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クラディールに憑依しました 外伝

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少し焦りました

 第四十八層リンダース。


「階層上がったら直にメッセージが届いてビックリしました。素敵なお家ですね、水車も付いてて凄いです」

「まぁ、急ごしらえで買ったテーブルとソファーぐらいしか家具が無いんだけどな、キリト達はどうした?」

「大事なクエストがあるとかでどこかに行っちゃいました」

「相変わらずか」

「相変わらずです」


 ボス戦の話し合いを終えたシリカが合流した。


「これだけ広いと家具を沢山置けそうですね、本当にあたしも使って良いんですか?」

「あぁ、奥の部屋は倉庫にするからリズしか使わないしな――――――おっと、来客だ」


 前の慌しいノック音とは違って、今度は普通に叩かれたリズムからアルゴだと解る。


「シリカ、悪いけどお茶を用意できるか? 客はアルゴともう一人、多分お前の知ってる奴だ」

「? はい? 良いですけど、どなたでしょうか?」

「頼んだ」


 不思議そうにするシリカから視線を切り、俺はドアを開ける。

 ドアの向こうにはアルゴと、白のローブで顔を隠し――――――顔が見えた――――――不味い。

 黒のロングヘアーに見覚えのある目付き、間違いなくリアルの知り合いだった。

 何でSAOを始めたのか気になったが、理由なんて聞いても仕方ない。

 こいつが此処にいるということは、こいつは元々原作のキャラだったんだ、俺が関わったせいで此処に居る訳じゃない。

 しかし、こいつが「アシュレイ」だったのか、何で俺のリアル周りは原作関係者が多いんだよ。

 俺は直に人差し指を自分の口に当てて、相手の目を見て確認を取りながら、わざとらしい自己紹介を始める。


「俺の名前はクラディール。お前が『美人お針子』のアシュレイか?」

「……………………………………え、えぇ。『美人』は要らない、ただのアシュレイで良いよ、クラディールね?」


 アシュレイは暫く硬直していたが、俺が誰で此処が何処なのかを再確認して再起動した。


「――――もしかして、知り合いカ?」

「あぁ、ちょっとな――――さぁ、立ち話もなんだし中に入れ」


 アルゴとアシュレイを中に招き入れてドアを閉める。


「アシュレイさん! お客さんってアシュレイさんだったんですか!」

「こんにちはシリカちゃん。シリカちゃんが此処に居るってことは――――あなたがリズベットさん?」


 アシュレイはシリカとも面識があるようで、残りの一人、リズに興味が向いたようだ。


「はい、よろしくお願いします」

「硬くならないで良いわよ、シリカちゃんには敬語を辞めて欲しいって何時も言ってるんだけど、聞き入れてもらえなくて」


 ニッコリと微笑まれてリズが若干引いてる、初々しいな。



「とりあえず、この家の所有権だったな? 原価で譲るぞ」

「………………エ? お、おいおイ? 話し合いはどうしタ? 自棄にアッサリしてるナ?」

「此処にこだわる理由が無くなった――――それだけだ」

「どういう風の吹き回しダ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!? さっきまでは譲る心算は全く無かったでしょ!?」

「話し合いによると言った筈だが?」

「その話し合いすらしてないでしょ!? 何でどうでも良くなっちゃったのよ!? アシュレイさんが美人だからッ!?」


 何かリズが唸りを上げて噛み付いてくる、何が気に入らないんだか。


「あの、良く解らないんですけど、アシュレイさんにこの家を譲るんですか?」

「そう言う事よ、今お店を出してる場所だとちょっと問題があってね、此処に移転したいの」

「今のお店はフローリアの転移門広場前ですよね? お客さんも沢山来て凄い人気じゃないですか!」

「売れるのは観光客向けの量産品ばかりで、攻略組の客足が目に見えて減ってしまったの、

 だから転移門広場から離れた場所を探してたのよ、ユウ……、――クラディールが先に買ってるとは思わなかったわ」


 今一瞬俺のリアルネームを言いそうになったな?


「そう言う事ならなおさらだな、原価どころか割引してやろうか?」

「いえ、結構よ。いくら最前線のパーティーとはいえ、色々とお金は必要でしょ?

 わたしが作った防具をいくつか渡して置くわ、血盟騎士団のデザインなら丁度良い素材の物があるから」

「ちょっと待ってよ!!」


 放置してたリズが大声を上げた。


「アシュレイさんの装備は気に入った人にしか作らないって――――」

「気に入ってるわよ? だって――――」


 アシュレイが俺に視線を向けて了承を取った。


「――――――――わたし達、リアルでは中学からの付き合いですもの」


 ピシッ!! っと、時が止まった気がした。妙な冷気が空間を支配している気がする。


「………………一応言って置くが俺と同級生って意味だからな?

 同じゲームをしてるって知ってたら、とっくの昔に合流してるだろ?」

「え? あ、そう、そうだよね! ……………………」


 一瞬だけ時は動き出したが、また微妙な空気が漂い始めた。


「話の途中だったな、アシュレイの作った装備って軽か皮だろ? 俺はリズの装備を気に入ってるんだ。

 着もしない装備を贈られても困る、他のプレイヤーに回しといてくれ」

「アレから色々と勉強して納得のいくデザインも増えてきたのよ?」

「着せ替えが目的だろ? そう言うのは今度にしてくれ、服は礼装が必要な時にでも頼むよ」

「そう? 何時でも来てくれて良いわよ? 大歓迎するわ」


 アシュレイとメニュー操作を行い拠点の取引を完了させた。

 これで此処は原作どおり、アシュレイの店「アシュレイズ」になった訳だ。

 流石にこっちに来てからの知り合いが『アシュレイ』だとは思わなかったな。


「とりあえず、アルゴ」

「――――ン?」

「似たような拠点は何処にある? 水車が二基ある所は他にもあるんだろ?」

「転移門広場と後はギルド用の物件だナ」


 …………転移門広場か、裏口から出入りすれば目立たずに済むか。


「んじゃ、転移門広場の物件だな、直に向かうぞ――――シリカとリズはどうする?」

「はい、あたしは一緒に着いて行きます」

「…………あたしもそんなに急ぎじゃないし、此処まで来たんだから最後まで付き合うわよ」

「オレっちはまだ仕事があるんで此処に残ル」

「んじゃアルゴはまた今度な。それとなアシュレイ、観光客がウザイなら髪の色変えて逆毛にでもしとけ、

 一昔前の芸術家みたいな服装でアルゴみたいな話し方をすると、本気で装備欲しい奴以外は話し掛けて来なくなるぞ?」


 そう言われたアシュレイは少し意外な事を言われたと言う表情をした後、微笑みながら俺を見た。


「考えて置くわ。昔から変な事だけは超一流だし…………こっちでもいつもどおりなのね、あなたは」


 何故か呆れられてしまったが、転移門広場の物件を目指しアシュレイズを後にする。


 後日談になるのだが、アシュレイズが移転したその日から、アシュレイは喋り方や外見を変えた。

 そのおかげて、新しく新装開店したアシュレイズを訪れた観光客はアシュレイの姿に衝撃を受け、

 アシュレイズの看板を騙る偽者が現れたと大騒ぎを始めたが、アルゴの新聞にアシュレイのインタビューが載せられ、

 観光客やカップル、所謂一般層はアシュレイズに近付く事は無くなったそうだ。


「…………やっぱりね。学生時代の頃からそうだったけど、
 クラディールの言うとおりにすると、ちょっとした事件になるのよね…………その分効果覿面なんだけど」


 どこかで誰かが、ため息と共に嘆いている気もしたが、一々気にしてられないので気にしない事にする。
 
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