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剣士さんとドラクエⅧ

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87話 泉

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 少し、小屋から更に奥へ行く。魔物は盛大に倒しておいたからしばらくは襲ってこないはず。見せしめにしてあんまり来ないようにするために久しぶりに料理しておいたし。ぺなぺなのハムみたいな薄切りにサイコロステーキに……これは……言うならば肉のたたき?ああ、私は趣味があんまり良くないみたいだね……私も我ながら良くないセンスだと思う……。あ、でも効果はあるみたい。気配が全てなくなった訳じゃないんだけど、びくびくしてこっちに来なくなったからね。結果オーライ?

 泉に向かって、足音を消したり気配を殺したりせずに自然体を努める。外で戦ってるわけだから殺気は完全に消せてないかも……ここまで慎重なのはもうこの鏡についていろいろ考えるのめんどくさいからだよ……めんどくさい?えっと、それは言葉の綾というか。もうここまでやってるんだからドルマゲスにカチ込んでもいいんじゃない?って我慢の限界というか。あんなよくわからないもやもやに守られた軟弱なんて……早くぶっ飛ばしたいよね!軟弱というのには強敵だと思うけど!油断大敵!

 エルトを先頭にして恐る恐る入ってみたけど、あまりの光景に私は泉に駆け寄った。というかみんなで駆け寄った。

「……綺麗」

 木に囲まれたその場所。きらきらした泉の水は反射なのか、魔力がこもっているのか七色に輝いていて……神秘的とか綺麗とか、そんな陳腐な言葉では言い表せない。それはリーザス像のある場所の神聖さと一緒で今いる人間には再現できないように感じられて……。

 って、リーザスと一緒なら頭痛を伴う脱色現象だから勘弁して欲しいんだけど!……意識したら頭が割れるようにキリキリ、平衡感覚を害した時みたいに真っ直ぐ立っているのが辛くなって、……なんだか、痛さで幻覚見えてるのかも。

 私に見えている光景。《《見えないはずの右目が見えてるから平衡感覚がおかしくなってるんじゃ……。》》ぼんやりしていた右目の視界はだんだん鮮明になっていって、この十八年の新しい人生で《《一度たりとも》》見えなかったはず、なのに……前世と同じく、両目の景色が見える……。

 同時にチョーカーの下の古い傷跡が燃えるように熱い。痛くはない、けれど……どういうことなんだろう。これ以上ここにいたら私、使い物にならなくなるかも……。広がった視界ではっきり見える長く伸ばした前髪は当然というか、銀色。

「……ここまで不思議な魔力に満ちてたら何かしらあるかもしれないとは思っていたけど、トウカ、大丈夫?」
「大丈夫……じゃない……」
「……おい、座り込むならそんな縁は見てて怖いからやめとけよ」
「無理……」

 くらりとしてしゃがみこんでしまいそうになればなんとか支えてくれた。ククールは余裕そうな声色で、でも腕をプルプルさせながら支えてくれている。……ちょっと踏み込んだだけで地面にひび割れを作れるぐらい重いからだよね。ありがとう、そしてやたら武器と防具を持っててごめん。本当にごめん。自力で移動は無理。というわけでククールが力尽きればべしゃっと地面とご対面。泉には落ちずに済んだけど……。

「……ここにいたら、頭痛いけど、……なんか、右目が見えるんだけど……」
「は?」
「生まれつき、見えないはず……ちょっと見てくれない……鏡が先でももちろん……」
「ちょっと見るぞ」

 そう断られて右目の前の前髪が払われる。……ククールはわかりやすく、息を呑んだ。なになに、充血してるとか?左目と同じように紫になったんじゃなくてもっと気持ち悪い色になってたとか?エルトやヤンガス、ゼシカもこっちにやってきたけど……なんで何も言わないんだろう。見えてるとは思えないような感じ?それとも痛すぎて幻覚見てるだけでそんなことはなさそう?

「泉に映して見てみて、トウカ」
「自分で見ろって……?」
「見たらわかるかも」

 エルトに言われた通り泉を覗き込む。きらきらした水はやっぱりとても綺麗で底まで見える透明で、その水面には明らかに体調最悪な私がいる。前髪をおさえてじっくり見ようと乗り出して目を凝らす……うーん、両目とも普段の黒とは似つかぬ紫色。

 問題の右目は……どうだろう。目をじっくり凝らして、乗り出して、見ようとする。すごく頑張ってククールが落ちないようにしてくれた。……バイキルトしたら、どうだろう。ともあれ、ありがとう。

「……先客かの」

 ん……これはマホトーン?瞳の奥に何故か明るい光がチラチラしている、と思って見てみればそれは……エルトとかが使えるマホトーンの特徴的な光にしか見えなかった。それはずっと、ずっと、何度も何度も繰り返して。じっと見ていればどうしてか、マホトーンはどんどん大きく見えていく。右目で踊る魔法は体も、足も、腕も……つま先や髪の毛にも宿っているように見えた。

 私はずっと全身を繰り返し繰り返しマホトーンをしてるってこと?そういう、特異体質ってことなのかな?だから私は魔法が使えないの?でも、マホトーンされたからといって魔力がないわけじゃない。魔力が出力されないから魔法が唱えられないだけで……魔法使いにはマホトーン状態の人の魔力が分かるって、本で読んだんだ。

「取り込み中、失礼するぞ」

 後ろから聞こえた声。聞き慣れぬ声にびっくりした。いくらよくわからない状況になっているとはいえ人の気配に気付かないなんて……私、もっと鍛錬が必要だな……。じゃなくて。この人が探してたご隠居さんってこと?

「旅の方、この泉に来られるのは初めてか?」
「えぇ、あなたを訪ねるために来たので」

 エルトが剣から手を離し、警戒を解いて答えた。私は相変わらず見難い視界の中、一層酷くなった頭の痛みと戦ってて……それどころじゃない。話してる途中にマホトーンの光は一層強く光ると消えてしまって、もう一度右目の中を確認しても今度は何も無かった。ただどんどん右目が見辛くなってるから、また視力がなくなっていってるのかもしれない。 

 魔法の発展とか、武具の部分的な異常な発達、スロットマシンを抜きにしたら大して文明が進んでいないこの世界、つまり医療は魔法で治せることも多いから大したことないんだ。私の右目が見えないのは原因不明。だから見えてたとしてもなんでかわからない。

「それはそれは。あとで要件を聞こうぞ。ふむ、そちらの高貴な姫は具合が悪そうだが……」
「……姫様?どうかなされたのですか?」
「エルトの兄貴……馬姫様が姫様だと分かったことはいいんでがすか……」
「……そういえばそうだね」

 姫の具合が?私の頭痛なんてどうでもいいよ、どうなされたんだろう。……痛ましい馬の姿でも高貴な立ち振る舞いは健在であられる姫は、いつもと同じようにまっすぐ立っておられるんだけど……実は悪いとか?

 姫は高貴なお方だから、もともとサザンビークにいた高名な方なら見破れてもおかしくないからそこは気にしないでおこうよ。……盲ていらっしゃるように、見えるけど。見えておられるかもしれないだろ。

「おぉ、そちらにも姫がおられる。しかし悪いのは泉の近くの方のほうのようだ」
「……私?私は姫の影となる騎士ですから、違いますよ。姫はそちらの、馬に変えられてしまったお方」
「そうおっしゃるのなら貴女は騎士なのでしょうな……馬?馬とな?この姫が……どれ、少々失礼しますぞ」

 ……この人、(なに)で見ているんだろう。私は確かに貴族の令嬢……みたいな意味なら姫だけど、見た目はそうは見えないはず。人の内面?ミーティア姫の内面が見えるなら納得できる。私が姫なのはわからないけど。性別と職業がわかるとか?うーん、こういう、圧倒的に人生経験の長い人の考えは私にはわからないなぁ……まだまだ若造ってことだよね。前世っぽいの込みにしてもこの人の半分も生きてないだろうし。

「……なんという……。この方は姿を変えられてしまったのか?」

 ……!もしかして。ドルマゲスを倒して姫、陛下、城の呪いは解かなきゃいけないのは決まりきったことにしてもこの人なら呪いの解き方がわかるかもしれない!呪いが解けるならそれに越したことはないよね、おいたわしい姿じゃなくて本来の姿で過ごしていただきたいし、町に入れないなんてこともなくなるし、人だけでも元に戻せればあとはトロデーンの魔物を倒して、茨を刈り取って、それから国際指名手配にドルマゲスをかけて、万全の準備、選りすぐりの人員で捕まえに行って、……ドルマゲスが奪った杖だってトロデーンの国宝なんだから取り戻せばいいってことになる。

「呪いでおいたわしいお姿の姫、陛下を戻ることが出来るのですか……?」
「呪い……なるほど。それならばこの泉の水を飲めば呪いを解くことができようぞ」

 え!そんなにすごい泉だったの!私は現在進行形で激しい頭痛に襲われててこんないいこと聞いてなきゃ意識飛ばしてると思うんだけど、それなら早速飲んでもらえばいい! 
 

 
後書き
リーザスの塔のときたしか「ふらふらする」的なことを言ってたのですが、そのときも右目は見えていました。赤ん坊の時も見えていました。

ちなみに泉の魔力でここからトウカが魔法を使えたり…とかしません。苦しみ損といえば苦しみ損。 
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