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人生至るところに青山あり

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1部分:第一章


第一章

                     人生至るところに青山あり
 二人はだ。いきなり務めている会社の社長にこう告げられた。
「首だよ」
「えっ、首!?」
「首ですか」
 伊藤幸一も鰐淵新作の二人、この社に務めてそれぞれ十年以上経つ二人はだ。いきなり社長に直々に告げられて呆然となってしまった。
 それでだ。慌ててこう社長に言ったのである。
「あの、うちの会社ってそんなにまずいんですか?」
「業績あがってるんじゃ」
「それに株価だってかなりあがってますし」
「海外進出も成功してますし」
 実は大企業だ。八条グループという財閥の系列の傘下企業なのだ。八条グループは日本はおろか世界でも有数の一大グループである。
 だからだ。二人もまさかいきなりリストラに遭ったのかとだ。まずはこう思った。
 そしてだ。次にはこう思ったのだった。
「あの、俺達何もですよ」
「別に援助交際とか飲酒運転とかしていませんよ」
「本当に女房子供を養って真面目にです」
「巨人も嫌いですし」
「最後はいいことだな」
 社長は自分の椅子からだ。二人がアンチ巨人であることは褒めた。
「だがそれでもだ」
「それでもって」
「やっぱり首なんですか、俺達」
「そうだ。君達には我が社を辞めてもらう」
「あの、それで首の理由は」
「一体何なんですか?」
 二人にしてもその理由を聞きたかった。それで何とかといった感じで尋ねたのである。
「それを聞きたいんですけれど」
「しかも社長がやっと主任になった俺達に直々にって」
「何かあるんですか?本当に」
「まさか不祥事の身代わりとか」
「我が社はそんな不祥事は犯してはいないぞ」
 社長もそのことはむっとした顔で否定する。
「グループ全体でもそんな話はない」
「ですよね。八条グループは優良グループですし」
「それはないですよね」
「そうだ。それで君達の首の理由はだ」
 やっとその話になった。社長から進めてきた。
「あれだ。エイトビジョンに行ってもらう」
「エイトビジョン!?」
「それって確か」
「八条グループ傘下の声優事務所だ」
 それだというのである。
「そこに行ってもらう」
「あれっ、じゃあこの会社からですか」
「エイトビジョンに出向ですか」
「出向ではなくそこの社員になってもらう」
 首にしてからだとだ。そうなるというのだ。
「わかったな。そうしてもらうぞ」
「ううん、声優の事務所にですか」
「俺達が入ってですか」
「マネージャーになってもらう」
 既に決まっているとだ。社長は二人に話す。
「わかってくれたか」
「声優さんのマネージャーって」
「何でまた」
「あれだ。私に妹がいるのは知ってるな」
「ええ、この会社の副社長じゃないですか」
「知らない筈がないですよ」
「その妹の末娘がエイトビジョンに声優として採用された」
 社長はこのことは少し照れ臭そうに話す。
「つまり私の姪だ。私の姪の専属マネージャーになってくれ」
「ええと?つまり八条家の娘さんがですか」
「声優になられるんですか」
「そうなる。わかったな」
「それってコネですよね」
「完璧なコネ採用ですよね」
「そのことを言うと給与の五十パーセントカット一ヶ月だからな」
 社長はむっとした顔で二人に告げる。
「そうなりたいか?」
「あの、それすぐにばれますよ」
「何処の芸能人ですか」
「叔父の私が言うのも何だが才能はある」
 社長はこう言いはする。尚この社長はその八条家、現在の総帥の末の弟の三男である。傍流と言えば傍流になるが八条家の人間ではある。
 
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