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転生特典をもらっても全て得になるとは限らない

作者:フリーK
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機動戦士ガンダムSEED編
  第26話 前編

 
前書き
 終わり方が納得できなかったので修正しました。 

 
          オーブ連合首長国。

 オーブは様々な火山列島で構成されている島国であるが、その中の一つに『オノゴロ島』という島がある。

 この島は国防本部や国の軍事産業を一手に引き受ける国営企業『モルゲンレーテ』が置かれており、まさにこの国の軍事の中枢と呼べる島である。


 そのオノゴロ島に存在するモルゲンレーテの本社。このビルのとある一室に何組かの男女が招かれていた。


「………」


 場の空気は張り詰めており、穏やかな雰囲気は一切ない。
 もしもこの部屋に部外者でも立ち入ろうものなら彼等に即行で追い出されるか、その部外者自身が部屋の中の空気感に耐えきれず自分から出て行く事だろう。それ程までにこの場にいる者達には余裕がなかった。

 だが、そんな状態に陥ってしまうのも仕方のない事だ。

 彼等の中には今日まで眠れない毎日を過ごした者もいる。

 それこそ神に祈り無事を願い続いた者もいる。

 ここにいるのは程度に差はあれども気が気でない日々を過ごし、全員同じ位今から会う者達の無事を願っていた人々なのだ。


「───あっ」


 それが誰の声だったかは分からない。

 部屋の扉が開かれ、複数の若者が入ってくるのを見た瞬間独りでに声が漏れてしまったのだ。


「トール!」

「ミリアリア!」

「サイ!」

「カズイ!」


 来客用のソファから立ち上がり、皆それぞれ若者達の名前を呼びながら駆け寄っていく。若者達の方も父さん母さん、と余程再会が嬉しかったのか笑顔で駆け寄りそれぞれ喜びを分かち合いながら抱きついていたり、はたまた感動の余り涙する者もいた。

 
 若者達は先日オーブ近海でザフトの部隊と戦闘を行い公式にはオーブ近海から離れたと発表されているアークエンジェルのクルー。そしてこの一室に招待されていたのは彼等の親達なのだ。
 若者達は本来オーブ所有の宇宙コロニー『ヘリオポリス』の学生であり軍人ではなかった。だが数ヶ月前のヘリオポリス崩壊時にアークエンジェルに乗り、紆余曲折を経て志願兵となり今日までアークエンジェルのクルーとして戦っていたのだ。

 その知らせを受けた時、彼等の両親達は「何故自分達の子供が戦わねばならないのか」「子供達はいつ帰ってこられるのか」など、様々な思いを抱いたがやはり一番は「一目だけでもいいから子供の顔が見たい」だった。
 それは子供達の方も同じであり、折角自分達の故郷であるオーブに来られたのだ。作成行動中は下船できない規定になっているのは志願した際に説明されたが、やはりこのタイミングで親に会いたいと思うのは至極当然であった。
 
 これを見かねたアークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアス少佐他とオーブ政府との話し合いの結果、現在ある条件下の中特別に寄港を許されているアークエンジェルではあるが、ヘリオポリスの学生だった志願兵達は時間をとり、特別に両親と面会する事が許可されたのだ。

 
 そんな親と子が安否を確認し喜び合う場の中で、一組だけ子がこの場に来ておらず未だ再会叶わぬ者達がいた。


 ──ここに来ると確かに連絡があった筈なのに何故か自分達の子供がいない──


 その事実は二人の心に不安を募らせる。

 何か来れない事情でもできたのか? ならば何故何の連絡もないのか? まさか息子に何かあったのではないか?

 冷静に考えればそこまでの事態になっているなら連絡がこないなど有り得ないと分かるだろうに、今回この一組の夫婦──ヤマト夫妻はそんな突拍子もない考えが浮かぶ程に動揺していた。

 これは事前の連絡で「自分達の息子が機動兵器のパイロットをしている」と知ったのも原因の一つに入る。

 パイロットになるというのは、つまり戦争の最前線に赴くという事だ。当然その死亡率は格段に高く、余程の腕がなければ生き残るのは難しい。
 軍事関係にはあまり詳しくないヤマト夫妻でも、少なくともパイロットは死ぬ可能性が高くなるというのは理解できていた。

 だからその情報が夫妻の冷静さを欠かせる事態に陥らせてしまったのだ。

 そんな時、此方に歩み寄り話し掛けてくる少年の姿を視認し、何の用だろうかと其方に顔を向けた。


「すみません、キラの御両親ですか? 」

「そうだが、君は?」

「キラの友達のトール・ケーニヒです。キラから伝言を預かってきました」


 少年──トールが息子の友人と知り、二人は軽く会釈をしながら自分達も自己紹介をしていく。
 ヘリオポリス崩壊前にキラからカレッジで友人ができたと連絡があったが、見たところなかなか人の良さそうな印象をトールに持った二人はキラが彼方でもうまくやれていたのだと安心感を覚えた。
 が、それと同時にキラからの伝言の内容が気になった為それを表に出すことはなくすぐにそれに関して尋ね始めた。


「それで……キラからの伝言というのは」

「はい。『まだやる事があるから来れない』って言ってました。多分時間内には来れるとも言ってましたけど……」

「やる事? 一体キラは何をしているんだ?」

「あの、それはちょっと答えるのは………」

「何故答えられないのだろうか?

 ……まさか、うちの息子に何か後ろめたい事でも──」

「あなた」


 その声を聞き、ハルマは我に返った。振り返れば妻がすぐ後ろにおり、自分の行動を否定するかのように首を横に振っている。

 それを見てハルマはやってしまった、と自分の行動を恥じた。

 目の前の少年はわざわざ家族と過ごせる時間を削ってまで自分達に息子の伝言を伝えに来てくれたというのに、自分はあろうことかそんな彼が答えられない事を無理やりにでも聞き出そうとしていたのだ。


 なんと馬鹿な事をしたのだろうか、私は………


 すぐさま謝罪し頭を下げるハルマ。対してトールはハルマの行動に困惑し、少し間を置いた後に何とか立ち直り謝らなくてもいいとハルマに告げた。

 その後トールは家族の下に戻っていき、二人はキラを待つ為来客用のソファに腰を下ろした。
 ハルマは見るからに疲弊しており、妻のカリダはそれを心配そうに見つめていた。


「すまない、カリダ。みっともないところを見せてしまったな」

「いえ、いいんです。……あの子の事が心配なのは私も同じですから」

「………」


 ハルマの中では、まだトールという少年にキラは今どういった状況にあるのか尋ねたい気持ちが僅かながら残っている。だが、答えられないと言っているのに無理矢理聞き出す事は彼には出来ない。それがキラの友人なら尚更だ。
 それにキラは時間内には来る、と伝言で伝えてきたのだ。


 ──今はただ信じて待つ。


 やはり、そうするしかないのだろう。

 歯がゆくはあるがそれ以外にできる事がないのなら、完全にとはいかないが諦めもつくというもの。
 ならば親として、いざキラがやってきた時心配させぬよう平然とした態度でいなければと自分に言い聞かせ、ハルマはカリダと共にキラの到着を待つ事に決めたのだった。




















 モルゲンレーテ工業施設内の、開発された兵器のテストを行う試験運用区画。

 ここで行われているのは、モルゲンレーテが開発したMS『M1アストレイ』3機と、先日入港したアークエンジェルで雇われた傭兵が操縦するジン1機による模擬戦だ。

 当初、この模擬戦を観戦していた者達の内、M1アストレイを開発した技術スタッフの殆どは苦戦はすれど勝つのは3機のM1アストレイだろう、と予想していた。

 ジンは大戦初期に開発された機体であるのに対し、M1アストレイはモルゲンレーテがヘリオポリスでのストライクを始めとするGAT-Xシリーズの開発データを用いて開発した機体だ。
 量産型という点やデータの全てを解析できなかったという事もあり性能は本家より劣ってはいるものの、それもGAT-Xシリーズと比べればの話である。

 今まで問題になっていたOSも、アークエンジェルにてGAT-Xシリーズの一つ『ストライク』のパイロットを勤めるキラ・ヤマト少尉の協力もあり実戦に投入できるレベルに仕上がった。

 今まで頭を悩ませていた問題が一気に開発したのもあるだろうし、自分達が開発した虎の子であるM1アストレイに余程の自信があったのかもしれない。

 だが彼等はMS戦に於いてある一つの重要な要素を理解していなかった。


 それによって模擬戦の展開が彼等の予測とは違う結果になるとも知らずに。
 

 

















 スラスターで戦闘エリアを跳び回っているM1アストレイのパイロット マユラ・ラバッツはこの模擬戦の現在の戦況に激しい焦燥感を抱いていた。


「当たれ! 当たれ!」


 彼女の駆る機体を含めた三機のM1は幾度となくビームライフルの銃口をジンに向け、模擬戦用に搭載したペイント弾を撃ち続いているが今まで全く。そして現在も当たる事が一度も無い(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。


「何で一発も当たらないのよ!?」


 ジンの機動性は明らかにザフトや傭兵などが使っている物から逸脱しており、下手をすればM1さえ超えているやもしれないという速さだ。

 その素早さを見た時点では、少なくとも苦戦は免れず負ける確率が高いであろう事は彼女にも容易に想像できた。
 
 ただでさえ相手は本当の戦場で何度も戦ってきた手練れの傭兵だという話なのだ。対してパイロットである自分は本格的な戦闘など一度も経験した事のない素人で、その上相手の機体性能が此方のものを上回っているのなら勝てる見込みは限りなく薄い。


 だが、やってやろう。


 これでも今までM1のテストパイロットを務めてきた者としての矜持はある。

 せめてジンの装甲にペイント弾の一発は当ててやろう、と息巻いていたのだが────今のところそれは実現させる事ができずにいる。


 決意とは裏腹に現実は相手と自分との力量の差を明確に物語っていた。
 

 相手が強い事は分かっていたつもりだったが、その力は自分の予想を遥かに上回っていたのである。
 まだ彼方は攻撃してこないが、今の自分では防御して防ぐ事すらかなわないだろう。
 

 もしもこれが実戦だったら───


 
「(違う。………これは模擬戦、模擬戦なんだから──)」


 だが、一度想像してしまうとどうしてもその考えを振り払う事ができない。
 彼女は気付いていなかった。そこから生まれるその恐怖が、その焦りが、機体の動きより単調し相手をより有利に立たせている事に。


『遅い』


 そして、ジンのパイロット──洸はその隙を見逃さなかった。

 すぐさま彼はスラスターの出力を上げてマユラのM1の裏手に回り込み、そこから勢いよく回し蹴りを叩き込んだのだ。


「きゃあぁぁぁ!!?」


 蹴りが機体の背中へ綺麗に入り、その衝撃はコックピット内へダイレクトに伝わってしまう。
 M1は床へ顔から倒れ込んでしまい、ただでさえコックピットに伝わった衝撃で参っていたマユラは機体の転倒で勢いよく頭をぶつけ、意識を失ってしまった。 

 
「マユラ!?」

「この、よくもっ!」


 これを見た残りのM1の搭乗者 アサギ・コードウェル、ジュリ・ウー・ニェンの両名は敵討ちとばかりにジンへ向かって突撃を敢行する。

 だが、二人の放つペイント弾はマユラと同じく洸のジンへは一切当たらない。床や壁に次々と塗料を撒き散らすのみで先程までの焼き増しが行われるだけだった。

 そして、ついにジンが攻勢に移る。

 M1アストレイと同様にペイント弾を装填している突撃機銃を二機へ向けその引き金を引いた。
 銃口から放たれたペイント弾は真っ直ぐにM1の関節部分や装甲へと着弾し、コックピット内はダメージ判定のアラームが鳴り響いていた。


「うっ、嘘!?」

「でも、まだ負けた訳じゃないんだから──」


 この状況に二人は狼狽えるものの戦う意志は残っていた。

 確かに大分ダメージ判定を受けたM1だがまだ動ける位には無事な箇所も見受けられるので戦う事はできるだろう。

 だが、一瞬動き鈍らせたのが拙かった。

 戦場に於いて僅かでも隙を見せる事は死に繋がるのだから───


「えっ、上?」


 コックピットのセンサーが上空に敵と反応を見せる。

 気付けばいつの間にやらジンの姿が見当たらず、二人はセンサーの示す上を見上げた瞬間───


「えっ」


 目の前の画面が塗料の色で埋め尽くされた。

 訳が分からず二人は機体を動かそうとするが、表示されるのは『撃墜判定』の四文字のみだった。


「な、何でよ~!!」


 こうして模擬戦はM1アストレイ三機の敗北によって終わりを迎えた。 
 
 

 
後書き
 あと数話で展開が大きく動く予定

 ………いつ投稿できるかは分かりませんが 
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