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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第43話 江戸での遭遇

土方は近藤隊と別れ、程なく江戸へと到着した。昼夜問わず、馬を休ませることなく走らせた。おかげで、馬はすぐに駄目になってしまったが。
まだ、江戸はそれほど荒れてはいないが、いろいろと憶測が飛び交っていた。
「新政府軍がすぐにでも攻め入ってくる」
とか。
「江戸が火の海になる。どうしたものか?」
とか。
(やはり、庶民は自分の身が可愛いか)
岡田以蔵や高杉晋作と言った化け物相手に大立ち回りした土方にとってはため息も一つ付きたくもなる。
(さて、まずは上様との謁見をしなければな)
味方を放り投げておめおめと江戸に逃げ帰った将軍・徳川慶喜。
返答によっては切り捨てる覚悟が土方にはあった。
今でも追撃隊の戦火に煽られ悪戦苦闘しているだろう近藤隊の事を思うと居てもたってもいられなくなる。
「勝海舟にあうか」
土方は一度だけ会ったことがあった。今まさに徳川方の中心人物・勝海舟ならばそれも可能ではと土方は踏んでいた。
(ともかく、まずは宿を探そう。全員、疲れ果てている)
土方隊は一軒一軒宿を訪ね歩き、ようやく、確保することが出来たのであった。

「副長、どちらへまいられるのですか?」
宿をでようとしていた土方を隊員が呼び止めた。
「あぁ、少し江戸の街を見て回ろうと思ってな」
土方は隊員を見ることなく草鞋を履いていた。
「御一人では危険です。私がお供致します」
呼び止めた隊員もまた支度の準備にかかる。
「心配ない。お前は休んでいろ。すぐに戻る」
土方は準備を整えると隊員の制止も聞かず、すたすたと外へと消えて行ってしまった。

(まだ江戸は賑わっているのだな)
土方の率直な思いだった。
京では最早逃げる者も多くない程の大混乱のさなかだというのに。
その時、独特の千路れ髪と何度も見た家紋の着物。そして、足にはブーツという履物を履いた男を土方は人ごみの中でみつけた。
(あ、あれは、もしや・・・・・・・・・)
土方は人ごみをかき分けてその男を追った。
「おい、待て。そこの男」
土方はその男を呼び止めたが、結局のところ見失ってしまった。
(間違いない、あの男は土佐の坂本龍馬だ。何故、あの男が江戸に?ましてや、あの男も死んだと聞いている)
土方は周りをきょろきょろと見渡した。その時、後ろから肩を叩かれた。
急いで後ろを振り向くとそこには坂本龍馬がにやにやと笑って立っていた。
「なんぞ、わしに用があるんかの?」
 人を喰ったような表情に土方は苛立った。
「坂本龍馬殿とお見受けいたしますが?」
土方は自らの心情を押し殺し、にこりと微笑んで言った。
「ちゃちゃちゃぁ。いかにも坂本です。が、どこぞであったことあるかのぉ?」
龍馬は着物の胸のあたりから手をだし、顎を掻くよう撫でた。
「あぁ、有名な坂本先生ですので。ところで、坂本先生」
土方はだらりと腕を下げ龍馬に対して正面を向いた。
「坂本先生は死んだとお聞きしましたが、化け物に成り果てたのですか?」
土方の問いに龍馬の顔から笑みが消えた。
「ははは。さて、どういえばいいかのぉ。死んだと言えば死んだし。生きてるといえば生きてるかのぉ」
龍馬は顎を掻いて笑った。が、その目は笑ってはいなかった。
「では、何故、坂本先生程の男が化け物になってまで生きようとしているのですか?」
土方は龍馬の行動をじっくりと観察するように皮肉混じりに言った。
「うーん、多分、言ってもわからんじゃろうなぁ、土方歳三君」
龍馬にそう言われたと同時に土方は典太に手をやり抜こうとした。が、龍馬も同時に拳銃を懐から抜いた。
「さ、か、も、とぉー!!」
土方は怒りに満ちた目で龍馬をみつめた。
「土方君、こんな人通りの多いとこでやり合うのも本望じゃないじゃろ?」
龍馬の目も土方を真剣に見つめていた。
「いずれ、また会えるぜよ」
龍馬は銃を懐にしまい、にこりと微笑んだ。
「おまんが、生きてればの話じゃが」
龍馬はくるりと背を向き人ごみの中へと消え去って行った。
(坂本龍馬、いずれ決着をつけてやる)
土方もまた龍馬が消え去った後、岐路についた。
 
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