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大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
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第四話 壁外調査

諸王国軍の襲撃から五日後、諸王国軍を壊滅させたロンディバルト軍は丘周辺に3重の有刺鉄線と8メートルの2重の防壁を作り、第二第三陣が送り込まれ守りは盤石なものとなっていた。

「閣下、帝国へ侵攻するにも、まずは現地の調査が必要です。捕虜の情報にはヨーロッパで猛威を振るった黒死病に似た病気も確認されております。加えて、帝国制圧後の統治に向けて現地住民との接触及び友好関係の構築が不可欠です。」
特地派遣部隊副司令官であるハイドリヒが、派遣部隊司令官であるペルシャールに意見した。
「うむ、戦いにおいて事前の偵察は必須だろうな。」
「では各部隊より抽出した兵員で6個の偵察部隊を編成し、この地の人間、産業、宗教や政治経済の調査を行います。その調査と並行して現地住民と接触、状況を把握しできうる限り友好的な関係を結んで来させます。」
ペルシャールが頷くと、ハイドリヒは早くも部下に指示を出した。

「なぁ、ハイドリヒ。俺も調査に行っちゃダメかな。正直司令室で書類読むだけとか執務室となんら変わらないのだが・・・。」
ペルシャールはデスクに置かれた書類をパタパタさせながら言った。
「それが司令官というものです。」
ハイドリヒは報告書を確認しながら言った。
「・・・でもさぁ・・・その、ね?せっかくファンタジー世界に来たわけだし、さ。エルフとかモンスターとか喋る動物とかと会ってみたいじゃん?」
ペルシャールはなおも引き下がろうとせずに駄々をこねた。
「・・・確かに閣下はいわばこの世界で言う皇帝ですから、現地住民と親しめば統治時も楽ですね。」
ハイドリヒは別の意味でペルシャールが行くことに賛成した。
「そうそう、だから、ね?偵察部隊に私も加えてくれない?」
「いいでしょう。偵察部隊の中に旧自衛隊員で構成された部隊があります。同じ日本出身者ですし、話も合うでしょう。念のためにシェーンコップ中将と精鋭2名を同行させますが、よろしいですか?」
「ああ、全然いい。じゃあ私は早速準備をしてくるよ。」
ペルシャールはうれしそうに司令室を早歩きで出て行った。
ペルシャールが調査に言っている間、ハイドリヒは愚痴の一つも言わず、ただ黙々と司令官であるペルシャールが行う決済も代わりにやっているのであった。


・・・・・・・・・・・・・


「集まれぇ!第三偵察隊、集合しました!」
次の日、第三偵察隊のメンバーは倒れそうになるほど緊張していた。
「おおっおやっさんじゃないか。シヴァ勤務以来か。」
その理由は、第三偵察隊の隊長が大統領であるペルシャールだからであった。
旧自衛隊階級で言えば陸曹長に値する兵士の中で最高級の曹長である桑原とペルシャールは、大統領座乗艦シヴァで何度か顔を合わせた仲であった。もっともすぐに保安隊から地上部隊に桑原は転属してしまったので、それきりであった。

「(えーと、ハイドリヒから名簿もらってたよな。)」
ペルシャールは事前に葉色ぢ日から渡された写真付きの名簿と実物を見合わせていた。

富田 章
階級:軍曹

倉田 武雄
階級:伍長

勝本 航
階級:伍長

戸津 大輔
階級:上等兵

東 大樹
階級:上等兵

栗林 志乃
階級:軍曹

仁科 哲也
階級:曹長

笹川 隼人
階級:上等兵

古田 均
階級:上等兵

黒川 茉莉
階級:軍曹

桑原 惣一郎
階級:兵曹長

霜原雄二(ローゼンカヴァリエ連隊より)
階級:上等兵

田端栄一(ローゼンカヴァリエ連隊より)
階級:伍長

名簿を一通り確認すると、ペルシャールは口を開いた。
「あー第三偵察隊の隊長ということになった、ペルシャール・ミーストだ。まぁ実質的な隊長はシェーンコップ中将がやるから。部隊指揮なんて俺は知らんからな。おれとしては、エルフとか猫耳娘に会えればそれでいい、って感じかな。じゃ、出発しようか。」
挨拶と言っていいのかわからない紹介の後、第三偵察隊は出発した。メンバーはペルシャールの言葉に”大丈夫なのあの人””うおーっ、大統領が俺と同じ考えの持ち主だったなんてっ!”など思い思いの感情を抱いていた。


「閣下。」
「あーその”閣下”はよしてくれ。今は”隊長”でいいよ。それと、無理に堅苦しい敬語を使う必要はない。」
倉田がいつもはあまり使わない敬語を使うと、ペルシャールは手をひらひらさせてやめさせた。
「はぁ・・・。」
「そろそろ、捕虜の情報であったコダ村です。」
後ろで地図を見ていた桑原が言った。
「じゃあ、そこで情報収集しようか。」

いきなり男が行くと、警戒されるかもしれないということで、黒川が初めの接触を行うこととなった。この時栗林が選ばれなかったのは隊員の総意からであった。


「空が青いねぇ~、流石異世界。」
数か所の村で情報収集を終えた第三偵察隊は、コダ村の村長から教えてもらったエルフの村に向かっていた。
「こんな風景、北海道にもありますよ。」
倉田が運転しつつ突っ込んだ。時間がたったのである程度緊張がほぐれてきたようであった。
「まぁ確かにそうだが・・・。」
「ドラゴンがいたり、妖精が飛び交ってるところを想像してたんですがねぇ。これまで通ってきた村には、人間ばっかりでしたし。がっくりっす・・・。」
「そんなに猫耳娘が好きなのか。」
「別にぃ、猫娘でも、妖艶な魔女でもいいっすけど。かっ、隊長の好みはどうなんですか?」
ある程度緊張がほぐれたとはいえ、大統領を隊長と呼ぶのにはまだ時間が必要なようであった。
「おれは・・・まぁ魔法少女とか?」
「まじっすか!?」
大統領の意外な好みに敬語を忘れて驚きの声を上げた。ちなみにペルシャールがこんな好みなのはヲタクである亡き父親の遺伝子のせいが大きい。いろんなアニメのDVDを買ってきては、地下にある地下倉庫にため込んでいたのであった。それをペルシャールが暇なときに見ているのである。

「それにしても、なんで持ち込んだ装備はそろって旧式なんですかね。車両は、一応現用ですけど。」
「あーそれね、予算の都合だよ。財政委員長のホルスが戦争終わった途端軍事予算を減らしまくったせいで今回の派遣も結構ギリギリだったんだ。挙句の果てに、ゲートを閉じろとか市民団体が言ってきて・・・。」
「た、大変だったんですね。」
「まぁ最悪こっちに投棄して撤退ということもあるから、最新式を持ち込むのはは危険だしね。」
「捨てていっていい武器、ということですか。」
「そゆこと。」

「倉田、この先の小さな川を右折して川沿いに進め。しばらく行ったら、コダ村の村長が言ってた森が見えるはずだ。」
「了解。」
話しがひと段落したところで、桑原が地図を見ながら言った。

「おっ、言った通りの川だ。頼りにしてるよぉ、おやっさん。」
コダ村の村長が言っていたことは正しかったようで、川をまがって川沿いに進んでいった。
「たよられついでに意見具申します。ミースト隊長、森の手前でいったん野営しましょう。」
「ああ、賛成だ。」
ペルシャールがそう言うと、桑原は通信機をONにして後ろの2両に指示を出した。

「一気に乗り込まないんすか?」
倉田が問いかけた。
「今入ったら、何がいるかわからないまま森の中で夜になっちゃうでしょ?それに、村があるとすればそこの住民を驚かせることにもなるし。」
ペルシャールは一度言葉を切った。
「ロンディバルト軍は民主主義国家の国民に愛される軍隊だよ?この任務は、友好的な関係を築くのが目的だしね。」
そういうと、ペルシャールはポケットから手帳を取り出した。これは捕虜から得たこちらの世界の言語が書かれた本であり、派遣部隊員全員に配られている。
「えーと、ザバールハウゥグルゥ。」
「棒読みっすね。駅前留学に通ったほうg・・・。」
ペルシャールの感情が入っていない言葉に、倉田が突っ込んだ。ペルシャールは”うっせ”と言って手帳を倉田に投げつけた。
「いてっ、って、あれ・・・。」
「たく話を逸らすn、ん?」
倉田とペルシャールが見たのは森から上がる黒煙であった。
 
 

 
後書き
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