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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン45 鉄砲水と泡沫の英雄

 
前書き
ついに新年度ですね。グッバイチェインフォーエバーチェイン。
うちの【超熱剣ファントムセイバー(不知火BKアンデット)】が大変困っているので、割とマジで帰ってきてください。
こっちのデッキだと使ってないから困らないんですけどね……。

前回のあらすじ:クロノス先生強い。デュエルにこそ負けはしたけれど、デスデュエルの怪電波がたどり着く先を割り出すために必要なデータは無事(?)入手。 

 
「ジム!ほい、これ。確かにデータは取ってきたよ」
「ワオ、グレート!ありがとう、後はこのデータを突き合わせれば……よし、少し待っていてくれ」

 ここはジムの私室。先ほどのクロノス先生と僕とのデスデュエルにより得ることができた怪電波のデータを、ジムに届けに来たのだ。何やらこの島の地図を広げてジムがああでもないこうでもないと試行錯誤しているうちに、この部屋に集まったメンバーを一通り眺めてみる。僕とジムの他にも十代、剣山、翔、ヨハン、明日香、夢想。言ってみればほぼいつものメンバーだ。あと万丈目やら三沢やらがいれば完璧なんだけど、それを望むのも無理な話だろう。
 そんなことを考えていると、ジムがようやく顔を上げた。

「……オーケイ皆、この地図を見てくれ。今回清明が取ってくれたデータのおかげで、ようやくはっきりと場所が特定できた。それはこのビルディング、なぜか名前の載っていないこの建物だ!」
「どれどれ?あれアニキ、この場所って確かSAL研究所じゃないッスか?」
「ああ、あのSALか。そういやあの時清明がデュエルしたのも、割とこの近くだったな。なあ?」
「懐かしいもんだねえ」

 僕ら3年組は昔のことを思い出してほっこりしていたが、それをぽかんとした顔で見つめるヨハンたちには説明が足りていないことに気づく。まあ僕だって、あれは実際この目で見ていなければわけがわからなかっただろう。

SAL(スーパーアニマルラーニング)……なにをとち狂ったのかその辺の動物に専用の機械をつけてデュエリストにしようっていう実験をしてた変な博士が昔居てね。そこから逃げ出したのが猿のSALだったんだよ」
「モンキーがデュエルを?」
「猿のSAL……そのまんまだドン」
「あの研究所かぁ……でもあそこ、SALが逃げてから研究中止になったんじゃなかったっけ?」

 今や廃墟同然になっていて、わざわざあそこに入るような物好きもいない、だとか。電気やら水道やらが生きているかどうかすら怪しい場所だけど、それだけにこれまで思いつきもしなかった。というかここでこうして名前を聞くまでSALとデュエルした僕もその存在自体すっかり忘れてたし。

「ともかく、この場所に行けば何かがあるはずだ。トゥモローのモーニング……そうだな、9時ごろに改めてここに集合しよう。今日のところはしっかりスリーピングし、英気を養ってから出かけるべきだ」
「おう!」

 ジムのかけた言葉に従い、そこで一度僕らも別れて各自の寮に戻ることになった。一刻も早くSAL研究所に突入したいという気持ちもあるにはあったけど、それ以上に先ほどのデスデュエルによる疲労が体にたまっているのが自分でもよくわかっていたため、あの提案は正直かなりありがたかった。今日一晩寝ておけば、ダークシグナーの身体能力の高さも相まって明日の朝には復活しているだろう。クロノス先生には悪いことをしたけど、ここでデスデュエルの秘密を解き明かしさえすればきっと無駄にはならないはずだ。

「……んじゃ、お休みー」

 チャクチャルさんからの返事はない。まあお互いになんとなく気まずいままだし、それならそれでいいだろう。さ、寝よう寝よう。





「……おい!おいったら!」
「んー……」

 耳元で誰かの叫び声が聞こえ、そのうるささに目を覚ます。

「何さ……十代?」

 目の前にあった顔は、まさしく十代のそれだ。ただしその表情は険しく、何やらただならぬ様子。よくよく周りを見ると、ここは僕が倒れこんだはずのレッド寮のベッドではない。どこかはよくわからないけれど、上に夜空が見えるあたり少なくとも屋外ではあるようだ。

「えっと、ここは?」

 頭を振りながら起きあがり、なんで自分がこんな場所にいるのか考える。……駄目だ、何も思い出せない。

「何言ってるんだ、お前?」
「え?」

 思わず聞き返すが、向こうも本気で困惑しているようだ。十代は時々驚くほど単純なところがあるから、自分の感情がすぐ顔に出る。今回がまさにそのパターンといえるだろう。

「そうか、お前は気絶してて見てなかったもんな。たった今俺がコブラとデュエルして、俺が勝ったと思ったら突然光る人間みたいなのが現れてよ。それを追っかけたコブラがいなくなっちまったんだ。ヨハンたちが探しに行ってるけどな」
「気絶?僕が?え、ていうかちょっと待って、コブラ?」
「お、おう。だから今ちょうどそれを聞こうと思ってたんだよ。なあ清明、なんでお前、俺たちより先にここに来てたんだ?」

 ……駄目だ、まるで会話がつながらない。

「待ってよ十代、何がどうなってるのさ」

 この時点で十代も僕と同じことを考えたらしく、少し考えてからまた口を開いた。

「俺たちは今朝、行方不明になったお前を探しにSAL研究所に行ったんだ。そこで佐藤先生やオブライエンに会ったりして色々あったけど、とにかくコブラのところにたどり着いた。そしたらその足元に清明、お前が気絶して倒れてたんだよ」
「え?……ええ?」

 全っ然駄目だ、話せば話すほど訳が分からなくなってくる。どうすりゃいいんだこんなもん……そうだ、チャクチャルさんに聞けばいいや。今は喧嘩してる場合じゃない、とにかく何があったのかだけでも教えてもらわないことにはまるで話にならない。

「チャ、チャクチャルさーん?」

 少し待つが、いつもすぐ近くにいるはずの邪神からの返事がない。いくらお互い気まずいからって、いつもはこんな時に無視だなんて子供じみた真似はしないキャラなのに。とりあえずカードから直接呼び出そうとデッキを取り出して……そこで初めて、信じられないことに気が付いた。

「精霊が、いない……」

 サッカーをはじめとする小型モンスターから青氷の白夜龍といった大型モンスターに至るまで、ただの1体分も精霊の力を感じない。こんなこと、精霊が見えるようになってからは初めてのことだ。

「お、おい清明?どうしたんだよいきなり」
「どうしたもこうしたも、皆がいなくなって……」
「何言ってるんだ?お前のデッキの精霊なら、すぐそこにたくさんいるじゃないか。なあ清明、俺達は友達だろ?頼むから教えてくれよ、一体なんでお前が俺らより先にここに来てたんだ?」
「そ、そんなこと言われても」

 それはむしろこっちが聞きたいぐらいだ。それより、僕のカードの精霊がここにいる?そんな馬鹿な、僕には何も見えないし感じることもできないのに。十代、お前は一体何を言ってるってのさ?何も言えない僕を前にしばらく十代も黙ったままでいたけど、ややあってため息をついて立ち上がった。

「……もういいぜ、清明。お前がどうしても言いたくないなら、きっと何か理由があるんだろ?ならもう言葉は必要ない、その代わり、俺とデュエルだ!」
「十代!?」
「何驚いてるんだよ。デュエルをすれば、きっとわかりあえる。俺はそれを信じてるし、これからも信じたいんだ。だから、せめてお前の魂を俺に見せてくれ。それができるのがデュエル、そうだよな?」

 そう問いかけてくる十代の顔は、なんだか妙に深刻で。僕が気を失ってる間に何があったのかはわからないけど、きっと十代にとって辛いことがあったんだろう。ここまで持論を強調してくるところからいって、誰かとデュエルをしたのに分かり合うことができなかった、とかだろうか。なんにせよ、あの十代がここまで参ってるだなんてただ事ではない。
 だとしたら、僕にできる事をするのが親友としてのせめてもの務めだろう。精霊の加護は結局見つからないけれど、それでもやれる限りのことをやるしかない。

「……わかった、十代。デュエルと洒落込もう」

 腕のデスベルトが、月の光をかすかに反射して鈍く輝く。そういえば、デスデュエルは結局どうなったんだろう。でもこのデュエルを提案してきたのも十代だし、その十代はさっきコブラに勝ったって言ってたんだ。勝ったならそう心配することもないだろう。

「「……デュエル!」」

 先攻は十代、か。十代のデッキは手札消費が恐ろしく荒い融合デッキ、後攻より1枚手札が少ない先攻は大変だろう。

「最初から飛ばしていくぜ!魔法カード、コンバート・コンタクト発動!このカードは俺のフィールドにモンスターが存在しない時、手札とデッキからそれぞれNを1体ずつ墓地へ送ることでカードを2枚ドローする。手札のフレア・スカラベと、デッキのアクア・ドルフィンを墓地へ送るぜ。そしてクレーンクレーンを召喚して、そのまま効果を使うぜ。このカードは召喚に成功した時、墓地に存在するレベル3モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できる!甦れ、アクア・ドルフィン!」

 鳥の形を模したクレーンがするするとロープを垂らすと、それに捕まってイルカの半魚人、とでもいうべきだろうか。まさにイルカそのものの頭部に人間のような体のついた、水を操るNが墓地から上がってくる。

 クレーンクレーン 攻300
 N・アクア・ドルフィン 守800

「魔法カード、ヒーロー・マスクを発動!このカードは発動時にデッキのHEROを墓地へ送ることで、場のモンスター1体をその同名カードとして扱うことができる。これで俺は、クレーンクレーンをネオスに変更するぜ」
「これでネオスとNが揃った……コンタクト融合?」

 十代がなんだかよくわからない経緯で手に入れた全く新しい召喚方法、コンタクト融合。あれをまた見せてくれるのだろうか……と思ったら、そこで十代が笑みを見せた。

「今回は特別だ、もう1段上のコンタクト融合を見せてやるぜ!魔法カード、NEX(ネオスペーシアンエクステント)を発動!このカードは俺のNを進化させ、同名カードとしても扱うレベル4モンスターをエクストラデッキから特殊召喚する!さあ来い、マリン・ドルフィン!」

 アクア・ドルフィンの水色がより濃い藍色になり、体つきも丸みを帯びたものから精悍な戦士へと変化していく。

 N・マリン・ドルフィン 攻900

「さらに魔法カード、スペーシア・ギフトを発動!このカードは俺のフィールドに表側表示で存在するNの一種類につき1枚のカードをドローするぜ」
「あれ?十代のフィールドにはマリン・ドルフィンが1体だから、精々手札交換にしかならないんじゃ?」
「甘いぜ、清明。マリン・ドルフィンは元になったアクア・ドルフィンとしても扱うモンスター、つまり2種類の名前を持つってわけさ。よってカードを2枚ドロー!」
「好き勝手やってくれちゃって、もう」

 残念ながら僕の手に手札誘発の妨害札はない。大人しく十代が何をしかけてくるか、見守らせてもらうとしよう。

「効果……は、捨てたい手札もないからやめておくか。さあ行くぜ、お待ちかねのコンタクト融合だ!フィールドのネオス(クレーンクレーン)とマリン・ドルフィンをデッキに戻し、コンタクト融合!さあ来い、E・HERO(エレメンタルヒーロー) マリン・ネオス!」

 融合のカードを必要とせず、場に存在する素材モンスターをデッキに戻すことで全く新しいモンスターを生み出すコンタクト融合。マリン・ドルフィンとネオスの形のオーラを纏ったクレーンクレーンが宙に飛び上がり、ネオスの体をベースに水の力がその身に吸収されていく。

 E・HERO マリン・ネオス 攻2800

「マリン・ネオスの効果発動!1ターンに1度、相手プレイヤーの手札1枚をノーコストで破壊する!」
「くっ!?」

 マリン・ネオスの胸から水の竜巻が吹き荒れ、その水流に僕の手札1枚が吹き飛ばされる。あのカードは、グレイドル・パラサイト……あればあるに越したことはないが、まだ致命傷ではない。それにしても、手札を『破壊する』、ね。モンスターゾーンの指定さえなければグレイドル・イーグルで待ち構えることもできたけど、それができないのは惜しい。なんか損した気分だ。

「カードを2枚セット。これでターンエンドだ」
「僕のターン!」

 マリン・ネオスは攻撃力2800の大型モンスター。しかも壁モンスターで耐えようにも、場に残れば残るだけこちらの手札が荒らされていく素敵仕様のきわめて厄介な敵だ。そんな敵に対抗する手段としては……これしかない。

「モンスターをセット。さらにカードを3枚セットして、ターンエンド」
「ずいぶん消極的じゃないか」
「どっかの誰かさんが最序盤からかっ飛ばしてくれるからねー」

 十代 LP4000 手札:1
モンスター:E・HERO マリン・ネオス(攻)
魔法・罠:2(伏せ)
 清明 LP4000 手札:1
モンスター:???(セット)
魔法・罠:3(伏せ)

「へへ、俺のターンだ。まずはマリン・ネオスの効果だ、その最後の手札を破壊しろ!」

 再び荒れる水の竜巻が、唯一僕の手札に残ったカードを墓地へと叩き込む。これで3ターン目にして早くもハンドレス、この先はドローカードに全てを賭けていくしかない。

「さらに攻め込むぜ。カードガンナーを召喚、効果発動!俺のデッキからカードを3枚まで墓地に送り、エンドフェイズまで攻撃力を1枚につき500ポイントアップさせるぜ」

 カラフルに彩られたロボットがおそらく目であろうライトを光らせ、自らの体にパワーを充電していく。何が落ちたのかをここから知る手段はないけれど、十代のことだ。ネクロ・ガードナー辺りは警戒しておこう。

 カードガンナー 攻400→1900

「バトルだ!マリン・ネオスでセットモンスターに攻撃、ハイパーラピッドストーム!」

 E・HERO マリン・ネオス 攻2800→??? 守800(破壊)
 E・HERO マリン・ネオス 攻2800→0

 またもや荒れ狂う水の竜巻に、今度は手札ではなく僕のセットモンスターが消し飛ばされる。だがその次の瞬間、竜巻を収めたマリン・ネオスの足元から地面を突き破り無数のタコ足が鎖のようにその全身を縛り付けた。

「何!?」
「今破壊されたモンスターは、シャクトパス!このカードは戦闘破壊された時にそのモンスターの装備カードになってその攻撃力を0にし、さらに表示形式の変更を禁止する!さあ、執念深い鮫の呪いを受けてみろ!」

 自らの首に巻きついたタコ足を掴み、必死に振り払おうとするマリン・ネオス。だけどもう遅い、シャクトパスの力は破壊されてからが本番だ。

「くっ……だけど今、お前のモンスターはいない!カードガンナーでダイレクトアタック!」

 カードガンナーが自らのキャタピラを高速回転させ、こちらへ向けて走ってくる。だけど甘い、十代!

「リバースカード発動、リビングデッドの呼び声!」
「リビングデッド?だけどお前の墓地にモンスターなんて……そうか、まさか!?」

 僕の発動した汎用蘇生カードに疑問を示すものの、すぐに何かに気づいた十代。流石に気づくのが早い、なにせ僕がこのデュエルで唯一場に出したモンスターであるシャクトパスは今こうして装備カード状態でフィールドにいるのだから、他にモンスターが墓地にいるとすればそれは1種類しかあり得ない。

「その通り!礼を言うよ十代、たった今やったこのターンでの手札破壊、あれは僕の手札を破壊したんじゃない。僕が落としてほしかったカードを墓地に送ってくれたんだ!蘇生召喚、青氷の白夜龍(ブルーアイス・ホワイトナイツ・ドラゴン)!」

 青氷の白夜龍 攻3000

 ここからは反撃開始。僕のデッキの中でも最高攻撃力(固定値)を誇るこの氷の竜ならば、並大抵のHEROにも力で負けることはない。そのことは十代もよくわかっているはずだが、それでもなお不敵に笑っている。
 もっとも、そうでなくっちゃ十代らしくない。

 カードガンナー 攻1900→400

「エンドフェイズにカードガンナーの攻撃力は元の400に戻る。カードを1枚セットして、これでターンエンドだ」
「なら僕のターン!よし来た、グレイドル・イーグルを召喚!」

 銀色の水たまりから素早く形を変え生まれる、黄色の鳥めいた生命体。グレイドルの中でも屈指の攻撃力を持つイーグルがここでピンポイントで引けたのはラッキーだったとしか言いようがない。

 グレイドル・イーグル 攻1500

「バトル、まずは青氷の白夜龍でカードガンナーを攻撃!ぶち抜け、孤高のウィンター・ストリーム!」
「おっと、タダではやられないぜ。トラップ発動、捨て身の宝札!俺の攻撃表示モンスター2体の攻撃力合計がお前の1番攻撃力が低いモンスターの攻撃力より低い時、このターンでモンスターを表側表示で出すことが禁止される代わりにカードを2枚ドローするぜ」

 思わぬドローこそ許してしまったものの、逆に言えばこのターン後続が出てくることはない、ということでもある。氷のブレスとロボットの目から放たれたビームが真っ向からぶつかり合う……が、それも数秒のこと。倍以上の攻撃力の差を前に、すぐにビームがかき消されて消えていった。

 青氷の白夜龍 攻3000→カードガンナー 攻400(破壊)
 十代 LP4000→1400

「カードガンナーが破壊されたことで、俺はデッキから1枚カードをドローできる」
「だとしても、まだこっちにはイーグルがいる!イーグル、マリン・ネオスに攻撃!」

 両手両足に胴体に首……自由意思で動かせるほぼすべての箇所ががんじがらめに縛りつけられたマリン・ネオスに、黄色く光る猛禽が迫る。万全の状態ならば軽くあしらわれたであろうその突撃が、この状況に限っては文字通り必殺の一撃となった。
 ……ただ一点、その一撃が僕のライフを直撃したことを除けばそれは完璧だったのだが。

 グレイドル・イーグル 攻1500→E・HERO マリン・ネオス 攻0(破壊)
 清明 LP4000→2500

「攻撃宣言時にトラップカード、異次元トンネル-ミラーゲートを発動したぜ。俺のE・HEROが攻撃対象に選ばれた時、そのバトルの間だけ互いのモンスターのコントロールは入れ替わるのさ」
「痛てて……そんな隠し玉仕込んでたなんてね」
「マリン・ネオスはコンタクト融合の中でもかなり強いけど、お前がただやられるわけがないからな。俺だって警戒させてもらったのさ。さあ、グレイドル・イーグルのコントロールは返すぜ」
「お褒めにあずかりまして。これ以上僕にカードはない、ターンエンドするよ」

 十代 LP1400 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:なし
 清明 LP2500 手札:0
モンスター:青氷の白夜龍(攻・リビデ)
      グレイドル・イーグル(攻)
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(白夜龍)
     2(伏せ)

「俺のターン!魔法カード、O-オーバーソウルを発動!俺の墓地の通常ヒーロー、ネオスを特殊召喚する!」

 E・HERO ネオス 攻2500

「そうか、さっきコンタクト融合でデッキに戻ったのはあくまでクレーンクレーン……」
「その通りだ。そして魔法カード、融合を発動!手札のエッジマンと、場のネオスを融合!コンタクト融合だけがネオスの力じゃないぜ、ネオス・ナイトを融合召喚!このモンスターの攻撃力は、融合素材としたネオス以外の戦士族の攻撃力の半分だけアップするぜ」

 場に現れたネオスが金色の鎧に全身を包むヒーロー、エッジマンの力を得てさらなる高みに進化した。素手で戦い抜いていたこれまでのファイトスタイルから一転してその右手には上下に刃のついた不思議な形状の巨大な剣を、そして左手には自らの上半身ほどのサイズがある盾を持ち、肩当てやひざ当てなどの鎧パーツもその身に着けている。

 E・HERO ネオス・ナイト 攻2500→3800

「なるほど、そのモンスターで僕のグレイドル・イーグルを攻撃すれば、僕のライフはきっかり0にできるってわけね」
「さあ、どうだろうな?バトル、ネオス・ナイトで青氷の白夜龍に攻撃、ラス・オブ・ネオススラッシュ!」
「え?」

 十代の指示を受けたネオス・ナイトが飛び上がり、2つの刃のうち下の刀身を白夜龍の首に突き立てる。全身を振るわせて振り落とそうとするも、ネオス・ナイトがその手を緩めることはついになかった。

 E・HERO ネオス・ナイト 攻3800→青氷の白夜龍 攻3000(破壊)

「くっ……あれ?」

 モンスターが戦闘破壊されたのに、なぜか僕にダメージが来ない。不思議に思ってフィールドを見ると、すでにネオス・ナイトは十代のフィールドに戻っていた。

「ネオス・ナイトがバトルするとき、相手は戦闘ダメージを受けないデメリットがあるのさ。だけどその代わり、こいつにはHEROの中でもトップクラスの対モンスター戦闘能力がある!ネオス・ナイトは攻撃力上昇だけでなく1ターンに2度攻撃ができる、グレイドル・イーグルに攻撃!ラス・オブ・ネオススラッシュ!」

 再び走るネオス・ナイトが、今度は大上段から上の刀身を振り下ろす。グレイドルに攻撃を仕掛けるだなんて何を企んでいるのかは知らないが、イーグルは一切その攻撃をかわそうとせず、むしろ鳥の顔で精一杯にやりと笑ってその一撃を受け止めた。そして真っ二つに裂けた黄色の鳥は銀色の水たまりに溶け崩れ、地面を這ってそのままネオス・ナイトの足元へ近づいていく。

 E・HERO ネオス・ナイト 攻3800→グレイドル・イーグル 攻1500(破壊)

「この瞬間、グレイドル・イーグルの効果発動!戦闘破壊されたイーグルは相手モンスターに寄生し、そのコントロールを得る!ネオス・ナイトに憑りつけ、イーグル!」

 足元に忍び寄った銀色の水たまりがわっと持ち上がり、ネオス・ナイトの全身を包み込む。完全に寄生完了かと思ったその時、水たまりが突然はじけ飛んだ。

「甘いぜ!速攻魔法発動、融合解除!これによりネオスとエッジマンの融合は解除され、グレイドル・イーグルの効果は回避される!」
「しまった……!」

 E・HERO ネオス 攻2500
 E・HERO エッジマン 攻2600

「そしてバトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターは、そのまま追撃ができる!エッジマンでダイレクトアタック、パワー・エッジ・アタック!」
「永続トラップ発動、バブル・ブリンガー!このカードが存在する限り、レベル4以上のモンスターは直接攻撃できない!」

 エッジマンの突撃を、湧き上がる泡の壁が押しとめる。イーグルの寄生がかわされたのは痛い、手札もない今ではこのバブル・ブリンガーが効いているうちに早く立て直さないと。だけど下手な下級モンスターじゃ駄目だ、エッジマンノ能力である貫通効果で叩き潰されてしまう。

「一筋縄じゃあ行かないか。ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!……永続魔法発動、グレイドル・インパクト。そのままエンドフェイズにインパクトの効果発動、デッキからグレイドル・アリゲーターをサーチしてターンエンド」

 地面にUFOがバンッと出てきて、そのてっぺんから放たれた不思議な光線が僕のデッキに眠るアリゲーターのカードを呼び起こす。だけどサーチ効果がエンドフェイズ、次のターンでブリンガーが割られたらそこでおしまいだ。これに関してはもう、祈るしか方法がない。

 十代 LP1400 手札:0
モンスター:E・HERO エッジマン(攻)
      E・HERO ネオス(攻)
魔法・罠:なし
 清明 LP2500 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:バブル・ブリンガー
     グレイドル・インパクト
     1(伏せ)

「俺のターン!よっしゃ、ワイルドマンを召喚!」
「しまった!」

 E・HERO ワイルドマン 攻1500

 野生児、と呼ぶにふさわしい筋骨隆々のヒーロー、ワイルドマン。バブル・ブリンガーによるロックはあくまでトラップカード1枚によるもの、つまりトラップの効果を受け付けないワイルドマンにとってはただの置物にしかならない。

「ワイルドマンでダイレクトアタックだ!ワイルド・スラッシュ!」

 E・HERO ワイルドマン 攻1500→清明(直接攻撃)
 清明 LP2500→1000

「どうだ!」
「だけどこれ以上、そのダイレクトアタックは通さない!僕のターン!グレイドル・アリゲーターを召喚して、いそのままインパクトの効果を発動!自分フィールドのグレイドルカード1枚と、相手のカード1枚を破壊する!グレイ・レクイエム……エッジマン、撃破!」

 UFOからまたもや光線が放たれ、アリゲーターとエッジマンがそれぞれ撃ちぬかれる。そして光線を浴びて融けたアリゲーターが水たまりとなり、またもや音もなくネオスに忍び寄る。

「これは流石に回避できないよね?魔法カードにより破壊されたアリゲーターは、相手モンスター1体に寄生する。ネオスのコントロールはもらった!」
「ネオス!そんな、お前まで……!」

 今回攻撃力が上のエッジマンを狙わず、あえてネオスの方を狙ったのには理由がある。ネオスは先ほどのようにオーバーソウル等で倒しても倒しても蘇る可能性が十分にあるし、そこでコンタクト融合にでも繋げられたら目も当てられない。だったらいっそ、こちらのフィールドで待機してもらうほうがまだいいだろうと踏んだのだ。
 にしても、なんだろうこの十代の反応は。僕を相手にする時点で、ある程度はこの展開も予想ができてておかしくないはずだけど。そこは少し気になったけど、だからといって手を抜くわけにはいかない。

「バトル、ネオスでワイルドマンに攻撃!僕が言うのは初めてだねこれ……ラス・オブ・ネオス!」

 E・HERO ネオス 攻2500→E・HERO ワイルドマン 攻1500(破壊)
 十代 LP1400→400

「ぐああっ!」
「うっしゃあ!さあ十代、かかってこい!」

 ネオスを奪われたことがよほどショックだったのか、衝撃に吹き飛ばされて膝をついた姿勢のままうつむいていつまでも顔を上げない十代。10秒、20秒と経ってもまだそのままでいるその姿に、さすがに不穏なものを感じた。

「十代……?」
「………」

 何も答えないままではあったが僕の声は聞こえたらしく、十代がゆっくりと顔を上げる。その目を覗き込んだ時、心臓を冷たい手でわしづかみにされたような衝撃が走った。前に一度死んだときも、ここまで驚きはしなかっただろう。
 その目は普段の十代の目とはまるで違い、黒目どころか白目の部分まで全体的に黄色く染まり……そして何より、これまでに十代からは感じたこともないほどの怒り、憎しみ、悲しみといった負の感情がごちゃ混ぜになっていた。その視線に射られ、意識するより先に危険を察知した体が勝手に身構える。

「許さない……絶対に許さないぞ!俺の、タアァァーンッ!!」
「うわあああああっ!?」





「んー、むにゃ……どうしたんだよ清明、まだ日も昇ってないじゃないか……ふわぁ」

 自分の悲鳴に、がばっと跳ね起きた。十代の半分眠ったような声が隣の部屋から聞こえ、周りを見渡すと僕の部屋のベッドの上。ふと気になって時計を見ると、まだ午前3時を少し過ぎたところだった。

「ゆ……め……?」
『随分うなされていたな、マスター』
「チャクチャルさん、だよね?それに、皆もデッキにいるし」
『む?』
「よかった……」
『はい?まあいい、私はまた寝るからな』

 何も事情を知らないチャクチャルさんにとっては、僕が何を言っているのか訳が分からないだろう。まあこっちとしては精霊の皆がいなくて泣きそうだった、なんて恥ずかしい話をするつもりは一切ない。
 それにしても、なんだったんだろう今の夢は。ただの夢にしては、妙にリアルだった気もする。マリン・ネオスだとかネオス・ナイトだとかの見たことがないモンスターが出てきたのはまあ、夢だからの一言で済ませられるとしても、あの景色の全てが、触ったカードの感触が、そして最後に見た十代のあの目が、いまだにくっきりと思い出せる。

「うー……さむっ」

 あの時の恐ろしさをごまかすかのように声を出してみるが、体の芯から凍り付きそうなあの感覚は消えない。とりあえず、あの悪夢を見ている間に汗だくになってしまった寝間着を取り替えよう。そうすれば気分がさっぱりして、少しはましな気分になるはずだ。だがそんな思いとは裏腹に、服を脱いでいる間も、あの十代の目がずっと頭から離れなかった。 
 

 
後書き
勝手に覇王フラグを立てていく十代さん(夢)。
知らずとはいえあの佐藤先生戦の後でコントロール奪取なんてやらかした清明が悪いと思う。
あ、スカブ・スカーナイトOCG化待ってます。あの話の全体的にやりきれない感じ好きなんです。 
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