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可愛さ

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3部分:第三章


第三章

 猫はその妻の前でだ。毛づくろいをしている。実にマイペースだ。
 その様子も見ながらだ。妻は夫に話すのだった。
「今は本当にそう思えるわ」
「そうだよ。この子は男前だよ」
 夫は妻の言葉を受けてここぞとばかりに言う。
「可愛い奴だしね」
「そうね。子供達はもう家を出たけれど」
「今度はこの子がいるから」
「楽しく過ごせるね」
 こう二人で言うのだった。そして猫が来てから暫くだった。
 今度は家にだ。犬が来たのだった。
 夫は友達の家から連れて来たその犬を妻に見せてだ。こう言うのだった。
「今度はね」
「その犬?」
「どう、いい犬だよね」
「何かね」
 今度もだ。妻は最初はこう言うのだった。
「変な犬ね」
「独特な犬だよね」
「変な犬ね」
 彼女の言葉は変わらない。ペットショップであの猫を見た時と同じ顔だった。
 そしてその顔でだ。こう言うのだった。
「だって。目が見えないし」
「そういう犬多いじゃないか」
 例えばマルチーズだ。しかしだ。
 この犬は大きかった。セントバーナード程はある。そしてだ。
 外見は全身長いブロンドの巻き毛でだ。確かに目は見えない。その独特の容貌を見てだ。妻は夫に問うた。
「その犬何て種類なの?」
「ブリヤードっていうんだ」
「ブリヤード!?」
 その種類の名前を聞いてだ。妻は。
 まずは顔を顰めさせてだ。こう問い返したのだった。
「はじめて聞くけれど」
「まだ日本では珍しい犬だよ」
「そんな犬がいたの」
「フランスの犬でね」
 今度はその原産国を言う夫だった。
「コリーみたいに牧羊で使われている犬なんだ」
「だから大きいの」
「それでどうかな、この犬も」
 夫はあらためて妻に尋ねた。
「飼うんだけれど」
「飼うのはいいけれど」
 だがそれでもだとだ。妻は眉を顰めさせて言うのだった。
「何か本当に変わった犬ね」
「可愛いじゃない」
「そうかしら」
 とてもそうは思えなかった。この時は。だがこの犬についても妻は結局同じことを言うのだった。猫も犬も一目ではそのよさに気付かないこともあるのだ。外見においても。


可愛さ   完


                     2011・12・30
 
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