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三度目で

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第四章

「子房様、あの老人難癖をつけているのでは」
「いや、早くと言ったな」
「あの老人は」
「では今度は日の出と共にじゃ」
「ここにですか」
「来てな」
 そしてというのだ。
「それからだ」
「では」
「また五日後な」
 張良はここまで言うと踵を返した、そうして。
 力士も彼についてまた家に戻った、それからは暫く畑仕事をしてだった。
 五日後だ、今度はだった。
 日の出と共に橋のところに力士と共に来た、すると。
 そこにだ、もう老人がいてだった。
 張良にだ、やれやれといった顔でまた言った。
「早くにと言った筈じゃ」
「日の出で早くないと言われるか」
 力士は前に出てだ、老人に掴みかからんばかりにして言った。
「最早それは難癖以外の何者でもないぞ」
「わしは早くと言った」
 しかしだった、老人はここでまた言うのだった。
「早くと、とな」
「だから日の出より早い時があるのか」
「そう言われるか」
「それがどうかしたか」
「いい加減にせぬと怒るぞ」
「怒ってどうするのじゃ」
「だから待つのじゃ」
 ここでだ、また言った張良だった。
「私はわかった」
「わかったとは」
「早くという意味がな」
「ふむ、ではじゃ」
 老人は力士に言った張良の言葉を受けて述べた。
「これで最後じゃ」
「はい、五日後に」
「またここに来るのじゃ」
 その午後にというのだ。
「早くにな」
「わかりました」
「それではな」 
 こう言ってだ、そしてだった。
 張良は力士にだ、家に帰ってから言った。
「早くにと言っておられるな、老人は」
「はい、確かに」
 力士は張良に家の中で答えた。
「言っております」
「その早くという言葉に秘密があった」
「と、いいますと」
「その時に行こうぞ」
「あの橋のところに」
「是非な」 
 こう言ってだ、そしてだった。
 張良はその夜にだ、寝ようとした力士に言った。
「今から行くぞ」
「今からとは」
「橋のところに行くぞ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「夜ですが」
「夜でもじゃ」
 この時間でもとだ、張良は力士に言った。
「行くぞ」
「そうされるのですか」
「わかったな」
「あの、幾ら何でも」 
 力士は起きながらもだ、張良に首を傾げさせつつ問うた。
「夜では」
「いや、今から行くぞ」
「そうですか、子房様がそう言われるのなら」
 従者として異存はなかった、それでだった。 
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