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鬼の野球

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2部分:第二章


第二章

「足は普通位だけれどそれでも」
「身長は二メートルを超えてるしな」
 鬼だから大きいのも当然だった。
「こんな逸材がいたなんて」
「しかも二十二歳か」
 年齢は完全に偽っている。戸籍もあるがこれは昔に村の役場の人達が工面してくれたものでかなりいい加減だ。一応高卒ということにはなっている。村の地元の高校である。年齢も同じだ。
「まだ成長しそうだしな」
「これ、監督に言うか」
「言わないといけないだろ」
 コーチ達はこう言い合う。
「やっぱりな。これだけの素質があるとな」
「そうだな。それじゃあな」
「ああ。そうしよう」
 こうして彼のことは極楽の監督の耳に入ることになった。話を聞いた極楽の村野克哉監督はまずは顔を顰めさせてこう言うのだった。
「ほう、どんなデータの改竄や」
「あの、改竄じゃなくてですね」
「本当なんですけれど」
「わかっとる」
 この村野という人物はいつもむすっとした顔をしていて口が悪いことで知られている。しかし彼を知る者は実はそれは表面だけで気さくなところもありはにかみ屋であるとも言う。意外と以上に優しい人柄の持ち主だという証言も多く中々面白い人物とされている。現役時代はキャッチャーでありスラッガーであった。
「わしも見てたわ」
「あっ、監督もだったんですか」
「当たり前やろが。わしは監督やぞ」
 その無愛想な顔で答える。
「監督が見んでどうすんねん。この監督室におってもどうにもならんわ」
「まあそうですけれど」
「それで監督」
「採用や」
 もうそれは決めているのだった。
「使うで、こいつ」
「そうですか。やっぱり」
「使いますか」
「肩もええし動きもええ」
 彼はそこまで見ていたのだった。
「身体もごついしパワーもある。こいつはひょっとしたらな」
「凄いスラッガーになりますよね」
「それだけやあらへん」
 しかし村野はここでこう言うのだった。
「わしや古多を超えるな」
「監督をですか?」
「というと」
「こいつはキャッチャーや」
 今度はポジションまで指定するのだった。
「キャッチャーとして使うで。ええな」
「キャッチャーですか?けれどそれは」
「テスト生ではなくもっとしっかりした場所からスカウトしてでは」
「それでもなれん奴はなれんわ」 
 村野ははっきりとこう切り捨てた。
「キャッチャーだけはな。それでなれる奴はなれる」
「それはそうですけれど」
「それじゃあ」
「そうや。こいつは見たところいつも周りをよお見とった」
 村野はそこまで見ていたのである。
「その目の細かさを買う。キャッチャーや」
「わかりました。それじゃあ」
「監督にお任せします」
「さて、たっぷりしごいたろか」
 楽しそうに笑いながらの言葉であった。
「赤鬼みたいな顔しとるがな」
 流石の彼も真似得流の正体が鬼とは気付いていなかった。だがそれでも彼を採用して育てることにしたのだった。彼は春季キャンプから早速その実力を発揮した。
「あのテスト生凄いよな」
「ああ、全くだ」
 選手達だけでなく取材に来たマスコミ陣もファン達も声を揃えてこう言うのだった。キャンプにおいて彼はバッターボックスではどんなボールでも打ち、しかもスタンドに軽々と放り込む。投げては的確な場所に大砲の如き送球とどんなボールでも捕れるキャッチング。いきなり皆の度肝を抜いた。
 
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