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RSリベリオン・セイヴァ―

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RSリベリオン・セイヴァ―外伝SHADOW第六話「ラブストーリーは突然に」

 
前書き
外伝完結です。次は二期の予定です。 

 
リベリオンズ・日本支部にて

早朝から日本支部の基地内では、魁人が苛立ちを隠せずに先ほど書いた報告書を睨み付けていた。
「くそっ……!」
迂闊であったと苦虫を噛みしめる彼は、背後から気楽にアルゼンチンから帰ってきた蒼真の存在に気付いていない。
「よぅ! 愛しの相棒が今帰ったぜ?」
そんな魁人の様子も知らず、蒼真はふざけ始める。
「どうしたよ? まーた白髪でも増えたのか?」
「……」
しかし、黙り続ける魁人はいつもと違って異常だというとに蒼真は気付いていない。
「あ、もしかして恋のお悩みとか~?」
しかし、蒼真がこうなのは今から始まったことではない。魁人はゆっくりと振り返ると、怖い目つきで蒼真へ話した。
「恋のお悩みより、も~っと厄介なお悩みだよぉ?」
「す、スンマセンしたー! 魁人さん!!」
ようやく彼の状態に気付いて必死に詫びる蒼真。別にいつものことだと魁人は気にしていない様子。
「と、ところで……何をそんなにお怒りに?」
恐る恐る問う蒼真に、魁人は自分の書いた報告書を彼に指しだした。
「これを読んでくれ?」
「?」
蒼真は、魁人から受け取った報告書に目を通した……途端。
「これいつは……!?」
蒼真でも信じられない事実だった。
「魁人! これはいったい……!?」
「言っておくけど、これに書いてあることは全て事実だよ? 連中は、最初から玄弖君達の行動を知っていたのさ? おそらく、メガロポリスのステーション襲撃の後だろうね?」
「だが、何故『IS委員会』がこの情報を知っているんだ?」
「僕の推測だと、考えは一つ……」
「まさか……」
「そう、奴しかいないね?」
「……ドクター・Tか?」
「ご名答」
魁人の眼鏡越しの両目が光の反射で隠れた。

朝焼けを背に受けて俺たちは境内の石段を登り始めた。
今日から祭りの準備を手伝いに向かうのだ。出来る限りこの集落に貢献しなくてはと俺たちは村長からの申し出をよろこんで受け入れて、今日篠ノ之神社の境内に出す出店を組み立てる手伝いへ向かのだ。
――祭りか?
実のところ、俺たち三人は「祭り」というものを経験したことはない。話やテレビでしか知らないために祭りと言う娯楽はどういうものかと興味があった。
「夏祭りか……」
玄弖は頭上のクスノキの群れを見ながらそう呟いた。
「なぁ? なぁ? 祭りにリンゴ飴とかあるかな?」
待ち遠しいとウキウキしている大剛は一番先頭にいる。早く出店の種類を確かめたいのだろう。
「本当に食い意地だけは達者だな?」
弾は、大剛を見て苦笑いした。
三人は石段を上り終えると、境内に入り先に来て準備をしている村人たちを出会った。
「おお! よう来てくださったな? ささ、三人には早速これを手伝ってくだされ?」
と、村長が彼らに頼んだ内容は、巫女の舞う部隊の組み立てであった。
「こいつはスゲーな?」
完成後の写真を見た大剛はふと部品の一つを手に取った。
「そういや、神職の方達は?」
ふと弾は近くの老人に尋ねた。
「雪子さん達は、裏の湖へ行って体を清めてるだよ? 神職さんは朝からいろいろと大変だべや?」
「ねぇ! 大剛! 手伝いに来たよ?」
突然大剛の肩を掴んでわっと詩織が飛び出てきた。それに大剛はもちろん驚いた。
「明楽? あれ、もう終わったのか? お清め」
「うん、箒ちゃんと比奈ちゃんは舞の練習をしているから、バイトの私だけ暇ができたの。本当はサボっちゃおうって思ったけど、大剛来てるし暇つぶしに手伝いに来たのよ?」
「うん、そうなんだ……」
苦笑いを浮かべる大剛だが、それでも一人手伝ってくれる人が加わって助かり、比奈も加わって四人体制で舞台の組み立てが始まった。
比奈も、以外と負けず嫌いなところがあるのか、三人に負けないぐらい手伝いをしている。
時期に、村の学生たちも集まりさらに人出が増えた。
玄弖達の噂は一日で村中に広まっており、メガロポリスから来た人たちだと田舎の若者達には人気者で、興味を持っているらしく、皆が彼らに手伝いながら質問攻めを浴びせてくる。
「ところでさ! 出店にリンゴ飴や焼き鳥とかでるの?」
しかし、大剛は逆に若者達へ質問攻めを返していた。
「リンゴ飴なら小さい子らが好きだから出ますよ? 焼き鳥も父ちゃん達には好評ですし……」
「なぁ? 御神輿とかは? あれ、担ぐイベントとかある?」
「ありますよ? 一様……」
「頼めば担がしてくれるかな?」
「村長に言えば……」
「いよっしゃあ!! 絶対に担ぐぞぉ~!!」
「あの……こういうお祭りは初めてなんですか?」
「つーか祭り自体、俺初めてだからさ?」
「コラー! 大剛、喋ってないで体動かせー!!」
と、そこで詩織が大剛の耳を掴んで再び作業を再開させた。彼女から反面、やや嫉妬の目をして。
「八文字さん! 舞台の右側の手すり、組み立てるの終わりましたよ!」
「五反田さん! 左側の手すりも終わりました!」
「克真さん! こっち手伝ってくれませんか?」
気が付けば、三人は若者たちとすっかり打ち解けあい、今では兄貴分のような存在で懐かれていた。
いつもは夕方までかかる準備が、昼の少し過ぎたところで終わり、村人たちは女房たちが作った握り飯の昼食にありついた。
「うぉー! こいつは美味ぇ!!」
ガツガツと握り飯を頬張る大剛と、その横で一息入れる弾と玄弖。一方の比奈は箒に呼び出されて別の手伝いへ回されてしまった。
一通りのことをは終わってしまったので、三人は自宅へ戻ろうとかと思っていた……が。
「オラオラァ! 雪子は居らんかぁ!?」
突然、傷だらけの男や腕に入れ墨をした男たちの集団が境内に押しかけてきて、暴れ出した。彼らは組み立てた屋台を壊したりして騒ぎを立てる。
「何事です!?」
村人の一人が急いで雪子へ知らせたので、彼女と箒達神職の者たちが急いで駆けつけに来た。
「今日こそは、答えを聞かせてもらいまっせ? この神社からの立ち退き、どうなんでっか!?」
「その件に関しましては既に申したはずです! 私たちは、此処を決して出て行くことはいたしませんと!?」
「そうはいきませんな? こっちも仕事なもんで……」
「何なんだ? こいつら……!?」
影で玄弖があの輩へ指をさした。
「あいつらは、暴力団の『獄門組』ってやつらです。篠ノ之神社を立ち退かせようとしてちょくちょく来るんですよ?」
と、若者の一人が彼に耳打ちした。
「今日は、社長がお見えになっておりますんで、とりあえずお話だけでもしていただけませんか?」
と、暴力団の一人が「おいでくださいませ!」と、叫ぶと境内に一人の女性が現れた。白いスーツ姿が良く似合う女だ。
「どうも、私は『蓮の池サロン』の社長をしております、柳瀬ともうします」
と、柳瀬という女社長は続けた。
「さっそくですが、この篠ノ之神社の敷地に『自然と調和』をテーマにした新たなエステ施設を建設したいのです。勿論、タダでとはいいません。それ相応の大金をお支払いします。また、私たちがこの土地にエステを経営しだしたあかつきには、数多くの女性客でこの村も彩られ、素晴らしい村おこしに繋がるとでしょう。どうです? 悪くないお話だと思うのですが……」
「お断りします」
雪子はキッパリと断った。
「そうだ! そうだ!」
「帰れ! 帰れ!」
と、雪子の一言に乗じて次々と村人たちも声に出す。
「じゃかぁしいわい! ゴミ共が! 社長のお言葉に水差すようならテメェら全員ぶっ殺すぞ!?」
暴力団員の一人が刃物をちらつかせた。
「黙れ! 薄汚い外道共!!」
しかし、この境内の中から一人の巫女の少女が出てきたどうどうと言い返した。箒である。
「なんじゃとぉ!? こんのガキィ!!」
ドスドスと箒の前に出るその団員は頭に血が上ったのか、刃物を片手に彼女の前に出た。
「やめてください!?」
と、雪子が止めに入るも団員は雪子を突き飛ばして箒の胸ぐらを掴んだ。
「おばちゃん!」
慌てて比奈が彼女を抱え起こすと、続いて詩織も前に出る。
「ちょっとオッサン! 箒ちゃんを離しなさいよ!? それと雪子さんが怪我でもしたら許さないんだから!!」
「じゃかぁしい! テメェらも一丁、痛い目あわさんといかんようじゃのぅ!?」
「!?」
しかし、今更になって彼女達は恐怖を感じて震えだした。
――……一夏……!
ふたたび、彼女はあの少年の名を口にする。
「その娘を離せ!」
だが、助けに現れたのは一夏ではなく、またこの青年であった。
「誰じゃい!?」
団員は振り向くと、そこには一人の青年が前に出て睨み付けていた。と、いうよりも少し怖気づいていた。
呆然と、怯えて竦んでいる心を無理にでもと強がらせようとするが、RSがあることを思いだすと、つい衝動的になって前に出てしまった。
――……一夏?
一瞬その声の主が片思いの少年と重なった。
「玄弖!?」
箒は、彼の名を叫んだ。
「やめろよ? 大の大人がみっともないぜ?」
「何じゃと? 若僧……」
団員は箒から玄弖へ標準を定め、そして刃物を向けた。
「じゃあ、先にテメェを血だるまにしたるわ!?」
「!?」
しかし、次に気付いた刹那。団員は玄弖に投げ飛ばされていた。その姿を他の団員や柳瀬も目を丸くして見ていた。
「こ……こんのガキィ!!」
次々に他の団員が玄弖に襲い掛かるが、そこを真っ先に弾が割り込み、弾が動いたことに気付いたあとから大剛も乱入し、彼らによって他の団員達は次々に投げ飛ばされた。
そして、最後に残ったのは柳瀬ただ一人。
「うそ……相手は刃物も持ってるのよ!?」
「投げ飛ばされたくなかったら、とっとと失せな?」
大剛は拳を柳瀬へ向けた。
「あ、あんた達こそ何をしたかわかってんの!? 訴えるわよ!?」
柳瀬は言い返すも、それは無駄だ。
「やってみろ。だが、お前の方こそ暴力団を使って脅しに来たことには非があるぞ? 元はと言えば。アンタらの雇った団員の一人が勝手にキレてこっち側に手を出したのが始まりだ。それはここに居る連中全員が証言できる。俺たちは自己防衛のために手を出したまでだ。裁判やるなら大方あんたらに非が出るぜ?」
弾の台詞に、柳瀬は返す言葉が出なかった。
「くぅ……!」
彼女は、苦虫を噛みしめ暴力団と共に去ってしまった。
連中がいなくなった途端、境内には三人をたたえる喝采が響いた。
「いい気味じゃわい!」
「はっはっは! 連中め、尻尾を巻いて逃げてったぞ?」
「スゲー! あの人たち何もんだよ?」
喝采の中で、玄弖は箒に手を伸ばした。
「篠ノ之、大丈夫か?」
「あ、ああ……」
箒は赤くなって彼を手を握った。
――あのとき一瞬、一夏の面影と重なったのはどうしてだろう……?
そのあと、若者による三人の武勇伝は語られ、玄弖達の評判は上がって、改めて村人たちに歓迎された。

その夜、舞の練習を終えて縁側に腰を下ろす箒は、今日助けてくれた玄弖のことが妙に頭から離れることができなかった。
――八文字……玄弖……
何度も、彼の名前を思いだし、そしてあの時自分に向けた眼差しを思い返した。
自分が思いを寄せ続ける少年、織斑一夏と重なり、一瞬だが彼にときめいてしまった。
「いかん! いかん! 私は一夏一筋なんだ……」
その思いは、幼い頃から変わらない。これまでぶれることなかったその恋愛感情を今更……
「寝るか……」
明日は本番だ。変なことに気を取られるようではだめだ。彼女は、そのまま立ち上がると自室へ向かおうと縁側の廊下を歩いた。
しかし……
「!?」
外の方で大きな物音が聞こえた。不審者かと真っ先に思う彼女は、恐る恐る玄関の方へと向かった。
「誰だ……?」
玄関から外へ出て辺りを見渡した。しかし、誰もいない。見えるのは夕日が沈んで薄暗くなりだした境内だけだ。
――気のせいか?
単なる空耳かと思い、彼女はため息交じりに家へ戻ろうとしたが……
背後から忍び寄る両手が彼女の口を布で縛った。
「んぅ……!?」
モゴモゴともがく箒だったが、布に塗られた睡眠薬を嗅いでしまい、彼女の意識は徐々に遠のいていった……
「おお……こいつは願っても見ねぇ上物が手に入ったぜ?」
「こいつで俺らの勝ちだなぁ? ケッケッケ!」
眠らされた箒の体を二人の男たちが境内から運び出した。
それから雪子が箒がいないことに気付いたのは、彼女が連れ出されてしばらくしてからのことである。

「なんだ……?」
早朝から外が騒がしく、寝て居られる状態ではなかった。玄弖は、寝癖の頭をかき回すと布団から起き上がって外へ出た。
すると、そこには老若男女の村人達がいったり来たりを駆け回っては大慌てしている。
「本当に……なんだ?」
これは普通じゃない事に気付いた彼は隣で寝ている大剛と弾も起こして外の状況を見せた。
「こいつは……普通じゃないな?」
「何があったんだ!?」
「……あ! 玄弖さん!?」
通りかかった若者が玄弖達に気付いて立ち止まると、三人にもこの自体を話した。
「大変なんです! 篠ノ之神社の箒ちゃんが昨日の夜から居なくなったんです!!」
「何だって!?」
玄弖は目を丸くすると、その若者に連れられて三人は公民館へ向かった。
公民館には、村長をはじめとする村の長たちが集まって緊急会議を開いていた。
「……本当に、何があったんですか!?」
あの箒が行方不明なんて何かの間違いだろう? そう思って、玄弖は今一度、村長達にも尋ねた。
「ああ、箒ちゃんが昨夜から居なくなったんだ。もう、徹夜でこの一帯を探し回っているが一向に見つからんのじゃ」
「そんな……なぁ、俺たちも探しに行くぞ!?」
三人は、箒の捜索に協力して公民館を後にしようとしたとき。一人の若者が小さい箱を小脇に抱えて駈け込んできた。
「た、大変です! これを見てください!?」
若者は、村長らに手渡した。あて先は……
「獄門組!?」
村長は叫んだ。獄門組、確か昨日来たあの暴力団達だ。玄弖は、思いだした。
箱の中には、一枚のディスクが入っていた。DVDだ。
「まさか……!?」
村長は、嫌な予感と共に室内にあるデッキにそのDVDを入れてテレビに再生して映した。
村人全員は固唾を飲んで映し出される映像をまった。そして、
「そんな……!?」
目の前には、まだ巫女の姿でいる箒が映っていた。それも、ガムテープで体をグルグル巻きにされて椅子に縛り付けられている姿で映り、暗い部屋の中へ閉じ込められていた。
「箒!?」
玄弖達もその映像を見て、彼女の名を叫んだ。
時期に、映像から聞き覚えのある男たちの声が流れてくる。
『聞こえるか? 村人共、テメェらがどうしてもいうこと聞きやしねぇからこっちは人質を用意させてもらったぜ? この嬢ちゃんが見えるか? 篠ノ之神社の娘だぞ? もし、この娘を返してほしかったら、わしらと交換条件といこうや? 箱と一緒に入っている書類にサインして今日の夕方までにうちらの事務所へ届けに来い。いいか? 今日の夕方までやぞ?』
映像は終わると、村長は箱の中から一枚の白い髪を手に取る。それが、映像の説明にあった書類である。それは、篠ノ之神社の土地を譲る証明書であった。
「け、警察じゃ! 警察へ連絡じゃ!?」
「よせ! 下手にやると、箒ちゃんの身が危険じゃ……」
「じゃあ、どうすればいいんだ!?」
村人たちの間に口論が飛び交った。しかし、そんな中で一人の冷静な言葉が場を沈めた。
「落ち着け、こうしている間にも時間だけが過ぎて行くんだ。今こうして騒いでいても仕方がない……」
弾である。彼の一言が、この場に沈黙を作った。
「弾、何か良い案でもあるのか?」
と、大剛。
「あるっちゃあるが……俺たちに出来るかどうかだ」
「どういうことだ?」
謎めいた弾の発言に玄弖は首を傾げた。
弾が言うには、RSを持った自分ら三人で箒を救出しようというのだ。確かに、暴力団の連中相手ならRSでどうとでもなる。しかし、相手には人質がいる。ただ、襲撃すればいいってわけではない。
「相手に気付かれることなく颯爽と人質を救出する技が必要だ……」
腕を組んで弾が悩んだ。彼にそのような機能は無い。
「俺のステルス機能じゃ体を透明にすることはできないしな?」
弾は空いた時間に自分のRSの性能を全て調べておいた。勿論玄弖や大剛もちょくちょくと。
「俺のもダメだ……弾みたいなステルス機能はあるんだけどね?」
大剛もお手上げだ。
自分たちは、軍の特殊な潜入兵ではない。あくまでも民間人だ……
「……あ、俺こういうのできるよ?」
玄弖は手始めに二人の前で飛影による瞬間移動を見せた。
なんと、彼の姿は一秒もしない間に二人の背後へ回ることができた。これにはさすがの弾もお手上げであり、二人は迷うことなく玄弖に重役に抜擢させた。また、玄弖本人も箒を救出したい気持ちは誰よりも強かったため、彼も戸惑わずこの任を受け入れた。
作戦は、やや単純だが玄弖は単身で獄門組のアジトへ潜入して内部の敵を一人残らず潰していき、最後に残った人間に箒の居場所を吐き出させる。一方の弾と大剛は、外からアジトへ入ってくる組員を倒して、彼らからも情報を聞き出す。
「良い作戦かどうかわからないけど……」
「ああ!絶対にやり遂げて見せようぜ?」
「んじゃ……作戦開始だ!」

一時間後、獄門組アジトにて

獄門組のアジトは、村から少し外れにある人通りの少ない山中に建てられた小さなビルである。そこから、一台のリムジンが出てきた。
「……てなわけでして、篠ノ之神社の小娘を一人誘拐させて人質にしました。そうすれば、奴らも止むを得ずあの書類にサインするかもしれませんからね?」
と、ゴマすりをして組長がリムジンの後部席に座る柳瀬に言う。
「女を人質ってのはムカつくけど、一様やることはやったのね?」
「ええ……ですので、今後ともウチの社を御ひいきに?」
「フン……まぁ、いいわ? しばらくはこの社会で生かしてあげるわね?」
見下した視線で柳瀬はリムジンで去っていった。
「ケッ! ホンマ女っちゅうもんは気に入らんわい!!」
地べたに端を吐き捨ててそう愚痴った組長は、ノソノソとアジトへ戻った。
「しかし組長、これでウチらもようやくデカい組みへ出世できますな? 今までチンピラ扱いされてましたさかい、今度からは連中をアッと言わせてやりましょうや?」
お調子者の団員が、そう不機嫌な組長に声をかける。
「まぁ、そうやな? よっしゃあ、今夜はパーッといくで? そんの前に、あの箒っちゅう娘……」
「へい……?」
「ありゃあガキにしちゃあ上物や。村人たちに返す前に楽しませてもらおうや?」
「お! いいっすね?」
「よし、そうと決まれば……ん?」
ふと、組長の後ろ首に衝撃が起こった。すると、それは徐々に鈍い痛みと共に意識が遠のいていった。
組長は何があったのかわからないまま倒れると次に周りに居た団員も次々に倒れて行った。
周辺の人間全員が倒れたところで、一人の青年の姿がフッと現れた。
「これでいいか?」
玄弖である。彼が、後ろへ振り向くと草むら身を潜めている弾と大剛が出てきた。
「ああ、上出来だ。後はアジトの連中をシメてやりゃいいだけだな?」
弾は、倒れた団員を見下ろすと、大剛と一緒に連中を束ねて縛り上げた。
「おっ! 一人だけド派手な色したスーツのオッサンがいるぞ?」
大剛が、紫色のスースと来た中高年の男を弾に見せた。
「おそらく、カシラだろ?」
弾は、その身形を見て答えた。
「ラッキー♪ 早々に重要人物をゲットだぜ?」
「そんじゃ、俺行って来るわ?」
玄弖は両手に飛影を握りしめてアジトへ潜入した。
だが、彼が戻ってくるまでそんなに時間はかからなかった。たった十五分ほどで、玄弖はアジト中の団員をやっつけて、彼らも外の連中と同様に縛り上げて戻ってきた。
「これで、内部の敵は大丈夫か?」
弾が確認する。
「ああ! バッチリだぜ?」
「じゃあ、玄弖は引き続きアジトの中に箒が監禁されていないか探しに来てくれ? 俺と大剛はこの組長らしき男を叩き起こして聞き出す」
弾の指示に玄弖はフッと姿を消して再びアジトへ戻り、その間に残りの二人は組長を叩き起こして尋問を行った。
「た、助けてくれぇ~! 金はいくらでも払う! だから命だけは……!」
最初は強がって怒鳴り散らしていたが、弾の冷血な表情と口調で徐々に青ざめていき、今ではこの様である。
「命が欲しいなら、箒の居場所を教えちまいな? それとも、活け造りにされたいか?」
「わ、わかった! 言う! 場所は……」
組長は白状して彼らに箒の居場所を教えた。しかし、その場所はアジトではなく廃墟になった工場のとある倉庫の中であった。それも、ここからやや遠い場所でもある。
「エリア20の第7ブロックか……こりゃあ、少し遠いな?」
「なに、俺のスピードをもってすればあっという間だ」
そんな戻ってきた玄弖に、弾はまた彼に指示を与えた。
「玄弖、エリア20の第七ブロックへの行き方はわかるか?」
「ああ、飛影がナビゲーションしてくれるから困ることはない」
「なら、先に第七ブロックへ向かってくれ? 俺と大剛はコイツラを白状させてから柳瀬のところへ行く。これで、蓮の池サロンも終わりだ」
「ああ、箒の救出は任せろ!」
玄弖はそう二人に背を向けると、再び姿を消した。
「さぁ~て?」
と、弾と大剛は両手をボキボキ鳴らして組長の元へ歩み寄った。
「洗いざらい、容疑を全て白状させてもらおうかぁ?」
「ひいぃ~!!」

そのころ、第七ブロックでは

第七ブロックの廃棄工場にある格納庫エリアの一つに、箒は監禁されていた。
彼女の目の前には暇そうに門番をしている団員が二人いる。
そんな中で、椅子に縛り付けられている箒は必死で助けを求め続けていた。
――助けて! 一夏……
その中で、最も自分が思いを寄せる少年に救いを求めた。しかし、そんな彼女の思いに答えて彼が駆けつけに来てくれるはずがない。だが、きっと誰かが助けに来てくれると諦めずに待ち続けていた。
「今頃、組長は柳瀬から莫大な金貰ってる頃だろうな?」
一人が携帯をいじくりながら相方の人間に尋ねた。
「そうじゃね? ったく、あの柳瀬ってアマ……女だからっていい気になりやがって!」
「ま、いいさ? 金さえ入ったら闇界にでも行って、メス豚共をいっぱいむさぶりつくそうぜ?」
「おお! いいな? 早く分け前もらえねぇかな?」
しかし、そんな二人の会話がプツリと止まった。鈍い打撃音と共に二人の門番は何があったかも知らずに椅子から転がり落ちてしまったのだ。
「!?」
箒はその光景に目を丸くさせる。それと同時に、自分を縛り付けるガムテープがバラバラに引き裂かれていた。
「箒! 怪我はないか?」
「玄弖……?」
「よかった。その様子だと何もされていないようだな? 立てるか?」
「う、うむ……」
――玄弖、か……?
彼の面影が再び一夏と重なってしまった。しかし、助けてくれたのは嬉しい。彼女は玄弖に手を引かれて倉庫を出た。
だが、倉庫を出た二人を待ち受けていたものは、目の前の爆発であった。
「ぐぅ……何だ!?」
目の前が爆風で広がる。煙が止んだ先には、数体のISが浮上してこちらへ一斉に銃口を向けていた。
「逃げられると思って? 何もしないほど私はバカじゃないわよ?」
ISの真下には両腕を組む柳瀬の姿があった。
「くそっ……そうきたか!?」
「貴方達が何者かは知らないけど、ISと互角状に戦える存在ということはこちらも耳にしているわ? そんなイレギュラーを生かしておくこともできないし……あなたには悪いけど、ここで死んでおらえるかしら? 坊や!」
柳瀬は、一斉に頭上に浮くISの集団へ命ずると、IS達は銃口を玄弖と箒へ向け始めた。
――くそ! 箒を置いて戦うなんて出来ない! こんなとき、どうすりゃ……?
「覚悟をおし?」
柳瀬は勝ち誇っていた。しかし……
彼女の頭上のISは次々に爆発していった。
「!?」
何が起こったのかわからずにIS側に動揺が起こり、パニックに陥るがそんな暇も与えずにISは次々に撃破されていく。
「な、なに!? 何が起こっているの!?」
柳瀬は、その現状に目を丸くさせた。そして、気付いたころには玄弖達を殺すはずのISは全て撃ち落され、操縦者たちは一瞬で負傷者へと変わっていた。
「ど、どういうことよ!? たった一瞬でISの部隊が!?」
「間に合ってよかったぜ?」
玄弖の背後から聞こえたその声、弾達であった。
「弾! 大剛も!?」
「遅くなって悪かったな?」
斬兒を担ぐ弾は、シュタッと地面へ降り立ち、柳瀬を睨んだ。
「お前の負けだ。柳瀬!」
「諦めて降参するんだな?」
と、鈍龍を軽々と担ぐ大剛。
しかし、柳瀬の悪足掻きは止むことを知らない。彼女は、バッグから一丁のハンドガンを取り出したのだ。
「まだよ……まだよ!? アタシがこんなところで負けるはずがないじゃない!?」
「ったく! わからずやめ!?」
諦めの悪い柳瀬を、弾が睨む。しかし、そんな彼女の抵抗もむなしいまま終わる。玄弖が好きを見て飛影の一つを飛ばし、そのクナイが彼女の握る拳銃を切り裂いたのだ。
「!?」
驚いて腰を抜かす彼女の耳元に、無数のサイレンの音が鳴り響いた。それも複数の音がこちらへ近づいてくる。複数のパトカーの群れだ。
「け、警察!? どうしてっ!?」
柳瀬は後ずさりながらこの状況が理解できなかった。確かに、自分たちの計画は完璧だと思っていたのに……
「獄門組の組長が、洗いざらい白状してくれたぜ? オマケに自主もしてくれたんだから、こうなればアンタも警察のお世話なるしかないよな?」
意地悪そうに言う弾の声に、柳瀬は顔を真っ青にすると、ガクッと膝が落ちて地面にへこたれた。
「そ、そんな……?」
これで、彼女の敗退は決定した。後に、柳瀬は警察に誘拐罪及び脅迫で逮捕され、獄門組もろとも全員が御用となった。

三人は箒を連れて村へ戻った。村では喝采が絶えず、再び玄弖達の武勇伝が村の歴史に刻まれることになった。
こうして、いろいろとあったものの、無事に今年も夏祭りが篠ノ之神社で開催されることになった。
一件落着っということで祭りは今まで以上に大賑わいだと村人の長たちが歓喜にあふれていた。箒にも怪我はなく、今年も無事に舞が踊れるようだ……
「うぉー! このリンゴ飴ってウンメェ!!」
他にもたこ焼きや焼き鳥などを両手に大満足の大剛、そして隣では酒瓶を片手に酔いつぶれる弾、そして玄弖は……
「えっと……」
箒に声をかけようとして緊張していた。彼女は、社務所で奉仕をしている。そこへ行って「もしよかったら、一緒に屋台を回らない?」と、誘うのだが……
――ああ! くそう! どうして勇気が出ないんだ? ちゃんとしろ俺!?
こうしている間にも時間だけが過ぎて行く。
「よし!」
覚悟を決め、玄弖は思い切って彼女の元へ歩み寄り、そして……
「箒……」
「ああ……ここにいたか?」
だが、玄弖の目の前を一人の少年が遮り、箒に声をかけた。
「い、一夏っ?」
「随分と、女らしいな? 箒」
「お、女らしいだと!?」
顔を真っ赤にして箒は怒った。
「まぁ、今回はお前の舞を楽しみに来たんだ。良いところ見せてくれよ?」
「あ、当たり前だ! お前なんかに言われるまでも……」
「そうかい? じゃあな?」
「あぁ……! ま、待て!?」
「あん?」
一夏はめんどくさそうに振り向いた。
「いや、その……」
しかし、咄嗟に呼び止めてしまったため本題など考えていなかったことに箒は顔を赤くする。
「何だ?」
「えっと……」
「あら! 一夏ちゃんじゃない?」
「おばさん?」
そこへ、伯母の雪子が現れ、彼女は箒にこう言う。
「箒ちゃん? まだ舞まで時間があるんだし、一夏ちゃん達と屋台を回ってもいいわよ?」
「え、でも……」
「いいのよ? いってらっしゃい?」
「あ、ありがとうございます……」
そんな、箒と一夏の光景を玄弖は呆然と見ていた。
――もしかして、箒の彼氏……?
玄弖は、一瞬頭の中が真っ白になった。
――嘘だろ? どうして……
受け入れがたい現実に気力を失う玄弖は、ふらふらと境内をふら付いていた。彼は、ある境内の片隅の石に腰を下ろし、ボンヤリと足元を眺めていた。こうして落ち込んでいる間は祭りの賑やかな音などただの雑音に過ぎない……
「……」
「あれ? 玄弖くんじゃない?」
「……?」
親し気な声に、足元ばかりを見つめていた彼はふと上を見た。
「やぁ? 調子は……どうなの?」
「アンタは……?」
「忘れた? ほら、君達に家を紹介した、ラルフ・ヴィンセクトだよ?」
「……ああ、あの時の?」
「って、いうか……どうしたの? すごい、優れない様子だね?」
「スンマセン、しばらく一人にさせてもらっていいですか……?」
「そ、そう? まぁ、気を病むんじゃないよ?」
すると、ラルフの背後から浴衣を着た金髪の少女が手を振って彼を呼んでいた。
「ラルフ―! リンゴ飴食べようよ?」
「っせーな! ……ごめん、じゃあね?」
「彼女ッスか……?」
「100パーセント違うよ?」
最後にそれだけきっぱり言うと、面倒くさそうに彼は少女の元へ戻っていった。
「……」
それから、玄弖は再び落ち込み続ける。だが、そんな彼の元へまた新たに彼へ声をかけてきた。
「あの……八文字玄弖君かしら?」
「……?」
再び顔を上げると、そこには雪子が彼に微笑んでいた。
「どうもッス……」
「どうしたの? こんなところで?」
「まぁ、ちょっと……」
「箒ちゃんのことで悩んでいるのかしら?」
「え……!?」
図星をつかれて驚く玄弖に雪子は微笑みながらこう言う。
「箒ちゃんのことが……好き?」
「別に、その……」
「箒ちゃんはね? ずっと、前から一夏君のことが好きだったらしいの」
「そんな幼馴染に、俺なんかが敵うわけないじゃないっスか?」
「でもね? 近頃になって、夕飯の食卓でよくあなたのことを話してくるのよ? あの子」
「え……?」
「最初は変人かと思ったけど、律儀に形見の首飾りを持ってきてくれたり、虐めっ子達から守ってくれたりって、そして今日も箒ちゃんを助けてくれて……今日は本当にありがとう? 私は、是非今夜の祭りを貴方に楽しんでもらいたいの。だから、そんな所でいじけてないで、箒ちゃん達と楽しんでらっしゃい?」
「ありがとうございます……でも、俺はやっぱり」
すると、雪子は両手で玄弖の両手をギュッと握りしめた。
「大丈夫! 本当は箒ちゃんも、一夏ちゃんか貴方のどちらにしようか迷っているようなのよ? 本当は、一夏ちゃんには比奈ちゃんが付き合っててね?」
「え? 比奈ちゃんが?」
「もう一夏ちゃんは比奈ちゃんと一緒になちゃったから、箒ちゃんに諦めるよう言おうと思うの。そのかわり、玄弖君のことを勧めてあげるわ?」
「ほ、本当!? 俺なんかが……!?」
「ええ、私も貴方のことが気に入ったの。あなたなら箒ちゃんにピッタリだと思うわ? 貴方達が村に来て以来、貴方は毎日箒ちゃんの元へ会いに行っては楽しそうにお喋りをしているんですもの。あんなに笑顔で笑う箒ちゃんは久しぶりに見たわ?」
「……」
「玄弖君? 箒ちゃんは、本当はあなたのことも好きなのよ?」
「マジ……ですか?」
「ええ、篠ノ之神社神主代理に二言は無いわ? さあ、箒ちゃんのところへ行ってらっしゃいな?」
「でも……今更、俺みたいなよそ者が混じっても、いいんですか? それに俺シャイだし?」
照れくさそうに頭をかく玄弖だが、そんな彼に雪子はまた微笑んだ。
「フフフ、満更そうではないようよ?」
と、雪子は後ろへ振り返った。
「く、玄弖……?」
そこには、巫女装束を着た箒がこちらへ歩み寄ってきた。
「箒……?」
「探したんだぞ? こんなところに居たのか?」
「まぁ……ね?」
玄弖は苦笑いをした。
「其方も来い、一緒に屋台を回ろう?」
「え、でも……」
「今夜の主役はお前たちなんだぞ? なら、そんな所へ居ないで一緒に来い?」
と、箒は赤くなりながら笑顔で彼に手を指しのばした。その、彼女の柔らかな手を握り返していいのだろうかと、玄弖は本気で迷った。しかし……
「……ああ」
彼は箒の手を握り返して立ち上がり、共に屋台へと向かった。
「フフフ、本当に箒ちゃんは本気で迷っているようね?」
雪子は、そう二人の背後を見送った。
「どうも、八文侍玄弖さんですよね? 俺、織斑一夏っていいます!」
箒に連れられて早々、一夏が彼に歩み寄ってきた。今後とも新しい仲間と聞くので是非仲良くしたいとのことだ。
「ああ……どうも? 織斑君」
「一夏でいいですよ?」
――何だ、案外悪い奴じゃないみたいだ……
ホッとしたのか、玄弖はホッと胸をなでおろした。そして、気まずい答えでこう答える。
「その、箒とは……友達?」
まさか、恋人とは言えまい。しかし、一夏は。
「友達っつうか、腐れ縁っつうか……まぁ、微妙な感じっすね? でも、コイツの舞は凄いですよ?」
――彼氏って言う意識はないみたいだな?
これで少しホッとする玄弖。
「あんれ~!? そこに居るのは、一夏ちゃんじゃん!?」
「弾、酔いすぎだぞ?」
そんな所へ、割りこんできた一人の酔っ払いと、そんな彼を担ぐ合い方だった。
「もしかして……お前、弾なのか?」
結構雰囲気が変わっているようだが、赤いロン毛は言うまでもなく幼馴染の五反田弾である。
「イっく~ん!!」
と、弾は勢いよく一夏へ抱き付いてくる。
「あ、こら! 離せ!? いきなりなんだよ!?」
「ゴメン……彼、凄い酔ってるみたいで?」
申し訳ないと、一夏にそっと大剛が詫びた。
「全く! 騒々しい連中だな?」
と、騒がしい一夏達を見て箒はため息をついた。
「いいじゃないか? 今日だけはさ?」
「うむ、そうだな……」
玄弖の声に続いて箒は微笑んだ。
玄弖は、その後箒と屋台を回った。箒は、一夏も誘おうとしたが、彼は既に比奈に連れられていなくなってしまい、玄弖と二人きりで夜店を回ることになった。
しかし、出店というものを知らない玄弖は、屋台の店を一店一店に箒が説明したり、共に食べ歩きをしながら楽しんだ。
箒も、そんな屋台に興味を持つ玄弖を見るのが面白く、綿菓子に驚いたり、リンゴ飴を見て目を丸くするなど、玄弖の意外な一面に魅かれていた。
「へぇ~ これが、バター飴ってやつか?」
飴にしゃぶりつく玄弖は、すっかり屋台を堪能していた。
「面白いか?」
隣で箒が問う。
「ああ! もう、最高だよ。本当に面白いな? 祭りってのは!」
「気に言ってくれて、良かった。それと玄弖?」
「ん?」
箒は、やや照れながら彼にこう言う。
「その……この後、私が巫女の舞をやるのだが、見てもらえたらうれしいんだ……」
「え、舞?」
「ほら、舞台を組み立てていただろ?」
「ああ、あれか? そうだな、是非見てみたい! 今から始まるの?」
「あ、ああ……」
「もちろん見る! 絶対に見る!! 箒が舞か……」
「う、うむ……」
箒は、恥ずかしがっていたが、それでも玄弖が楽しみにしてくれていることを知って、内心嬉しく思った。

鼓笛の音色に会わせて華麗に舞う箒の姿は、村の若者全員を魅了させる。特に、それを真正面から眺める、玄弖にとって箒は天女のように思えた……
「スゲー綺麗だ……」
玄弖は、ただ彼女の舞だけを見つめていた。
――玄弖……
そんな彼に見つめられている箒は、緊張していたものの、次第にほぐれていき、楽しむかのように舞を踊ることができた。それと同時に、玄弖に見つめられることで次第に胸が苦しくなる。
――緊張がほぐれているというのに、見つめられると胸が締め付けられるのは何故だ?
舞を終え、装飾品を外した彼女は、ふたた玄弖の元へ戻った。
「どう……だった?」
「ああ、凄い綺麗だったよ?」
「え……!?」
一瞬箒は、玄弖に真顔でそのように答えられたために顔を赤くしてしまう。そんな彼女に、玄弖は続けた。
「本当に綺麗だった……俺、お世辞なんて言うつもりはないから」
――玄弖……
しばらく無言になる箒は、意を決して彼を思い出の場所へ案内することを決意した。
「玄弖、少しいいか?」
「え? ああ……」
「お前に、見せたい場所がある」
「俺に?」
「ついて来い?」
箒は、玄弖を連れて篠ノ之神社の境内を裏口から出て、薄暗くて狭い山道の丸太階段を上がった。
「ここは……?」
そこは、ある高台だった。そこからはメガロポリスの風景を一望できる。これほど、素晴らしい景色を拝める場所は他にない。
「いつも、ここから祭りの後に打ち上げられる花火を見ていたんだ。今宵は、お前と見たくてな?」
「箒……」
しかし、そんな箒を見ていると、玄弖は彼女が悲しい顔をしているように思えた。そして、聞いてはならないことかもしれないが、玄弖は彼女にこう問う。
「箒?」
「どうした?」
「……一夏って奴の事、好きなのか?」
「……」
箒は黙った。やはり、気にすることだったと思って玄弖は慌てて謝罪した。
「すまん! 嫌な事、聞いたよな?」
「いい……別に隠すような事ではない。今となってはな?」
「え?」
「玄弖……本当は、私はお前に会うまでは一夏のことが誰よりも好きだった」
「……」
「だが……私は、どれほど彼に恋愛表現をしたところで、一夏は私に気付いてはくれず、むしろもう一人の幼馴染の比奈と、相思相愛になりつつあった。一夏は、比奈と結ばれるのが相応しいのだと、改めて思い知らされたんだ」
「箒……」
「玄弖? 私は……好きだということを一夏に気付いてもらえず気を病み続けていたところを、ふいにエリア14へ迷い込んでしまったのだ。そこで、危ないところをお前に助けられたのだぞ?」
微笑む箒が、玄弖へ振り向いた。
「最初は、お前をただの変人としか思っていなかった。だが……お前が私にペンダントを届けてくれたり、嫌な女子たちに対して私のために怒ってくれたりして、それと、私に会うために遥々エリア20の集落まで足を運んでくれたことも嬉しかった。そして、今日私のためにお前は……」
「はは! 気にするなって? 俺も……好きな奴のために……」
「え?」
最後の台詞は聞き取りにくく、微かに聞こえただけで、それでも箒はそんな彼の言葉を聞き逃したりはしなかった。
彼女も、本当は一夏以外の男性で玄弖のことが好きになっていた。エリア14で助けてくれたときや、学園で相手はISを持っているのにも構わずに自分のために怒ってくれたこと、本当はその時、嘗ての一夏の面影と重なってしまい、このときから玄弖に対して恋心を芽生え始めていった。
そして今回、わざわざエリア20の集落まで会いにきてくれたことと、柳瀬の手から自分を救いだしてくれたことで、玄弖への恋心はさらに膨れ上がった。今となっては、一夏同様に玄弖のことが好きと思えるほど同等の思いを寄せるようになったのだ。
「けど……やはり、私は一夏のことがどうしても忘れられなかった。何年もかけて愛し続けた愛人を諦めてしまうのが、今までのそのために頑張ってきた自分を裏切ってしまうようで怖かった。だが、一夏は私ではなく比奈を選んだ……未練がましい女だな? 私は……!」
目頭を熱くさせた彼女は、ついに泣きじゃくってしまう。そんな彼女に対してどうすればいいのか、玄弖は迷ってしまう。だが、そんな彼女に自分の思いを聞いてもらいたいという衝動が自然と強くなった。そして、彼は彼女の両肩をそっと掴んだ。
「箒……」
「……?」
真剣な眼差しを箒に向けて、玄弖は言う。
「……こんなときこそ、俺はお前に自分の思いを言いたいんだ」
「玄弖……」
「箒、俺は……お前が好きだ!」
「……?」
「お前を、エリア14で一目見た時から好きだった。好きになってしまった故にあの時、収穫と交換して、お前を俺だけの物にしたいと思った。けど……そんなことしたら、エリア14に住む悪どい連中と何も変わりないんじゃないかって……だから、好きだから故に俺はお前を助けた。ペンダントを届けに学園へ忍び込んだ時も、好きなお前に会いたいって言う思いからしたことなんだ……今じゃ、反省しているけどな? だけど……そのあと何度もお前に会いたいという願望にかられて、二人の相棒に無理までさせて、この集落まで来たんだ。だが……そうまでしてお前に会っても、本当は、俺の思いがわかってもらえなかったらどうしとうって不安で怖かったんだ……でも、俺は今日お前を助けたことで、何となしに自身が付いたような気がする。だから、今なら言える! 箒、俺は、お前のことが好きだ!!」
「玄弖……!」
箒はさらに涙を流した。だが、その涙は悲しさを表現するものではなく、真逆の涙である。
「そこまで、私のことを思っていると……私も、お前に今の気持ちを答えなくてはならないではないか……!?」
「箒……」
「玄弖? 私も……お前が、好きだ!」
互いの告白と共に、夜空に花火が舞った……


 
 

 
後書き
二期の予定は未定ですが、いろいろと準備中です。また、何かあったら「後書き」に載せます。 
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