| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美食

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

10部分:第十章


第十章

「文化を感じることでもあるんだ」
「食べるという文化を」
「そうだよ。そういう意味もあってこの店には色々な料理が置いてあるんだ」
 何とそこまで考えていたというのである。八神にもこの緒方という男が只者ではないことがわかった。
「色々とね」
「そうだったんですか」
「鯨もあるよ」
 その鯨もあると言ってきた。
「何でもある。文化がこの店にはある」
「そして今は犬食という文化を感じているわけですか」
 利樹は今度は胸の肋骨の部分を食べていた。
「そういうことですね」
「そうなるな」
 彼のその言葉に静かに頷く八神だった。
「今こうして」
「さあ、それなら」
 ここでさらに言ってきた緒方だった。
「よかったらこれからも文化を楽しんでくれ」
「はい、じゃあ」
「そうさせてもらいます」
 こう言ってだった。この日はその犬料理という文化を楽しむ二人だった。そして後日。二人はこんな話を楽しくするのだった。
「じゃあ今度はですね」
「そうだな。今度は」
「虫にしませんか?」
 利樹は笑って八神に告げてきた。
「虫料理に」
「いいな。じゃあ蜂の子でも」
「それだけじゃなくてですね」
 日本でも食べられる蜂の子だけではないという利樹だった。
「他にもあるんですよ」
「どんなのがあるんだい、じゃあ」
「ナナフシとかタガメとかセミとかですね」
 まずはそうした虫が話に出される。
「あとはゲンゴロウも」
「成程、面白そうだな」
「ジョロウグモがデザートにありますよ」
 蜘蛛まで話に出された。
「何かそっちはチョコレートみたいな味がするそうで」
「チョコレートか」
「それにします?虫で」
「ああ、それでいこうよ」
 八神は気さくに笑って彼に応えた。
「それなら今回は虫で」
「ええ、それじゃあ」
 こうして次に行った時に食べるものを決めるのだった。
「昆虫料理でってことで」
「美食倶楽部にいざ」
「文化を食べに行きましょう」
 満面の笑顔で言う利樹だった。八神もその笑顔に頷く。彼等はわかったのだ。美食倶楽部にあるものとは何かを。わかったからこそ行くのであった。


美食   完


                 2009・11・12
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧