| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

どんくさいヒーロー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章

 余計にだ、誰もが働いた。
「要領の悪い人達だけれど」
「出来ない人達だけれど」
「あれだけやっているんだ」
「被災者の人達の為に」
「それなら俺達もな」
「ちゃんとしないとな」
 こう言うのだった、それぞれ。
「そしてな」
「あの人達を助けよう」
「被災者の人達を」
「あの人達をな」
 頷き合ってだった、彼等も勇んで働いた。そうして。
 被災者達の人達に物資を届けた時にだった、避難所である学校の体育館にいる被災者の人達が二人に言った。
「本当にすいません」
「助かります」
「こうまでしてくれて」
「こんなに食べものやお水を持って来てくれて」
「毛布や使い捨てカイロまで」
「本当に有り難うございます」
「いえ、当然のことです」
 矢田がだ、被災者の人達に微笑んで答えた。汚れたままの迷彩服姿で。
「私達は自衛官ですから」
「こうしたことをしてくれることが」
「当然ですか」
「はい、国民の皆さんを守ることが仕事ですから」
 だからだというのだ。
「当然のことをしているだけです」
「そうなのですね」
「そう言われるのですね」
「そうです」
 こう言うだけだった、そして。
 矢田は自分の左にいる森下に顔を向けて尋ねた。
「他に何か届けるものは」
「これで全てです」
 森下は矢田にすぐに答えた。
「水も毛布もお渡ししました」
「了解、それでなのですが」
 森下に応えてからだった、矢田は被災者の人達に顔を向けて尋ねた。
「まだ足りないものがあれば何でも仰って下さい」
「何でもですか」
「はい、可能な限りすぐに送らせて頂きますので」
「そうなのですか」
「そうさせて頂きます」
 敬礼と共に言うのだった、そして実際にだ。
 彼は被災者の人達の要望を聞いて自ら上層部に連絡してだ、被災地にいる被災者の人達に物資を届けさせた。時には自らトラックを運転して。
 森下もそうした、その二人を見てだった。
 もう誰も二人を悪く言う者はいなかった、それこそ一人として。
「凄いな」
「ああ、お二人共な」
「あの人達ならな」
「やってくれるな」
「確かにどん臭くて要領が悪くて」
「仕事は出来ないけれどな」
 それでもというのだ、二人は。
「やる時はやってくれる」
「それも全力でな」
「自分の為じゃなくて困っている人達の為に」
「そうした人達だよ」
「凄い人達だよ」
 こう言って認めた、そしてそれは部下達だけでなく。
 上層部もだ、二人を見て言った。
「ああした人間こそ必要だ」
「本当にな」
「自衛隊には欠かせない」
「華々しさはなくても」
 所謂颯爽と完璧に仕事をするタイプではない、しかしというのだ。
「ああして地道に必死に働いてくれる」
「自衛官としてあるべき姿だ」
「何かあった時はああした人間だ」
「ああした人間こそ必要だ」
 こう言うのだった、そしてだった。
 被災地での任務を終えた二人に基地司令から表彰があった、だが。
 二人はそのことにも誇らず淡々としていた、むしろ被災地の人達の為に不十分だったと重い残念がってさえいた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧