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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第23話 「従妹VS小狸」

「えっと……八神堂ってベルカスタイルのオーナー店のはずだよね?」
「ああ」
「そ、そうだよね……あのさショウ、僕の目がおかしくないならどう見てもここは本屋だと思うんだ」

 ユウキの言葉は最もである。
 何故ならユウキの中での八神堂はベルカスタイルのオーナー店でしかないのだから。事前にブレイブデュエルだけでなく普通に本屋も経営しているとも伝えていなかったし。
 このようなことを言うと、俺のことを意地悪な人間だとか言う人物が居るかもしれないが、別に意図的に教えなかったわけではない。俺は別にここの店長やシュテルのように人のことを積極的にからかう趣味はないのだから。単純に聞かれなかったから現状に至っているだけだ。

「その認識で合ってるぞ。ここは表向きは本屋をやってる店だからな」
「あぁそういうこと」
「うん、そうなんよ」

 不意に聞こえた第三者の声にユウキの肩が震える。
 どうして俺の知っている茶目っ気のある人物は、こうも気配を感じさせないというか突然現れるのだろうか。神出鬼没のスキルでも習得しているのか?
 と思う一方で、これまでに培ってきた……味わってきた経験からか、大抵のことでは動じない人間になってしまっている。いや、それどころか日に日に気配を感じ取れるようになっている気さえする。

「だ、誰!? ……ディ、ディアーチェ!?」

 ……あ、そういやこの街にはディアーチェ達にそっくりな人間が居るって言うの伝えてなかった。まあいいか、昔からディアーチェ達とは付き合いがあるわけだからすぐに慣れるだろうし。

「あはは、驚かしてごめんなぁ。私は八神はやて、ここの店長や。よく似てるとは言われるけど、王さまとは別人なんよ」
「は、はぁ……似すぎてて怖いくらいなんだけど、世の中には自分とそっくりな人が3人は居るって聞くし。ということは、僕にもそっくりな人間が……って、こんなこと考えてる場合じゃない。僕は東雲悠樹、よろしく……そういえば店長って聞こえたんだけど、それって僕の聞き間違いかな?」

 同年代よりも下に見られることがあるユウキだが、はやては確実にそのユウキよりも幼い。たぬきフードの服を着ていても違和感がないどころか、むしろかわいらしく見えるくらいに。
 それだけにユウキが店長という言葉に疑問を抱くのも無理はないだろう。この店にはアインスやシグナム、シャマルと大人組はそれなりに居るのだ。まだユウキは彼女達を見たことがないだろうが、はやてと一緒に誰かしら現れていたならそちらを店長だと思ったに違いない。

「ううん、聞き間違いやないよ」
「そ、そっか……」
「あ、その顔は信じてくれてないみたいやね」
「えっと……子供の僕が言うのもあれだけど……はやてちゃんだったっけ? 君は僕以上に子供に見えるし、信じろって方が難しいと思うんだけど」
「ユウキ、その考えは最もだが……こう見えてこいつはすでに大学を出てる。店長らしいかと言われたら店長らしくはないが、この店の人間はこいつを店長だと認めてるから店長という事実は覆せないぞ」

 俺の言葉にユウキは驚き「う、嘘……もう大学出てるの」などと呟き始めるが、まあ世の中に天才というものは存在しているし、俺やユウキの血筋は頭脳明晰な人間が多い。また彼女はシュテル達とも交流があるので、すぐにはやてが店長ということを認めることだろう。

「それにしても……なあショウくん、ショウくんが好きな子に意地悪をしたがるんは知っとるよ。でもな、もう少し優しくしてくれても罰は当たらんと思うんや」
「あのなはやて、さも当たり前のように言ったが俺は別に好きな子に意地悪をする趣味はないぞ」
「さっきもうちのお店は表向きは本屋とか裏がありそうなこと言うとったし」
「人の話を聞け」

 何故か得意気で話すはやてに俺はでこピンを敢行した。大して力は入れてないのだが、彼女は両手ででこを押さえる。

「もう、そういうところが意地悪やって言うんや。私を店長やのうて普通の女の子として扱ってくれるんなら、年上として甘やかしてくれてもええと思うで」
「基本的に店長として扱ってはないが、普通の女の子としても扱ってはない」
「ちょっ、それは何でもひどいで!?」

 ガーン! という音が聞こえてきそうなほど盛大にショックを受けた顔を浮かべたはやては、ヘナヘナとその場に座り込む。店の外で座るのはどうかと思うが、チラチラとこちらの様子を窺うというか構ってアピールをしてくるだけに実に無視したい気持ちになってくる。
 ……しかし、この状況を他のメンツに見られると面倒な事になりかねない。
 ヴィータやシャマルははやてが構ってほしいだけだと思ってくれるだろうし、シグナムもやれやれと言いたげな顔を浮かべるくらいだろう。
 問題なのはアインスだ。基本的に大人しい人物ではあるが、はやての事になると豹変するし……ここはさっさと立たせるべきか。

「はぁ……外で座り込むな、服が汚れるだろ」
「キュン……もうそうやって不意に優しくするのは反則や。何度私の心を奪えば気が済むんよ、まったくショウくんはアメとムチの使い分けが上手いなぁ。まあそういうところとか含めて好きなんやけど」
「クネクネしてないでさっさと立て」
「ブーブー、女の子が好きやって言っとるんやから恥ずかしがってもええやん」
「キュン、なんて口で言うような奴の言葉で恥ずかしくなるわけないだろ。そもそも、お前は俺に対して冗談を言い過ぎだ」

 俺の言葉に納得するかのようにはやてはこちらの手を取って立ち上がる。
 まったく……本当にこいつは世話が焼けるよな。大卒という経歴を考えれば、思考とかは俺よりも大人びていてもおかしくないのに。……まあ真面目というか常に気を張って遠慮ばかりするようなはやてなんて考えたくもないけど。俺にとっては今目の前に居るはやてがはやてだし。

「ん? どうしたんそんなに見つめて……もしかして」
「それはない」
「まだ何も言うてないやん!?」

 いや、言わなくても何となく理解できるし。
 つい数秒前に今のままでいいなんて考えたけど、やっぱりもう少しまともになってくれたほうが嬉しいかもしれない。

「やれやれ、鈍感なのもダメやけど鋭すぎるのもダメやと思うで」
「はいはい、分かったからいい加減店の中に入れてくれ。今日はデュエルしに来たんだから」
「むぅ……そう言われたら店主として話を進めなあかんやん。本当ショウくんはずるいなぁ……まあショウくんがデュエルしてくれたら盛り上がるやろうし、カッコいい姿を見れるから嬉しいことの方が多いんやけど」

 そう言ってはやては笑顔を浮かべながらいつものように俺の腕に自分の腕を絡めると、店の方へと歩き始めた。
 これまでに何度か注意したもののこれといって効果がなかったことに加え、人間というものは慣れる生き物だ。なので彼女に対する言葉は特に浮かんでこない。ディアーチェが居たならば、つい先日も怒られたので何かしら行動を取っていた気がするが。

「……って、ちょっと待って!」
「急に大声出してどないしたん?」
「どうしたもこうしたもないよ。何でふたりは腕を組んで歩いてるのさ!」
「え、そんなん私がショウくんとそういう仲やからや」

 ディアーチェに対して言うときの冗談だと分かる笑顔とは打って変わって、今のはやてはさも当たり前のことを言っているような顔をしている。
 状況から推測するに……グランツ研究所の誰かしらからユウキの存在を聞いてたな。そうでなければ、俺がユウキと一緒に店に来た時点でこの前のアリシアのようなことになっていても不思議ではないし。それにここに至るまでの言動でユウキが意外と良い反応をしそうなのは見抜いてそうだから。

「いやいやいや、確かにショウは昔から自分よりも『年下』のディアーチェ達と接してたけど!」
「別に年下を強調する必要はないんじゃないか?」
「最近は小学生達と仲良くしてたって聞いたし、年上の友達なんてアミタ達しかいないんじゃないかって思ったりもするけどさ!」
「おいユウキ、人の話を聞いてるか?」
「でも、だからって小学生くらいの子とそういう関係になるような人間になったなんて思いたくないよ。従兄がロリコンだなんて……叔母さん達になんて報告すればいいのさ!」
「ユウキさん……とりあえず落ち着いてもらっていいかな?」

 別にはやてとお前が思ってるような関係になってないし、俺の親にも報告しなくていいから。
 というか、そういう言葉が出るってことは何かしら言われて来てたのか? まあ可能性はあってもおかしくないけど、俺の両親は基本的に俺が選んだ相手なら誰でも良いみたいなスタンスだった気がするんだが。
 いや待てよ……それは俺の近くにはディアーチェといった母さん達もよく知る女の子しかいなかったからだろうか。ディアーチェ達を除けば、母さん達が知っていたのは高町やテスタロッサ姉妹くらいになるだろうし。
 もし仮にそのへんと裏工作があったとして……高町の母親である桃子さんとは仲良くやっていけると思うが、テスタロッサ姉妹の母親……プレシアさんにはそもそも娘さんを僕にくださいなんて言える気がしないな。

「ショウ、実際のところどうなのさ!」
「どうもこうもはやてとは何もねぇよ」
「その言い方は何か癪やけど今はまだ友達やからな。腕くんだりするのも本気でやってるわけやないし」
「はやてちゃんは女の子なんだから本気でもないのにああいうことしちゃダメだよ! 男っていうのはすぐ勘違いしたりするし、簡単に密着したりするのは……その、違うと思う!」

 かつてここまではやてに必死に常識を説いた人間が居ただろうか?
 ……おそらくディアーチェくらいだろうな。最近は何度もやってきたり、アインスとかのガードが入ったりするから漫才的な流れで終息してしまうけど。

「そこまで言うんなら……会ったら日に最低でも3回は引っ付くという目標を2回に減らす。これでええやろ?」
「うん……って、全然良くないよ!? そもそも引っ付くのもやめよう、というかそんな心掛け別にいらないから!」
「えー、ユウキちゃんはいけずやなぁ。私とショウくんなりのスキンシップなんに」
「ショウは多分望んでないから、ある程度好きにさせてから言った方が効果的だとか、単純に慣れて何も言おうとしてないだけだから。というか、はやてちゃんは大学出てるんだよね? この店の店長さんなんだよね? 店長さんがそんなで良いと思うの?」

 大声を出し過ぎて疲れたのか、常識的な問いかけで説得する方向性に変えたようだ。おそらくだが、俺の予想でははやての回答は斜め上に行く気がしてならない。

「そんなんでええかって? そんなんええと思っとるよ!」
「そうだよね……ええぇッ!? 何でそうなるのさ!」
「ええかユウキちゃん、ショウくんは凄腕のデュエリストなんやで。凄腕のデュエリストが通ってくれる店なら活気も出てくるやろうし、うちのお店のチームの強化にも繋がる。そして何より、本屋の仕事にブレイブデュエル、家事全般出来るお婿さんもゲットできるんや! 現状から想定できる人生設計で最高のプランやないか!」

 前半や本屋の仕事とかに関しては店長としての立場からの発言だと思えるが、お婿さん云々は少なくても当人が居る前で言うものではないだろう……

「ってユウキ、お前は何を説得されそうになってるんだ。俺の意志を全く度外視した話に納得しようとするな。それとはやて、お前これ以上は何も言うな。これ以上やると俺の従妹がもたないから」
「しゃーないな、まあ十分に楽しめたからええとしよか。じゃあふたり共、そろそろお店の中に入ろか。今日はたくさんデュエルして楽しんでいってな♪」
「……僕、すでに結構疲労困憊なんだけど」
「ユウキ……そんなんだとこの街じゃやっていけないぞ」
「――っ、もう! こんなときくらい現実突きつけないで優しい言葉を掛けてよね!」

 
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