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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第四十三話  レベルアッパー制作者


「こちらで把握しているのは現時点でこれだけですが、また新たに公開される可能性もありますので監視のほうもよろしくお願いいたしますの」

 レベルアッパーが公開されているサイトを確認した白井さんは、すぐにアンチスキルへの連絡を行い対応をお願いしている。

 一体、この状況はどうなのだろうか。アニメではこんな事にはなってなかったはずだし、レベルアッパーを持っていてもトリックアートのように高く売りつけることを目的として、ネットにアップしたりはしないと考えるのが普通だろう。だが、元の世界でもよく見られたが、自分がお金を出して買ったソフトですら違法コピーでネットにアップしていた人も居たのである。それを考えれば隠しサイトを見つけてただで手に入れたレベルアッパーを、ネットにアップして公開しようとする人が居てもおかしくはないのかもしれない。

「それで、固法さん。バンク検索の許可の方はどうなってます?」

 取り敢えずこのままだと犯人の特定が遅れてしまいそうなので、俺は固法さんに話を振ってみた。

「そろそろ降りるとは思うけど……あ、降りてるわね」

「白井さん、脳波パターンのデータを」

「はいですの」

 どうやら許可はすでに下りていたようなので、白井さんにデータを出して貰って脳波パターンを照合する作業に入る。

「ちょっと待ってね。これで検索……と」

「検索ってどのくらい掛かるのかな」

「そうですわね。恐らく1分もあれば終わるかと……」

 固法さんがパソコンを操作して検索を掛ける。脳波パターンの照合なのでそこそこ時間は掛かるのだろうが、この学園都市でどの程度の時間を要するのかは全然想像もつかなかったので白井さんに聞いてみると、予想以上に短い時間で終わりそうである。

「あ、出たわ。脳波パターン一致率99%」

 白井さんの言うとおり、それほど待つこともなく固法さんから検索一致の報告があった。

「どれどれ」

「えっ!?」
「なっ!」

「どうしたの?」

 検索結果が表示されるパソコンをのぞき込んだ御坂さんと白井さんが固まる。それを不思議に思ったのか固法さんが尋ねているが、二人の様子からアニメ通りに木山先生が表示されているのだろう。

「登録者名、木山春生……」

「えっ!?」
「きやまって……」

「初春さんが!!」
「初春がっ!!」

 御坂さんがつぶやいた登録者名を聞いて絹旗さんと滝壺さんが驚いた演技をしているが、それに気づいた様子もなく御坂さんと白井さんは顔を見合わせて叫んだ。

「初春さんがどうかしたの?」

「今、その木山先生のところに……」

 固法さんはまだ事情が飲み込めてないらしく尋ねる。白井さんはケータイで電話を掛けているので御坂さんが答えているが、事前に木山先生のことを固法さんに報告していなかったミスがこういうところに影響を及ぼしているわけだ。もし、白井さんがデータだけを固法さんに渡して固法さん一人で検索を掛けていたとしたら、初春さんの危機には対応できなかったのかもしれないということを考えれば、やはり木山先生に協力を依頼したことを報告してなかったミスは結構大きかったと言えるだろう。

「何ですって!?」

「……初春! つながらないんですの」

 ようやく事態を理解したのか、固法さんの悲鳴にも似た声が響く中、白井さんがケータイを通じて初春さんに呼びかけていたのだが、電話は初春さんと繋がっていなかった。

「アンチスキルに連絡! レベルアッパー作成の容疑で木山春生の身柄確保。但し、人質が居る可能性あり」

「はい!」

 白井さんの様子から状況を察した固法さんが素早く指示を出す。それまで正確に状況を把握できていなかったはずなのに、これだけの判断材料で正しい指示を出せるのはなかなかたいしたものだと思う。固法さんの能力自体は確か透視能力だったはずだが、この状況把握能力や判断力は能力とは別でジャッジメントとしてかなり重要な力のはずである。

「私たちも出るわ!」

「一般人を巻き込みたくはないけど、レベル5の御坂さんも居ることだし……」

 御坂さんが出る準備を始めると固法さんも俺たちを止めるよりは戦力として使った方が良いと思ったようで、風紀委員的には渋々という格好を取りながらも了承してくれそうだ。だが、レベルが高ければ良いというのであれば俺たちは特に問題を抱えていないので、固法さんには快く送り出して貰おう。

「あと、絹旗さんと滝壺さんもレベル4ですからね。つまり応援戦力が全員レベル4以上って事です」

「そうなの?」

「超そうです」

 俺が説明すると固法さんが二人に聞いて、絹旗さんが答えると同時に滝壺さんも力強くうなずく。

「分かったわ。でも、充分気をつけてね」

「じゃあ黒子。バックアップは任せたわよ!」

「了解ですの。お姉様」

 固法さんが納得してくれた所で御坂さんは白井さんにバックアップを頼むと、意外にも白井さんはすんなりと了承してくれた。確かアニメでは御坂さんが出るのを止めようとしていたはずなのだが、こっちでは問題なく素直に送り出してくれるようである。





「ってか、木山先生の居場所ってどこよ!?」

 あまりにも素直に送り出されたためか、何も考えずに風紀委員177支部を飛び出した御坂さんが叫ぶ。

「あ、そうだ。御坂さん、前に常盤台狩りの眉毛事件の時に使ったイヤーレシーバー、人数分借りてきてもらえる?」

「そうね。確かにこの人数でケータイだと大変だし、ちょっと行ってくるわ」

 アニメでは御坂さん一人が出ていたのでケータイで良かったのかもしれないが、今は四人が動こうとしているので俺が御坂さんに提案してみると、御坂さんはすぐに理解してくれて177支部へと戻っていった。

 俺が御坂さんに頼んだのは、アイテムの二人では常盤台狩りの眉毛女事件を知らないと言うことと、俺が作成空間から車を出す所を見られたくなかったという二つの理由がある。まあ、アイテムの二人も俺の作成空間は知らないはずなのだが、俺がマルチスキルになっていることは知っているので、多少の誤魔化しなら効くだろう。

「さて、と」

 一応四人乗せるのでセダンタイプのスポーツカーを取り出す。日本車なので木山先生のランボルギーニほどのパワーなどないが、木山先生もアクセル全開で走っているわけではないはずだし、アンチスキルに止められて戦闘になっている場所へ向かうだけなので大丈夫だろう。

「ちょっ!! 一体どこから超取り出したんですか!?」

「レベルアッパー効果で使えるようになったデュアルスキル能力の一環だよ」

 驚きの声を上げる絹旗さんに当初の予定通り答えたのだが、滝壺さんから思わぬ発言が飛び出す。

「おかしい。AIM拡散力場には能力を使った形跡が現れなかった」

「げっ!」

 滝壺さんの言葉に思わず反応してしまい、二人からジト目を向けられる。まさかの失態によって、さっきの答えが嘘だと言うことが簡単にばれてしまった。

「はぁー……、仕方ないか。ゲームで言う所のアイテムボックスみたいな能力なんだけどな。俺の元々持ってる能力の一つで、学園都市で開発される超能力とは全く別のものだと思ってくれ。気配を察知する能力とか、能力強度を変えられる能力と同系統だと考えて貰えば良い」

 仕方なく二人には今使った能力を説明する。ただ、詳しく説明するには俺が異世界から来たという部分から説明しなければならないのでそこは簡潔に済ませる。

「貴方が一体どんな人間なのかが超気になりますが、今はまあ良いでしょう」

「借りてきたわよって……この車は?」

 絹旗さんが俺を胡散臭そうに見ながら告げると同時に御坂さんがやってきた。

「俺の車。こういう事もあろうかと思って近くまで持ってきてた。まー、取り敢えず乗って」

 御坂さんの疑問に答えつつ皆を車に乗せる。

「いやいや! アンタが運転するの!?」

 アイテムの二人がすぐ後部のドアを開けて乗り込むのを見ながら運転席側へ回り込むと、御坂さんが驚いたように聞いてきた。

「うん、これでも運転経験はあるからね。あー、御坂さんには木山先生の車探しの時に言わなかったっけ?」

「聞いたけど……免許とか持ってんの?」

 木山先生のランボルギーニに乗ろうとした時の事を言ってみると、御坂さんは現時点での一番の問題点を突いてきた。

「持ってないけど、運転しなければ問題ないよね?」

「運転しないでどうやって動かすのよっ!?」

「そこはほら、俺の能力で……」

 御坂さんが納得するかどうかは分からないが、考えていた言い訳を答える。まあ、アンチスキル相手には絶対に通用しない言い訳である。

「あー、なるほど……って、そんなんで大丈夫なの!?」

「さあ、どうだろう……まー乗って乗って!」

 御坂さんのノリツッコミに対して曖昧に答えながら車に乗り込む。俺が乗り込んでしまったために御坂さんも仕方なくといった感じで乗り込んできた。

「あ、イヤーレシーバー頂戴」

「うん。それから、滝壺さんと絹旗さんにも」

 俺は御坂さんからイヤーレシーバーを受け取ると耳に装着する。その間に御坂さんはアイテムの二人にもイヤーレシーバーを渡していた。

「使い方は分かるよね?」

「超分かります」

『ちょっと!! 神代さん、その車はどうしたんですの!?』

 アイテムの二人に確認をしていると、レシーバーから白井さんの声が響いてきた。

「あー、俺の車だけど」

『ジャッジメントとして無免許運転を見逃すわけには……』

 俺が白井さんに答えると、やはり白井さんは違法行為としてやめさせようとしたのだろう。しかし、そこに固法さんが割り込んできた。

『ちょっと待って! 白井さん……神代君の運転免許は発行されてるわよ』

『えっ!? どういうことですの?』

 固法さんの話がすぐに理解できなかったのか白井さんは聞き返す。

『学園都市内に限り車の運転が認められているの……しかも、認められたのがほんの数時間前だわ』

「あ、もう申請通ったんだ。じゃー、運転しても大丈夫ってことだね」

 実際のところ、俺も白井さんと同じように理解できてなかったわけだが、固法さんの説明で何となく想像が付いてしまったので適当に話を合わせてみる。佐天さんの病院へ行くときに車を運転したので、アレイスターさんがそれを見ていて免許を発行してくれたのだろう。

『ええ、そういう事になるわね。でも、その申請が通ってなかったらどうするつもりだったの?』

「エンジン掛けずに能力で動かそうと思ってました」

 一応、これで車の運転に関しては問題が無くなったわけだが、免許が発行されてなかった場合にはどうするつもりだったのかを固法さんに聞かれ、御坂さんに答えたのと同じ方法を答える。

『エンジン掛けてなくても自動車を公道上で動かしたらそれでアウトだったわよ……まあ、今はもう大丈夫になってるわけなんだけどね』

「申請通ってて良かった。それじゃー、木山先生の行方が分かり次第すぐに出発します」

 御坂さんがノリツッコミの後に聞いてきたことはどうやらアウトだったらしい。だが今はちゃんと運転できる身分になっている訳で、俺はキーを回してエンジンを掛けた。

『了解ですの……あ、見つけましたわ』

「それじゃ、出発しますか」

 白井さんが木山先生の車を発見したようなので、俺はゆっくりと車を発進させたのである。





「い……意外と安全運転なのね……」

「超そうですね。もっと超急発進とかすると思ってました」

「いやいや、そんなことしてたら免許持ってても普通に掴まるから」

 御坂さんと絹旗さんに答えながら車を走らせるが、安全運転とはいえ法定速度を少々上回るぐらいのスピードは出している。白井さんからの情報では高速道路には交通規制が掛けられていて、俺の車はその規制を通り抜けて木山先生の車を追いかけて良いらしいので、そこからは飛ばすつもりだ。

『そこから高速に乗ってくださいですの』

「了解」

 高速道路に乗ろうとしたとき一度停止させられたが、俺の車を確認した後でバリケードを開けて通してくれた。

「こっからは本気で飛ばすからな」

 俺はそう宣言するとアクセルを目一杯踏み込む。

「オートマかと思ったらやっぱり超マニュアルでしたね」

「そりゃそうだよ。何でオートマだと思ったんだ?」

 一気に加速していく中で絹旗さんが変なことを言ったので思わず聞き返してしまった。

「今と違って、町中を走ってるときは超スムーズでしたから」

「むぎのの運転手は町中でもギアを変えるときにガクンって衝撃が来てた」

 絹旗さんの説明に滝壺さんが付け加える。一応「むぎのの運転手」とは言っているものの、実際にはアイテムの運転手なのだと思う。浜面はまだアイテムに居ないはずなので別の運転手なのだと思うが、変速時に衝撃が来ると言うことはそれほど運転がうまくないのだろう。

「ほら、超今みたいなやつです」

 俺がギアを変えた瞬間を見計らって絹旗さんが言う。

「あー、一応普通に運転するときは気をつけてるからね。今のはギア変える直前までアクセル踏んでたからだよ。まあ、次のギアに入れるとき回転数が合ってなくてもなるけどね」

 俺がクラッチペダルを踏み込んだ瞬間のことだったので、それに沿って答える。基本的には加速状態がいきなり惰性になるので、体が前に押されるような感じになるのである。しかし通常、変速時の衝撃はクラッチを繋いだときにエンジン回転数と速度が合ってない状態で発生するので、そっちの方も付け加えておく。一応、エンジン回転数が低い状態だと体が前に、エンジン回転数が高い状態だと体は後ろへ押される感じになる。

「ってか、アンタどんだけスピード出す気よ!?」

 俺が絹旗さんに説明している間にも車は加速し続けていて、御坂さんからツッコまれてしまった。

「まー、この辺で頭打ちだからこのぐらいだよ」

 もう一番上のギアになっている上、エンジン回転数もそろそろレッドゾーンという所まで来てしまったので、少しアクセルを緩めて速度を維持するように走らせる。

 三車線を目一杯使うとカーブでも速度を維持したまま曲がりきれるので、その状態で走り続ける事十数分、前方にアンチスキル車両が道を塞ぐように止まっているのが見えた。

「あれっぽいな」

「そうね」

 車を減速させながら呟くと御坂さんも気づいていたようで答えが返ってきた。

「準備は良い?」

「超大丈夫です」
「うん」

 御坂さんが後ろを振り向いて絹旗さんと滝壺さんに声を掛けると、二人ともしっかりと頷いた。丁度その時、アンチスキルの車両が爆発したのである。

「どうしたの!?」

『なっ!』

 爆発音に気づいて御坂さんが前を向くと同時に、白井さんの驚いた声がレシーバーから聞こえてくる。

「車が超爆発したみたいです」

『木山春生が……能力を使ってますの。アンチスキルの車両を能力で破壊したんですの!』

 絹旗さんは前を向いていたこともあって何が起こったのかは見えていたようなので、それをそのまま呟くが、それに監視カメラ映像を見ていたと思われる白井さんが情報をもたらしてくれる。

「木山先生って能力者だったの!?」

『いえ、木山春生に能力開発を受けた記録は無いわ』

 木山春生が能力を使うことに関して、絹旗さんと滝壺さんにはすでに可能性を伝えてあったので驚いたのは御坂さんだけだったのだが、そこに固法さんからの情報が追加される。

 俺が車を木山先生のランボルギーニの隣に止めると、その瞬間アンチスキルの車両が一台竜巻に巻き上げられて消えていった。爆発の煙が凄くてアンチスキルの姿は確認できないが、木山先生はこちらに背を向けているのでまだ俺たちには気づいていないのかもしれない。

 御坂さんと絹旗さんと滝壺さんが降りたのを確認して、俺は自分の車を作成空間に収納する。御坂さんは停車する前から初春さんが乗っていると思われるランボルギーニに注目していたので、アンチスキルの車両が飛ばされた所すら見ていないのだろうし、こちらのことはエンジン音で気づいたのかもしれないが、振り向く気配を見せなかったので大丈夫だろう。

「初春さん!!」

 御坂さんがランボルギーニの中で気を失っている初春さんに呼びかけるが、初春さんが反応する様子はない。

「心配ない。戦闘の余波で気を失っているだけだから大丈夫だ」

 御坂さんの声でこちらに気づいたのか、木山先生が振り返ってこちらを見ていたのである。
 
 

 
後書き

大変お待たせしました。
ジャッジメントに車の運転を知られても大丈夫な状態にするためにどうするかという部分と、車に関する専門用語っぽい部分(ギアとかクラッチとか)をどうするかでまよってました。
まー、それ以前に執筆中に近くで罵り合いドラマとか見られると全然言葉が浮かんでこなくて困るんですよね^^;


2016/09/15 滝壺さんの台詞 『木山』→『きやま』
固法さんの台詞 『を』が連続していた所を修正
 
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