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ヤオイとノーマル

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3部分:第三章


第三章

「とにかくやってみるさ」
 信繁はそれでも彼等のエールに応えて言った。
「吉報を待ってくれよな」
「成功するっていうんだな」
「俺の辞書には失敗の二文字はないんだよ」
「また大きく出たな」
「ナポレオンじゃあるまいし」
 不敵に笑って見せてきた信繁に対してまた言う。
「実際に墨で消してやったんだよ」
「御前そりゃ終戦直後の教科書だろ」
「何やってんだよ」
「とにかくだ」
 そんな馬鹿な行いも今はどうでもよかった。もう決めていたのだ。
「やってやるぜ。絶対にな」
 あらためて決意する。今彼の戦いははじまったのであった。
 それは早速その日の放課後にはじまった。静かに下校する良美のところにさりげなくを装って近付き声をかけたのであった。
「高村さん」
「あっ、小山田君」
 向こうも信繁に気付いた。その声はおっとりとしたものであった。
「今から帰り?」
「うん。高村さんもそうだよね」
「ええ」
 穏やかな調子でまた信繁に応えてきた。
「そうだけれど」
「何処か寄るの?」
「ええ。本屋に」
「本屋なんだ」
 それを聞いて好都合だと思った。本屋なら誰が行っても何もおかしいところはないからだ。特に学校の制服を着ていれば。制服はこうした時本当に便利であった。
「奇遇だね、俺もだよ」
「小山田君も?」
「うん。ひょっとしたらさ」
 ここでは彼は嘘をつくことにした。
「一緒の店かも知れないね」
「そうね」
 良美はにこりと笑って信繁のその言葉に頷いた。
「そうだったらいいわね」
「まあひょっとしたらね」
 信繁は芝居を続ける。
「このままずっと同じ道かも知れないけれど」
「同じお店だったらそうよね」
 良美はそれがどういうことなのか気付いてはいない。どうやら天然はここでも同じであるらしい。これもまた信繁にとっては好都合であった。
「それでもいいかな」
「ええ、別に」
 良美の態度はここでも変わらない。
「いいけれど」
「じゃあ一緒にね」
 殆どばれてしまっているレベルであるがそれでも良美は気付かない。信繁の下手な芝居が今はかなり上手くいっていた。少なくとも目的は果たしている。
「行こうか」
「ええ」
 こうして信繁は傍目にはさりげなくとはとても言えないがそれでもデートに入ったのであった。デート中の話題は殆ど同性愛の話であった。
「それでね。彼と彼を合わせて」
「あれっ!?」
 信繁は良美の話を聞いてふと言葉を返した。
「そのキャラって他のキャラとくっついたんじゃ」
「それは別の人の同人誌よ」
「そうだったんだ」
「兄弟っていうのがまたいいのよ」
 ヤオイには兄弟という設定は障害にはならないのだ。むしろそういう禁断の関係こそがいいのである。それがヤオイの世界なのだ。
「許されない愛だけれどね」
「同性愛自体がそうなんじゃ」
「それ自体はいいのよ」
「そうなんだ」
 これもまた信繁にはわからない世界であった。まるであなたの知らない世界である。
「日本じゃ昔から普通だったし」
「そういえばそうか」
「歴史もののそういった同人誌もあるわよ」
「本当!?」
 信繁はそれを聞いて驚かざるを得なかった。
「ほら、織田信長と森蘭丸」
「ああ、あの二人」
 織田信長が男色家でもあったのは歴史上有名な話である。他には武田信玄もそうであったし上杉謙信、大内義隆もそうである。平安時代にはそれを日記に書き留めている貴族もいる。当時の日記は後世に読まれることを前提として書かれているからこのことからも同性愛というものが日本では普通のものであったことがわかる。これもまた日本の文化なのである。よいか悪いかはまた別の話だ。
「そういうのもあるわよ」
「色々あるんだね」
「あれ、そういうのを探しているんじゃないの?」
「えっ!?」
 今の言葉に信繁の顔が固まった。
「だからあの本屋さんに行くんでしょ」
「えっと」
 何か話がまずい方向に行っている。それを悟った信繁は一旦大人しくすることにした。そうして良美の話を聞くことにしたのである。
 
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