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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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4月
  第1話『始まりの朝』

 
前書き
今回から始動です! 

 
ここはどこだろう? 見たことのない景色だ。
見渡す限り広がる草原、そして雲一つ無い晴天の下、俺は立っていた。そよ風が優しく頬を撫でる。
なぜかはわからない。気がついたら立っていたのだ。


『お兄ちゃん!』

『…!』


後ろから声が聞こえた。俺のことをこう呼ぶのは一人だけだ。


『智乃…』

『えヘヘっ』


智乃の無邪気に笑う姿はまだまだ幼い。しかし、それよりも気になることがある。


『なぁ智乃、ここはどこだ?』

『さぁどこでしょう?』


質問したのに、し返されてしまう。だが知っているような口調だから、少し問い詰めてみよう。


『もったいぶらずに教えてくれよ?』

『そうだなぁ・・・私を鬼ごっこで捕まえたら、教えてあげるよ』


何でそうなるんだろう。
けど仕方ない。訳のわからないまま、俺はその鬼ごっこに興じることにした。


『それじゃあ逃げるよ。鬼さん、捕まえてね』

『おう』


小学生の妹に負けるほど、足は遅くないつもりだ。すぐに捕まえて、ここがどこか教えてもらおう。



『…え?』



さぁ走りだそうとしたその時、俺の視界には奇妙な光景が映った。なんと智乃が数十人、数百人という規模で草原中に居るのだ。これではどれを捕まえればいいのかわからない。

いや待て、それよりもまずなぜ智乃がこんなにも居るのだ? それこそおかしいだろう。
俺は夢か幻でも見ているのだろうか?


『『『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』』』


智乃の声が何重にも重なって聴こえてくる。この事態に、さすがに俺は恐怖を感じた。


『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。


俺は耳を塞いだ。が、それでも聴こえてくる。


『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』・・・・。


待て、やめてくれ。これは俺の知ってる智乃じゃない。智乃の姿をした"何か"だ。


『や、やめてくれ…』


こうなると、もはや鬼ごっこどころではない。俺は怯えきって、追いかけるどころか動くこともできなかった。


『やめろ!』


俺は必死に叫んだ。だがその声は彼女たちの幾重もの声にかき消されていく。


『お兄ちゃん』

『う、うぁ、うぁぁぁぁ!!』


もう我慢の限界だった。妹に向かって兄は発狂した。


『お兄ちゃん』

『う、あぅ…』


智乃が名前を読んでくる。俺はうめくことしかできない。


『お兄ちゃん』

『ごめんなさい…』


もう俺は必死に謝っていた。こんなのもう悪夢としか言いようがない。夢なら早く醒めてくれ。智乃を返してくれ・・・!


すると次の瞬間・・・



「お兄ちゃん!!!」

「はいっ!・・・ってあれ?」


急に智乃の声が大きくなったことにびっくりした俺は飛び起き、周りを確認した。
するとすぐ隣に、心配そうにこちらを見る智乃の姿があった。
…ん?『飛び起きた』? そう、俺の体はベッドに横たわっていたのだ。




















――――――――――――――――――――

「もうホントにびっくりしたよ、お兄ちゃん」

「わ、悪かったって」


朝食を食べ終えた二人は会話をしていた。俺は中学校へ行く準備をしている。


「仕方ないだろ、変な夢見てたんだから」

「どんな夢?」

「お前がたくさん出てくる夢だよ」


夢の内容について聞かれた俺は正直に答えた。
すると、智乃は頬を膨らませる。


「それのどこが悪夢なのよ!」

「いや、普通に怖かったんだって!」


だが智乃の言い分はごもっともだ。怖かったとはいえ、悪夢は言いすぎたかもしれない。怖かったけど。


「もう。今日中学の入学式でしょ? その夢見た後に事故でも遭ったら怒るからね」

「はは、そりゃ縁起が悪いな」

「そうよ!」


変なことを気にするな、こいつは。もっと普通の心配をしてくれればいいのに。過保護というか何というか。俺の方が兄なのに。


そうこうしている内に時間は過ぎ・・・



ピンポーン



玄関のチャイムが鳴った。インターホンで相手を確認した智乃は俺を呼ぶ。


「お兄ちゃーん、莉奈ちゃん来たよ!」


莉奈、とは俺の幼馴染みのことだ。彼女は俺の家の隣に住んでいて、小学生の頃はこうして一緒に登下校していたものだ。中学生になっても、それは踏襲されそうである。
おっと、それよりもうそんな時間か。


「おはよう」

「おはよー」


玄関の扉を開け挨拶した俺に、彼女は気の抜けた挨拶を返してきた。
彼女とは保育園からの付き合いである。昔からよく遊んでいたし、今でもそれは変わらない。元気な性格で、一緒に居て飽きない良き友達だ。


「すまん、ちょっと待ってくれないか? まだ準備が終わってないんだ」

「じゃあここで待ってるねー」

「悪いな」


俺は部屋に戻り、急いで準備を進めた。










「おまたせ」

「じゃあ智乃ちゃん、行ってくるね」


俺が準備を終えたらすぐ出発だ。少し大きめの慣れない制服を着て、新品の靴を履いていると、莉奈は智乃に手を振りながら言った。


「行ってらっしゃーい!」


智乃も莉奈に負けないくらい大きく手を振り返す。
全く、この二人は朝から元気だな。

それにしても中学生ともなると、家を出るのが小学生の頃に比べて少し早くなったな。まだ智乃は制服さえ着てないし。


「行ってきまーす!」

「行ってきます」


少し恥ずかしいが、俺も行ってきますとは言っておいた。

さて、いつもと違う新しい通学路を歩くのは新鮮な気分だ。
いよいよ新しい生活のスタートだな。




















――――――――――――――――――――
「ひょっとして晴登ってさ、『急に目の前の曲がり角から少女が飛び出してきてぶつかった』っていうシチュエーション好き?」

「いきなり何だよ。マンガの読みすぎだぞ」


不意にかけられた莉奈の言葉を、俺は一蹴する。第一、何でそんなことを聞くんだよ。


「いや〜、実はそこにうってつけの曲がり角があるんだよね〜」

「え? まぁ確かに…」


莉奈は楽しそうに言った。確かに目の前には『うってつけの曲がり角』がある。見通しが悪く、少女じゃなくて車が出てきてもおかしくない。


「はぁ…もしそんなシチュエーションになったら、何か奢ってやるよ」

「お、言ったね?」


俺は莉奈をからかうつもりで賭けをした。マンガみたいな展開が現実(リアル)で起こる訳がない。そう思っていたから。

だが、偶然とは起こるもので・・・


「「ぐはっ!!」」


その曲がり角を曲がった瞬間、晴登は誰かとぶつかった。
背は俺より少し高く、見たことのある顔・・・あれ、大地!?


「いってーな…」


頭を擦りながら起き上がろうとする大地に、先に立ち上がった俺が声を掛ける。


「大丈夫か? 大地」

「すいません…って晴登? それに莉奈ちゃんも」

「おっは〜」


ようやく大地は俺たちに気づいたようだ。そして安心した表情を浮かべる。


「良かった〜、道に迷ってたんだよ」

「あぁ、いつも通りね」


なるほど、そういうことか。俺は納得した。
実はこいつはかなりの方向音痴で、初めて通る道ならまず間違いなく迷うのだ。だから新しい通学路も当然迷う。
成績は良いのに、なぜだろうか?


「じゃあ大地も一緒に行こうよ?」

「そうさせてもらうわ…」

「最初から誘えばよかったな」


莉奈の提案に大地は間髪入れずに答えた。道に迷うんだから、さすがに仕方ないよな。俺も配慮するべきだった。

ちなみに大地とは小学校からの付き合いで、親友みたいなもんだ。遊ぶ時は、基本この3人だ。つまり、とても仲がいい。


「あ、晴登、あそこの自販でお茶買ってきて」

「は!? 大地は男だから、ノーカンだろ!」


またも不意に、莉奈が賭けの話を掘り返す。でも、莉奈が言った通りのシチュエーションにはなってないから数えられないはずだ。


「なになに、何の話?」


大地が話に割り込んでくる。頼むから話をややこしくするのだけはやめてくれよ。


「私は別に女子だけとは言ってないよ。同性愛だって今時あるんだから」

「アホか!!」


莉奈が言ってることは、もはや屁理屈である。
まだ12歳なんだぞ、俺らは。異性をすっ飛ばして同性愛だなんて…話が飛躍しすぎだよ。


「ったく晴登、そういうのは勘弁してくれ」フッ

「お前もノらなくていい!」

「冗談だよ」


全く、思ったそばから話をややこしくしやがって。話の呑み込みが早いのも考えものだな。


「晴登〜、何でもいいから早く買ってきて〜」


莉奈が子供のように駄々をこねる。いや、実際まだ子供だけども。


「はいはい、わかったよ」


俺は結局根負けして、買いに行くことにした。これ以上争ってもめんどくさい。
でも、決して同性愛を認めた訳ではないぞ。










「プハーッ、旨いわー!」

「お茶一杯で大袈裟だろ」


まだ入学式までは時間があるが、さすがにほっこりし過ぎだろ。


「なな晴登、俺にも何か奢ってよ?」

「え、やだよ」


本気なのか、からかってなのか、大地がそう言ってきた。
もちろん答えはNOだけど。


「いーじゃんケチ」

「これはケチなのか?」


最終的にケチ扱いされてしまう。俺は何も悪くないんだけどな…。










「ねぇ晴登。また曲がり角あるけど」


俺たちが歩みを再開させると、莉奈がそう言った。この辺はまだ住宅街で、同じような地形が続いてるから当たり前だな。


「もう賭けはしないでおくよ」

「えーつまんなーい」


莉奈の魂胆を読み、俺はそう言った。俺だって学習する。
頬を膨らませて不平をこちらに訴えかけてくる莉奈。でも次も誰か友達とぶつかるかもしれないし、それでまた奢るなんてたまったもんじゃない。

・・・でも賭けが無くともぶつかるのは嫌なので、俺は曲がり角の先を事前に見ることにした。
二人より小走りで先に行き、曲がり角から顔を出して覗くと・・・


「きゃっ!?」

「えっ!? うわ、ごめんなさい!」


なんとまた人が居たのだ。しかも女子で同い年ぐらいの。知り合いではない。
ギリギリ寸止めくらいで向かい合う状態となったが、俺が驚いて急いで後ろに下がったために尻餅をついてしまう。


「どうしたの!?」


俺が急に大声をあげて尻餅をついたのに驚いて、後ろから莉奈と大地が駆け寄ってくる。


「いや、この人とぶつかりそうになって…」


俺はそう説明する。今のはたぶん俺が悪いな。


「すみません、怪我は無かったですか?!」


ぶつかりそうになった少女が焦るように声を掛けてくる。
俺は「大丈夫」と答えようとしたがその時、初めてよく少女を見て、息を呑んだ。


「可愛い…」


今のは後ろの大地の呟きだ。そして、まさに今俺が思ったことと同じである。
茶色の艶やかな長い髪に、つぶらな瞳。可憐という概念を具現化したような美少女が目の前にはいた。


「…? あの…?」

「あ、あぁ大丈夫です! お気になさらず!」


俺は思わず見とれていたことに気づき、慌てて返事をする。
それにしても、こんな可愛い子が現実に存在するとは思わなかった。マンガのヒロインとして申し分ないくらいのルックスである。


「全く、気をつけなよ晴登」

「元はと言えば、お前が変な賭けを始めるからだ!」

「はて、何のことやら」


しらばっくれる莉奈にイラッとするが、人前なのでそれは堪える。後で覚えておけよ。


「えっと、それじゃ私行きますね」

「あ、はい」


そうこうしていると、美少女はそう言って足早に去っていった。
曲がり角で美少女と出会うという黄金パターンだとはいえ、いざ実際に遭遇すると案外呆気ないものであった。
俺は肩を落とすこともなく、すぐに立ち上がる。


「あの子も同じ学校なのかな?」

「制服は一緒に見えたけど、進行方向は逆だったね」

「俺はもう一度会いたいなぁ!」


俺、莉奈、大地と口々に今しがたの美少女について語る。あまり誰かが可愛いだとかは言わない俺だが、さすがに今の美少女は可愛いと認めざるを得ない。


「まぁ、また会えた時はラッキーってことで」


俺はそう結論づけると、また2人と先へ進んだ。










なんだかんだで、あと横断歩道を渡れば、学校に着く距離となっていた。


「なんか長い道のりだった…」

「1km位でへばんなよ」

「そうよ。だらしないね」


愚痴を吐く俺に、大地と莉奈が当然のように言ってきた。
いや、この散々な道中で疲れるのは仕方ないと思うんだが? ほとんどこいつらのせいだ。
もう入学式サボって、家に帰りたい…。


「お、着いたな」


あれこれ俺が考えてる内に、もう校門の前まで着いてしまった。
もう行くっきゃないよな…。


「意外と普通ね」


莉奈が言った。
この学校のことはこの地域以外の人は全然知らないけど、逆に言えばこの地域の人には何かと噂が伝わってくる。不思議な学校、だとか、怪談が多い、とか。…でも、見た感じは思ったより普通だな。


「でも小学校とは大違いだ」


今度は大地が言った。確かに、 校舎の大きさとか、規模は小学校とはかなりの差がある。ここが新しい学び舎となるのだ。やっぱりワクワクしてきたかも。


「おはようございます」

「「「!?」」」


不意に後ろから挨拶が聞こえてきた。それに驚いた俺たちは、反射的に後ろを振り向く。
そこには、にこやかな笑顔を浮かべるおじさんが立っていた。


「ああ、驚かせてすまない」

「いや、すいません。俺らも驚きすぎました」


謝られたので、俺が代表して謝り返す。
その際、男の人の顔をよく見てみると、とても優しそうな顔つきをしていた。


「あの、あなたは…?」

「私はここの先生だ。山本という」


山本の自己紹介に、会釈で返す。なるほど、先生だったのか。ならここに居ても何ら不思議ではない。


「それより君たちどうしたの?」

「えっ?」


山本が意味深なことを訊いてきたので、俺たちは疑問符を浮かべる。何か間違ったことでもしたかな?
入学式の日が違うのか、とも思ったが日付は今日で間違いないはずだ。


「君たち、1時間以上来るのが早いよ?」

「「「えっ!!?」」」


俺たち3人は揃って驚いた。

時間が違う!? 遅れるよりは早い方が良いけど、それでもなぜだ? しかも3人共なんて・・・


「大方、通常の登校時間に合わせて来たんだろう?」

「はい…」


その通りだ。まさか通常と入学式の集合時間が違うのか。道理で周りに人1人いない訳だ。しっかりと配布されたプリントを見ておくべきだった。


「どうするよ?」
「一度帰って出直すか? 往復30分位だから大丈夫だろ」
「あと1時間もあるしね。」


「あぁその必要はないよ」

「「「えっ?」」」


俺たちが帰ろうかという案を出している途中、山本がそれを止めてきた。その言葉に俺らは疑問を持つ。


「せっかく早く来たんだから、学校中を巡ってみるのはどうだい? 私が案内するよ」


山本がそう提案してきた。なるほど、それは良い案だ。
この理由には俺ら3人共納得した。なんかラッキーだな。


「「「ありがとうございます!」」」

「気にしないでいいよ。これくらいは当然だとも」


これは好都合。周りの人たちより早く学校に入れるなんて、なんか特別な気分だ。
俺は期待の目で山本を見た。


「改めて、よろしくお願いします!」

「「よろしくお願いします!!」」


俺に合わせ、二人ももう一度山本に礼をする。


「さぁ行こうか」

「「「はい!!」」」


ようやく俺たちは、日城中学校へと足を踏み入れた。


 
 

 
後書き
あまりにも長くなりそうだったので、分けてしまいました。てか、まだまだ日常ですね~。次回も…まだ変わらないですかね、はい。

という訳で今回はここまでです。次回もよろしくお願いします! 
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