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イン『スペクター』

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第三章

「それは」
「そうね、けれど私は違うの」
「監察官はですか」
「そうよ、黒魔術にね」
 それにと言うのだった。
「白魔術に錬金術、それと仙術や陰陽道もよ」
「全部オカルトですよね」
「その通りよ、けれどね」
「それがですか」
「私の分野になるのよ」
「オカルトは警察官の仕事じゃないですよ」
「普通はね。けれどその時になればわかるわ」
 微笑んでだ、堀江は奥野に返した。
「お仕事の時にね」
「そうなのですね」
「その時になればだから。今はね」
「ここで、ですか」
「私は勉強をしておくわ」
 この部屋でというのだ。
「そういうことでね」
「わかりました」
 奥野は訳がわからなかったがそれでも上司の言葉なので頷いた、この辺り警察の階級社会が出ていた。
 そしてだ、ある日のこと。
 堀江は自分の席の電話に出てだ、話をしてだった。
 奥野にだ、微笑んでこう言った。
「今から行くわよ」
「仕事ですか」
「私のね」
「それで私もですね」
「ええ、ついて来て」
 こう微笑んで言うのだった。
「すぐに終わるお仕事みたいだけれど」
「すぐにですか」
「ええ、じゃあ行きましょう」
「わかりました」
 奥野はここでも堀江が言っていることがわからなかった、だが。
 何はともあれ堀江に従って部屋を出た、車は彼が運転してだった。現場に向かった。
 現場は渋谷の道玄坂だった、そこに着いた二人の左右にはホテルが並んでいる。
 そのホテル街に入ってだ、堀江は笑って言った。
「ここに来たのは久しぶりね」
「私ははじめてです」
「君はそうした経験ないのね」
「まあそれは」
「私もあまりだけれどね」
「だから久しぶりって言われたんですか」
「これでも彼氏というか婚約者がいるのよ」
 笑って言うのだった。
「それでね」
「ここにもですか」
「来たのよ、では現場はね」
「はい、あそこですよね」
 奥野はそのホテル達の中でだ、西洋の城を思わせるものを指差してそうして堀江に対してこう言った。
「あそこのホテルの402号室で」
「そうよ、事件よ」
「そしてその事件をですね」
「私が警察官として解決するのよ」
「特別監察官、インスペクターとしてね」
「インスペクターですか」
「イン『スペクター』ね」
 くすりと笑ってだ、堀江は奥野に癖のある表現も述べた。
「それなのよ」
「?どういうことですか?」
「今言葉にヒント出したでしょ」
「インスペクターにですか」
「イン『スペクター』ですか」
「そうよ、わかるかしら」
「いえ、申し訳ありませんが」
 首を傾げさせてだ、奥野は堀江に応えた。
「どうも」
「そうなのね、まあいいわ」
「その時が来ればわかる、ですね」
「もうすぐその時だから」
 こう笑って言う堀江だった、そして。 
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