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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  チョウジ

 
前書き
投稿するかちょっと迷いましたが、大食い少女に於けるチョウジの後の考え方にも影響を齎すので結局投稿することにしました。
忍びや火影に対する暴言が含まれておりますので、苦手な方・そういった描写を不快に感じる方は見なくても構いません。ただサスケとチョウジが森で見つけた手負いの一般人の少女が忍びと火影について罵倒したということのみ覚えてくだされば。
火影はダンゾウも含めて基本的に皆好きなのですが、一般人から見て木ノ葉崩しや九尾襲撃などの事象はどのように映るだろう、忍びや火影ってどんな存在なのだろうと考えた結果、こうなんじゃないかと考えたので暴言を吐かせざるを得なくなってしまいました。
ただし大食い少女の二部ではサクラ・いの・チョウジ・サスケなどの一部同期が忍のありかたについて疑いを持ったりすることもあるかと。
 

 
 森の中を駆けていたその最中、ふと聞こえた泣き声にチョウジとサスケは足を止めた。二人して樹上から飛び降りる。見れば木の根元、茂みの陰に少女が一人と、背の高い男が横たわっていた。
 ぐちゃぐちゃに乱された白い髪、日焼けして浅黒い肌と色あせた茶褐色の衣服にべったりと赤い血が飛び散っていた。恐らく一般人だ。そういえばこの森の近くには小さな村があったような気がする。男の方はもう死んでいた。虚ろな瞳が空を見上げている。べったりと血で濡れた男の体を抱える少女の脚を見て、サスケもチョウジも息を呑んだ。
 酷い攻撃を受けたようだ。左足があるべき部分には何もなく、ただ彼女の衣服をぬらす血があるのみ。右足も酷いありさまで、ぱっくりとわれた大きな傷口の中に見えた白っぽいものは多分骨だった。

「ね、ねえ、大丈夫?」

 チョウジが顔を近づけると、少女はサスケとチョウジの額宛てに視線を向けて、呟いた。

「木ノ葉の忍び?」

 二人は同時に頷いた。少女の顔が怒りに歪んだ。

「――いい加減にしてよ」

 サスケとチョウジは思わず顔を見合わせた。少女の言っている言葉が理解できなかったのである。

「ヒトゴロシ! あたしたち一般人をあんたら忍びの下らない争いに巻き込まないでよ! あたしたちがどんな悪いことしたって言うのよぉお!? 九尾も犬神も蛇も全部あんたたちのせいじゃない!! 母ちゃんを返して。兄ちゃんや姉ちゃんを返して。父ちゃんを返して! この人殺し! 九尾を止めた四代目火影は英雄? 里をつくった初代と二代目火影は英雄? 三代目火影はすばらしい人? ざけんな! 人殺しのくせに何が火影よ。何が英雄よ! 人殺しがふんぞりかえって火影なんて名乗るなんて気色悪い。チャクラなんて扱えるからって偉そうにしてんじゃねえぇえええ!!」

 その言葉に、チョウジとサスケは言葉を失った。少女の瞳に浮かぶのは激しい憎しみだった。一瞬、彼女の姿がユヅルと重なる。犬神、という単語にも気になったけれど、でもそれより驚かされたのは。
 人殺し。自分たちはまだ誰も殺したことはないとはいえ、一般人の目から見ればどれも同じようなものなのだろう。そして一般人からしてみればきっと、忍びの所為で引き起こされた争いに巻き込まれるのは迷惑至極なことなのだろう。
 そして一般人からしてみれば。自分たち忍びが火影を英雄と称えるのは、忍びを英雄と称賛するのは。ひどく矛盾したことなのだろう。

「でもそれならお前たちは木ノ葉にすまなければよかっただけの話だろう」

 と答えるサスケも正論だ。けれど理性を失った少女にとってそれは火に油を注ぐも同然だった。

「ばっかじゃないの? あたしたちみたいな貧乏人は木ノ葉の辺境みたいなちっちゃい村にしかすめないの。火の国のほかのところにあたしたちみたいな貧乏人が住むところなんてありやしないんだ、人を殺したお金で潤ってるあんたらとは違ってね! ――村から出る前にへんなナリの忍びがやってきてさ。父ちゃんのこと助けてって頼んだのに、あいつ父ちゃんにとどめ刺しやがった。木ノ葉が襲われて大変なんですぅって被害者ズラすんじゃねえよ。無意味に殺しあってるくせに。無意味に殺しあってるのはそっちのくせに! ――あいつその後蛇に押しつぶされて死んじゃったんだ、ほんと爽快! 忍びなんて全部クズクズクズ。人殺しめ!!」

 言いながら少女は更に激しく泣いた。その首から下がるお守りには「ヤバネ」と刺繍されている。サスケとチョウジは顔を見合わせた。このままじゃどのみち彼女は出血多量で死ぬかもしれないけれど、だからと言って彼女の言ったあの忍びのように彼女にとどめをさすことは出来ない。そんなことをしたら自分たちは本当の意味でただのクズになってしまう。例え人殺しのクズでも、里と仲間を守ったクズでいたい。
 だが今彼女にそんな処置をしても仕方ないだろう。包帯や兵糧丸などの忍具を取り出し、チョウジが応急処置をし始める。いらないと喚く彼女には耳を貸さない。

「――ごめん、サスケ。僕、ここに残るね。この子、忍びのこと凄い恨んでるけど……だからって放っておけないし。我愛羅のこと、頼んでもいい? 後で直ぐに追いつくから」
「……ああ、構わない。……頼んだぞ、そいつのこと」

 放っておけない気持ちは同じだが。しかしもっと放っておけないのは我愛羅の方だ。

「アイツをこれ以上暴れさせとくわけにはいかねえ……一般人の為にも、里のためにも、俺たちの為にも」
「うん。任せたよ、サスケ」
「――ああ!!」

 サスケが走り出す。そのスピードは前よりもずっと早い。
 ヤバネの言葉が二人に与えた衝撃は大きい。チョウジは顔岩を思い出して唇を噛み締めた。三代目火影の柔和な笑顔が脳裏に蘇る。でも彼とて無意味に殺しあったわけではないはずだ――きっと里を守り、仲間を守るために戦ったはずなのだ。
 父に手をひかれて歩いていた道で偶然あったときだとか、Dランクの容易極まりない任務を達成した時だとか。優しく笑ってくれる三代目が好きだ。里の皆の顔や名前を覚えていてくれる彼が好きだ。

「火影さまたちは皆、里を守るために戦ったんだ。火影さまのこともよく知らないくせに僕らの里長を酷く言うのは許さない」
 
 余りにひどいヤバネの傷口に吐き気を催しながらも、言っておきたいことはいくつかあった。

「それに僕たちが彼らを英雄と称するのは、彼らが水火を辞さずに必死で里を守り切ったからだ」
「どうでもいいよそんなの。あたしにとって火影も父ちゃんを刺したあの忍びも何のかわりもない。あたしら一般人にとって忍びは忍び。一括りにされちまうものなんだよ」

 チョウジは答えなかった。忍び世界に、御伽噺の中のような英雄は存在しないけれど。でも里や仲間や一族の為に尽くし、そして全力でそれを守りきる人たちを忍びは英雄と呼ぶ。平和の為に戦い続けた人たちを、英雄と。

「あんね。あたしさ、ずっとあたしには呪いの力なんてないと思ってたんだけどねえ。でも呪えるかも。あたし呪えるかも」

 突然彼女が笑いだした。脂汗の滲んだ顔。血の流れ出し続ける足。

「慈悲を」

 歌うように呟かれた声。ヤバネの指が持ち上がり、チョウジのホルスターを指す。

「父ちゃんを刺した忍びは言ったんだよ、あれも一種の慈悲なんだって。だからあたしにも慈悲を垂れてくれたっていいでしょ? もうこんなのいや。痛いし苦しい。あたしちっちゃい頃は忍びに憧れて、四代目火影のことも英雄だと思ってたのになんでだろうねなんでだろうねなんでだろうね。いつからかわっちゃったんだろうねえ」

 狂気じみた笑顔を浮かべたヤバネが言った。

「慈悲を垂れてよ。この苦しみを終わらせて。どうせシュッケツタリョウかなんかで死ぬよあたし。忍びじゃないあたしにもわかるよ、血が流れすぎたら死ぬってくらいさあ」
「そんなことないよ。今すぐ病院に連れていけば――」
「は? 勘違いしてないあんた。あたしのこれはね、復讐なんだ。敬愛する火影のこと一般人にこうやって罵られたのはじめてでしょ? 殺せって言われるのはじめてでしょ? 多分あんたは誰も殺したことないんでしょ? でも何れ殺すことになるよ。それが遅いか早いかの違いだ」

 息を吸って、冷たい赤い瞳の彼女は続けた。

「あたしはあんたにあたしを病院に連れて行かせて、人一人救えたなんて自分勝手な満足感に浸らせるつもりはない。――殺して、今すぐ。あたしはあんたの記憶にあたしのことを永遠に焼きつかせるの。森の中で足を怪我して、あんたの敬愛する火影を罵倒した女が慈悲を垂れろと言ったことを永遠に覚えていさせるの。自分たちばかりかわいそうと思って仲間の悲鳴ばかり聞いてるんじゃない。あたしたち一般人の悲鳴を聞け。巻き込まれる罪のない人たちの悲鳴を聞け。そして焼き付けろ、永遠に」

 それがあんたたちがあたしに出来る唯一の償いで唯一の救いだ。
 はき捨てられた少女の言葉にチョウジは何も返すことが出来ず。泣き出しながら、それでもクナイの刃を押し込んだ。彼女はどの道死ぬだろう。そして例え生き残ったとしても、この足では普通に暮らせまい。そして生き残ったとしても彼女は忍世界を呪いながら生きることしか出来ないのだ。
 ねじ込まれたクナイの刃が彼女の息の根を止める一瞬前、ヤバネが笑った。
 事切れた少女の首がかくんと揺れて、そして動かなくなった。
 チョウジはしばしの間、そこに蹲って泣いた。彼女が火影を罵倒したのは、仲間たちを罵倒したのは許せなかったけれど。でもそんな彼女の深い憎しみを見た恐怖に彼女を殺してしまった自分も許せなかった。
 
 

 
後書き
影が大体好きな私にとってはこれを書くのもちょっと辛かったし、投稿する前にも迷ったのですが、もしカブトが「影に葬り去られた忍び」の代表ならば、「木ノ葉崩しに巻き込まれてしまった一般人」の代表としてもヤバネを出したほうがいいかなと思いまして。
不快に思われた方は本当に申し訳ありませんでした。 
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