| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

鎮守府の床屋

作者:おかぴ1129
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

前編
  6.戦後に向けて……職業調査

「すまんが、暁にハルを調査してもらう」

 ある日、珍しく執務室に呼ばれた俺は、挨拶もそこそこに提督からこんなことを言われた。

「俺を調査? 身辺調査か何かですか?」

 でも身辺調査ならココに来る前に色々やられたよな……国籍や経歴はもちろんのこと、反社会的活動への関与の有無とか……でもここに来て半年ぐらい経ってるもんな。半年毎に情報更新したりするもんなのかな?

「あーいや、そういう堅苦しいものじゃない。言ってみれば小学校の頃の社会科見学で職業調査みたいなのやったろ? あれと同じノリだよ」
「あーなるほど。職業について色々調べて、発表会で『床屋さんの大変なところ』とかをプレゼンするあれですか」
「目的は違うが、ノリは概ねあんな感じだな」

 提督は、戦争が終わった後の艦娘の職業選択の幅に関して、若干の懸念があるらしい。艦娘は生まれてから今まで、海上戦闘の経験しかない。戦争が終わり、艦娘が実社会で暮らすことになった時、社会のことを何も知らない状況で放り出すのは忍びないそうだ。

「まぁある程度社会常識をレクチャーしてはいるんだが……それでも中々実社会とはかけ離れた生活を続けているだけに、浮世離れしてるヤツが多いのも事実だ」
「ですねぇ」

 特に約一名……動物みたいな名前をしたアホがいますもんね……俺この前の大掃除の時、ナチュラルに営利誘拐されましたもんね……という言葉を、俺は必死にこらえた。

――クマっ

 妖怪アホ毛女の邪悪なイメージが自分の背後に浮き出たような気がして、俺は背後に向かって手をパタパタと振った。

「何やってるんだ?」
「……いや、邪悪なイメージを払拭しようかと……」
「? ……まぁいいか。特に暁に関しては、将来の適正を見極め、世の中への見識を深めるという意味で、昔はよくこの鎮守府に出入りしていた外部の人間の職業の詳細を調べさせていたんだ」
「なるほど。いろんな仕事を調べさせて、今の内に本人の興味が湧く仕事を見つけさせて、戦争が終わった後で、自身が悩んだり困ったりしないようにしておくってことですね」
「その通りだ。人手不足と戦闘の激化からしばらくやめていたんだが、今は少し落ち着いてるし、ハルにも協力してもらおうかと思ってな」

 真剣な眼差しでこう語り、艦娘たちの将来を真剣に憂いているこの人は、やはり優しい人だと言える。ここに来て痛感したが、確かに個性的な連中ではあるものの、接していると艦娘のやつらは人間と同じなんだと実感できる。

 そんな存在だからこそ、提督さんはそこからさらに一歩進んで、彼女たちの将来に戦い以外の道を残してやりたいのだろう。それが例え本人たちが望んだことであったとしても、人生が戦いだけだなんて悲しすぎる。

「分かりました。お手伝いします」
「よかったありがとう。ちょうど明日、暁はローテーションから外れてる。明日の午前中は暁をハルの店に寄越すから、そのつもりでいてくれ」
「了解です」
「それから、保護者兼手伝いとして球磨をつける。こき使ってくれて構わない」

 手伝いをつけてくれるのはありがたいのだが、なぜあの妖怪アホ毛女なのかが疑問だ……。

「あれ? 球磨と仲いいんじゃないの? 北上からそう聞いたからわざわざシフト変更したんだけど……」
「あの妖怪おさげ女め……根も葉もなく余計でどうでもいい間違ったことを……」

――ニヤリ

「まぁ何はともあれ、明日はよろしく頼む。特に特別なことはしなくていい。いつもどおりの床屋の仕事ぶりを、暁に見せてやってくれ」
「了解っす」

 それにしても、自分の働きっぷりを人に見せるだなんてなんだか緊張する。その日の夜は緊張して中々寝付くことが出来なかった。

 俺はかつて、自分のじい様が真摯な態度で自身の仕事に取り組み、真剣に客の髪を整えるその仕事っぷりを見て、一生を決めた。幼いながらに、俺は自分の天職を見つけたんだ。たとえじい様本人にその気はなかったとしても、だ。

 俺は明日、床屋としての自分の姿を、一人の子供に見せる。自分の人生の進路をまだ決めていない一人の純粋な可能性の塊である暁ちゃんに、床屋を代表して、床屋という仕事の生き方を見てもらうことになる。そしてそれは、彼女の人生を決定してしまうかもしれない行為なんだ。

 おれは、そんな重大なことに恥じない、立派な床屋だろうか。あの日、俺の人生を決定づけたじい様のような、素晴らしい床屋でいられているのだろうか……

「やせーん!!!」

 人が真剣に悩んでいるというのに……いつものように唐突に窓が開き、今日もその窓の向こう側では、川内がフラッシュライトのような眩しい満面の笑顔をしていた。

「ハル! 夜戦!! 今日こそ夜戦!!!」
「うるせえ川内!! 毎晩毎晩夜10時過ぎた頃に俺の家を襲撃するな!!!」

 そして翌日。睡眠不足の目をこすりながら俺が店を開けると、朝一番に川内がうちにやってきた。外が明るいうちから顔を見せるってどういう風の吹き回しだ。

「いらっしゃ……ぉお? 川内?」
「やぁハルおはよお〜!」
「川内が明るい内に顔を見せるだなんてめずらしいな」
「でしょ? 今日が暁の職業調査って聞いて。面白そうだから、散髪がてらそれを見学しようと思って」

 職業調査を見学とはこらまた妙な話になってきたな……

「いや、つっても何も出ないぞ?」
「いいじゃんいいじゃん。私にも見学させて? ね?」
「まぁいいんじゃないか? どうせ部外者の球磨もいるしな」

 暁に俺の仕事を見せるためには、散髪する対象がどうしても必要だ。球磨でもいいんだが、以前のアホ毛処理失敗のことを考えると、少なくともあの妖怪アホ毛女以外の方がよさそうだ。俺の心が折れる場面は人には見せたくないしな。

 そんなことを考えていたら、件の暁ちゃんと球磨が店にやってきた。今日は勉強のためか、手提げバッグを持ってきている暁ちゃん。球磨はいつものように手ぶらだった。お前手荷物持ってきたことないよな……

「ハル! 一人前のレディーが来たわよ!!」
「来たクマ〜」
「はいどうぞ〜。いらっしゃいませ〜」
「今日はよろしくね!」

 なにやら小学校低学年の子が持っていてもおかしくないようなバッグの中からメモ帳と筆記用具を取り出し、俺のもとにやってくる暁ちゃん。いいねえ……この、結果はどうあれ頑張ろうという健気な心構え……引っ越し初日のことを思い出すなぁ……

「球磨だって初日は頑張ったクマ」
「お前は俺に向かって霧吹きしてただけじゃねーか今みたいにな」

 『そんなことはないクマ』とふてくされながら、果敢に俺の頭に霧吹きを吹きかけている妖怪霧吹き女。霧吹きの一体何がお前をそこまで駆り立てるんだよ……。

「それじゃハル、今日はよろしくお願いします!」
「ほいよろしく〜」
「それじゃあまず、床屋さんがどういう仕事なのか教えて!」

 む……いきなり中々難問な質問だ……なんつーかこういう漠然とした質問が一番答え辛かったりするんだ……ちゃんと答えなきゃいけないし……。

「えっと……床屋ってのは……」
「球磨のアホ毛が切れなくて、悔しさのあまりむせび泣くのが仕事だクマ。キリッ」
「お前は黙れよ」
「私と一緒に夜戦に付き合ってくれるのが仕事だとうれしいんだけどね!」
「お前も黙れ」
「? ??」
「あーごめんね暁ちゃん。混乱させちゃってるみたいだね……」

 とりあえず、暁ちゃんには『床屋さんは、お客さんの髪型を整えてあげるのが仕事だクマ』と答えておいた。ちなみに語尾のクマは球磨が勝手に付け加えていた。

 その後、その実演ということで、川内の髪を整えながら仕事内容の説明を行う。ある程度毛先を整えた後のシャンプーも、今日は暁ちゃんが隣にいる状態で行った。

「シャンプーの時は、お客さんにかゆいところがないか聞くんだよ」
「そういや暁の時も聞いてたわね!」
「かゆいところはないか川内〜?」
「右足の裏の……」
「却下!」
「だったら夜戦!!」

 相っ変わらず艦娘のやつらは意味わかんねえ……。普通シャンプー中にかゆいところ聞かれたら頭を答えるだろうに。なんでみんな揃いも揃って足の裏を答えるんだよ……。

「ここに寝転ぶとかゆくなるんだから仕方ないクマ」

 暁ちゃんと同じく、俺の隣でシャンプーを眺める球磨がこんなどうでもいいことを言いやがる。なんだそりゃ。このソファに座ると足の裏が痒くなる呪いにでもかかるのか? みんながいなくなってからちょっと座ってみるかな……

 シャンプーが終わったら川内の髪を乾かしてあげれば終了だ。俺は髪を乾かし終わった川内の両肩をポンと叩いてやり、カットの終了を伝えた。

「はい! おつかれさん!」
「ほっ!」

 『これでまた夜戦がバリバリ出来るぞぉお〜』と口走りながらバーバーちょもらんまを後にする川内。そしてそれを見送る俺達3人。いいねぇ。どんな内容であれ、俺のカットでごきげんになったお客さんが帰っていくのを見送る時間は、やりがいを感じるなぁ……。

「ねぇハル〜」
「ん?」
「床屋さんの仕事って、シャンプーして髪の毛切ってあげて、それだけ?」
「これだけってわけじゃないけどなぁ……」
「他には何かあるの?!」

 いつぞやの提督のように、好奇心の塊となった両目で俺を見つめてくる暁ちゃん。ここまでまっすぐでワクワクした瞳で見られたら、何か見せなきゃいけなくなるわけだが……

「っていってもなぁ……例えば髭剃りとか?」
「髭剃り? お客さんの髭を剃ってあげるの?」
「うん。でも基本、男にしかやってあげられないことだからねぇ……あ、ちょっと待て」
「?」

 俺は、散髪台の方を見た。つられて暁ちゃんも散髪台の方に顔を向ける。俺達の視線の先には、散髪台の横のキャリー付きワゴンの上に載せられているごつい霧吹きに興味津々の球磨がいる。

「? 何事クマ?」
「球磨、お前ちょっと実演台になれ」
「??」

 いまいち事情が飲み込めてない球磨を尻目に、俺は髭剃りの準備を進める。といっても球磨は女の子で髭が生えてるわけじゃないから、髭剃り実演っつーか顔剃りになるのかな? 準備するのは髭剃りクリームと、じい様の代から愛用している、こだわりの職人が作った愛用のカミソリだ。恐るべき切れ味とサリサリした感触が楽しめる、じい様とおれが惚れ込んだ至高の逸品だ。

「ちょっと待つクマ。球磨に何するクマ?」
「いいからちょっとソファ座って寝転んで待ってろ」
「これから球磨にひげそりするの?」
「そうだよ〜。実際にはヒゲというか顔剃りになるのかな?」
「嫌だクマァア!! ハルに襲われるクマぁあ!!」

 暴れる球磨を強引にシートに座らせ、顔中に熱々の髭剃りクリームを縫ってやる。

――ぺたぺた

「球磨がハルの……んー……毒牙に……んー……」

――ぺたぺた

「んー……熱々で気持ちいいクマ……」

 球磨が髭剃りクリームの心地よさに悶絶し身悶えしリラックスし始めた頃、リクライニングを限界まで倒して、クリームを縫った顔全体に熱々の蒸しタオルを置いてあげる。

「クマぁ……たまらん……クマァ……」

 髭剃りクリームと蒸しタオルの熱さがよほど心地よかったのか……いつかのようにおっさんのだみ声としか思えない声を漏らす球磨。まさかお前、女ってのは世を忍ぶ仮の姿で、実は中身おっさんってわけじゃないよな?

「ぅぉぉぉ……この心地よさを堪能出来るなら、別に中身がおっさんでもいいクマぁ……」
「マジかよ……」
「ねぇハル。これは何をやってるの?」
「こうやってあつあつの髭剃りクリームと蒸しタオルで、髭を柔らかくしてるんだ。こうしてやわらかくしたあとに剃ってあげるんだよ」
「柔らかくしないと剃れないの?」
「今回は実験台が球磨だから今一分からんだろうけど、男の髭ってけっこう硬いんだよ。一度提督さんに触らせてもらってみ」
「でも最近の司令官、髭が伸びてることってほとんどないわよ?」

 ……よく考えてみたら、2日に1回ぐらいの割合でココに来てるからな提督さん……その度に髭剃りして昇天してるし……確かに最近は伸びてるとこ見たことないな……

 そんなことを思いながら、『うぁぁあぁぁ……』というおっさんのごとき唸り声をあげる球磨を尻目に、再度髭剃りクリームの準備をすすめる俺。次はちょっと暁ちゃんにも塗らせてみようかと思い、めちゃくちゃたくさんクリームを作った。どうせ軍からの補助金で仕入れたやつで、元手もタダだしね。

「そろそろかな?」

 もはや唸り声もあげずに少しうとうとし始めている球磨の顔に乗せられた蒸しタオルを少しどかせ、ほっぺたを撫でてみる。

「クマ……にへらぁ~……」

 いい感じにほっぺたが柔らかい。なんだかずっとぷにぷに触ってたい感じの心地いい肌だが、今はそうも言ってられん……

「暁ちゃん。もう1回クリーム塗るから、ちょっと塗ってみる?」
「え?! いいの?!」
「うん」
「やったー!! これで暁も一人前のレディー!!」

 こうして暁ちゃんに髭剃りクリームがてんこ盛りの器を渡し、球磨の顔の蒸しタオルを剥がしてあげた。

「んじゃ、球磨の顔全体に、このハケでクリームをたっぷり塗ってあげてくれ」
「わかったわ! この一人前のレディーに任せて!!」

 果たして一人前のレディーが髭剃りクリームを人に塗る機会があるのかどうかよく分からんけど、楽しそうに球磨の顔にクリームを塗って……いや、てんこ盛りにしていく暁ちゃんが楽しそうだからまぁよしとしよう。

「ぺたぺた〜……」
「うんっ……ダメクマ……きもちい……クマ……」

 暁ちゃんが球磨のほっぺたや顎にクリームをてんこ盛りにしていき、その度に球磨の口から気持ちよさそうなため息というか変な声が出ている。さっきのおっさんみたいな声はどうした妖怪だみ声女。急に女の子みたいな声だしやがって。

「ハル! 全部塗ったわよ!!」
「うん。まるで球磨ができの悪いスケキヨみたいになってるね」
「? スケキヨ?」

 髭剃りクリームから蒸しタオル、そしてダメ押しの髭剃りクリームという魅惑の3連続の心地いい感触に、球磨はすでに抵抗することなく昇天してしまったらしい。さっきから髪の毛の生えたスケキヨみたいに顔にクリームをてんこもりにされた状態のまま、まったく動かない。

「さて……んじゃやりますか」

 髭剃りを構え、それを球磨のほっぺに当てる。

「球磨の髭剃りするの?」
「さっきも言ったけど、女の人の場合は髭剃りっつーか顔剃りだね。顔の産毛を剃って一人前のレディーにしてあげるんだよ」
「一人前のレディー……!!」
「じゃあちょっと危ないから、剃りが終わるまで俺と球磨に触らないでね」
「わ……わかったわ……なぜなら一人前のレディーだから……!」

 とはいったものの、おれ女の人の顔剃りってしたことないんだよね……とりあえず髭剃りのときと同じ感じで、傷つけないように撫でてあげればいいかな。さっき触った感じだと、この妖怪ぷにぷに女はそんなに産毛も生えてないみたいだし……

 とはいえ、カミソリの刃を当てる瞬間は緊張する。一歩間違えただけで大怪我につながるからな。しかも相手は妖怪ぷにぷに女といえども女の子。顔に傷を付けるわけには行かない……つーか無理に球磨を実験台にしなくても、提督さんを呼べばそれでよかったような……? まぁいいか。いまさら言い出しても始まらん。

 球磨のほっぺたに刃を当て、首筋まで慎重に、かつスピーディーにカミソリを動かした、クリームがカミソリにこそげ取られ、同時に少ない球磨の産毛も剃れて……ないな。元々生えてないのか。羨ましいことだまったく……。

「クマ?」

 今の今まで熟睡してた球磨が目を覚ました。まためんどくさいタイミングで目を覚ます……俺は球磨が動き出すのをなんとかしたくて、球磨の頭を左手で抑え、目を真剣な眼差しで見つめて制止した。今動かれたら顔に傷がつく。いくら妖怪おっさん女といえども球磨は女の子だ。絶対に顔に傷を付けるわけには行かない。

「球磨、動くなよ。今お前の顔剃りをやってるからな。動いたら大怪我するぞ?」
「りょ、了解だ……クマ……」

 鼻が当たるぐらいの距離まで迫った真剣な表情の俺の雰囲気に呑まれたのか、球磨は意外にもすんなり俺の言うことを聞いた。そりそりしてる間中、ずっと俺の顔を伺ってたのが気になったけど……

「……」
「……」
「ク……クマ……」

 一応、真剣に球磨の顔の全面を顔剃りしてみたのだが、特に産毛は取れなかったようだ。クリームを全部こそげとった後、なんだかポヤンとしている球磨のほっぺたを再度触ってみたのだが、やはりすべすべぷにぷにしているものの、産毛みたいなのは生えてない。

「はい球磨、おつかれ〜」
「ク、クマ〜……」

 俺の終了の合図を受け、球磨はホッと一息ついたようだ。ほんのりほっぺたが赤くなってる気がするけど、別にカミソリ負けしたってわけじゃないよな……?

「なんか妙にしおらしいけど、どうかしたか?」
「だ、黙れクマ……ッ」

 んー……なんか妙だな。別にいいけど。

「以上でひげそりは終了だ暁ちゃん。床屋の仕事はこんな感じかな? 基本は髪切って、シャンプーして、髭剃りして……」
「これで終わり?」
「うん。あとはカラーリングとかもあるけど……それはどっちかというと美容師さんの範疇だからね」
「床屋さんと美容師さんは違うの?」
「うん」

 ここで俺は床屋と美容師の違いを簡単に説明したが、暁ちゃんはよく分かってないようだった。まぁ俺もじい様に懇切丁寧に説明されてもよくわかんなくて、『よく分からんのなら両方の免許を取れ』と最終的に逆ギレに近いアドバイスをされたんだもんなぁ……。

「うー……よくわからないけど……お客さんをキレイにするのが美容師さんで、お客さんの身だしなみを整えてあげるのが床屋さん?」
「うん。そんな感じだね」
「これが分かれば一人前のレディー?」
「うん……? まぁ、分からなくても一人前のレディーかな?」

 その後はがんばった暁ちゃんと、やけにポヤポヤ呆けている球磨とともに食堂に昼食に向かった。調理担当の提督さんが

「今日は暁の職業調査の再開記念だ!!」

 と妙に張り切っていて、この日の昼食のメニューは全員お子様ランチになった。暁ちゃんの分はもちろんのこと、俺や球磨、飲兵衛の隼鷹やビス子たちまでお子様ランチだった。

「司令官! 暁は一人前のレディーなんだから、お子様ランチなんていらないのよ! ぷんすか!!」

 とかわいく怒り狂っていた暁ちゃんだったが、全員の中で二番目にはしゃいでいたのは、他ならぬ暁ちゃん自身だった。

「ちょっと提督! この夢のようなランチプレートは一体何なの?! ……えちょっと待って!! このチキンライスに刺さってる国旗、私の祖国ドイツの国旗じゃない!! やだこのケチャップハンバーグ絶品だわ! 提督あなたホントにヤパーネリンなの?! あーでも味噌汁がないのは減点だわね……私、赤だしが飲みたかったわ……あでもこのお吸い物は絶品よ?」

 あとこれは完全に余談だが、一番はしゃいでいたのはビス子だった。

 ……そしてちょっとした異変というか……あの顔剃り実演の後から、妙に球磨がちらちらこっちの様子を伺ってくるんだよね。

「……」
「……」
「……なんだよ?」
「な、なんでもないクマッ」
「?」

 そういえば、球磨に顔剃りの感想を聞くのを忘れてた……

「お前さ、今日顔剃りしてやったろ?」
「そ、そうクマね」

 ? なんで顔赤くしとるんだこの妖怪アホ毛女は?

「一応感想聞いとくけど、どうだったよ?」
「ぅあ、べ、別に悪くなかったクマよ? サリサリして気持ちよかったクマ」
「ならよかった。つってもお前の顔、産毛生えてなくてすべすべでキレイなもんだったから、今一違いがなぁ……」
「く、クマ……」
「とはいえ気持ちよかったなら、正式サービスにしてみるかなぁ。顔剃りなら艦娘の子たちにも需要はあるだろうし……」
「キモチヨクナカッタクマ。ヤラナイホウガイイクマ」
「そ、そうか……」

 こいつがそういうのなら、やらないほうがいいのかな? 今後も球磨を実験台にして、色々ちょっとやってみるか。……ちょっと待て。なんかこの言い方、以前にも1回あったような……?

「クマクマっ」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧