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【壊れかけの】ゼロの使い魔【衛宮士郎を召喚】

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【壊れかけの】ゼロの使い魔【衛宮士郎を召喚】

 
前書き
バッドエンドです。やや鬱かもしれません。苦手な方はお戻りください。 

 

 
 私は彼にどうやって償えばいいのだろう。
 終に、ただの一度も私に恨み言さえこぼさなかった、あの少年に。




 召喚した使い魔は、人だった。
 赤銅色の髪、私より頭一つ分くらい高い身長。
 痩せてはおらず、太ってもいない。
 寝ているのか気絶したのか。
 どちらにせよ意識がない事に変わりはないが。
 見たこともない服装だが、杖を持っていないし貴族には見えない。
 顔は特別整っているわけでもないが、穏やかに眠るその顔は、見ているこちらも安らぐ気がした。

 ただ彼の左腕が。
 明らかに、長さも太さも異なる腕が、まるで封印されているかのように赤い布にくるまれていて、気味が悪いというか、ほんの少し怖かった。






「ここは何処なんだ」

 目覚めた少年、衛宮士郎は焦っていた。
 当然だ。
 イリヤスフィールを助けるため、彼はもうその腕の封印を一度解いてしまったのだから。

 アーチャーの腕。
 それは時限爆弾と変わらない。
 それは人でない、もっと高位の存在の物。
 通常ならば誰であっても移植することも叶わぬそれは、しかし衛宮士郎には何故か拒絶反応を起こすことはなく、ある神父の手により移された。
 だがそれは移すことに成功したというだけ。
 いずれ腕は少年を喰らう。
 本来、封印をしたまま彼が生涯付き合っていくべき悪夢であったのだ。
 封印を解けば死ぬ、と言ったのは誰だったか。
 
 彼は自分を代償に。
 しかしどうあれ行きつく先は変わらない。

 既に彼は人ではない。
 衛宮士郎に時間はない。



 アインツベルンの城かと思ったが、確証はなかった。
 こんな狭い部屋があの城にあるのかが分からないから。

 ギィ……。
 ドアが開く。
 一瞬の緊張。
 入ってきたのは、ピンクの髪をした見知らぬ少女だった。


――――――――――――


「異世界……」

 ちょっとしたゴタゴタはあったものの、話の結論は、つまりはそういうことらしい。
 俺を呼んだのは彼女であり、今まで看病していてくれたのだという。
 そういえば目の前に光る何かが現れたような気がしなくもない。
 だが今の自分は意識が飛ぶのだ。
 何れにせよ真相は分からない。

「お願いだ、ルイズ。俺を、元の世界に戻してくれ」

 頭を下げる。

「向こうに、大切な人がいるんだ。守ると誓ったひとが」

 彼女を責める、あらゆるものから守ってみせると。
 それは衛宮士郎の否定に他ならない選択だったけど。
 今も、これからも。後悔なんてしない。

 違う世界から来た、と説明してもイマイチ信用していないような様子だったが、信じて貰うしかない。

「あ……その……」

 相手の反応は鈍い。
 そして。

「ゴメン……。帰す魔法は、少なくとも私は知らないし、聞いたこともないの」


――――――――――――


 少年の目が、あまりにも真剣過ぎて。
 あまりにも凄惨に見えて。
 物語の英雄のような、或いは魔王のような。
 異世界なんて信じられないという思いは、何処かに行ってしまった。
 こんなに想ってもらえる誰かは、きっと幸せ者に違いない。
 だから、さっきまでは全く考えていなかったけど、この少年を元の場所に返そうと思った。
 帰さなきゃって思った。

「その……ゴメン。でもサモン・サーヴァントで人が呼ばれるなんてこと無かったの。だから」

 言い訳だ。
 でも本当のこと。

「……そっか。なら仕方ない。じゃあ探すの、手伝ってくれないか」

 言葉からは落胆が。
 けれど目には変わらぬ意志の強さが。
 彼が何を考えたかは分かる。
 怒るより嘆くより、一刻も早い帰還だけを。

「頼む。俺には、もう時間が無いんだ」
「病気……なの?」

 それなら薬を渡そう。
 水のメイジを呼ぼう。

「病気……とは違うかな。それに、もう手遅れなんだ。体じゃ無くて、精神(こころ)が」
「だ、大丈夫! 精神に効く薬だってあるわ! だから……」

 だから、なんだ。
 何が言いたいのか自分でも分からない。
 彼は微笑みながら教えてくれた。

「ありがとう、ルイズ。えーとな、この腕がその原因ではあるんだ。けど俺は、この腕を莫くす事は出来ない。あいつを救うためには、きっとこの腕がどうしても必要だから」

 ジレンマだな。
 と彼は笑った。




 あれから数日。
 探す魔法は見つからず、そして彼には限界が訪れそうだった。

 最初に多少の記憶の欠損が出て来た。
 いや、その言い方はちょっと違う。
 既に会った時には始まっていた。
 昼食を食べた後、しばらくすると昼食はもう食べたか、と聞いてきたりするのだ。
 説明すると、「そういえばお腹減ってないな」なんて笑っていた。

 次第に意識がしっかりしている時間が減っていき、目を開けたままぼーっとしていることが多くなった。
 今では覚醒している時の方が少ない。

 そして頑なに睡眠は取らなかった。
 戻ってこれなくなるって言っていた。
 一応色々な薬を試してみたが、効果の程は分からない。

 そうして、最後の日が訪れた。
 調子がいいと言う彼と共に、気分転換に外を歩いていた夜。
 そう、『破壊の杖』を盗みにきた『土くれ』のゴーレムと対峙した、あの日。




 衛宮士郎が、死んだ日。


――――――――――――


 少年は今、正に戦っていた。
 未だ戦いの中にいるのだ。
 泥に呑まれた、あの黒い巨体との。

 嘗てソレが、泥に呑まれ尚剣の使い手との戦いの中にあったように。
 最早壊れる、壊れた彼には。悪夢()に呑まれる少年の目には。
 過去も先も無く、今だけが。






 そこにいる妹を守るため、左腕を使う。
 一思いに封印を解き、すぐさま投影を。

 ピシリ。

 何かが壊れる音がした。
 壊れる物が未だあることに一瞬の驚きが。
 壊れた物は何だったのか。
 関係ない。
 俺はまだ立っていて、戦える。
 誓いも確かにこの胸に。

投影(トレース)開始(オン)

 左腕を掲げ、あの巨人の(・・・・・)剣を作る。

 名前は何だっただろう。
 姉であり妹である少女は。
 俺の前でしか笑えない優しい後輩は。

 剣だけでは届かない。想いだけでは倒せない。
 だから。

投影(トリガー)装填(オフ)

 でも、誓ったんだ。

全工程投影完了(セット)―――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)


――――――――――――


 神技。
 正しくそれは神技だった。
 人の身では到底扱うことも出来ない程の大剣を、人の身では不可能な技を、左手だけで振るうその姿は、恐ろしく、そして何より美しかった。
 観客は僅か二人。
 衛宮士郎の召喚主とゴーレムを操る者。


 これほどの技、恐らく二度とは。


 そうして、衛宮士郎は死んだ。
 誇れることがあるのなら。

 壊れて尚、守ると誓った想いだけは、変わらずそこにあったことだけ。
 もう名前も思い出せない、大切な―――

 衛宮士郎は裁かれた。
 己を裏切り、誓いを守り。
 贖いは、ここに終わりを告げた。

 
 

 
後書き

召喚は相互理解の元に行うべきだ、というアンチもの。 
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