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通り雨

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3部分:第三章


第三章

「見つからなかったらいいし」
「そうそう。見つからなかったらね」
「じゃあ幸か不幸かここに穴があるし」
 廃屋の中を覗けるだ。その穴があった。それも結構大きくだ。二人が一緒に覗いてもいけるような。そこまでの穴だった。
 その穴を自分の顔のすぐ傍に見つけてからだ。理恵は俊彦に話した。
「ここから覗く?」
「そうしようか」
「そうしましょう。ただね」
「ただ?」
「人間だったらまだいいけれど」
 考えがさらに怖い方向に向かう。
「妖怪だったらどうしよう」
「妖怪ね」
「こうした廃屋にはつきものじゃない」
「その妖怪とか幽霊とかね」
「そうそう、幽霊の可能性もあるのよ」
 話はオカルトにも向かう。最早何でもありだった。
「それがいたらどうしよう」
「逃げるしかないね」
 最早相手が完全に人間ではないならだ。選択肢はなかった。
「ヤクザ屋さんでもそうするけれど」
「雨に濡れても」
「食べられるのと肺炎になるのどっちがいい?」
「肺炎に決まってるじゃない」
 答えは一つだった。食べられては元も子もないからだ。
 それでだ。理恵ははっきりと答えたのだった。
「それじゃあよ」
「そうだね。それじゃあね」
「逃げるわ」
 その場合はそうすると断言する理恵だった。
「そうしましょう」
「うん、じゃあ」
「鬼が出るか蛇が出るか」
「お化けが出るかヤクザ屋さんが出るか」
 二人は覚悟を決めて一緒にその穴を覗いた。するとだ。
 そこにいたのはだ。ヤクザ者でも妖怪でもなかった。当然不良でも幽霊でもない。
 しかし考えようによってはもっと恐ろしいものだった。それは。
 肥満した、それこそ三段腹ででっぷりと太りだ。おまけに頭は見事に剃ってスキンヘッドにしてだ。髭だらけの顔の男達はだ。
 くんずほぐれずだった。全裸で蛇の如く絡み合っていた。
 そのうえでだ。互いにこう叫び合っていた。
「愛しているぞ!」
「好きだーーーーーーーーーーーっ!」
 何かは言うまでもなかった。二人にもすぐにわかった。
 同性愛だ。男同士のだ。それを見てだ。
 二人はその顔を見る見るうちに青くさせてだ。そのうえでだ。
 無意識のうちにお互いの手を持って。反転し。
 ダッシュした。全力で逃げたのであった。
 そうしてからだ。彼等は豪雨の中を逃げた。どれだけ走ったかわからない。それで気付けばだ。二人は喫茶店の前にいた。
 そこでようやく一息ついてだ。まず理恵が言った。
「あの、あれって」
「おホモさんだね」
「何であんなのがいるのよ」
 思わず俊彦に問い返す理恵だった。
「あんな場所に」
「誰も来ないからかな」
「それで?」
「普通あんな場所誰も来ないよね」
 怪しい人間でない限りは。それはないことだった。何しろ廃屋だ。そうした場所に好き好んでいく人間はだ。廃墟マニアかそうした人間しかいない。そういうことだった。
 
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