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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか

作者:海戦型
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36.『悪』の重さ

 
 聞き込みは一日にしてならず。
 協力冒険者によって様々な事実が浮かび上がったとはいえ、聞きこみは元来地道で時間のかかる作業である。誰が何の情報を持っていて、何が事件に関係があるのかも分からない。今のところは犠牲者に関しての推測を裏付ける証言や証拠がちらほら出ているが、如何せん聞き込みに不慣れなギルド職員が多いせいか皆は体力の限界を迎えつつあった。
 そろそろ日も傾く。いい加減に今日の所は撤収するべきだろう、とヨハンは思った。幸いにして容疑者候補を探しに行く前のトローネから簡単な捜査経過を受け取ったし、例の冒険者二人も事件に関わっていると思われる冒険者へ聞き込みに向かった。もしもどちらかが犯人だと確定すれば、今日の仕事はこれでいったん区切ることが出来る。

 そんな時に、病院へ向かった部下の一人が慌ててヨハンの元に戻ってくるのが見えた。
 緊急事態か、それともまた新しい情報か――疲労の色が溜まり始めた現場が僅かに緊張する。
 部下の報告に耳を傾けたヨハンは、ここでやっといいニュースを耳にすることが出来た。

「――被害者の容体が安定してきた?」
「はい。ブラス氏の処置は適切だったようです。短期間であれば医師の立会い付きで事情聴取も可能とのことです」
「そりゃいい。被害者当人に聞き込みが出来れば凶器の入手ルートを特定できる!よし……聞き込み組は一度撤収して情報を纏めろ!俺は被害者に会いに行ってくる!」
「おーい聞いたかお前ら~!一旦撤収!撤収~~!!」

 後は5人がもどってくるのを待ちつつ情報を整理するだけだ。願わくばなるだけ早く事件を終息に向かわせたいものだ。ふぅ、とため息が漏れる。ヨハンももう若くはない。昔は三日三晩不休で働いても体が保ったものだが、最近は1日働けば1日の休憩が欲しくなる。

「こればっかりは冒険者が羨ましい。連中、恩恵のおかげで50過ぎても現役なんてザラだかんなぁ……」

 こういうとき、ヨハンは冒険者という人種が羨ましくなると同時に、恐ろしく思う。
 自分たちと同じ姿、同じ年を重ねながら、彼らの身体能力も精神構造も明らかに一般人とかけ離れている冒険者たち。恐怖は薄れ、憧れや夢のために毎日でも自分の身体を危険に晒すその姿は愚直であると同時にどこか異常でもある。

 恐怖とは、自分の身を護るために危機から遠ざかろうとする本能だ。これを失うことは戦士にとって完全に戦うためだけの道具と化すことを意味する。そのような存在は人間にとって好ましくはないが、逆に非人間的な、戦争や闘争を望む意志にとっては都合がいいとも言えるだろう。
 自分たちの為に、自分たちの意の向くままに動く人形。不平不満を漏らさず、常に自分の意思を反映するために動き回ってくれる便利な道具は、さぞ非人間的な意志の介在する場所では重宝されるだろう。

 では、この場合『非人間的な意志』とは何か。それは嘗て信仰や主義と呼ばれた共通意識のせめぎあいの狭間に存在したものであり、今ではより直接的な――神と呼ばれる超越存在に対する絶対的信仰へと移ろいでいる。眷属(ファミリア)という派閥を形成する一人として数多の人間の中から神に見定められた運命の子として日常的に暮らす一般人と隔絶した伸び代を与えられた彼等は、肉親を差し置いて神に陶酔する者も少なくない。

 ヨハンは恐ろしく思う。
 神が冒険者に恩恵を与えるというのは、神が人の心を支配する事なのではないか。
 疑問に思う事を疑問と思わせぬよう、間違ったことを間違ったことだと感じにくくするよう、恩恵というのは冒険者の思想をごく微量に、極めて自然に誘導しているのではないだろうか。人間はそれに疑いを持たずに無邪気に神に群がり、肉体を作りかえられ、思考を作り替えられ、人間ではなくなっていっているのではないのか。

 そもそも、降臨した神々は『暇つぶしに降りてきた』のではなかったか。
 それは、子供が気に入った虫を捕まえて戦わせるのと同じことではないか。人間とはつまり神たちにとってそのような存在で、本当は魔物とダンジョンがどうなろうが彼らの知ったことではないのではないか。

 その答えの一端を示したのがウラノスだった。
 『君臨すれども統治せず』。少なくとも彼だけは人間の事を虫と同列に見ていない。人間という種族を神とは違う独立した種族として礼を持っている。

(俺は人間でいい。人間に出来るやりかたで、人間に出来る事をやっていく。雷入りネックレスなんて代物を作れる化物に成り果ててまで、誰が神になんぞ仕えるかよ)

 化物の問題は化物が片付ければいい。
 あの冒険者共も、精々治安維持と後輩の護衛の為に働いてもらおう。

(あのエルフのお嬢ちゃん(ちいさな化物)はさておき、残りの二人は筋金入りの化け物だ。精々金の分は仕事して、大事な後輩を守ってもらうぜ……?)

 ヨハンは人間の命は大事だと思っているが、冒険者を同じ人間だとは思っていない。ただ、人間扱いしていた方が都合がいいのを良く知っているだけだ。冒険者が2人死のうが200人死のうが、彼は一般人に被害が出ていないのなら気にしない。
 被害者の事は人間として――神というまやかしに気付いて手を逃れた存在として死を悼んでいるが、もしもこの被害者たちが現役の冒険者だったらヨハンはまるで真剣になる気はない。彼はつまり、そういう男だった。



 = =



 「………銀閣寺と金閣寺だな」

 『新聞連合』から聞きだしたアルガードの住居に辿り着いたブラスは、思わずそう呟いた。

「は?金の寺院と銀の寺院?なんスかそれ?」
「いや……独り言だ。気にするな」

 煌びやかで巨大な金閣寺と、それに比べれば小ぢんまりしているが洗練された銀閣寺。どちらも室町文化を代表する木造建築物だが、このオラリオではアズ以外の誰にも通じない固有名詞と化している。怪訝そうな顔をするルスケの目線になんとなく疎外感を感じた。

 玄関と一体化した巨大な鎧は、よく見ると基本設計はどっかの馬鹿(ヴェルトール)がやったらしい。最初は鎧として作られ、後になってアルガードが『改造』したのだろう。金のガネーシャ像が大仏と同じ方法で鋳造されたのに対し、こちらは純粋に巨大な鎧として手作りされているらしい。
 作業機械もガスバーナーも溶接機もないこの世界でどうやってこんな代物を手作りしたのかは謎としか言えないが……まぁ、物作りに関しては『万能者(ペルセウス)』アスフィと双璧を為す男だ。想像を絶する方法で何とかしたのだろう。
 入り口を前に、ブラスはルスケに最終確認を取る。

「これからアルガードに接触する。まだ犯人と確定したわけではないから最初は下手(したて)に出ることにする。仮に犯人だったとして今日一日であっさり白状するほど素直でもあるまいから、帰るときは収穫が無くとも帰るぞ」
「うッス!むしろさっさと帰りたいッスけどね……」
「相手は殺人犯の可能性があるが、いざという時は相手が手を出す前に殺して安全を確保する。これはロイマンからの依頼書の優先順位において『犯人の逮捕』より『犯行の未然防止』が上回るからだ」
「………うッス。納得はできねぇッスけど、俺は守ってもらう側なんで任せるッス」
「自分の判断で人間の命が左右される事実からは目を逸らすなよ。お前達ギルドは、この街でそういった立場にいるんだ」
「……アンタはキレーなのに冷たい女ッスね。『酷氷姫(キオネー)』みたいッス。どーせなら優しく慰めてほしいッス」
「甘えたこと抜かしてんじゃねぇ。誰も彼もが自分に優しいと思ったら大間違いだ」

 これ以上の問答は無用と思ったブラスは鎧の頭の鐘をガラガラと鳴らした。
 しばらくの間を置いて、誰かの足音が建物内から近付く。

「はい、どちらさまでしょうか?」

 顔を現したのは、栗色の髪を短く切り揃えたタキシードの青年だった。中性的な顔立ちと高めの声。彼の目線はまずブラスに向き、次にルスケの身に着けるギルド職員の制服に向き、改めて目線をブラスの方に戻した。

「ここは『ウルカグアリ・ファミリア』所有の工房で間違いないな。アルガード・ブロッケはここにいるか?」



= =



 貧民街には『情報屋』が無数に存在している。

 そもそも――普通、貧民街というのは総じて治安が悪く、通常の都市ではなるだけ存在して欲しくない空間だ。同時にこの街にはそんな不要な存在を強制的に追い出せる力を持ったファミリアが数多存在している。では、何故彼らは貧民街をそのまま放置しているのか。

 その理由が『情報屋』だった。
 彼らは貧民たちと合同で独自の情報収集ネットワークを所持しており、組織的に行動しているのだ。
 彼らの情報を求める者は多い。例えば急に失踪したファミリアの行方を極秘裏に探りたい存在や、密かに抱いた疑惑について確信が得たい者、『戦争遊戯』を控えて相手の内情を探りたい者など、人伝の情報だけでは足りない場合に彼らはよく情報屋を頼る。
 また、この貧民街には元ファミリアや指名手配犯も多くかくまわれており、その中にはファミリアのとんでもないスキャンダルを知っている者もいる。これらの情報は高く売れると同時に、貧民街で下手な真似をしたらこの情報を公開するという脅しにもなっている。

 他にも、オラリオの内情を探りたい周辺都市の諜報員にとってここは情報の絶好の仕入れ場なために安定した収入があった。
 収入の一部は情報収集協力者である貧民に配分される。貧民はその日に食べるだけのお金と情報や庇護下の治安がいい寝床を確保できるために喜んでこれに齧りつく。また、貧民の中には知恵深き神もわずかながら混ざっており、彼の元にいるギルド非公認ファミリアが貧民街内部の治安維持を行っている。

 そう、オラリオの貧民街はある種の自治都市として明確な縄張りを持ち、他ファミリアに対してある程度の中立を保つだけの地盤を築いている。だからこの街の貧民街はこの街に当然として存在していられるのだ。

「お、ここだここ。この風が吹けば倒れそうなオンボロ小屋が例の情報屋の家だよ」

 ダイダロス通りを地図も持たずにうろちょろ歩いた末に辿り着いたのは、通りの中でも一等入り組んだ場所にあった。あったのだが……。

「え………っと。これって小屋というよりは廃墟……?」

 失礼ながら、レフィーヤはそのおんぼろ小屋にとても人間の住める場所には見えなかった。雑に張られた屋根にあちこち隙間の空いた壁。玄関はおんぼろ布の幕がかかっているだけで、風が吹けば全部小屋の中に入り込んでいる。無遠慮にベタベタ張り付けられたポスターやチラシを見たトローネが悲鳴をあげる。

「やだ、ギルド発行のポスターで壁の穴塞いでますよ!?掲示板から時々なくなってると思ったらこんな事に使われてたなんて!!………ってああああああ!玄関の布きれもよく見たら5年前に行方不明になったお祭りの旗だし!!」
「ファミリアのに比べてパクり易くて丈夫だかんねぇ……ま、家とは言っても住んでる訳じゃないさ。ここはあくまであいつに依頼がある時に利用される待ち合わせ場所みたいなものかな」
「キャアアアアアッ!!こ、小屋の中にギルドからの盗品がゴロゴロと!?せっ……窃盗罪です!窃盗罪で捕まえましょうこの人!!ギルドのペンや用紙に飽き足らずまさか傘立てと魔石スタンドまでパクってるなんて!考えられません!」

 顔を真っ赤にしてトローネがぶんぶん腕を振る。この情報屋、情報屋というより泥棒屋と呼んだ方が正しいのではないだろうか。ギルド所属のトローネとしてはこんなにも自分の所属組織の備品を盗まれているのは許せないのだろう。
 傘立てなど何に使っているのかと思いきや、どうやら傘立ての上に平らな木材を括り付けて即席の机に改造しているようだ。微妙に工夫している辺りが余計にイラッとくる。しかし、興奮するトローネに対してアズは素っ気なかった。

「無理だね」
「なんでっ!?」
「何でって、証拠がないもの」
「現物があるじゃないですか、今ここに!」
「だからさぁ、その品を本当に小屋の持ち主が盗んだかどうかは分からないじゃない?この辺の土地では盗品がどんどん回されて再利用されるなんてザラだからね。正直、あいつが盗んだかどうかは分からないんだよ」
「いやでも!見れば盗品だと分かる訳でっ!しかもこんなに大量に自分の家に抱えてるのに知らんぷりはないでしょ!」
「そもそもダイダロス通りの家なんて誰が所有しているかもよく分かんないんだよ?この小屋だって地図や土地管理書には載っちゃあいない。誰のものか分からない小屋にある盗品の盗み主がこれから会う情報屋だと直接的に証明する証拠はない」

 やったんだろうと想像はつくが、いくらギルドでも確たる根拠なしにこのような無法者の巣窟に手を出す訳にはいかないだろう。しかし、アズの物言いはどうにも納得できないしこりが残る。

「ぐぐぐっ……な、なら神様に嘘かどうか判断してもらえばいいじゃないですか!」
「神様に嘘は通じないけど、隠し事をするのは簡単だよ。質問にイエスノーで答えなければいい。『さぁ、どうでしょう?』ってはぐらかしたり『今日は天気がいいね』って全く違う話を延々とし続ければいい。或いはそうだなぁ……『俺はやましいことなんてしてません』って言えば五分くらいの確率で神を騙せるよ」
「し、してるじゃないですかやましい事!泥棒がやましいことじゃないことぐらいは本人だって分かってる筈ですよ!」
「そこがミソでね。『本人がそれを微塵も悪い事だと思っていなけれな神は勝手に勘違いする』んだよ。例えば生きるために略奪をする必要のある環境で育った子供は、略奪が悪い事だという感覚がない。魂は嘘をついていないから、神はその『ずれ』を見ぬけないという訳さ」

 トローネは段々と言い返す言葉が減っていき、とうとう俯いてしまった。
 しかし、今のアズの話は「罪を立証できない」という話であって、「彼は泥棒ではない」という話とは全く違う。今のアズはまるでこの小屋の持ち主の行為が正当だったと言っているように聞こえた。

「…………アズさんは、泥棒の肩を持つんですか?」

 勇気を振り絞って、レフィーヤは問う。

「泥棒は、悪い事ですよね」
「一般的にはそうだね。俺も泥棒はどうかと思う」

 言葉を区切ったアズは、しゃがんでレフィーヤに視線を合わせた。

「――でもね。残念だけどこの世界ってのは善人だけでは回らないんだ。小さな悪の方がより大きな善を手助けすることもある。曰く、必要悪に近いかな」
「悪はよくないことです。人殺しも泥棒も立派な罪で、罪は悪じゃないんですか」
「それでも、より大きな悪を捕まえるためには小さな悪事を見逃さなければいけない時がある。正義と悪の二元論と一般の秩序は必ずしもイコールではない……むしろ秩序は正義と悪の狭間で成立するものだ」
「そんな理屈…………」

 否定はできなかった。ファミリアは勢力を拡張するために卑怯な真似や礼儀知らずな行為をすることもある。自分の主神であるロキとて、昔は邪魔なファミリアを蹴落とすために随分策を弄したと聞いたことがある。これを行ったロキを悪とするならば、確かに罪を放置することで得られるものも多いのかもしれない。

「ここの家主は小さな犯罪を犯してはいるんだろうと俺も思うよ。でも、だからって本当に罪を立証できるかも分からない家主を捕まえる事が俺達のやるべき事かな?ウィリスさんのことは後回しでいいのかい?」
「泥棒と、殺人事件を天秤にかけろってことですか……卑怯ですよ。そんなの殺人が重いに決まってる。選択肢を無理やり一つに絞らせただけじゃないですか。納得なんて……」
「……まぁズルいこと言ったのは悪かったけどさ。ここの家主には家主なりに事情があるし、捕まえない方がいい犯罪者ってのもいるにはいるんだよ。オーネストみたいに、さ」
「オーネストさんが………?」

 ――そうだ、オーネストとて一度は指名手配までされた存在。暴力事件を含めてやらかした罪の数は数知れない。だが、同時に彼によって助けられた人間も存在する。ロキ・ファミリアは今までにかけられた迷惑を上回る程度の働きをしてもらっているし、オーネストの館に集う人々の中にも彼に助けられた者はいる。
 『新聞連合』にしたってそうだ。オーネストの協力なしに大きな組織を作ることは難しかっただろう。『怖いけれど悪い人ではない』と感じていたオーネストこそ、まさに人を助ける悪人と言えるのではないだろうか。
 そして、アズもまたオーネストに助けられた人間の一人だと自分で言っていた。

「……すいません、変な事を言ってしまって。分かりました、その情報屋さんの小さな罪には目をつぶります。トローネさんもいいですか?」
「よくはありませんけど………よく考えたら捜査の主導権はあくまでアズさんですしぃ………」
「うっ………ちょっと、やめてよその視線。俺が悪い奴みたいじゃん」

 じとーっとした視線をぶつけられて思わずたじろぐアズの姿はちょっぴり間が抜けていた。
 そして、今更になって自分とアズの距離が今までにないほど近かったことに気付かされ、レフィーヤは内心で驚いた。感情的になったことでいつの間にか距離を縮めていたらしい。喧嘩するほど仲がいい、という訳ではないが、互いの感情をぶつけあったことで思わぬ幸福を招いたようだ。

 ――結局、アズを怖がっていた理由は心のどこかで「アズは自分とは絶対的に違う」という思い込みだったのだろう。今では近くにいる事に何も違和感や恐怖を感じることはない。言葉を交わしたことで、アズが人間の当り前に抱えている「恩義」や「思いやり」を持っているのだと感じることが出来たのだから。

「――とりあえず、俺っち逮捕の線は消えたってことでいいんかね?」

 突然かかる第三者の声。気が付くと、小屋にもたれかかる一人の男がいた。歳はヒューマンにして40歳程度の男性だろうか。栗鼠(りす)特有の先端が丸まったひらべったい尻尾と小さな栗鼠耳が出ている。――余りこの街では見ることがないが、栗鼠人(エキュルイユ)のようだ。
 男はニヒルな笑みを浮かべて3人を向き、そしてレフィーヤに白い歯を見せてニカッと笑った。

「また会ったな、キュートガール?」
「え………失礼ですけど初対面ですよね?」
「ウップス……そうか、あの時は急いでたから俺っちの顔までは見てなかったってわけか……」

 あの時――急いでいた――それに、「キュートガール」なんて変な言葉づかい。その条件にあてはまる人間を探したレフィーヤは、遅ればせながらその人物とどこで出会ったのかをやっと思い出す。

「ま、まさか………事件現場で私にぶつかった不審者ッ!?」
「そうだ俺っちこそが現場の不審者………って違うわ!!客観的には違わないけど不審者じゃないわっ!!」
「ああ……まぁアレかな。改めて紹介しようか」

 アズは片手をその男に差し、さらっと事実を述べた。

「彼の名前はラッター・トスカニック。『ゴースト・ファミリア』が一番信用してる情報屋だよ。ブラスの口止めの真相はつまり、頼りになる情報屋を間違いで指名手配されたら面倒だったからってわけ。先を見越してのちょっとした伏札って訳だね」
「不審者扱いされたのは気に入らないが、まぁ……いつでも新鮮お得な情報より取り見取り!情報屋のラッターだ!これからもご贔屓に、ってね!」
「……………………」
「えっと………その、私にだけ話が見えないんですが?これって私がトロいのが悪いんですか?」

 つまり、情報屋で知り合いだったから事件には関係なかろうと見当はついていたと。そして説明するのが面倒だから口止めしていただけと――真相、そんだけなの?
 状況が分からずオロオロしているトローネを無視し、レフィーヤは全力で絶叫した。

「そうならそうと口で説明すればいいじゃないですかぁぁぁぁ~~~~~~~~ッ!?」

 結局のところ、あの人は口下手なんじゃなくて説明するのが面倒なだけだったのではなかろうか。そう思わざるを得ないようなしょうもない結末であった。
  
 

 
後書き
※アズは黄金仮面をつけたままです。それを踏まえてもう一度読み返してみてください。 
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