうして疾風は手を振って去っていき、紗那もアズールに向けて歩き出した。







 さて、そんなこんなで珍しく一人でアズールにやってきた紗那。デュエルの用意をした彼女は、対戦相手を誰にしようかとマッチングリストを見ていく。デュエル受付中のデュエリストをスクロールしていくうちに……ふと、あるデュエリストの名前が目に入って彼女は手を止めた。今まで対戦したことがなく、聞いたこともない、初めて見る名前だった。

「……よし。この人にしようかな」

 その初見のデュエリストに挑んでみようと紗那はそう呟き、対戦申し込みのボタンを押してフィールドに突入する。バトルフィールドはベーシックな空。純粋にデュエリストの能力のみが問われるフィールドだ。そこまで見て取り、紗那はカードをスラッシュする。

「リライズ・アップ!」

 光に包まれて忍装束のバリアジャケットに変身し終え、紗那はいつも通りリンクに話しかける。

「今日もよろしくね、リンク」

【こちらこそ】

「……さて。対戦相手は……あの子かな? 油断しないで行こうね」

【御意】

 リンクの返事に頷き、目に入った対戦相手に飛んで接近する紗那。その中で相手の装備を観察する。

(……女の子か。紫のチュニックにスカート、ブレストアーマー……防具はそれだけ。見た感じ、武器は腰にある片手剣一本のみ……軽装の剣士タイプ、かな)

 そして紗那は、少女……デュエリストネーム“ユウキ”の前に姿を現した。







 ……数分後。普段よりもより一層顔を俯かせ、どんよりと沈んでブースから出てきた紗那の姿を、見たものがいるとか、いないとか…… 
 

 
後書き
 この話の最後に繋がるのが「漆黒の剣士」16話になります。さらにその後は私が短編として投稿した「ある日ある時」の「INNOCENT's World : Side of her」に繋がります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧