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ショーウィンドー

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第三章

「そのやり方でね」
「よし、それじゃあね」
「それでやってみて」
「ただ告白するだけよりもずっといいし」
「それならね」
「ええ、そうしてみるわね」
 アンネリは友人達に答えた、そして。
 彼女が意識しているその銀行員、ユッシ=スウェンソンは朝早く出勤していた。まだ商店街のどの店も開店していない。
 どの店もまだガラスのショーウィンド^ーすら開いていない、シャッターで閉じられている。だが一店だけだった。
 ショーウィンドーだけを開けていた、そしてそのショーウィンドーの中に。
 緑と青、それに赤の丈の長い目立つ派手な色彩とデザインにした女性のマネキンがあった。出ているマネキンは一つだけで。
 彼はどうしてもそのマネキンを見てしまった、それで。
 共に出勤している同僚にだ、こう言った。
「このマネキンは」
「派手な服だね、それに」
「うん、どうもね」
 ユッシはそのマネキンを見つつ言った。
「生きているみたいだね」
「かなりリアルだね」
「リアルっていうか」
 それこそというのだ。
「本当に生きているみたいだよ」
「そう思うね、君も」
「奇麗なマネキンだね」
「僕もそう思うよ」
「本当にね」
 こうした話をしたのだった、一店だけシャッターを上げているその店の実に精巧なマネキンを見て。そしてだった。
 彼は帰りにもその店の前を通った、商店街の傍にある銀行に勤務しているので商店街が出勤、退勤の時のコースなのだ。
 この時にもだ、彼はそのマネキンを見た。そしてこう言った。
「やっぱり奇麗でしかも」 
 人間の様に精巧だと思うのだった、帰る時も。
 そうした日が一週間程続いた。それでだった。
 そのマネキンのことを不思議と思い出す様になった、何しろ朝は一店だけシャッターが上がっていて見られるからだ。
 帰りも見る、それで余計にだった。
 印象に残っていた、しかし。
 そのマネキンは突如として消えた、彼はそれに驚いて。
 ついついだ、店に入って店主に尋ねた。
「あの、いつも置いてあったマネキンは」
「ショーウィンドーの中にですね」
「はい、あれは」
「もう撤去しました」
 店主は初老の男だった、彼は穏やかな声で答えた。
「そうしました」
「そうですか」
「はい、それが何か」
「いえ」
 言いたいことは隠してだ、彼は応えた。
「何もありません」
「そうですか」
「ただ気になっていただけなので」
 こう店主に言ったのだった。
「それだけです」
「そうですか」
「では」
 ここまで言ってだ、ユッシは店を後にした。その店でだった。
 店主は自分の後ろにだ、こう声をかけた。
「上手くいったよ」
「はい、あの人はですね」
「意識しているよ」
「そうですか」
 笑みを浮かべての言葉だった。
「私のことを」
「そうだよ、よかったね」
「すいません、協力してもらって」
「いいさ、こうした話は面白いからね」
 店主は笑って自分の後ろにいる相手に話した。 
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