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孤独の女王

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第一章

                 孤独の女王
 ティルピッツについてだ、ドイツ海軍の要人達は誰もが困惑した感情を持っていた。
「折角の戦艦だが」
「率いる艦隊がない」
「任務もない」
「これではただいるだけだ」
「港にな」
 そのティルピッツを見て言いもした。
「折角建造したが」
「それでもだ」
「潜水艦は出撃しているが」
「我々の水上艦隊はな」
 ドイツ海軍水上艦隊自体がというのである。
「何もすることはない」
「それが残念だ」
「ただあそこにいるだけなのが」
「我々としてもな」
 海軍軍人として思うのだった、ティルピッツに出撃任務がなくただ港にいるだけの状況がだ。彼等には無念だった。
 しかし彼等の敵であるイギリス海軍の要人達はだ、常に言っていた。
「厄介な戦艦だ」
「ビスマルクは沈めたがな」
「ティルピッツ一隻あるだけでだ」
「意識せざるを得ない」
「早く何とかしたいが」
「港から出ない」
 その港から出ないことがなのだ、彼等にとってはだ。
「港から出て来れば戦えるが」
「戦って沈めることが出来るが」
「ああして港から出ないと」
「どうしようもない」
「空から攻めるか」
 航空機を使う作戦がここで言われた。
「艦載機を使うか」
「若しくは工作か」
「人間魚雷を使うか」
「それは危険だ」
 人間魚雷、イギリス軍が持っている兵器の一つだ。その名をチャリオットという。
「作戦に参加した者が生きて帰られるかどうかわからないぞ」
「では駄目か」
「それでは航空機か」
「艦載機を使うしかないか」
「しかしだ」
 航空機、艦載機なりを使うにしてもだった。
「相手は戦艦だからな」
「相当な攻撃でないと駄目だな」
「それこそ日本海軍が我々にした様にな」
「太平洋でな」
 プリンス=オブ=ウェールズ、レパルスを沈められたことは彼等にとってトラウマとなっている。あまりにも見事に撃沈されたからだ。
「港にいるから狙いやすい」
「では艦載機なりで攻撃出来るな」
「何なら空軍に助力を頼んでもいいな」
「それはあまり望ましくないがな」
 海軍の仕事は海軍でしたい、この感情故に思うことだ。
「とにかくあの戦艦を何とかしないとな」
「目障りだ」
「戦艦一隻でも驚異だ」
「率いる艦隊はなく出撃してこなくとも」
「ただいるけでだ」
「厄介なことこの上ない」
 とにかくティルピッツが邪魔で仕方なかった、彼等にしては。それでだった。
 実際に空から爆撃を仕掛けたこともあった、だが。
 やはり相手は戦艦だ、被弾してもだった。
 ティルピッツは沈まない、ドイツ海軍の者達はバルト海の港から動かない戦艦を見ながらそのうえで言った。
「よく爆撃しに来るものだ」
「ただここにいるだけの船にな」
「出撃なぞ出来ないというのに」
「いつだけだというのにな」
 それでもというのだ。
「よくこの港まで来るものだ」
「どうしてそこまで必死なのか知りたいものだ」
「率いる艦隊もない戦艦だというのに」
「出撃して戦うことなぞゆめ物語だというのに」
 それでもというのだ、彼等はこう言うのだった。 
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