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ゲーム

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第一章

                 ゲーム
 神崎雄太郎はあるネットゲームのことをだ、友人の佐伯久則に紹介された。そのうえで右手で眼鏡をなおしてから言った。
「へえ、そんなゲームあるんだ」
「そうだよ、色々な種族になれてな」
「色々な職業にもなれて」
「王侯貴族になったり」
「軍人や商人になったり」
「なれるんだよ、下克上だってな」
 久則はまだ高校生だが四十歳の風格がある老けた顔で話した。雄太郎の太った顔を見ながら。二人共髪の毛は七三分けだ。
「出来てな」
「じゃあ斎藤道三みたいにも」
「なれるんだよ」
「それいいね」
「自分ひょっとして道三さん好き?」
「実は親父の地元が岐阜でね」 
 それでとだ、雄太郎は久則に話した。
「嫌いじゃないんだよ、道三さん」
「岐阜っていったら信長さんだろ」
「信長さんも好きだけれど」
「道三さんも嫌いじゃないか」
「あの人みたいになってみようかな」
「かなり悪かったよな、道三さん」
 その雄太郎が好きな歴史上の人物についてだ、久則は尋ねた。
「確か」
「主を追い出して国を乗っ取ったからね。残酷な処刑は実際はしていなかったかも知れないけれど」
「やっぱり悪い奴だな」
「うん、けれど悪い奴になるのもね」
「いいっていうんだな」
「時にはね」
「そうか、じゃあそうした風にプレイするんだな」
 久則は雄太郎の笑いつつの言葉を聞きつつこう返した。
「それならな」
「別にいいよね」
「自分がすることだからな」
「それじゃあ楽しんでみるね」
「ああ、好きにしたらいいさ」
 こう答えたのだった、そして実際にだった。
 雄太郎はそのゲームをはじめた、種族は人間だったが。
 職業は剣客にしてだった、服は着物と袴に下駄、それと。
 武器は刀だ、その刀を手にしてだった。
 人斬り、他のプレイヤーをどんどん斬った、そうして遊びながらだった。
 彼は久則にだ、二人が通っている高校の部活ゲーム研究会の部室で話した。
「はじめてみたよ」
「それで悪役か」
「うん、それでやってるけれど」
「道三さんでやってみてるか?」
「いや、剣客」
「何で剣客なんだ?」
 道三の話を聞いていたからだ、久則は怪訝な顔で問うた。
「下克上目指すんじゃなかったのか」
「何となくね」
「剣客になりたくてか」
「それでなんだ」
「剣客になってるのか」
「それで斬りまくってるよ」
 笑いながらだ、雄太郎は久則に話した。二人共黒の詰襟の学生服姿だが着こなしは実に真面目なものである。
「一人でいる相手を片っ端からね」
「悪いことしてるな」
「完全に人斬り侍になってるよ」
「じゃあその刀は妖刀か?」
「一応そうした設定にしたの」
「あのゲーム戦ってると武器のレベルも上がるからな」
「うん、それでね」
 雄太郎は久則にさらに話した。
「辻斬りとかもして」
「完全に人斬り侍だな」
「時代劇に出て来るみたいなね」
「悪い奴になったな、しかしな」
「しかしって?」
「下克上はしないのか」
 このことをだ、久則は雄太郎に尋ねた。
「確か斎藤道三さんになりたいんだよな」
「まあね」
「これからなるのか?」
「それもいいかもって思ったけれど」
「それでもか」
「ゲームはじめる前にたまたまネットで時代劇観てたんだよ」
 動画サイトにおいてというのだ。 
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