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ロココの真実

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1部分:第一章


第一章

                     ロココの真実
 エウロパでだ。カテリーナ=ド=シレーヌはうっとりとしてだ。こんなことを言っていた。
 ブロンドの髪を波立たせて伸ばしている。白い顔は面長で鼻が高い。唇は紅で小さい。彫のある目は大きく緑色に輝き睫毛が長い。美人と言っていい。
 胸は大きくその肢体を奇麗な白い絹の服で覆っている。その彼女がこう言うのだった。
「素晴らしいわね。ロココって」
「先生、またそれですか」
「ロココ趣味発動ですか」
 見ればカトリーナは今漫画を描いている。カトリーナはシレーヌ子爵家の長女だ。だから本来は夫の家に入り貴族の家の妻としてその務めを果たすべき立場だ。しかしだ。
 彼女はそれとは別に仕事を持っているのだ。それが漫画家である。美人貴族漫画家として人気がある。ただしその描く漫画はというとだ。
「先生っていえば格闘漫画じゃないですか」
「それでまたロココって」
「何か違うんですけれど」
「漫画は格闘漫画だけじゃないでしょ」
 トーンを貼りながらだ。カトリーナはアシスタント達に返す。
「そうでしょ?だからね」
「ロココですか?」
「それにも凝るんですか」
「今連載中の漫画が終わったらね」
 その格闘漫画が、だというのだ。
「次回作は考えてみるわ」
「そのロココですか」
「ロココを描かれるんですか」
「そうね。主人公はね」
 トーンを貼りつつさらに述べていく。
「ルイ十四世かポンバドゥール夫人か」
「それバロックですよ」
「時代が違いますよ」 
 バロックとロココでまた違うのだ。同じ欧州の、しかもフランスを中心とした貴族文化でも。
「ロココっていったらマリー=アントワネットですよね」
「ハプスブルク家から来た」
「じゃあマリー=アントワネットにするわ」
 実にあっさりとだ。そちらに変えたカトリーナだった。
「とにかく。豪華絢爛な世界を描きたいわ」
「それで、ですか」
「次の作品はそれですか」
「ロココが舞台なんですね」
「そうよ。まあジャンルはわからないけれど」
 それはこれからだがだ。舞台はだというのだ。
「ロココで決まりね。資料を集めるわよ」
「けれどその前にですね」
「結婚されないと」
「折角婚約者もおられるのですから」
 貴族の結婚は大抵幼い頃にもう決められている。家と家の結婚の意味が多いからだ。それがエウロパ貴族の社会でありカトリーナの家も例外ではない。当然彼女自身も。
 それで結婚しなくてはならない。そのことについて本人もこう言った。
「まあそれはね。今の連載が終わったらね」
「結婚されるんですね」
「その新連載の前に」
「そうするわ。けれどね」
 だがそれでもだとだ。カトリーナは今度はベタを塗りながら言う。
「仕事は続けるから」
「漫画家はですか」
「それをですか」
「あの忌まわしいね。連合の漫画家達だってそうじゃない」 
 カトリーナはエウロパの者だ。だから連合が嫌いだ。その彼女の言うことは。
「ほら、女流漫画家は結婚しても描くじゃない」
「確かに。そうした人が多いみたいですね」
「あちらでも」
「子供ができてもね」
 どうかというのだ。そうなっても。
「描く人が多いから」
「だから先生もですか」
「描かれるのですか」
「そうよ。描くわよ」
 結婚しても仕事は続けるというのだ。
「そうするわ」
「そうですか。わかりました」
「では結婚してからも頑張って下さいね」
「私達も頑張りますから」
「漫画は文化よ」
 よく言われることをだ。カトリーナも言ったのだった。
 
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