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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか

作者:海戦型
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6.無頼漢調査その一

 
 ギルドとは、元々は人間が運用する組織だった。
 それをダンジョン出現に際した神の降臨の際、天空神ウラノスが「人だけではなく神も律するため」とそのトップに立って組織を再編成し、現在のギルドに到る。以降、ギルドは都市運営、冒険者および迷宮の管理、魔石の売買を司る機関として中立を貫いている。

 つまり、ギルド主たるの目的はダンジョンより得られる富の管理にあると言っても過言ではない。
 無論、ギルドの人間の中には打算的な考えをする者もいれば心優しく冒険者の行く末を案じる者もいる。決して利益計上主義ではなく、むしろボランティア的な側面も持っている。

 で、だ。

 もしもこの町にギルドの出頭要請を平気で無視し、レベルを秘匿し、ファミリアにも所属せず、しかもダンジョンの財源を非合法の店で売買して金を得ているような奴がいたとしたら……果たしてそいつを組織としてどう考えるだろう。

 大前提として、冒険者はファミリアに所属しなければならない。これは規則ではなく、そもそもダンジョン内の魔物に対抗するには神に認められ、恩恵(ファルナ)を背中に刻まれる必要があるからだ。恩恵なしに魔物と戦うなど無謀の極み。太古の昔には神の力を借りずに魔物を打倒する「英雄」がいたらしいが、そんなもの現代では夢物語だ。
 恩恵があればゲームのシステムのように経験値(エクセリア)を溜めてステイタスを上げてレベルアップ、と成長が極めてスムーズになるし、他にも利点が沢山存在する。だから、『普通は』、『常識的に考えれば』、『まともな思考を持っていれば』、冒険者はファミリアに所属することになる。

 そして制裁が必要な冒険者はその冒険者が所属するファミリアの主神へと通達され、最悪の場合はきつい罰則を受けるだけでは済まないこともある。責任を問われての恩恵剥奪、ファミリア追放、特殊なケースでは指名手配を受けることにさえなる。

 じゃあもしも。
 ファミリアに所属していないから間接的な罰則を受けさせることが出来ず。
 ギルド利用による冒険者特権を完全に無視している代わりに金を一切落とさず。
 その癖にダンジョンに平気な顔をして潜っては戻ってきて。

 そして何より、どこまでも『異常で』、『非常識で』、『イカれた思考を持っている』冒険者がいたら――果たしてギルドはどう対応すればいいのか?

「……で、どうしたんスか?」
「作戦その一、指名手配ですね。ま、これは見事に失敗しました。オーネスト君を捕まえるのに何人殺されるか分からないとか、そもそも捕まえる必要性を感じないとかで有力ファミリアが軒並み手出しを止めてしまったのです。手配書は三日と経たずにちり紙同然になりました」
「はぁ……」

 ギルドの実質的トップ、ロイマンはぺらぺらと当時の指名手配書を懐かしそうに眺めた後、デスクの中に仕舞い込んだ。

「作戦その二、そもそも違法換金所が問題な訳だからそこを取り締まってしまえ、と。これは治安維持としては上手く行きましたが、残念なことにオーネスト君はお金に困っていませんでした。よってオラリオ内がスッキリした以外は何の意味も無し、という訳です」
「はぁ……まぁ、無駄でないだけさっきよりマシっスね」

 ロイマンは欠伸混じりに書類に目を通しながら話を続ける。

「作戦その三、猛烈な説得。彼に近しい者、彼と関わりのある者を徹底的に洗い出して説得するよう試みようとしました。が、大半は人物特定に到らず、更に残り少ない特定人物も『オーネストを説得?出来るならやってるに決まってるじゃん馬鹿なの?死ぬの?』と逆に怒られる始末。いわゆる企画倒れという奴ですね」
「うわぁ……マジっスか。変人偏屈列伝の登場人物になりそうっスね」

 ロイマンは書類仕事が終わったのか背もたれに持たれて回顧にふけっている。

「その後様々な対オーネスト戦略が組まれましたが、結局解決せず。冒険者登録を解除してオラリオ追放にしたこともあるんですが、驚くべきことに無視されました。法的強制力があっても実質的な戦闘を行わないギルドでは彼の行動は止められませんし、代行になるファミリアが彼相手には及び腰。おまけに彼が恩恵(ファルナ)を受けているかどうかさえ謎なので、神の方から恩恵を奪うのも無理………結局、2年前に彼のお友達のアズ君が莫大な迷惑料を抱えてギルドに訪れることで和解が成立。今や彼とアズ君は中立を貴ぶギルドの唯一の例外的存在となっています。私としては、不利益も出ていませんし結構な結末だと思いますがね」
「ちなみにそのアズライールさんは………」
「彼もオーネスト君同様不明な点が多いですね。結局レベルも不明のまま登録されています。ただ、アズ君の只ならぬ気配のせいで神が怖がって手出ししようとしませんので、ある意味ではオーネスト君以上のアンタッチャブルです」

 こんなとんでもないことを真顔で言うあたり、案外ロイマンさんも大物だな……と新人ギルド職員は思った。お金大好きで脂肪をでっぷり抱え込んだエルフのロイマンだが、流石ギルド代表なだけあってその知識量は豊富だ。

「それで、結局君は何で私にオーネスト君のことなど聞きに来たのかね?」
「え、ええ………なんかエイナさんが『どうしても納得できない』とアズライール・オーネストの近辺を探りに行ってしまったんスよ」
「そうですか。………ま、彼女はあれで頑固なところがあります。その目で直接二人の近辺を知れば、ある程度満足できるでしょう」
(………ん?その物言いからすると、ロイマンさんは二人の近辺を把握してるって事っスか?)

 デスクで爪を砥ぎ始めたロイマンの得体がどんどん知れなくなっていく新人職員だった。



 = =



 オーネストの根城となっている一つの屋敷。
 その名もそのまま「オーネストの館」等と呼ばれている古びた屋敷の門の前に、一人の女性が立っていた。

「ここがあの二人のハウスね……」

 尖った耳と眼鏡が特徴的な栗色の髪の女性……その名をエイナ・チュールという。若くしてギルドの職員を務め、その人当たりの良さと美貌から非常に高い男性人気を誇るが彼氏はいないという真面目な職員だ。

 彼女の目的は単純明快。オラリオ二大異端者『狂闘士(ベルゼルガ)』オーネストと『告死天使(アズライール)』の身辺調査だ。理由は単純で、彼女は実はアズの担当職員その人なのである。
 アズは定期的にギルドにやってきてはオーネストの代理を兼ねて賄賂のようにお金を出しては「忙しそうだから失礼するねー」と鼻歌交じりに帰っていくのだ。アズとオーネストに纏わる契約は上司のロイマンだけが把握しており、彼女としては一方的に渡された金をロイマンに回すだけの非常に胡散臭い仕事を任されていることになる。

 となると当然彼女は一つの疑いを持つ。
 すなわち――アズとオーネストは本当に信用に値する冒険者なのかということだ。

 エイナ的にはアズの事はギルド窓口の前でしか知らない。
 死神のようなぞっとする気配を放ちながらも人当たりのいい笑みを浮かべ、ほんの世間話をちらっとすると帰ってしまう。悪い人には見えないが、いい人かと問われるとすごく迷うほど得体が知れないというのが本音だ。他の職員は怖がって近づこうとしない。

 で、オーネストに至っては街で偶然出くわした以外に何の接点もない。
 ナンパされていて困っていたら、どこからともなくやってきてその冒険者を蹴り飛ばし、「俺の道に突っ立ってんじゃねえ」と一言漏らしてそのまま帰っていった。未だに助けられたのか偶然なのか分からない出来事である。

「曲がりなりにも関わってる人だもの……人となりくらい知ってても損はないわよね?」

 二つのアンタッチャブルを同時に相手しようという無謀すぎるチャレンジにも思えるが、本人に会わなければ大丈夫だと考えるしかない。エイナは緊張しながらも屋敷の門を叩いた。

「ういーっす。どちら様ー?」

 屋敷から出てきたのは……どこか見覚えのある気だるそうな猫人間。

「あれ?……えっと、アルル・ファミリア副団長のヴェルトールさん?」
「ありゃま、エイナちゃんじゃないの。どったのこんなトコに?」

 そう、相手は受付嬢口説きで有名な冒険者のヴェルトールだった。
 その後ろにも数名の人間が見えている。

「ヴエエエエエ………やば、吐きそう」
「おい馬鹿やめろココ!!せっかくピッカピカに磨いた床にゲェボ吐く気か!?」
「耐えろ、耐えるんだ!!今酔い止め探してるから!!女の子の尊厳を忘れちゃ駄目だぁぁぁぁ!!」
「な、ナルハヤでオナシャス。もう長くは……うえっぷ!?」
「あーーー!!あーーーー!!あーーーーーー!!」

 ……何やら凄い騒ぎだ。ヴェルトールもそっちを眺めて呆れていた。

「いっそゴミ箱とかに出させてあげたらいんじゃない?無理に我慢すると逆に苦しいよ?」
「だ、大丈夫……これでもアタシ、スキタイの戦士だし。めっさ勇猛だし。………ぉぶっ!?」
「説得力皆無ですねー……あ、どうぞ。友達の胃袋からかぐわしい物が出ちゃうかもしれないけど上がっていきなよ」
「思いっきり入りたくなくなること言わないで下さいよ!!」
「う……お………お、オボロロロロロロロッ!?」
「ぎぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「イヤァァァーーー大惨事ぃぃぃーーーー!!」


 【調査ファイル一:屋敷にいた人たちの証言】


「アタシ?アタシはメリージアだけど……アンタ誰よ?」
「うえっ……口の中酸っぱい……頭痛い……二日酔い的なアレだコレ……」
「だから安酒ガブガブ飲むのは止めとけって言ったのに……ハイこれ薬」

 メイド姿のアマゾネスという非常に珍しい女性の後ろには、ダウンした黒髪で長身の女性(ほのかにゲェボの香りがする)を介抱する好青年の姿があった。

「ん?ああ、こいつら?おい二人とも、お客さんに自己紹介!」
「あ、私は【シユウ・ファミリア】のフーと言います。こっちでダウンしてるのは……」
「うい……【オリオン・ファミリア】所属、ココ……花も恥じらう17歳……あー、ちょっと楽になってきた」
「ど、どうも。ギルド所属のエイナです」

 早速反応に困る方々である。
 もう既に3ファミリアの冒険者が一堂に会して仲良ししてる時点で異常事態と言ってもいい。というのも、神と神は対立構造にあることも多く、他ファミリア同士の交友や恋は最終的にトラブルのもとになる可能性が非常に高い。だから、この光景はそれだけで異常なのである。

「あ、主神の事とか気にしなくていいですよ。ここに集まる人なんて主神のこと気にしてないから」
「ウチの主神はそういうの無関心なんだよなー」
「ああ……ウチは気にするけど、アタシが気にしてないからダイジョブ」
(ココさんの発言が大丈夫じゃないんですが……)

 とはいえ、この様子では二人は交友が意外と広いらしい。アルル・ファミリアは割とマイナーだが、ぬいぐるみや人形、彫像などを多く出荷する商業ファミリアだ。あの有名な『ガネーシャ像』を建造したのもこのファミリアが関わっている。
 シユウ・ファミリアも鍛冶ギルドの中では小規模ながら、その技術力はヘファイストス・ファミリアやゴブニュ・ファミリアにも匹敵するし、オリオン・ファミリアに至ってはレベル5の冒険者を複数有する強豪として知られている。

 エイナは取り敢えず事情を話した。すると、三人そろって微妙な顔をする。
 何事かと思っていると、フーが教えてくれた。

「館の主がいなくてよかったね。あの人親の仇みたいにギルド嫌いだから………本人がいたら間違いなく門前払いだよ?」

 うんうんと他二人が頷く。【情報その一:オーネストは大のギルド嫌い】と情報が追加されたところで、ヴェルトールが神妙な顔をした。

「というか駄目じゃんエイナちゃん。護衛もなしにオーネストの近辺探ったら……オーネストの事が嫌いな連中に襲われるよ?」
「え!?な、何ですかそれ!嫌いな連中が、何で私を!?」
「だから、人質だって。オーネストもアズも無関係な人を巻き込むの大嫌いだからさ……だからこそ『連中』はやるんだよ。今までも何度かやられてるんだよー?」
「そうそう、ほんと嫌なことする連中だよね。おかげでこの館、誰か一人常にレベル3以上の冒険者がいるルールになっちゃったからね……」
「ちなみにアタシみてーな非力な奴はオーネスト様が護衛アイテムこしらえてくれんだよ?」

 フーとメリージアは自慢げにブレスレットのような(チェーン)を「いいだろー!」と言わんばかりに見せつけてくるが、その鎖は巷では「魂を告死天使に売った証」と言われているのを知ってるんだろうか。

 ちなみにココはレベル5、ヴェルトールはレベル4、フーとメリージアはまだレベル1らしい。………参考までに言っておくと、オラリオではレベル3に到った時点である種の「人外扱い」とされることを考えればどれだけ贅沢なことをやっているかが伺えるだろう。
 【情報その二:二人には敵が多いらしい】が情報に追加。ついでにエイナもこっそり護身鎖を受け取りつつ情報収集を続行することになった。

「じゃ、私から。一番槍は武人の誉れ!スキタイの戦士としてこういう所は譲れないよ!」
「出た!ココのスキタイ自慢!これが始まるとスキタイ民族の勇猛さについて小一時間は喋りまくるぞ!!」
「そしてそのクセして人の話はそんなに聞かないのが彼女の悪い癖なんだ」
「はぁ………それじゃ、アズさんオーネストさんの出会いからお願いできます?」
「………はぁい。じゃ、オーネストから行くよー」

 【ココ・バシレイオスの証言】

 オーネストに会ったのは……大体5年前だったかなー。
 何度も言ったけど、私は誇り高きスキタイっていう遊牧民の出身なのよ。スキタイの中にはゼウス・ファミリアに所属してた凄い戦士だっているのよ?超スゴイでしょ?……っとと、脱線してないよ。ちゃんと質問内容覚えてるから。

 私、一応オーネストと同い年なんだけどさ……これでも出身地では100年に一人の武才だって持て囃される程度には強かったのよ。めっさスゴイっしょ?で、スゴイ剣士っていうのは大体行く場所が決まってんのよ。
 そう、腕試し、兼犠牲になった戦士たちの後を継ぐこと。そう!ダンジョン59階層に住まう最強の魔物、「黒竜」の討伐ってな訳よ!そしてゆくゆくはダンジョンを制覇してスキタイの名を世界に轟かせるの!私の名前とか歴史に残っちゃうかもね!
 ともかく、私は自信満々でダンジョンに来て、知り合いの伝手でオリオン・ファミリアに入ったのよ。13歳の時に。ぶっちゃけこんな幼い年齢でダンジョンに挑むとか私くらいのものだろ!って有頂天だったね。ところがどっこい……ダンジョンで、私と同じくらいの歳なのに私より強い人を発見したのよ。話の流れ的に分かるっしょ?――そう、オーネストよ。

 ちょっと嫉妬したね。私より3年も前からダンジョンにいるって聞いた時は更に嫉妬に狂った。
 一人前の戦士になるっていうのはスキタイにとってはスッゴイ重要な事なのよ。しかも私の場合はそれまで同年代で並ぶ戦士なんていなかったし。人生初のライバル登場よ。
 もーそうなると私直情径行っていうか、とにかくオーネストに追いつきたくて彼の後ろを追いかけまくったわ。物理的に追跡して「私の方が強い!!」って言いながら魔物を狩りまくる感じだったけど。

 ……今になって思えば無茶したなー。たった1年で私は1つの偉業を突破してレベル2に到ってたのよ。それぐらい苛烈な戦いだった。でもね、時々ミスって死にかけたりしたときはオーネストが助けてくれることもあったから、不思議と嫌ではなかったんだ。
 知ってる?昔、デカい魔物にやられて意識を失っちゃった時だったんだけどね?私、オーネストに看病してもらってたの。オーネストってば人を看病するときはびっくりするくらい穏やかな顔をしてるんだ。ああいうところを見ると、きっとオーネストのお母さんもすごく優しい人だったんだろうなって想像しちゃうよ。でも人が目を覚ましたと気付くと「目の前で死なれても面倒だから、後は勝手に帰れ」……ありゃ筋金入りのツンデレだね。

 そんな生活がしばらく続いて……ある日、こんな話をしたの。

『お前……何のためにそんな無茶ばかりしてる』
『そりゃまあ………スキタイとしての誇りが一番かなぁ。ホラ、使命や目標があると俄然燃えてくるし?それにご先祖様の出来なかったことをやり遂げるなんてすごい惹かれるじゃん!』
『それは「お前の」じゃなくて、「スキタイの」無茶する理由だろうが。文化的な刷り込みと戦士という職業がそうさせているだけだ。それはお前の意志じゃない――もう一度質問する。お前は何のために戦っている?』

 そんなに頭が良くないから何言ってるんだろって思ったけど、落ち着いて意味を咀嚼してみたら、こうだった。

『私が戦う意味だと思っていたものは、実は私の意志じゃなかった』

 衝撃が走ったね。雷に打たれたかと思った。
 ココ・バシレイオスという一人の少女は、果たして何がしたいのか。
 もしお前が戦士でなかったとしたら、一体何のために戦うつもりだったのか。
 何に抗い、何を倒し、何を得るために戦うか。

 戦いは戦士としての闘争心を満たすため。
 武功と栄誉はスキタイとしての誇りと同じ。
 なら、私のやりたいことは?オーネストへの対抗心はどこから来るの?
 『勇猛』とか『殉死』なんて言葉は全て後付の価値観に過ぎない。「そうなのか」と納得したものでなく、「そういうものか」と真似て得たものだ。えっと……オーネストはそれを『あーきてくちゃ』って呼んでたけど。ともかく、戦士でない私は何がしたいのか考えてみた。

『………怠けたい。家でダラダラしてご飯食べて、たまに剣の修行したりとか?あれ、そう考えると特に戦いたいわけじゃないのかな?』
『お前、本能で生きてやがるな………』

 その時、オーネストは呆れてたけど、どこかホッとしてるようにも見えた。
 そして、こんなことを言ったんだ。

『一つ、おせっかいを言っておく。もしもお前が一つの使命を帯びた時、内心で「やりたくない」とか、「本当に必要なのか」と考えた時は……考えろ。使命だから仕方ないとか、戦士としての誉れだからとか、そんな言葉で自分の声を消すな。お前が生きる理由と死ぬ理由は、お前が決めるんだ』
『あのー……つまり、私にスキタイを捨てろと?』
『勘違いするな。スキタイを背負うも捨てるも……戦うも戦わないも……全ては、自分で正しいと思った方を選べばいいだけだ。捨ててもいい物、捨てられない物、捨てたくない物………それの存否を他人や運命に委ねなければいい。それが、人間が自分で選択するという事だ』

 そのことをファミリアの先輩に話してみると、「それはとても難しい事だ」と言った。
 人は民族、言葉、主義、主張、文化、価値観など様々なしがらみが広がる世界で、時代という流れに向き合いながら進まなければならない。その中で得るものもあれば失うものもある。いわばスキタイにとっての「スキタイである」とは、内側に潜む本当の自分を守るための鎧でもあるのだ。
 オーネストの生き方は、しがらみを強引に引き千切り、流れと真っ向からぶつかり合って、本当の自分がどんなに傷つこうとも――それでも自分が自分であるという主張を強引に押し通す生き方だという。普通の人間が真似すればあっという間に雁字搦めにされ、濁流にのまれて自分を失ってしまう。

 私は未だに「私」が何をしたいのかがちょっとずつしか解らない。
 でも、取り合えず。

「オーネストと一緒に戦うのは好きだな。あいつの背中を護って、あいつに背中を護られて……私達は生きてるんだぞー、っていう感じの充足感があるの」

 そう言って、ココは照れ臭そうに微笑んだ。


 なお、アズに関しては「付き合い薄いしオーネストのこと独り占めしてるのがムカつくので偶に脅して隣を変わってもらう」、だそうだ。【情報その三:アズは意外と押しに弱い】とメモに書きこんでおいた。
  
 

 
後書き
・オリキャラであるココちゃんの説明!
この物語内ではアズに次いでオーネストに付いて行けるキャラで、戦闘技能だけならゴースト・ファミリア内でも1,2を争う凄腕です。性格は単純で物事を深く悩まず、妙に他人を巻き込むマイペースさがあり、人に好かれやすい動物的雰囲気があります。
一時期「あいつと関わるな!」と先輩にオーネストたちと会うのを強制的に止められた時期がありましたが、数年かけて先輩をレベルで追い越してつい最近ゴースト・ファミリアに戻ってきました。名前の由来は極東の言葉で「居場所(ここ)」……かどうかは定かではありません。
キャラベースになったのはどマイナーゲーム『スキタイのムスメ』の主人公。

ちなみにスキタイを調べてみるとギリシャ神話を起源としているようで、実際信仰していた神もギリシャ神話の神みたいです。最も重んじているのがあのヘスティアというのがまた興味深い。彼女も一歩間違えばそっちにいってたかもしれませんね。(彼女がオリオン・ファミリアなのはスキムスに登場したトライゴン→△→冬の大三角の一角、みたいな感じです)更にスキタイの一部にはアマゾネスと繋がりを持った一派もいたとか。ううむ、主役でないことが勿体無くなります。 
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