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理性

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2部分:第二章


第二章

「それでなんです」
「そうか。それでやったか」
「ええ、阪神も嫌いじゃないですけれど」
「そやったらええ」
 学はソフトバンクには極めて寛容な姿勢を見せた。
「巨人やなかったらな」
「若し巨人だったら僕どうなってました?」
「ここで巨人グッズに身を包ませてや」
 ここは甲子園球場の一塁側だ。まさに阪神ファンにとってのメッカである。
「それでみなさーーーーん、最高ですかーーーーーっ!?って叫ばせとるわ」
「何か古いですね」
「そやけどこれやったら絶対に死ぬ」
 学は断言した。
「巨人ファンは関西では一切の人権がないんやからな」
「特にここではですね」
「そういうことや。しかしほんま」
 学は顔を歪ませてだ。忌々しげに言うのであった。
「けったくそ悪い。巨人が勝つなんてな」
「しかも逆転でしたね」
「巨人なんか一億年位最下位でええんや」
 また大きなことを言う学だった。
「未来永劫な」
「一億年ですか」
「巨人は北朝鮮と同じや」
 今度言う言葉はこれだった。
「日本人の敵やぞ」
「嫌いな人は多いですよね」
「巨人が負ければそれで日本人は元気になるんや」
 主観全開の言葉をだ。ビールの匂いと共に吐き出す。
「その負ける惨めな姿を見てや」
「じゃあ勝ったら」
「こうなるんや」
 こんなことを球場で言っていた。そしてだ。
 彼はだ。さらにであった。
「ほなや」
「はい、飲みにですね」
「行くで、憂さ晴らしや」
 裕也を連れてまた飲むのであった。この日彼は大荒れであった。
 しかし次の日の職場では。彼は。
「わかりました。それでは」
「では行って来ます」
 真面目に、かつてきぱきと働いていた。勤務は非常にいい。
 有能かつ俊敏、鋭利であった。まるでサイボーグの様に動く。
 しかも後輩への面倒見や教育もよかった。裕也にだ。
「いいか、ここはだ」
「こうすればいいんだ」
 手取り足取り教えるのだった。しかも丁寧かつわかりやすくだ。
「これでできるな」
「はい、有り難うございます」
 その教え方にだ。教えられる裕也も驚くことしきりだった。
「先輩のお陰でできます」
「いやいや、僕のお陰じゃない」
 学はそれは否定する。そしてこう言うのである。
「田所君が努力してだよ」
「僕がですか」
「教えてもらいたいってことはできるようになりたいってことだ」
 こう彼に言うのだ。
「そういうことだからね」
「だからですか」
「だから頑張るんだ」
 また裕也に言うのだった。
「何かあったらまた僕に言ってきてくれ」
「できるようになりたいと思ったら」
「努力したいと思えばね」
 こんな調子であった。本当に仕事では尊敬できる立派な人物であった。それは裕也から見てもそうだし上司や同僚からもそうであった。
 
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