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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第109話 戦場は絶望を見るようです

Side ―――

―――ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

戦の開幕と同時、魔族の半数が大きな身体と翼をはためかせ、突撃を仕掛ける。

対し、魔法世界軍も数隻の戦艦が浮遊魔法や魔法具を使った歩兵を伴わせゆっくりと前進

する中、突出する影が5つ。先陣として出たラカン・ガトウと"大魔導士"の三人だ。


「行くぞ、合わせろよガトウ!!」

「お前に合わせるのは骨が折れるんだがな……!」

「「必・殺!『一敖螺旋槍羅漢拳』!!」」
ギュルルゴォァァアアッ!!!

ラカンの太い気拳にガトウの無音拳が絡まり、数十メートルの螺旋槍と化した二人の拳は、

突撃して来た魔族郡の右上方を太々と抉り取る一番槍となった。


「ヒュウッ!えっらい威力だな。んじゃぁ俺らも続くぞ!!」
バババババリバリバリバリババリバリ!!
「おっけぇ、ド派手なの行くわよ!"アルメノ・イルサトム・ハルト! 最強之一撃即夂

神速也!『汝之時間ハ限リ無ク零ト成レ』"!!エイル!」

「う、うん!"エノ・ルト・エルサ・レマル! 可能性の樹は広がる 何処何時幾度幾重

までも!千と重なれ!万に繰り返せ!億と綴れ!無限に産まれろ!『世界樹の経典』!"」


ジオンが広げた手の間に雷撃が生まれると同時、ジルダリアは淡い光を産み出し、エーリ

アスは枯れた大樹を前方へ向ける。光を纏ったジオンが大樹に手を付き、呪文を唱える。


「ぶっぱなすぜぇ!"『万の神雷(デ・ミラルース・トルゥデオ)』"!!」
バッ―――ババババガガガガガガガバリバリバリバリバリバリリバリバリバリ!!!
「おーおー、ド派手なこった。」


『千の雷』の上位に位置する魔法を無詠唱で発動し、文字通り万に広がる雷が大樹に奔り

増幅と増殖を繰り返す。そしてコンマ一秒以下の僅かな時間を経て、枝から紫電の花が咲き

誇る。数十万に増えた雷撃は魔族の壁を蜂の巣状に食い破り、初撃と合わせて、突撃して来た

魔族の半数を蹴散らした。


「良し!全軍!精霊砲の射程から宮殿が出ぬ様、相手との距離を保ちつつ攻撃を開始せよ!

大規模戦術魔法部隊は詠唱開始!艦隊、精霊砲準備!!アルビレオ殿、ネギ君の容体は?」


それを確認したヘラス皇帝の号令により、全軍が足並みをそろえ攻撃し始める。号令を出した

後、参謀として横に控えていたアルビレオに、最初に医務室に入った少年の様子を問う。


「ゼクトと医療術師が回復させていますが、まだ……。あれ程の魔力を一度に使ったのです、

目を覚ますのにもあと二十分はかかります。戦闘は……一時間あれば、彼ならば。」

「ふぅむ……ただの一人でかの伝説の攻撃をほぼ無力化したのだ、無理もない。して、何故

彼らは下がったと思う?やはり温存か?」


続いた質問に、アルビレオはヘラス皇帝から目を背け、こめかみを押さえつつ答える。


「いえ、単純にラスボスはラスボスらしくしよう、と言う事でしょうね。」

「はぁ…………考えるだけ無駄か。二撃目が来なかった分良しとしておこう。貴殿らは?」

「作戦通り、上位を叩きます。彼等が下がった以上、指揮系統もそちらに移動している筈。」

「相分かった。して、ネギ君の仲間の少女達だが、本当に突撃艦に乗せたままで良いのか?

僅かなりとも戦力が欲しいところだと思うが?」

「彼女等はこの作戦の要。瞬発力が命です、それこそ力を温存して―――」
ズドオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!

二人が作戦を話し合っていると、突如魔族群の中央が爆発し、更に巨大な影の竜の爪と巨大な

炎の剣が両翼を切り裂く。恐れを知らない魔族とは言え、僅か数分で数万の兵を減らされ動きが

鈍る。戦場が固まる中、煙の中から高らかに笑う声が上がる。


「フハハハハ!爆発は至高の芸術であると思わないかね、刹那嬢!!」

「炎系の奥義を使って後悔している所です、黙っていてください。」

「何故に主はそこまで辛辣かのう。好く理由も無いとは思うが。」


現れたのは、ネギ達と一緒に待機していた筈の刹那達三人。好きに行動するとは言われていた

ものの、こうも自由に動くと思っていなかった指揮官二人は呆然とし、魔法世界軍の動きも鈍る。

それを宮殿内で愁磨の指示で戦況を見ていた最上位の魔族達は―――


「ええい、なんたる不甲斐無さ!それでも魔族の端くれか!?これでは猊下の威信に関わる!」
ダンッ!

全軍の指揮を任されながらも、第二陣以降でのみ出陣を許されると言う命令を出された"三魔将"の

反応は三者三様。ヴァナミスの様な反応をしたのが"億月透見"のディアボロス。

筋骨隆々、身長4mと言う見た目に相応しく、頭に血が上り易い上に力任せの戦法を好むが、過去と

未来を見通す力を持つ為、優秀な軍師として任に着いている。


「お前は少し落ち着け。フフフ……しかしここまで圧倒的とは面白い。」

「どぉでもいい……あーあぁあ、早く終わらないかなぁ……待ってるのもダルいしぃ………。」


対し、冷静に笑った細身の騎士甲冑は"永傷即癒"のサルマク。名の通り、癒えない傷を与え、

また傷を癒す力を持つ魔族。そしてダルそうに垂れる、ほぼ全裸の子供姿の魔族こそが"音奏歌曲"

アムドゥスキアス。召喚者に音楽的才能を与え、自身も音楽を持つとされる悪魔と同名であるが、

それは自称。本名は"怨葬禍棘"のデモゴルゴン。原初の魔族であり、悍ましい能力を持っていると

だけされていた最強、最古の魔族。


「もう待てぬ!如何に猊下の命と言えど、このまま手を出さぬ事こそ不忠!」

「やれ、落ち着けと言うのに……仕方あるまい、私も行こう。アムドゥスキアス、お前は……

聞かんでも分かるか。良い、ここで迎え撃ってくれ。」

「んんー……待ってるのダルいし行くよぉ。でもおぶってぇぇ………。」

「……やむを得まい。」


そんな魔族を背負い、三人が宮殿正面の入口から戦場へ立つ。その姿を見た先陣の五人は進撃を

止め、艦隊の先頭の巌武と並び迎撃態勢を取る。


「おいジル、あれ魔族の王様方じゃねえか!?」

「……ええ、間違いないわ。あんなのまで味方につけるとか冗談も良いトコね。」

「ハッ!難しい事ぁいい!どうせ愁磨よりゃ弱えぇんだ、行くぜ!!」

「ったくイノシシめ……!三人は援護たの「俺も行くぜぇぇぇーーーー!!」
ドウッ!
………もう一人いたか。あぁあ、仕方ない!」


イノシシは一人で十分だ、と言われたのを無視し、ラカンに続きジオンも嬉々と飛び出す。

呆れた顔をしながらも慣れた様子で、残された二人は詠唱を開始。前衛に攻撃・防御・速度の

最上位強化魔法を付与する。最強の者達が更に強化された力で、一撃を放つ。


「「「せぇりゃぁぁあああああああああああ!!」」」
キュボボボボッ!!

三人が放った"本気"の正拳は大気を巻き込み空気の拳となり空を裂き、通り道に居る魔族を

喰らいながら三魔将に飛翔する。戦艦すら落とせようその攻撃を――


「温い!」
バシン!
「おぉう、マジか……。」


一歩前に出たディアボロスが平手で大気弾を殴り、雲海へと叩き落とす。気の強化無しとは

言え、三人の攻撃を一度に払った魔族の王に警戒度を上げ、追い付いた神獣も攻勢に出る。


【我ガ息吹デ塵ニ帰セ―――――!!】
ゴゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
【逆巻キ荒レ狂エ、永劫ナル風ヨ!】

【天カラ堕チヨ!!】
ド ド ド ド ド ド ド ド ド  ッ !!!
【地ヨ立チ上ガレ!!】


樹龍と炎凰が翼を羽搏かせ、嵐虎が息吹を吐き、巌武が地を踏みしめる。それだけで天変地異の

様に炎が波打ち、雷が降り注ぎ、竜巻が並び立ち、大地が剣山の如く隆起する。

"王"を狙った攻撃は魔族の第一陣を喰らい尽し、待機していた第二・三陣に襲い掛かり、悠然と

立つ三人へ到達する直前。


「ふむ、この程度死ねば十分ではないか?」

「んんーー……そうだねぇ、めんどいけどぉ……。」


心底気怠そうに言うと、サルマクにおぶさっていたアムドゥスキアスは前に出る。瞬間、奇妙な

形の骨が纏わりつき、要塞の様な鎧と剣と盾になる。そして、掲げられた剣が怪しく輝き――


「"守って♪"」
ボコッ―――――――

剣に纏わりついた闇が膨らみ、ボコボコグチャグチャと気持ちの悪い音を立て、一瞬で大小数万個

以上の闇の塊へ膨れ上がる。膨れ続けた闇が割れ、姿を現したのは魔族。それも五体満足の魔族

ではない。全員が全員、体の部位を欠損している。それらと、天変地異の魔法がぶつかる。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
「魔族を蘇生させたのか……!?しかも十数万体を一度に!」

「いいえ、これは……ただ蘇生させただけではないようです。」


憎々しげに声を荒げるヘラス皇帝に対し、アルは冷静にぶつかる両者を見る。

帝国守護神獣達の攻撃は、ラカン達が放った攻撃よりも強い。先程の戦況通りならば十万だろうと

五十万だろうと、固めて肉壁としているだけならば一瞬で掻き消える筈。


「うぅーん、まだ微妙だったかなぁ……。」

「どうせならば全滅するまで待てばよかったな。二乗倍程度には強化出来たやも知れん。」

「それもダルいしぃ………。」


それが防御として機能していると言う事実から、導き出される結論。"魔族を強化して蘇生"する

事がアムドゥスキアスの能力。そう踏んだアルとヘラス皇帝は指示を飛ばす。


「皆さん、魔族は倒された分、強化されて蘇ります。十五秒後に精霊砲の一斉射が行われます

ので、その機にあの子供の魔族を倒してください。」

『言うのは簡単だよなぁ!分かった、あのデカいのは俺様が仕留めるぜ!』

『では俺はあの騎士甲冑を任されよう。』

『ふえぇ、わ、私達がメインですかぁ?うぅぅう、頑張りますぅ。』


最も対応・戦闘力のある大魔導士三人がアムドゥスキアス討伐に選ばれ、エーリアスは相変わら

ずの頼りない声を上げたが、一番に魔法の詠唱を始める。

ほぼ同時に、蘇生した魔族と神獣の息吹の衝突が終わる。総数が減るどころか増加した魔族が、

アメリカ映画のゾンビの様な外見で、しかし一体一体がタイラントの力を持って一気に突撃を

仕掛ける。


「全軍、精霊砲狙え!撃てぇえええ!!」
ズギュゥウウウウウウウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオウゥ!!

しかし、それを見たヘラス皇帝の指示で精霊砲の一斉射が放たれる。甲高くも重厚な音を立て、

青白い光の柱が迫って来た強化魔族を再度薙ぎ払う。相殺出来ないと思ったのか、三魔将は精霊

砲を避け、将をアテにしていた魔族達が蜘蛛の子を散らした様に避け、逃げ切れなかった魔族は

ジュッと蒸発したような音を立て、一瞬で焼き尽くされる。


「では陛下、私も向かいます。ゼクトはネギ君達をお願いします。」

「うむ、お前らこそ気をつけるのじゃぞ。」

「ええ、ではまた後で。」


数秒早く撃った事により宮殿手前で精霊砲は射程距離外となり掻き消えてしまったが、チリチリと

光によって焼かれ出来た道に更に雷を伴う竜巻が走り、それを通るのはゼクト以外の"紅き翼"と

大魔導士、そして独断専行した刹那達の9人。

当然、三魔将の邪魔が入ると思われたが、何事も無く宮殿の入口に辿り着いた。


「………罠は?」

「ありませんね。」

「じゃあ、なんで三魔将とやらは来なかったんだ?」

「大方奴らが受けた命に儂らの邪魔をするな、とでもあったのじゃろう。気にしても仕方あるまい、

坊主らが来るまでに内側から何とか「する必要はありませんよ、皆々様!!」っ!」


罠の確認をし、敵の不在をした筈が、上階から降った聞き覚えのある歓喜を帯びた声に全員が

驚愕し振り向く。そこに居たのは虹色の髪を持つ、創造された奇人ヴァナミスと仮面を被った影を

纏うデュナミス、そして。


「お、まえは……クルトんとこの……!?」

「おや、"紅き翼(アラルブラ)"の方々と面識は無かった筈ですが……下手をうちましたね。

仕方ありませんし、改めて名乗らせて頂きましょうか。」


執事の様な丁寧さを損なわず、身形に合わない大太刀を持った、ネギとそう変わらない歳の

少年が敵の幹部たちと共に現れた。総督府では名前さえ明かされなかった少年が恭しく礼を取る。


「初めまして、『運命を冠する者』が10(デーチモ)、"鉄"を拝命。以後よろしくお願いします。」

「……そう来ましたか。と言う事は?」

「ええ、まぁ、ご想像の通りですが。伝えに行けるとお思いで?」

「ハッ!嫌な性格してやがるなぁ!よっぽど創り主の性格が悪いん「その薄汚い口を閉じやがって

いただけますかね下郎!!」
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

新たに登場した謎の"フェイト"を煽ったジオンだったが、それに反応したのは当然忠誠心の塊で

あるヴァナミス。30mの距離を一足で詰め、その僅かな移動時間の内に≪禁忌ヲ犯シタ救世主≫を

模した強化外装を纏い、ジオンに殴りかかる。しかしその攻撃は"魔落とし"によって逸らされ、

床に落ちる。


「っしゃぁ、サクッと行くぞ!」

「クフハハハハ!ではサクッと逝かせて差し上げましょうかねぇ!!」
ズドォン!!
「やれやれ、どこにでもイノシシはどこにでもいるなぁ!」

「それは私達も苦に思う所ですよ。」
キィン!!

その攻撃を皮切りに、遂に英雄達と幹部の戦いが始まった。

一方、主戦力が抜けた魔法世界軍と魔族の戦闘は先程の繰り返し・・・とはならなかった。

倒しても更に強化される魔族は生かされたまま厳武に氷漬けにされ、ディアボロスは嵐虎が

翻弄し、サルマクは剣の徹らない樹龍が、そして使える手駒が居なくなったアムドゥスキアスは

炎凰と歩兵に追い回されていた。魔族は徐々に動ける数を減らし魔法世界軍の勝利が見え始める。


「ふむ、これは拙いですね。ディアボロスと念話は繋がりますか?」


そこで、獅子身中の虫として伏せていたクルトも動く。


「先程から試していますがサルマク以外と繋がりません。」

「困りますねぇ……しかし指示された通り魔法世界軍が有利になっていますし、こちらは動か

ないといけません。流石に、こちらが動けば役目を果たしてくれるでしょう。」


呆れの溜息をつきつつ、常に傍に仕える少年――"鉄"のデーチモに、自分の乗る戦艦の護衛を

させ、愁磨に与えられた艦の機構を作動させる。


「旗艦"JUDAS(ユダ)"の真価を見せて差し上げましょう!!」
ビー! ビー! ビー!
『合体シークエンスを開始します。副艦のクルーは速やかに退避してください――』


旗艦スヴァンフヴィート改め、ユダに付けられたキーを回すと、周囲の戦艦四隻から巨大な

警戒音が鳴り響く。何事かと戦場から注目が集まり、指揮官達から通信が入る中、五隻が縦に起立

する。ユダの後部が二つに割れ艦首が腹の方向へ回転し胴体となり、他は変形・分離しそれぞれ

両腕・脚部そして頭部と背部武装となり、内部機構を唸らせながら青と白の合体ロボとなった。


「な、何のつもりですか、クルト提督!?」

「"反逆合体コード・P"でしたか。名の通りですよ。さぁ!第二幕と行きましょう!!」


瞬間、ロボットの右手から目に見える程の"質量"となった冷気が放出され――


「『恐怖劇第二幕(グランギニョル) 死世界・凶獣変生(ニブルヘイム・フェンリスヴォルフ)』!!」
ドゥッ!!

艦隊を後ろから襲った。

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