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家庭教師

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2部分:第二章


第二章

「そうよ」
「わかりました」
 義光は机に座ったまま答えた。
「じゃあ一月の間やります」
「ええ。頑張ってね。そうしたら」
「いいことがあるっていうんですか?」
 義光はそう先生に尋ねた。
「けれどそれって」
「合格だけじゃないかもね」
 それが先生の返事であった。
「えっ!?」
「だから。それだけじゃないかも知れないのよ」
 先生はさらに言うのだった。何が何なのかわからない利光に対して。
「ひょっとしたらね」
「それってどういうことですか?」
 少なくとも義光には何のことかわからない話であった。
「あの、それだけじゃないって」
「だからよ」
 先生はその戸惑う義光に対してまた言うのであった。
「その時になればわかるわ」
「はあ」
 何が何なのかわからなかった。だが先生の言葉には応えるしかなかった。
「わかりました。一ヵ月後ですね」
「まずは合格することね」
 先生は言う。
「いいわね」
「わかりました。それじゃあ」
「ええ。後は宿題頑張ってね」
 宿題はいつもかなり出される。何かそれをやっているだけでかなり成績が上がる気がする。勉強というものは不思議なもので数多くの問題をこなすよりも同じ問題を何度もする方がずっと成績が上がるのである。先生のやり方はそれを踏襲しているのであった。
 宿題もそうであった。見れば何日か前にやったところの復習であった。
「それじゃあ私はこれで」
「はい」
 先生を部屋の外まで見送る。それで終わりだった。義光は先生がいなくなるとやっと邪魔者がいなくなったという顔でほっと一息つくのであった。
「やれやれだな」
 それが第一の言葉であった。
「毎日かよ。鬱陶しい」
 続いてその言葉が出る。正直先生がとても好きになれないのだ。
 それでも宿題はこなす義光であった。大学には行きたいからだ。何故なら。そこには自分が好きな女の子も受験するからだ。合格したらその勢いで告白するつもりなのだ。
 だからこそ頑張っていたのだ。合格したくて。その日も宿題の後で自分の勉強をした。学校にも真面目に出てとにかく必死で勉強していた。
「御前頑張るな」
 クラスメイトにもそう言われる。
「成績も上がる筈だよ」
「絶対受かりたいんだよ」
 それをクラスメイトにも言う。
「だってさ」
「そっから先はわかってるさ」
 友人もそれはわかっていた。言わずとも、といった顔を彼に見せてきた。
「あの娘だろ?」
「そうさ。だから」
 義光の声が強くなった。その目の光も。
「絶対に受かってやる」
「頑張るんだな。しかし」
 ここでクラスメイトは彼に少し呆れた顔を見せてきた。
「御前も。よくやるよ」
「何がだ?」
「いや、急に成績上げてな」
 実は彼は以前はそれ程成績がよくなかったのだ。少なくとも今の志望校に合格する程ではなかった。だがそれが急に成績をあげて今に至るのである。
「それだけでも尊敬に値するさ」
「俺って尊敬されるような人間だったのかよ」
「俺にしたらそうさ」
 クラスメイトは素直にそれを認めた。
「俺にはとてもできないからな」
「好きだから仕方ないだろ」
 義光はさらに言う。
「俺だってこんなに好きになったのはな」
「はじめてか」
「そうさ」
 そうなのだ。義光自身も戸惑いを覚えている。それでも彼はそれから逃げずに好きな相手と同じ大学に行こうというのだ。その決意はかなり固いものでもあった。
「絶対にな」
「それでも嫌なんだな」
 あらためて義光に問う。
「あの先生は」
「それはな」
 苦々しげに頷いた。
「どうしてもな」
「相性が悪いのか」
「相性っていうかな」
 その苦々しげな声でクラスメイトに述べた。
「合わないんだよ、どうしても」
「そういう人っているな」
 クラスメイトは彼のその言葉に頷く。
「それがたまたまあの人だってことか」
「そうなるな。あの人だけはどうしても駄目だ」 
 その感情はどうしようもなかった。自分でもそれを認める。
 
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